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魂の器・第1章~蒼と青 敵と仇~

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魂の器・第1章~蒼と青 敵と仇~
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 デパートの入口。自動ドアの電源は切られ、制服警官がその前に屹立している。各放送局のスタッフがそれを撮影し、リポーターがカメラに向かって喋っている。その様子を、空京市民や観光客が遠巻きに眺めていた。その時、人々の一角が突如ざわつき、割れた。身体の至る所に包帯を巻いたクルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)が歩いてきたからだ。クルードは1人で歩ける状態ではなく、リリア・フェンネス(りりあ・ふぇんねす)の肩を借りていた。服の下から見える包帯からは血が滲んでいる。怪我は、回復スキルを使っても直らないほどに酷い。尋常では無いその姿に、人々が驚くのも無理はないだろう。
「これは……もう……関係者は出払ったか……?」
 突然様子の変わった剣の花嫁のパートナー、ユニとの戦闘での傷が激しく、彼は救急車で空京病院に運び込まれた。病院のテレビで流れていた報道を見て、リリアを呼び、手伝ってもらい抜け出してきた。ユニに何が起こったのか分からない。戦闘中に思い出された、ありえない記憶。
 混乱する自分を抑え、事件についての正確な情報を得る為にここまで来たのだが――
「いや……まだ、近くに居る可能性はある……探して、必ず話を聞き出す……」
 リリアが言う。普段の丁寧な口調ではない、中性的な話し方だ。腹の底から響くような、怒りを孕んだ声音。
「……そして、他にも仲間が生き残っていたら……殺す……」
 リリアは、完全にキレていた。今回の事件の犯人が、彼女が激しい敵意を持つ鏖殺寺院であった事、それに因ってクルードが重症を負った事が理由である。ちなみに、リリアは別に、彼に恋愛感情は持っていない。依存はしているが、その類のものとは違う気持ちだ。
「……ユニを元に戻す方法も……聞き出さないとな……」
 クルードもかなり怒っていたが、彼はまだ冷静だ。超感覚を発動して五感を研ぎ澄ませ、事件に関わった知り合いがいないかと探す。やがて、リリアと人混みの中を移動していく内に彼は聞き覚えのある声を耳にした。
「あの獣人は……うまく雲隠れしたようだな……」
「Surely、報道では彼女について触れられていません。あのまま、どこかに逃げ込んだのかもしれませんね」
 アシャンテ・グルームエッジ(あしゃんて・ぐるーむえっじ)シャルミエラ・ロビンス(しゃるみえら・ろびんす)と会話をしている。2人の後ろを、パラミタ虎のグレッグが歩いていた。彼の背には御陰 繭螺(みかげ・まゆら)が乗っている。繭螺は元気のない顔で視線を落とし、話に参加しようとしていない。そして、相変わらずグレッグは目立っていた。おかげで彼女達の姿も確認しやすい。
 歩きながら、シャルミエラはちらりと振り返る。グレッグと心配そうな視線を交わし合い、繭螺を見た。魂が不安定になっていた繭螺は、バズーカの光線を再び受けて安定を取り戻した。だが――
(アーちゃん……)
 繭螺とアシャンテは、事件が解決してから話をするどころか、目も殆ど合わせていない。ぎこちなさ全開である。光線の影響で、繭螺は以前の自分の記憶を思い出した。今は、その記憶は再びおぼろげなものとなっている。だが、1度認識してしまった自分の過去を、彼女は事実として認識してしまった。アシャンテと敵対していたという、事実。
 それから、繭螺はアシャンテを避けてしまうのだ。敵だったアシャンテを恐れてのことではなく、敵だったが故に、自分が彼女から必要とされなくなってしまうのではないかという恐怖からである。
(私がしっかりと、お2人を支えなければ)
 そんな2人を見て、シャルミエラはそう思いを新たにする。
「……探してみますか? マスター」
「そうだな……尋ねてみたいことが、ある……」
 アシャンテは答え、それからシャルミエラを見た。
「……シャルミエラ……元に戻ったんだな……」
「why? 何のことです?」
「……いや、分からないなら、いい……」
 昼、アシャンテ達に発破をかけたシャルミエラはすっかり影を潜めていた。すっかり裏に引っ込んでしまったようだ。あのはきはきとした人格を、彼女は自覚していなかった。
 ちなみに、シャルミエラは機晶姫につき、この人格云々に光線は影響していない。そもそも、彼女は光線を受けてはいない。
(繭螺……)
 アシャンテは後方の繭螺に目を遣る。そこで、こちらに歩み寄ってくる存在に気付いた。自分達と同様に、野次馬達から距離を取られている。
「……クルード……」
 クルードの状態に驚き、アシャンテ達は彼等に近付いた。
「……アシャンテ……どうした……繭螺と何かあったのか……?」
 先制して問われ、アシャンテはシャルミエラと顔を見合わせた。それを詳しく説明出来るのは、事実認識から見ても精神的な面から見てもアシャンテだけだ。
「ここで起きた事件に巻き込まれた……。もっとも、私達は街中で攻撃されたのだが……」
 彼女はそうして、繭螺が突然狙撃された時から起こった事をクルード達に話した。狙撃手を捜している中で、デパートで騒動が広がっていると知った事。そこで、巻き込まれた者達と情報交換をした上で協力し、犯人を追い詰めた事。犯人は2人いて、1人はレッサーワイバーンで仮面の男と共に逃げ、1人がその場で殺された事。山田太郎の、剣の花嫁を嘲るような発言。被害に遭った剣の花嫁を元に戻す方法――
「……だが、バズーカが無くても……意思の力で戻った花嫁もいるようだ……。他の方法は、確認されていない……」
「……バズーカ、か……」
「バズーカは……ファーシーという車椅子の機晶姫が持っているはずだ……彼女は今、ここには居ない……。勿論……その手からバズーカが離れている事も有り得るだろう……」
 ここまで説明すると、アシャンテはクルードに言った。
「……その怪我は、何だ……? 何があった……?」
「…………」
 クルードは直ぐには答えなかった。ただ、1つの事実だけを彼女に伝える。
「ユニが……犯人にやられた……」
 これ以上は言えない。
「…………」
 それを察したのかどうか、アシャンテは暫く黙ってから話題を変えた。
「……私は……チェリーという獣人を探してみようと思う……。共に来るか……?」
「ああ……やはり、鏖殺寺院だったか……」
 他にも、何か情報を持っているかもしれない。
 そして――
 クルードがチェリーの殺害を心に決めた時、リリアが言う。
「……獣人……絶対に許さない……必ず、殺す……」
 殺意を全身に纏っていた。彼女の言葉を、それぞれの思いをもって4人は聞き――否定も肯定も口にせぬままに捜索を開始した。