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魂の器・第1章~蒼と青 敵と仇~

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魂の器・第1章~蒼と青 敵と仇~
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 さて、無意識的に正悟に馬鹿呼ばわりされた馬鹿……間違えた、ラス達は、結局デパートの周辺で聞き込みをしていた。といっても、犯人の容姿を示す媒体を探しているわけではない。それに関しては、ファーシーがプリント出来なかったと言っていたので望み薄だろう。そうではなく――彼等が探しているのは、パラミタキバタンだ。
 というのも、街に引き返す道すがらにこんな会話があったからである。きっかけは、藍玉 美海(あいだま・みうみ)の言葉だった。
『……あれ、パラミタキバタンでしたっけ? ピノさんの肩に乗っていた鳥は。この辺りでよく見かける鳥なのかどうかは分かりませんけど、もしかすると何か関係があるのかもしれませんし、気にしておいた方が良いですわね』
『パラミタキバタン? あの、妙な首輪付けてたやつか』
『ねーさまの言うとおり、私もその白い鳥が気になったの。だって、デパートにいたみんなの話を聞く限りだと、時系列的に最初の被害者はピノになるんでしょう? ピノがおかしくなる前から肩に乗ってたんだよね?』
 久世 沙幸(くぜ・さゆき)に訊かれ、ラスは発端となったカフェでの様子を思い返した。おかしくなった時には、もう肩に居た。バズーカ攻撃を受ける前から傍にいた可能性は高い。
『ああ……最初に注目したのが、あの鳥だったからな』
『首輪のこともあるし、探してみるのもアリなんじゃないかな。パラミタキバタンが空京周辺にたくさん生息していたら、区別がつかないかもしれないけど……』
『地球の場合、キバタンはシドニーに多いです。この辺りにはそんなにいないと思いますよ。実際、森の中でもあの子以外は見かけてないです』
 ノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)の解説を聞くと、沙幸は言った。
『街の人たちに、パラミタキバタンを見かけなかったか、どちらから飛んできてどちらへ飛んでいったのか、などの話を聞き取り調査してみるんだもん!』
 ……で、夜の街でキバタン探しをしている訳だ。と言っても、真剣に取り組んでいるのは沙幸達、リネン・エルフト(りねん・えるふと)くらいのものだった。ユーベル・キャリバーン(ゆーべる・きゃりばーん)はまだ思考を止めているような状態で、神代 明日香(かみしろ・あすか)もノルニルと何かを相談してからどこかに行ってしまった。そして、チェリー探しに文字通り飛び出したラスはといえば――
 慌てていた。ピノがくしゃみをしたからだ。
「だ、大丈夫か? そうだよな、そんな格好じゃ寒いよな……!」
 ピノはバズーカを受けて前人格の姿になった時に、どこかしらで大人の服に着替えていた。元に戻った際に、ぶかぶかな服を縛ったり何かして取り繕ったわけだが、それでも服に着られているような状態である。うん、風がスースーするかもしれない。
「え、だ、大丈夫だよーっ! 何あたし、くしゃみ1つ出来ないわけっ?」
「いーから! 俺のパーカー着てろよ。やっぱりぶかぶかだけど、この丈なら膝くらいまでいくし前も閉められるから暖かいし……。あ、フードに穴が開いてるのは我慢してもらうしかねーけど……」
「そこはどうでもいいよ……」
「吊り下げるのに必要だったんですよ〜?」
 いつの間に戻ってきたのか、ぬけぬけと首を傾げて言う神代 明日香(かみしろ・あすか)に、ラスはピノにパーカーを着せながら返す。
「吊り下げる必要は一片も無かった筈だぞ一片も。くそ、チェリーとやら、絶対に見つけてやる。覚悟しとけよ……!」
 エイム・ブラッドベリー(えいむ・ぶらっどべりー)ケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)、途中で合流したマラッタ・ナイフィード(まらった・ないふぃーど)が三種三様にぽかんとしている中、日下部 社(くさかべ・やしろ)は2人の様子をニヤニヤと観察しながら言う。
「ふむふむ。ラッスンもピノちゃんがおると気合も充分なんやな〜」
「当たり前だ! つーか、お前もキバタン探せよ……」
「おう、探しとるで!」
「どこがだ、どこが!」
 ……駄目だ、何か、こいつといると調子が狂う……
 お決まり的なツッコみをしてしまった事に若干自己嫌悪しつつ、ラスは自分も探そうかと周囲を見渡す。鳥というものは日が暮れたら眠るものだ。だが、インコ――オウム類には人の生活に適合する能力がある。あの鳥が本当に誰かに躾けられているのなら、この時間にどこかを飛んでいてもおかしくない。尤も、それが空京かどうかの確証は無いわけだが――
「あれ? こんな所に集まってどうしたのかな、何かあった?」
 空飛ぶ箒に乗ったエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)と、小型飛空艇に乗ったエオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)が近づいてくる。
「ん? ああ……お前、この辺でキバタン見かけなかったか? 白くて30センチくらいで、頭に黄色いトサカみたいのがついてるオウムっぽい鳥なんだけどな」
「白いオウム……見てないな」
「僕も知りませんね……。そのオウムがどうかされたんですか? 迷子になったとか?」
「……まあ、そんなもんだ」
「チェリーさんと関係のある鳥かもしれないですの」
「あっ、お前、何言って……!」
 あっさりと事情を説明したエイムを止めようとするも時遅し。エースはそれを聞いて、眉を顰めた。
「チェリー? もしかして、報道されているテロの犯人の仲間のことか? どうしてそんな……あ、そうか、昼の警戒要請……もしかして、様子のおかしかった女の子って……」
「……そーだよ」
 誤魔化しがきかない事を見て取り、ラスは諦めて肯定した。エースはピノの方に一瞬視線を送り、それから言った。
「分かった。じゃあ俺も手伝うよ。いいよな? エオリア」
「はい、もちろんです」
 エースは、かつての鍋騒ぎを思い出した。銅板だったファーシーを鍋にするしないという出来事である。その時は機晶姫製造所の跡地にいたのだが、あれがラスの勝手な判断でややこしい事態になったことは知っている。
「剣の花嫁事件そのものは、報道程度しか知らないんだけれど……」
 ラスに変なスイッチが入ったり、「ぷち」となっている時はどんな事をしでかすか分からない。友人として傍観は出来ない、と思ったのだ。万が一荒事になったりした時、サポート要員は居た方がいいだろう。
(ピノちゃんへのラスさんのストレートすぎる愛情も、心情としては解るし。大事な大事な妹だもんね。だから、つい過剰な行動に走ってしまうかもしれないし……。いや、もう走ってるのかな?)
 とにかく手伝おう、と思った時、ラスがエースの言葉に引っ掛かりを覚えたように言った。
「……そういやお前、さっきチェリーが報道されてるって言ったか?」
「え、うん、ちょっと前からね。新情報として伝えられてるよ」
「ふぅん……」
「もう! 何さぼってるんだもん! キバタンの行動が分かったよ!」
 そこに、沙幸達が戻ってきて抗議しつつ報告する。
「……路地裏から出てきて……しきりに通行人に話しかけていたみたい……。『たすけて』『たすけて』って言ってたって……それで、ついて行ったら女の子が倒れていて……」
「地元の有志の人達で診療所に運んだそうですわ。住居エリアの中にあるそうです。住所は……」
 リネンに続いて美海が言う。
「診療所? そうか、それで……」
「……みんな……ううん、ユーベルの心を傷つけた事は……絶対に許さない……」
 住所を聞いて誰の返事も待たずに先行するラスに、リネンも付いていく。彼女に促されて、ユーベルもその後を追った。ケイラはラスを、心配そうに見詰めていた。
 手に持っていた星のメイスをぎゅっと握って2人を追いかける。そんなケイラの後を、内心で困惑しつつマラッタは続いた。ケイラを止めろと言われたわけだが――
(……そんな事、俺に言われてもな……。ああ見えて結構頑固な所があるし、感情が昂ると我武者羅な分、あいつも周りが見えてないし。まあ、ラス・リージュンがトマトになるようなことにはならないよう、注意するか……)
 それより、彼が気になっているのはピノの事だった。あのくしゃみは、実際に注目すべきことだったのではないか。彼女の身体は、本当に大丈夫なのだろうか。
(ケイラは、そっちの心配をした方が良いのにな)

「あの時のキバタンでしょうか」
 電信柱に貼られた広告や住所表示を見ながら住居エリアを進んでいると、ノルニルが上を見上げて言った。彼女の視線の先には、樹の上に留まっているキバタンがいた。身体を丸くふくらませ、くちばしを背中に突っ込んでいる。
「さっきのキバタンですの」
 それを、エイムが断定した。
「……何で判るんだよ……」
「エイムちゃんが言うんだから間違いないです〜」
 明日香が言う。天然のエイムに理由を求めても仕方ない。判るったら判るのだ。ノルニルも異存はないようだ。
「ということは、診療所はもうこの近くの筈ですね。……あれでしょうか」
 民家ではない、駐車場のある1階建ての建物。門の隣にある看板に近づくと、確かにその旨が書かれている。診療所にしては大きいが、まあ此処であろう。
「ラスさん……、念のために訊くけど、ちゃんと頭の中整頓出来てる?」
「……お前……」
 当然の如く、診療所には鍵が掛かっていた。受付に看護師の姿は無い。躊躇いなくピッキングを使ったラスは、心持ち怯んでケイラを見た。適者生存を使ったケイラは、妙な迫力をもってメイスを握り締めている。もう、いつでもトマトにする気満々のような。
「何持ってんだよ! 何だこの、どっかで見たような光景……!」
「ん? 気のせいだよ。そんな、しょっちゅうラスさんが暴走してるみたいな…………本当、何回止められれば気が済むのかなあ……」
「…………!」
 その声音に何か恐ろしいものを感じて、ラスは逃げるように中に入った。
 ケイラはああなったら本気だ。やる時はやる。
(これだけ脅しておけば、大丈夫かな……。ピノさんが一緒にいる以上、下手な事はしないと思うけど……)
 そう思いつつも、一抹の不安は残る。
 そして、その隣でエイムは、連れてきたペットの毒蛇をどうしようかと考えていた。イルミンスールに帰っていないので、森からずっと一緒である。
「綺麗な色で、長くて細くて可愛いです。診療所まで連れ込んでもいいのですか?」
 明らかに質問口調だったが――
「いいですね」
 誰かが返事をする暇も無く、エイムは勝手に答えを出した。服の中に毒蛇をしまう。
「いや、ダメやろ普通!」
 社の言葉もどこ吹く風に、彼女も診療所のガラス戸を押した。どこまでもマイペースである。