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カノン大戦

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第7章 カノン、パンツを履く

「さあ、死んで下さい! そして、さくらんぼになってハッピーエンドですね!」
 大浴場の湯煙の中で、藤原優梨子(ふじわら・ゆりこ)が吠える。
 藤原のサイコキネシスで空中を旋回運動している、無数のノコギリや釘といった日曜大工の工具が、螺旋運動を徐々に拡大しながら移動してカノンに襲いかかり、その剥き出しの肌を引き裂いて、血まみれにしようとうごめいた。
「何だか、ゴーストイコンよりも、あなたの首をまず斬り落としたくなりましたね!」
 カノンは笑って、ボディソープの容器を手に取ると、逆さにして、中身を宙にぶちまけた。
 ねばー、ぐるぐるぐる
 飛び散ったボディソープが、サイコキネシスによって操られ、宙で渦を巻いて、辺りにハーブの香りを漂わせた。
 カノンは、空中に広がった液体にお湯を加えて泡立たせると、その泡もサイコキネシスで操って、空中に泡の渦をつくりあげ、その渦をいっきに広げた。
「らんらんらん、シャボン玉の嵐ですね」
 カノンのつくりだしたボディソープの泡の渦と、藤原のつくりだした刃物の小竜巻が激突して、互いに混じりあう。
 ぶくぶくぶく
 激突の衝撃で、泡が分裂してさらに無数の泡が生まれ、浴場の天井に向かって巻き上がっていった。
「む? 泡が刃にまとわりついて、動きを阻害すると同時に、潤滑剤になって、切れ味を悪くさせていますわね。小癪な真似を!」
 藤原は舌打ちしながらも、刃の旋回のスピードを速くさせて、カノンの身体に直接ぶつけていく。
 だが、自分でもボディソープを全身に塗りたくって泡まみれになっているカノンの肌は、刃の嵐を受けてもいっこうに傷つかない。
 みると、カノンの全身を包む泡がサイコキネシスによって極めて微細な運動をしており、どのような細かな刃もよせつけないようである。
 つるっ、つるっ
 宙を突進してカノンの肌を刺そうとする無数の釘も、泡の影響で切っ先を滑らせ、次々に弾かれて床に落ちていった。
「アッハッハ! 楽しいショーですね。じゃ、そろそろ、こっちからも反撃させて頂きますね!」
 全身が無数の泡に飲み込まれたような外観になっていたカノンは、甲高い笑い声をあげながら、指を鳴らした。
 しゅるるるるる
 カノンのサイコキネシスで、浴場の中の、石鹸や、ボディソープや、シャンプーや、洗面器や、腰掛けといったあらゆる備品が宙に浮かび、ぐるぐると旋回しながら、ものすごい勢いで藤原に襲いかかっていった。
「くうっ! 何の!」
 藤原も負けじと、刃の嵐で洗面器や腰掛けを切り裂くが、ボディソープやシャンプーといった液体を阻止するのは難しく、それらを全身にひっかぶって、視界を塞がれ、また、泡まみれになっていった。
「ぐ、ぐぐぐ」
 ボディソープが目に入った藤原は呻き声をあげて、無数の刃を自分の周囲で旋回させながら、カノンがいると思われる方角に足を踏み出す。
 無数の刃や泡や液体が飛びかう浴場の内部は、いまや、地獄絵図のような状態となっていた。
「キャー!」
「み、みんな、早く湯槽に!」
 周囲の女子生徒たちは悲鳴をあげて刃から逃げ惑い、我れ先にと湯槽の中に避難する。
「困りましたね。ですが、いま止めようとしても無理です。2人とも、気が済むまでやらせるしかないでしょう」
 オリガ・カラーシュニコフ(おりが・からーしゅにこふ)は、湯槽の中で呆れたというようにため息をもらしながら、カノンと藤原の闘いをみつめている。
 周囲の女子生徒も、同感という風にうなずく。
 1対1の闘いということもあり、下手に加勢するとカノンの怒りをかいかねないので、見守ることにしたのだ。
 また、この闘いで、隊長であるカノンの力量を見極めたいという想いも、生徒たちの中にはあったのである。
「カノンさん、がんばれー!」
「隊長ー!」
 生徒たちとしては、とりあえず湯槽の中からカノンを応援するというスタンスに落ち着いたようだ。

「カ、カノンさん、どこにいるんですか? 必ず切り裂きます!」
 視界を塞がれている藤原は、それでも恐るべき戦士の本能でカノンに向かって歩いていく。
 一方のカノンは、泡に埋もれながら移動して、よろめく藤原の背後にまわりつつあった。
 泡の衣のおかげで、刃の嵐も気にならない様子である。
 そして。
「藤原さーん、捕まえました!」
 カノンが背後から藤原の首に飛びつき、両腕で締めつけようとしたとき。
「あっ、あれ、これは!」
 カノンが、予想外の出来事に目を丸くする。
 見えない力が、カノンの手を藤原の首からはねのけ、さらに、全身をおさえこみにかかった。
「わかりました。フラワシですね! 藤原さん、あなた、コンジュラーになったんですね!」
 藤原のフラワシに全身をがっちりおさえこまれて、カノンは呻き、何とかして締めつけから逃れようとする。
「あなたを倒そうと、いろいろ仕込んであるんですよ? フラワシさん、取りあえずカノンさんを黒焦げにしてから、首を狩りましょうか?」
 藤原の合図で、フラワシは炎をまきおこすと、カノンの全身にまといつかせた。
 泡が炎をくいとめるが、肌を焼かれるのは時間の問題と思えた。
 だが。
「うーん、熱いですね。サウナ風呂に入った感じですね!」
 カノンは、サイコキネシスで、全身を浮かびあがらせていた。
 藤原が驚いたことに、カノンは、自分の身体をおさえこむフラワシごと、空中移動を始め、湯槽の中にざぶんと飛び込んだ。
 ぶしゅうううう
 カノンを焼こうとした炎が、お湯の中で消失して、煙をあげる。
 どぼーん
 強烈なサイコキネシスの力が、カノンの身体からフラワシを引き剥がし、湯槽の中に頭から突っ込ませた。
 そして。
「フラワシという『技』には単純に強い『力』で対抗、ですか。さすがですね!」
 フラワシが移動したことでカノンの位置の見当がついた藤原もまた、湯槽の中に飛び込み、お湯で全身の泡を流して、カノンにつかみかかろうとする。
「それじゃ、武器も撃ち尽くしましたし、サイコキネシス勝負ではらちがあかないので、こちらは原始的な肉弾戦で対抗させて頂きます!」
 藤原は肉弾戦慣れした動きでカノンの身体をつかもうとするが、カノンはサイコキネシスでお湯を飛ばして藤原の顔にかけるなどして抵抗する。
 ばしゃばしゃ、ばしゃばしゃ
 お湯を蹴って歩く2人の動きにあわせるかのように、激しい波が湯槽の中にまきおこる。
 同じく湯槽の中にいた女子生徒たちは、なるべく隅の方に身体を寄せて、闘いの邪魔をしないようにした。
 やがて。
「はあ。浴場の中に長くいるせいか、だんだんのぼせてきましたね」
 カノンは、頭がくらくらするような感覚を覚えて、ため息をついた。
 藤原もまた、同様の様子だった。
 藤原の場合、カノンのサイコキネシスがフラワシをお湯の中に沈めていて、フラワシがだんだんのぼせてきているために、操者である自分にも影響が出ているのである。
「はあはあ。勝負はもうすぐつきますね。隙あり!」
 藤原は、にゅうっと手を伸ばして、ついにカノンを捕まえたように思った。
「ひゅうううう、熱いです、い、意識が! はああー」
 藤原の手が伸びた瞬間、カノンはすっかりのぼせて、一瞬意識を失い、湯槽の中に倒れ込んだ。
「あ、あらら!?」
 カノンが予想外の動きをしたため、藤原は勢いあまって、足を滑らせ、カノンと同様、湯槽の中に倒れ込む。
 ざぶーん
 2人の転倒によって、お湯の飛沫がダイナミックに飛び散った。

「ふ、ふう、無意識の動きは、あなたにも読めませんよね!」
 お湯を飲み込んですぐに意識を回復させたカノンは、すぐ脇に倒れ込んできた藤原の身体をがしっとつかんだ。
「た、態勢がちょっとあれですけど、私も捕まえましたよ!」
 藤原もまた、お湯を飲み込みながらカノンの肩をつかみ、湯槽の中を転がそうとする。
 2人は、お湯の中に倒れ込んだまま、組み合って、互いの頭をお湯の中に沈めようとした。
「む、むうううう! カノンさん、意外に筋力もあるんですね。それじゃ、仕方ありません。2人の関係を、あらたなステージへ! む、むううう」
 藤原は、カノンに負けまいと奮闘しながら、その唇に自分の唇を重ね、力強く吸い始めた。
 吸精幻夜を仕掛けているのだが、もしかするとこれが、カノンのファーストキスだったりするのだろうか?
「く、くはあああああ。ふ、藤原さーん!」
 カノンもまた、負けじと、本能的に口づけを返し、情熱的に藤原の唇を貪った。
 カノンのはただの口づけのはずだったが、唇を合わせたまま、藤原の目が大きく見開かれていく。
(も、もがが。か、身体に入ってくるこの力、強烈すぎます! これはまさか、カノンさんの別人格であるという死楽ガノンの力!? その力が、私の体内に! し、刺激が強すぎますね!)
 藤原は、カノンの精力と同時に、凶暴極まりないという別人格の死楽ガノンの精力も吸い込んでしまったために、あまりに強大な力の吸入に耐えきれない身体が拒否反応を起こしたのである。
 だが、そうかといって、闘いも終盤であり、ここで唇を離すわけにもいかなかった。
 結果、カノンと藤原は濃厚なディープキスをしたまま、お互いの頭をお湯の中に沈めていくことになった。
「こ、これは! やはり、カノンさんは百合に目覚めたのですわ。……って、そんなこといってる場合じゃないですね。カノンさーん! 聞こえますか? いまこそ、愛の奉仕をするときです!」
 闘いの様子を見守っていたカーマ スートラ(かーま・すーとら)が、湯槽の底のカノンの耳に入れようと、大声で叫ぶ。
(あ、愛の奉仕! そ、そうでしたね。りょ、涼司くん! 好きです、好きー!)
 藤原とディープキスを維持していたカノンは、カーマの助言を耳にすると、目を閉じて、山葉涼司と抱き合っている自分の姿を想い浮かべた。
 思わず、藤原の唇をさらに強く貪るカノン。
 のみならず、その手を藤原の胸やお尻にまわして、愛撫を繰り広げる。
 藤原は、いよいよ興奮させられた。
(こ、これは、マットプレイですか! 変なところを触らないで下さい! し、しかも上手いですね。あ、ああ、死楽ガノンの力を吸って身体が火照ってるところに、この刺激はたまらないですね! と、とろけるようです! た、たまりません!)
 藤原は息苦しさと快楽で頭が変になりそうだった。
 対抗して、藤原もカノンの身体を愛撫しようとするが、さっきまでそういう動きを練習していたカノンの方が勢いづいていた。
 湯槽の中に頭を沈めていられる時間も、残りわずかとなってきている。
 相変わらず、唇は重ねたままである。
 いったい、どうなってしまうのか?
 そして。
 長時間の闘いの果て、お湯の中に沈んでディープキスをしていた2人は、ついに頭が完全にのぼせて、意識を失ってしまったのである。

「カノンさん、しっかり!」
 闘いを見守っていた女子生徒たちは、湯槽の底で失神したカノンと藤原の身体を引き上げると、浴場の床に並べて寝かせた。
 2人とも、荒く息を吐いていたが、女子生徒たちがそれぞれを介抱して胸を押したとき、互いの口から、飲み込んでいたお湯が吹き上がった。
 ぴゅうううううう
 まるで、鯨が潮を吹いているかのようであった。
 そして。
 一瞬意識を取り戻した藤原は、傍らのカノンの様子をみて、愕然とした。
(は、はあ。これは? 心持ち、カノンさんの方が高く潮を吹いています! もしかして、鼻差で私が負けたということですか? 俄覚えのマットプレイという予想外の刺激があったとはいえ! いや、死楽ガノンさんの力を吸ったのが計算外でしょうか。く、くう)
 互いに口から潮を吹き合っているその姿を記憶に刻みながら、藤原の意識は再び、闇に飲み込まれていった。
 藤原の想いを知らない女子生徒たちは、闘いは、相討ちに終わったと感じていた。
 いまはともかく、カノンの意識を先に回復させて、早々に退散するべきである。
 そう考えたため、女子生徒たちは、カノンの顔に冷たい水をざぶざぶとかけた。
「はあ? あれ、私は、のぼせて? 藤原さん? これじゃ、闘いを続けられないですね。とりあえず、またの機会ということで。楽しかったですよ!」
 意識を回復させたカノンは、傍らに眠り込む藤原の姿に微笑みかけると、全身をタオルで拭い、闘いの疲れを拭き取った。
「カノンさん、すごかったです! あの藤原さんにもひけをとらないなんて!」
「隊長、素晴らしいです!」
 女子生徒たちは、次々にカノンを賞賛した。
「いえ、私も、あともうちょっとでやられるところでした。藤原さんは、素晴らしい戦士ですね! みて下さい、身体つきも、実に魅力的です!」
 カノンは、彼女にしては珍しく、大の字になって伸びている藤原の身体に、心からの敬意を表していた。
 カノンは気づかなかったが、このとき、死楽ガノンの精力を体内で消化しつつある藤原の肉体に、恐るべき進化の芽が生じようとしていたのである。
 だが、カノンがそのことを知るのは、遥か将来になる。
「さあ、お風呂を出ましょう! いろいろありましたけど、すっかりリフレッシュできましたね! 後は、明日の早朝、出撃するだけです! キャッキャ、キャッキャ、ウッフッフ! アハハハハハハハー!」
 引き戸を開けて脱衣所に入ったとき、カノンはすっかり上機嫌に戻っていた。
 だが、その先に待ち受けていたのは、衝撃の再会であった。

「あ、あれ? 下着が、違うのに変わってますよ?」
 カノンを始めとする女子生徒たちは、脱衣所で服を着ようとして、下着がいやらしいデザインに変わっていることに気がついた。
「カノンさん、これは、痴漢がやったことなんです! こんなもの、履かなくていいです!」
 神裂刹那(かんざき・せつな)が、カノンの手から、南鮪(みなみ・まぐろ)のデザインした勝負下着をもぎとろうとした。
 だが、カノンは、神裂の手を避け、下着をしげしげと眺めている。
「うーん、面白いデザインですね。これはどういうことなんですか?」
 カノンに尋ねられて、神裂は、自分が聞いた南の陰謀について説明した。
「へー、ユニフォームですか。うん、いいかもしれませんね!」
「え?」
 カノンの無邪気な笑みの意味がわらかず、神裂は聞き返していた。
「みんなで同じデザインの下着を履くって、確かに連帯感がわきそうです! みなさん、できれば、この下着、履いて出撃しましょう!」
 カノンは、笑いながら、透け透けの下着をひらひらと振りまわしていった。
「ほ、本気ですか? これを履いて? 申し訳ありませんが、私は」
 神裂の信じられないといった瞳を前にしても、カノンはニコニコとしている。
「もちろん、履きたくない人は、履かなくてもいいですよ! でも、せっかくの統一デザインですし、私は履いてみたいと思います! おしゃれですよね。アハハハハ!」
 カノンはとても上機嫌だった。
 どうやら、藤原との闘いが本当に楽しかったので、気持ちが大きくなっているようである。
 カノンの言葉に従い、他の女子生徒たちも、特に異論がなければ、その下着を履くことになった。

「カノン、ありがとうな。俺の案を採用してくれて! 結構、本気で嬉しいぜ!」
 脱衣所から出てきたカノンに、南が駆け寄ってきた。
「あれ? あなた、どこかで会ったことが?」
 カノンは首をかしげた。
「うん? いや、それは想い出さなくていい。とにかく、俺のデザインした下着を着用した部隊は、体調は万全、士気があがって、闘いでも必ず戦果をあげること請け合いだ! どれ、ちょっと、履いてるところ、みせてくれよ!」
 南は、喜びのあまり、カノンに対して、恐れ知らずなお願いをした。
 カノンの笑顔がみるみると消えていく。
 南は、背筋がぞっと凍るのを感じた。
 パラ実で、集団リンチにあうときに感じる恐怖に似ていた。
 がしっ
 カノンの手が、南の手首をつかんだと思うと、思いきりひねりあげていた。
 ぐしゃっという音が響く。
「う、うぎゃあ!」
 南は悲鳴をあげた。
「案は面白かったから採用しましたけど、あまり調子に乗らないで下さいね。私は、女に乱暴する男は大機いなので、次に同じことを言ったら、その首を切り裂いて殺します! でも、今日は機嫌がいいので、特別に見逃します。それじゃ!」
 さっきとはうって変わった冷酷な口調でそういうと、カノンは南の身体を突き飛ばして、振り返りもせずに歩いていった。
「いってー! まあ、採用されただけで奇跡みたいなもんだからな」
 手をさすって涙を拭う南に、その脇を通り過ぎる神裂が白い目を向けていた。

 そして、カノンたちが脱衣所を出てから、しばらくして。
 やっと意識が回復した藤原が、よろめきながら脱衣所にやってきた。
「お、おお、藤原! 聞いてくれよ、俺の案が採用されたんだ。おまえも、この勝負下着、履いてけよ、な!」
 南は、藤原が服を着ている最中にも関わらず脱衣所に踏み込むと、はしゃいで話しかけた。
「……」
「うん? どうした?」
 藤原の機嫌が悪そうなので、南は、一瞬あとじさった。
「……これ、汚れてますよ」
 藤原は殺気のこもった瞳で南を睨みつけて、そういうと、南が置いていった下着を取り上げて、ビリビリに引き裂いてしまった。
「あ、ああ! お、俺のデザインした神の下着がー!」
 茫然とした南の喉にナイフを一瞬突きつけて、藤原は、そのままどこかに消えてしまった。
 突きつけたときに少し刺さってしまったのか、南の喉から血がしたたる。
 よく考えると、南に交換された下着を引き裂いたので、ノーパンで行ったような気もした。
「な、何だよ、今日、何回殺されかかってんだ? ここは怖い女ばかりだな! まあいい。みんな、気づいていないが、俺の用意したパンツを履いた女は、みんな俺の女ってことになるんだからな! ヒャッハー!」
 誰もいなくなった後、南は一人怪気炎をあげ、天に向かって拳を突き上げていた。
 もっとも、南が同じセリフをカノンに言えるかどうかは微妙であった。
 そして。
 南自身も気づいていなかったが、このとき、南は、今回の闘いでのカノンの運命を決定する不確定要素の一つに関わっていたのである。