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最終決戦! グラン・バルジュ

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最終決戦! グラン・バルジュ

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第二章 グラン・バルジュ侵攻

 豪奢かつ繊細なデザインが施されたグラン・バルジュの入口付近が、一瞬にして炎の赤に染め上げられる――
 そして、そんな紅蓮一色の悪夢が終わるのも、また一瞬だった。

 そこかしこから煙が上がる。

 床から、壁から――

 そして、炎に包み込まれた空間にいた、無数の人からさえも。
 ――否、正確には、“人だったモノ”だ。

 言葉にならない呻き声を上げながら、その“人だったモノ”たちは、足から床に崩れ落ち、どさり、と前のめりに倒れた。

「ちょっとした露払いにはなりましたかね――さて、セルファ、トーマ、そしてみなさん、お願いしますよ!!」
 ファイアストームを使って複数の兵士を一掃した御凪 真人(みなぎ・まこと)が、後ろにいたバルジュ兄弟へと向かう多数のメンバーに行動開始を告げる。
「わかったわ! 真人、しっかり援護しなさいよ!」
「んじゃ、オイラもがんばるとしますかぁ!」
 真人のパートナーであるセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)トーマ・サイオン(とーま・さいおん)が走り出す。
「なっ……なんなんだっ! あいつら」
「し、侵入者かっ!? こ、殺せーっ!」
 騒ぎを聞きつけて、兵士が次々と現れだす。各々、剣や銃など、重々しく武装した連中ばかりだった。
「邪魔するんじゃないわよ! でええええいっ!」
 ヴァーチャースピアを両手で振り回し、バーストダッシュで猛攻をかけていくセルファ。
 一振り一振りが、まるで鎌鼬の如く唸る。
 その唸りに被さるようにして、次々と敵の悲鳴や苦悶の声が上がっていく。

◆◇◆

「ええいっ! 舐めるんじゃねぇ……」
 セルファが戦っている場所から十数メートル離れた場所で、悪態を吐きながらライフルを構える兵士の姿があった。
 引き金に指を伸ばし、スコープを除く。
 十字線の交差点に定めるのは、セルファの頭。
「そうはさせないよっ!」
 ふと、自分の近くで声が聞こえた。それだけではない。明確な気配も一緒だ。
 慌ててその兵士が顔を上げると、そこにはトーマの姿があった。
 そして、いつの間にか男の喉にはさざれ石の短刀があてがわれている。
「ひっ!」
 素っ頓狂な、芝居じみたおかしな声。
 それが、その兵士の最期の言葉だった。
 そのまま喉を切られ、鮮血を吹き上げながらその兵士は絶命した。
 陰形の術とブラインドナイブスを兼用した、素晴らしいまでの暗殺術――いや、この場合は瞬殺術といった言葉のほうが正しいかもしれない――だった。
「私も遠慮しないわよ!」
 トミーガンを構え、敵の集団に楠 一美(くすのき・ひとみ)がスプレーショットを放つ。乾いた音が上がるたびに兵士が倒れていく。
 急所は外してあるが、戦闘継続が不可能なほどの銃創を負っている。
 激戦を繰り広げる一行。
 だが、敵が全然減らない。
 倒しきったと思った直後に、つい今しがた倒した以上の兵士が現れるのだ。
 敵の強靭さとしつこさは、ゴースト兵器の使用に依るものだろう。
「思ったとおり敵が多いね。そしたら、当初の予定通りボクたちは先に行く人たちをアシストしよう」
 星輝銃を引き抜いて、レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)は、次々やってくる、もしくは倒れても立ち上がって攻めてくる兵士に向けて容赦なくクロスファイアを放っていく。
 兵士の身につけたゴースト兵器、もしくは足を狙って放火を浴びせる。
「レキ、効率を上げましょう。それっ、パワーブレス!」
 レキの傍にいたカムイ・マギ(かむい・まぎ)が自分のパートナーにパワーアップの祝福を贈る。
 威力を増した銃弾は、通常よりも激しく標的を貫いていく。
「みんな、ご苦労様! 私も手伝うわよ!」
 戦っている真人たちの後ろから、小型飛空艇が急接近してきた。
 乗っているのは長い金髪を風に遊ばせている少女、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)と彼女のパートナーであるエシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)だ。
「そこから離れてっ!」
 味方への短い警告の後、ローザマリアは兵士の群れに向かってミサイルを発射した。
 灰色の煙の尾を引きながら、ミサイルは猛スピードで兵士たちへ飛来する。
 そして、着弾。
 空間そのものを崩すような強振動と大爆発が響き渡る。
 数秒の静寂を挟んで、今度はパラパラと瓦礫が零れ落ちる音がやってくる。
「うわぁ……すごいわね……」
 ローザマリアの警告に反応し、すかさずバーストダッシュで回避していたセルファが、驚きの声を洩らす。
「ふう、急にごめんね。でも、今のでだいぶ減ったわ。先へ進むなら今が好機! 急ぎましょう!」
 言うや否や、ローザマリアは光学迷彩と隠形の術を使い、先に進んでいった。
「真人、ここなら大丈夫よ! 私たちも進んで道を作りましょう!」
「わかった! 行きますよ。トーマ」
「りょーかいだぜ!」

「はわ……ローザたち、行っちゃった……」
「エリー、私たちも向かうとするぞ」
 先を進んでいったローザマリアたちを見送って、エリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)フィーグムンド・フォルネウス(ふぃーぐむんど・ふぉるねうす)が、ローザマリアたちが行った道とは別方向へと顔を向ける。
「うゅ……弾薬庫から火薬を盗んでくる!」
「こらこら、人聞きの悪い。少々拝借してくるだけのことだ」
「はわ……どっちでも同じこと」
「細かいことは気にするな。行くぞ」
 フィーグムンドはディテクトエビルを発動させ、歩き出す。
 慌てて、エリシュカがその後を追っていった。

◆◇◆

 真人やレキ、ローザマリアが行った後でも、敵の増援が断つことはなかった。
 これ以上先に行かせまいと、入口付近に敵兵が雪崩のように押し寄せてくる。
「今だっ!」
 ディテクトエビルで、敵が固まっている位置をおおよそ把握していたアルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)が、敵の死角からファイアストームを放つ。
 豪炎を超える豪炎が、嵐となって敵の真っ只中へと襲い掛かっていった。
 火だるまになって絶命する者、悲鳴を上げる者、服に移った火を必死で消そうとする者、など、襲いくる敵は惨憺たる様相を呈している。
 予め飲んでいたギャザリングヘクスと、禁じられた言葉を発動させた状態での魔法の発動のため、その威力は数段上がっているのだ。
 それでも、余力のある兵士は怯まずに襲い掛かってくる。
「やらせはせぬよ、と」
 アルツールへと突っ込んできた兵士の身体が、急に二つに分かれる。
 一瞬遅れて、ぼとりと、その切断面に沿って上半身が崩れ落ちた。
「なっ……!」
 もう一人の兵士も、驚いた表情のまま切断されて倒れた。
「我こそはヴォルスング一族のシグルズ。竜を打ち倒せし我が剣、果たして君らは受けきる事ができるかな?」
 自信満々に名乗りを上げながらシグルズ・ヴォルスング(しぐるず・う゛ぉるすんぐ)は向かってくる敵を切り捨てていく。
「シグルズ、がんばっているわね。私も、負けてられないわね」
 言うと、アルツールの側で様子を見ていたエヴァ・ブラッケ(えう゛ぁ・ぶらっけ)は前面に手をかざし、力を込める。
 直後、手から溢れた聖光が、球体へと凝縮、収斂した。
 とてつもない速さで敵へと迫り、着弾と同時に閃光が空間一面に広がる。
 再び元の光景が戻ってきたときには、黒こげになっている者、大量の血を流し倒れている者、光撃を受けて苦しんでいる者で埋め尽くされていた。
「やれやれ、貴重な時間を無駄にさせおって。やっと雑魚どもも減ってくれたようだ――さて、先を急ぐとしようか」
 戦闘中の動きで乱れてしまった髪を優雅に整えながら、二人の返事を聞くことなく歩き出す。
 が、すぐに立ち止まり、周囲を見渡して呟いた。
「……やはり、この戦艦は破壊せずに厳重に保管すべきであると思うな……。ざっと見た限りでも、帝国への抑止力として十分すぎるシロモノのようだからな」
「だがアルツール、これは危険なものなのだろう? だったら……」
「人を殺すのは人だ。使われた道具ではなく人が人を殺すのだ。よく切れる包丁を、危険だからといきなりへし折る馬鹿がいるか」
「……仮に兵器を取り外して保管していたとしても、第二、第三のバルジュ兄弟が現れて、今までのような事件を起こすかもしれないのだぞ」
「そうなったときの対策は、ちゃんと後で考えるようにすればいい」
「……」
 沈黙が、二人の間に訪れる。
「はいはい。ほら二人とも! 先に進むんでしょ! さっさと行きましょ」
 そこはかとなく気まずさが漂っていたのだろうか。エヴァが暗くなりかけた雰囲気を払うように二人を促す。
「それも、そうだな」
「ああ。彼女の言うとおりだ」
 二人とも表情をほぐし、道を見据えた。
 アルツールたちは、先行して兄弟のもとへ向かっていったメンバーの後を追っていく。
 
◆◇◆

「だいぶ入口付近も静かになったな」
 ヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)は、ついさきほど帝王パンチで沈めた兵士を見下ろし、軽いため息を洩らす。
「まぁ、忙しくなるのはこれからだがな。俺は行くぜ! そっちもがんばれよ」
「ああ。俺たちは起動源へと向かう。厄介なヤツの気配がプンプンするから一筋縄ではいかないとは思うが、それなりの作戦もあることだしな。何とかなると思うぜ」
 ヴァルの激励に、レン・オズワルド(れん・おずわるど)がサングラス越しに目を細めて笑う。
「そうか。じゃあ、俺たちは先を急ぐぜ。行くぞキリカ! 目指すはバルジュ兄弟!」
「はい!」
 ヴァルはパートナーのキリカ・キリルク(きりか・きりるく)と共に、走り出した。
「さてと、俺たちも仕事だ。作戦どおりに動けるな? ザミエル」
 友人の背中を見送った後、レンは隣にいたザミエル・カスパール(さみえる・かすぱーる)へと向き直る。
「誰に向かって言っているんだ……。私の腕はおまえも知らぬわけではあるまい?」
 凶暴な笑みを貼り付けて、ザミエルが自信満々に答える。
 そんな彼女の反応にふっ、と数ミリほど口端を吊り上げると、レンは何も言わずに歩き出した。

 ヴァルとは反対の道へ――
 
 その道が、凶悪な修羅へと到る道だと知りながら――

◆◇◆

「聞くがいい! バルジュの手下ども! 私はクレア・シュミット! 西シャンバラのロイヤルガードだ! 大人しく道をあけるなら良し! 逆らうならば――それなりの覚悟をしてもらおう!」
 先を進むメンバーのやや後方、クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)が警告を発した。
 クレアの前方で侵入を阻止していた兵士たちの顔に、動揺や混乱が起こり、それは瞬く間に感染していった。
「ちょ、ロイヤルガードって……」
「ヤ、ヤバいんじゃねーの? 俺ら……」
 攻撃を躊躇させるほどの、ざわめき。
 しかし、
「えっ、えええいっ! 臆するんじゃない! こっちのほうが数で勝っている! その上、ゴースト兵器で武装しているんだぞ! バルジュ様たちを信じるんだ!」
 指揮官らしき敵兵が、味方を叱咤し、攻撃を再開させる。
「やれやれ、バルジュ教の敬虔な信者様には何言っても無駄なんじゃね? ここは身体に教えたほうが効率がいいぜ。コマンダー」
「そうですぅ〜。どっかんどっかん行っちゃいましょう!」
 クレアのパートナーであるエイミー・サンダース(えいみー・さんだーす)パティ・パナシェ(ぱてぃ・ぱなしぇ)が強行突破を提案する。
「それもそうだな。先に行っているメンバーに申し訳が立たないしな――二人とも、準備はいいか?」
「「イエッサー!!」」
 返事を聞くと、クレアは駆け出していった。
 先ほどの警告が効果あったのだろう。敵はクレアが迫ってきているにもかかわらず、武器を構えられずにいた。
 そして、次の瞬間、間合いはクレアが制した。
「りゃああああっ! 則天去私っ!」
 豪速で突き出される光輝の拳。眩い白光が煌いたのと同じくして、敵兵の群れが将棋倒しのように崩れていった。
「はっ、隙ありだぜ――」
「そっちがな」
 兵士の群れを屠り、立ち止まったクレアに目をつけた狙撃手がいた。
 それに気付いたエイミーが、容赦なくロケットランチャーをぶっ放す。
「な、え――」
 ありえない。
 そんな表情のまま、狙撃手は直撃を受けた。
 直後、訪れる轟音と爆風。
 髪を逆撫でる風に目を細めながら、エイミーが歯を見せて笑う。
「うんうん! やっぱこうやってガンガン撃ちまくるほうがオレは好きだぜ! パティ、サポート頼んだぜ!」
「はぁ〜い。お任せあれ、ですぅ」
 笑顔で答え、ロケットランチャーの弾を用意するパティ。
「く、くそっ! 怯むな!」
 冷や汗をかきながら、指揮官が怒鳴る。
 が、兵士たちは浮き足立っており、今にもこの場から逃げようとする者が多かった。
「こ、この臆病者どもがっ!」
「で、では、指揮官殿、あなたがお手本を見せてください!」
 敵兵の一人がついに逆ギレし、持っていた武器を指揮官に渡した。
「なっ――貴様っ……」
 拒否しようとしたが、多くの部下がいる手前、そういうわけにもいかない。
 かと言って、『指揮官は自ずから戦う者ではない。これは戦闘の基本だ』などという理屈を述べても兵士たちは逃げ口上として解釈するに決まっている。
 プライドと安全の狭間で数瞬ほど葛藤した挙句、指揮官は自棄気味に突進する。
「おっ……おおおおおっ!」
 突き刺されば致命傷を与えそうなほどの大剣。
 しかし、へっぴり腰で襲い掛かってくる指揮官を見る限り、そんなことは起こらないと万人がわかる。
「はぁ……」
 退屈そうにため息を吐いて、クレアは反撃の構えを取る。
「はいは〜い! どいてね〜」
 赤い影が躍り出たのは、その瞬間だった。
「せいっ!」
 短い気合いと共に突き出された左拳が、指揮官の顎を捉えた。
 まるでバランスを失ったマネキンのように倒れた指揮官を、しかし、その赤い影――霧雨 透乃(きりさめ・とうの)は振り返りもせず、ただ先へと突っ走る。
「ああ、待ってください透乃ちゃん!」
「いや〜、『グスト・バルジュを殺る』なんて張りきっちまってるからなぁ……。追いつくのも一苦労だぜ」
「透乃ちゃ〜ん! 一人じゃ危険よ〜」
 まるで一番乗りを目指すかのようにひた走る透乃を引き止めんと、緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)霧雨 泰宏(きりさめ・やすひろ)月美 芽美(つきみ・めいみ)が後を追う。
 そんな三人に気がついたのか、
「あっ、ごめんごめん。何だかテンション上がっちゃってさ!」
 チロ、と舌を出して止まる透乃。
「グスト様を……倒す、だと……?」
 ふと、周囲の敵が再びざわめきだす。
 みな一様に、表情を怯懦に染め上げている。
「か、勝てるわけがない……。指揮官殿もさっきから目を覚まさないし……」
「に、逃げろーーーーーーーっ!!」
 敵群の中の誰かが発した、その悲鳴がトリガーとなった。
 兵士たちは、四方八方に逃げ出した。
「あちゃー、根性がないなぁ……。まぁ私たちはそのほうが楽なんだけどね。と、クレアちゃんだったっけ? せっかくだから一緒に行こ!」
「へっ? あ……ああ。そうだな。よろしく頼む」
 颯爽登場した透乃たちのペースに巻き込まれ、呆けていたクレアが、ようやく返事をする。

◆◇◆

「あいつら……どんだけ元気なんだよ」
「ほんとですわね……。そんなにバルジュ兄弟と戦いたいのでしょうか……」
 透乃たちが進んでいった後を見送って、呆れた様子を見せるシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)リーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)の二人。
「はっはっは! いいじゃんか! あれぐらいの元気があったほうが一緒に戦ってて信頼できるぜ!」
 豪放に笑い飛ばした後、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)がうんうんと一人で納得している。
「そんなもんかねぇ……」
「つーか、他人の心配をする余裕が無くなると思うぜ。ここら辺からは敵も強くなってくるだろうから」
「……そうでしたわね。さっきの戦闘はまだ入口近くでしたもの……」
「不安になってても仕方ないぜ! 先に進むのみだ!」
 強気な発言をして、目の前に曲がり角があることに気がつく。
 壁の陰に背中を付けて奇襲を警戒しようと、リーブラが近づいた瞬間、
「そこ、危ない!」
 同行していた神崎 優(かんざき・ゆう)のパートナー神代 聖夜(かみしろ・せいや)が、急に声を上げた。
「なっ、何だよ、何かあるのか?」
 突然止められ、驚きを隠せないリーブラ。すかさずその場から離れる。
「聖夜、もしかして……」
 ハッとした顔で、優が訊く。
「ああ、罠が仕掛けてあるぜ」
 真剣な表情で恐る恐るリーブラの後ろの壁をアーミーショットガンの先端で突っつくと、つい先ほどまでリーブラが立っていた床が抜けた。
「うおっ……これはさすがのオレでもなぁ……」
 床の下を覗き込んでいたリーブラが、柳眉に皺を寄せ、露骨に厭嫌の表情を浮かべる。
 見えたのは、床下に広がる闇と、その闇の中で光沢を放つ金属製の棒らしきもの。数にして十以上はあるだろう。
 それはよく見れば全て槍の形をしており、穂先は天を突かんとばかりに垂直に上を向いている。
 聖夜の制止が無ければ、今頃は……。
「串刺し、ね……。全く、いい趣味してるわ」
「残虐嗜好は、いつもどおりってことですね」
 優たちと一緒にいた水無月 零(みなずき・れい)陰陽の書 刹那(いんようのしょ・せつな)が、皮肉を口にする。
「いや〜、助かったぜ。オレもこの先はもっと警戒レベルを引き上げるようにするぜ……」
 聖夜に頭を下げると、リーブラは再び歩き出した。
「聖夜、引き続きトラップの警戒を頼む。えっと、陽にテディ、あなたたちも警戒しておいてくれ。罠は一つだけとは限らないし、二段トラップだったりするかもしれない。最悪、聖夜自身がトラップに掛かってしまうということだって、ありえないとは断言できないからな」
 優たちのやや後方で、周囲を見渡しながら固い表情で歩く眼鏡の少年皆川 陽(みなかわ・よう)と、そのパートナーテディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)に確認を取る。
「う、うん、怖いけど……がんばります」
「心配するなよ。他のみんなもちゃんといるんだから。それにいざとなったら僕が守ってやる!」
「あ、ありがとう」
「そうだな。それに敵の数が増えるなりしてきたら、俺たちもバックアップするぜ」
 陽たちの前方で、敵の気配を探りつつ慎重に歩く氷室 カイ(ひむろ・かい)が振り返りながら優しく微笑む。
「それに、怪我したら、私がヒールをかけますし――」
「破壊できそうな罠がありましたら、私が破壊します」
 カイのセリフに付け加えるようにサー・ベディヴィア(さー・べでぃびあ)が語り、それをさらにレオナ・フォークナー(れおな・ふぉーくなー)が繋げる。
「わ、わかりました……。よろしくお願いします」
「よし、それじゃ行くか!」
 仕切りなおすようなリーブラの言葉を聞いて、そこにいたメンバーたちは歩き出した。