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リアクション
第三章 カウントダウンイベント 4
「花火は夏ばかりと思ってたが、冬の花火も良いもんだな! ……お前たちもそう思うよな?」
マホロバ城の天守閣。
花火が一番近くで見えるだろう一等席を目指して、朝霧 垂(あさぎり・しづり)は上っていた。
彼女は最近、葦原明倫館に転校してきたばかりで、マホロバも大奥の事もよく分からない。
今、自分のすぐそばにいる人物が、マホロバ前将軍鬼城 貞継(きじょう・さだつぐ)と暗殺された大老楠山(くすやま)とは知らない。
適当にブラついていたら、二人の大晦日の会話が耳に入ったので、無理やり天守閣の屋根上へと連れて行ったのだ。
水鏡 和葉(みかがみ・かずは)と神楽坂 緋翠(かぐらざか・ひすい)もいる。
「上様。この無礼者、許すわけには……」
「構わん。無礼講といっただろう。こんな日もなければ、人の一年の鬱気も晴れまい」
楠山はこめかみに青筋を浮かべていたが、貞継がそう言うのなら仕方がない。
大老が垂の振る舞いを我慢していると、垂は大きな声を上げた。
「お、俺たちより早く先客がいたようだな。まあ、どうせ酒盛りするなら多いほうがいいぜ。おーい、俺たちもそこ、良いか?」
声をかけられて、振り返った天 黒龍(てぃえん・へいろん)は驚いていた。
メイドに連れられて、マホロバ前将軍と大老、そして青年たちがこちらの方へやってくるではないか。
「あ、ああ。別に、私の場所と決まっているわけでもないしな」
黒龍がやや戸惑い気味でいると、垂はにこりと笑って彼女の隣に腰掛けた。
「ひとりで蕎麦食べてたのか? 下に行けば、大勢もっといるのに」
「あまり……騒がしいのは性分ではないからな。どうせなら静かに除夜の鐘でも聞いていたい」
「除夜の鐘? ……ああ、今鳴ってる鐘の音は、あまり煩悩退散は期待できないかもしれないけどな」
通りがかりに棗 絃弥(なつめ・げんや)の惨事を見てきた垂は、それ以上は言わず、黒龍の隣の黄泉耶 大姫(よみや・おおひめ)に話しかけた。
「そっちもか?」
「わらわは付き添いじゃ。黒龍の元日の誕生日祝いをかねてな。こちらは無愛想じゃが……まあ、気にするな」
「誕生祝? おまえ、誕生日なの?」
垂がまじまじと見つめると、黒龍は少し顔を赤らめて語気を強めた。
「何の嫌がらせだ、黄泉。私のことなど話すことではなかろう!」
「そうか、生まれた日か。ならば、祝ってやるしかないな」
やり取りを聞いていた貞継が、言いながら夜空を見上げている。
「もうじき花火が上がり、年が明けるぞ。お前の分まで祝ってやろう」
「貞継公……私は、そのような習慣は持ち合わせてはおらぬ」
「じゃあ、聞け。花火にはな、昔から戦で死んだ者への鎮魂の意味がある。今年一年死んだものを想い、慰め、新しく生まれ来る命の息災を祈るのだ。お前は新しい年の始まりとともに生まれた。人々の真新しい祈りを一番に受けるのだ。お前が祝われて幸福なら、人々もそうだと思うといい」
「……」
黒龍は黙ったままでいる。
これまで心の底から自分のことを想い、祝ってくれた人間がいただろうか。
しかし今は、そのことを口に出すには憚られる気分であった。
「あ、下でカウントダウンがはじまったぞ。俺たちも数えようぜ!」
垂が下に向かって手を振っている。
和葉も立ち上がって大声を出した。
十、九、八、七、六……
間も無く、庭に出ている大勢の大きな声がひとつの合唱となる。
五、四、参、弐、壱……
「新年、明けましておめでとう〜!」
続いて、花火が打ち上げられる。
マホロバ城上空に美しい大輪の花が咲いていた。
「そなた……今、笑ったか」
大姫が黒龍の横顔を見る。
「私が笑う? ……気のせいだろう」
「いや、一瞬だけだったけど笑ったように見えたな」
貞継も微笑んでいる。
黒龍はちょっと目を逸らした。
「……確かに、二十一歳の誕生日は、今まで生きてきて一番賑やかだったかもしれない」「よーし! じゃあ、新年の祝い酒、ぱーっと飲むか!」
垂が酒瓶を振り上げて、乾杯の音頭を取っていた。
「今年は俺達ひとりひとりはもちろん、シャンバラにとってもパラミタ全土にとっても良い年になりますように! 皆でがんばろう……かんぱーい!」
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