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ぶーとれぐ ストーンガーデン 黒と青

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ぶーとれぐ ストーンガーデン 黒と青

リアクション



OVERTURE 廃教会

高崎悠司(たかさき・ゆうじ)

見覚えのある一団だ。
あんまりジロジロ見るのもなんなので、俺の横を足早に通り過ぎていく連中の話し声に、さりげなく聞き耳を立てた。

「せっかくマジェスティックにきたのに、テレーズさんにごあいさつしなくていいのでしょうか。
テレーズさんとアンベール男爵さんは、いつかは結婚されるのですよね。
私は、みんなに騙されたり、悪魔扱いされたりして傷つきましたけど、お二人が幸せになって本当によかったです」

「過去を振り返っているヒマはないわ。
私たち、百合園女学院推理研究会には新たな使命が待っているのよ。
ロキたちはすでに聞き込みをはじめているはず。
ふふふ。私の秘密兵器がついにベールを脱ぐわ」

「わらわは、舞には悪かったと思っておるぞ。
そこのアホのめい探偵とは違ってな」

ほんわりした雰囲気の黒髪のお嬢様と、代表の腕章をつけた青いドレスのフランス人形みたいな女の子、それに踊るようにふわふわと歩いている民族衣装の東洋人の子だ。
百合園女学院推理研究会?
たしかそう言ったよな。
おーおー、思い出した。
くるとと事件に巻き込まれるといつも現場にいる探偵クラブのお嬢ちゃんたちだな。
この子たちがいるってことは、今回の事件もやっぱり、一筋縄ではいかない面倒なものなのか。
センセー。質問です。
この問題、解くのに、頭、使うんスか?
っ。かったりぃ。
回れ右したくなったぜ。
帰ろうかな。
俺は、パラ実の高崎悠司。
あーん、と、マジェの事件をのぞきにきたんだけどさ。
あんまし、インテリ的にハードなのは、その、かんべんして欲しいっうか。
さすが推理研の連中はミステリの専門家だから、重い足でだらだら進む俺を軽快に抜いてきますよっと。
こいつら、ガチで楽しそうだぜ。
パッカパッカパッカパッカ。
女の子たちの他に、野郎と、トナカイと角の生えた馬! 猫、うさぎ、角の生えたうさぎ、サイボーグ犬もいるんだけど。
いつの間に動物も連れてくるようになったんだ。
サーカス団かよ。

「マジェはペットを連れてきてもいいんだよね。知らなかったよ。
今日は、ピンギキュラも一緒でうれしいな」

角うさぎが角馬、ユニコーンか、にまたがってはしゃいでるぜ。
角うさぎは、しゃべれるんだな。

「ヒヒーン」

ユニコーンは馬みたいに鳴くのか。ニンジンは食うんだろうか。

「事件が早く解決したら、ロリデュラにソリを引いてもらって、マジェをめぐるのもいいわね」

猫を肩にのせた鹿打帽の女の子、マジカルホームズだっけ、が乗ってるトナカイの背中をぽんぽん叩く。

「近世ロンドンの街で少し遅めのホワイトクリスマスですね。
夜景も撮影したいです」

頭のよさそうな機晶姫の子がハンディカメラを回してる。

「アンベール男爵の件もまだまだ捜査したいのだがな」

「バウンバウバウバウ(その機会はいつか必ずくる。マイト、焦るな)」

トレンチコートの男はサイボーグ犬に真剣に話しかけてるぜ。
犬好きなんだな。

「ガーデンの事件も気になるが、切り裂き魔の事件以来、春夏秋冬真都里(ひととせ・まつり)は、マジェに住み着いてしまって、イルミンに帰ってないらしいな。
心配だ」

「そやな。噂やとインチキ神父の養子になったとか。
いまじゃ、マジェでは有名な白髪モヒカンのコワモテらしいでぇ」

「兄貴はこの街のそっちの情報にはくわしいわよね。
色の道のプロですもの」

「それは言ったらあかん。
ほんまに、もう、かんべんしてくれ」

「カリギュラは精一杯やったんだ。なにも恥ずかしがることはないさ」

「なにを精一杯やったのかしら」

「かんにんや。ボクは無実や」

まじめそうな好青年くんと関西弁のイケメン兄ちゃんに、白うさぎを抱えた美人だけどコワそうなお姉さんがちゃちゃを入れてる。
みなさん、仲がよさそうでいいっスね。
パラ実にゃねぇ空気が流れてるぜ。
推理研の御一行様が行っちまった後、俺は道をかえて中央教会へむかった。
お嬢さん探偵たちが、俺が現場に行く前に事件を解決してくれているといいんだけどな。
俺がきたのは、焼け崩れた廃屋にしかみえない建物。
入場口でもらったマジェのお散歩マップによると、ここが中央教会だ。
おっと。
入ろうとすると内側からドアが開いて、ターンバイクが飛びだしてきた。

「ヒャッハァ〜。隠れていてもムダだぜ。
今度、俺様に会った時のためにせいぜいパンツをきれいにしとくんだな。
はじめからはいてねぇなんてズルはなしだぜ」

エンジンの爆音と、恥ずかしい叫び。
おおっ。
バイクに乗っているモヒカンは、元パラ実の有名人、現空大生の南鮪(みなみ・まぐろ)じゃねえか。
どこにいても変わらないな、やつは。
鮪は豪快に笑いながら、走り去っていった。
俺に気づいてねぇな、あいつ。
教会でなにしてやがった。
さっきのセリフからして、まさか。

「おい。大丈夫か」

ガラにもなく、中のやつが心配になって、教会内に飛び込んだ俺を迎えたのは、ネクタイ、ワイシャツ、サスペンダー、半ズボンのおかっぱ頭の少年だった。

「ボク、いまのモヒカンにひどいめに会わなかったか」

「さあ? バイクに乗ったまま入ってきて、俺様専用美少女のセリーヌはいねぇじゃねえか、小僧には用はないんだぜ! ってのたまわってたバカには、別になにもされてないけど」

「よかったな。
俺は、高崎悠司。俺もセリーヌに用があるんだけど、留守か。
古森あまねから伝言があるんだよ」

「んー。名前だけ有名になっても、複雑な心境だよ」

「はん。セリーヌは、ボクのお姉ちゃんか。
なあ、お姉ちゃんは、どっかにでかけてるのか」

「ボク」

少年は、自分の顔を指さした。

「ごめん、ごめん、ボクの名前はなんっうんだ」

「ボクがセリーヌだよ」

「へ」

「だから、私がここに居住している危険人物たちのおさんどん担当のセリーヌさん、本人なんですけど。
みなさん、私を知らないのに、私になんの用ですか」

げ。げげげげげ。
男装してるとか、聞いてねえ。

「いや、あの、そうなのか、知らなかったぜ。
そういう趣味なんだ。
そーか。そーか。やられたぜ」

「男装して悪いか。勝手にやられてろ」

小声でぶつぶつ言ってるセリーヌは、ほんとに男の子みたいで。
まいったな。

「こんにちは。ルディおにいちゃんはいるですか?」

「ふう。今日はお客さんの多い日だ。
ルディは留守だよ。あなたは」

返事をせず中に入ってきて、セリーヌにいきなりハグし、頬にチューしたこいつは、

「ボクはヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)です。
セリーヌちゃんですね。
ちゃんとあうのは、はじめてです。
よろしくお願いしますです。マジェスティック市民病院にルディおにいちゃんのおみまにいったら、たいいんしたあと、だったですよ。
おにいちゃんはどこですか」

緑の髪のツインテールが目印の、かわいいは正義です! のヴァーナーちゃんね。
はいはい。俺も存じてますよ。

「ルディは、ストーンガーデンってとこにいるんだけど」

「やあ、ヴァーナー。また、ここで会ったね」

ティーカップ片手に教会の奥からでてきた長髪の美少年は、あれだよ、ほら、薔薇の学舎のなんったっけ、イケニエじゃねえ、イエなんとかの黒崎天音(くろさき・あまね)だ。
やっぱり、パートナーの竜も一緒にいる。
こいつらもきてんのか。

「天音おにいちゃんとブルーズおにいちゃん。メリークリスマスです」

ヴァーナーが駆けよって、二人にハグ&チューだ。
ここはハワイか、って。
あれ、俺、まだハグしてもらってねぇな。

「あなたち、いつの間に人の家に上がりこんでるんですか」

当然の疑問を口にして、セリーヌが天音をにらんだ。
天音は涼しい顔で微笑んでやがる。

「いつの間といえば、きみが昼寝をしていた間かな。
ごめんね。
紅茶をいただいたよ」

「いくら教会といえども、鍵をかけていない、開けっ放し部屋で、眠りこんでいるのは感心せぬな」

天音と竜の返事にセリーヌは、顔を赤くした。
寝顔をみられて恥ずかしいってか、かわいいねえ。

「私が昼寝するたびに誰かたずねてくるのは、なんでだ。うーむ」

「毛布をかけてあげたんだけど。
気づいてなかったようだね。
きみが起きるのをアフタヌーン・ティーを飲んで待っていたんだ」

「台所と、寝具ももっと整理整頓しておくべきだぞ。
あれでは、なにかなくなってもわからぬだろう」

「わかった、わかった、わかりましたよ。
で、あなたたちは、どこのどなたなんですか」

「薔薇の学舎の黒崎天音。よろしくね」

「天音のパートナーのブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)だ。
我らは、ここの神父と以前に面識がある」

「そうですか。
あいつ、薔薇の学舎のファンですからね。
ともかく、ルディはストーンガーデンに行ってます。しばらく帰ってこないと思いますよ」

「そうなんだぁ」

ドアの方からまた新しい声が。
ほんとに、ここは、ボロいのに、人のよくくる教会だな。

「清泉。先にお邪魔しているよ」

「黒崎くんもきてたの。
じゃ、僕と用件は同じかな。ルディさんでしょ」

「よう、黒崎。ブルーズ。
ここで神父暴行の犯人を捕まえたらしいな。お手柄だったな。
聞いてるぜ」

おとなしそうな少年が清泉北都(いずみ・ほくと)で、ツレの銀髪のチャラ男がソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)だったかな。
薔薇の学舎の生徒だ。
北都は俺に軽く頭をさげ、ソーマは俺の方をチラリとみただけですぐに目をそらしやがった。
先にあいさつするのは、おまえからだろって感じだ。へいへい、吸血鬼様はプライドがお高いっスね。
こいつらとも、前に事件の調査で一緒になったな。

「そういえば、さっき、居間のテーブルにこんな本があってね」

天音が俺たち全員の前に一冊の薄い本をさしだす。
マンガ、か。

「やめておけ。おまえはまた余計なことを」

「いいじゃない。なかなかよく描けてたよ」

ブルーズが止めるのもきかずに、ページを開いた。

「これは。ルディおにいちゃんと、セリーヌちゃんと、ろっくんろーらーのひとがはだかでねてるです。
「おれたち、さんにんはこころもからだもつながってる」ですか」

セリフを読みながら、ヴァーナーがHな絵を穴があくほど、眺めてるぞ。
同人誌ってやつだな。
マジェには、こんなマンガを描く物好きもいるのか。

「黒崎さん! いやがらせですか。セクハラですよ」

「だって、ここにあったんだよ。
きみたち、マンガの主人公になるなんて人気者なんだね」

「知りませんよ。たまに誰かがポストに入れてくんです」

セリーヌはぷんぷんしてるけどよう、こんなもん、イヤならもらった時点ですぐに捨てりゃいいんじゃね、と俺は思う。
家においてあるのは、誰か読むやつがいるからだろ。

「これは、いくらマンガでも人にみられたら、恥ずかしいよね」

「待て待て。
あの神父なら喜ぶかもしれんぞ。
あいつは、イカレてるからな」

北都はセリーヌに同意を示し、ソーマはにやけてる。

「ったく、どいつもこいつもぉ」

同人誌を取り上げると、セリーヌをページを閉じ、わきに抱えた。

「いらないなら、それ、俺にくれよ」

「メッ」

差しだした手の平をぱしんと叩かれたんだけど、俺、なんかヘンなこと言ったか?

「僕は、ルディさんに会いにガーデンへ行くよ。
黒崎くんたちはどうする」

「ケガは順調に回復したみたいだし、神父にお見舞いは必要ないようだね。
ともかく、僕もそこへ行くとしようかな。
セリーヌ。お茶をごちそうさま」

「ボクもいくです。ルディおにいちゃんを助けるです」

てなわけで、北都、ソーマ、黒崎、ブルーズ、ヴァーナーは、仲良く教会をでていった。
残ったのは、俺とセリーヌのみ。

「あー、さっき言いかけたんだけどな、俺のダチっうか、知り合いに古森あまねって女がいてさ。
俺は、今度の事件もてっきり、そのあまねと、そいつが連れてる、弓月くるとっていう探偵のガキが捜査にくると思ってて、あまねになんなら一緒に捜査に行くかってメールしたんだよ」

「あきれた。
あんた、殺人事件にカコつけて、あまねをナンパしようとしたのか」

「違げーよ。
くわしくいうと俺がメアドを知ってんのは、くるとの方で。
俺は、少年探偵だかなんだか知らねぇけど、あんな小学生のガキが、人が死んだり、殺したりする修羅場にやたらかかわんのは、どうかと思うんだ。
だから、くるとにはそーゆー場面をなるたけみせたくないと思ってて」

「くるとにメールしたら、あまねから返事がきたの」

「おう。あたしたちはマジェには行けません。高崎さん、セリーヌさんの力になってあげてください、ってな。
おまえ、あまねと友達なのか」

俺の質問に、セリーヌは小首を傾げた。

「友達、ねぇ。知り合いではあるけれども。
「規格外の隣人被害者の会」のサイトで知り合ったんだよねぇ。
あまねの場合は、チャットに愚痴をこぼしにくるっていうより、ヤングママの育児相談ぽいんだけど。あまねに子育てを任せちゃって、くるとの親は、どういう連中なんだろ」

「セバスチャン。パパはどこにいる?
街でニトロの兄貴が殺人犯として捕まった話を聞いたんだぜ。
実の兄が犯罪者になっちまって、苦しんでるパパを俺は、救いたいんだぜ」

新たな来訪者は、白髪のソフトモヒカンだった。
かわいい顔した坊やなんだが、どっか暗い感じがする。
見覚えがあるんだけど、以前とずいぶん印象が違うな。
つらいめにでもあったのか。

「私の名前は、セリーヌです。
誰がセバスチャンだ。
あんたこそ、どこいってたのよ。クリスマスのチキンとケーキ、あんたの分も用意してあげてたのに、真都里。
ルディはストーンガーデンにいるよ。はい。いってらっしゃい」

「クリスマスディナーすまなかったんだぜ。
俺は、雪降るマジェを大事な人の幻を求めて、一晩中、さまよっていたんだ。
例え、幻でもイヴの夜には抱きしめたかったんだぜ」

幻を抱くとか、こいつ、ラリってんのか?

「メリークリスマス。セバスチャン。
パパをこの苦しみから救えたら、俺は素直に生きるために、教会を出て行くぜ。
短い間だったけど世話になったな。じゃ」

ホワイトモヒカンも行っちまった。

「あいつ、なんったっけ」

「春夏秋冬真都里。ルディの息子らしいよ。
母親はいるのかいな。
私は、よく知りません」

「息子さん、ですか。はあ」

わけわかんねえ。

「こんにちは!」

息子と入れ替わりに女の子の元気な声がした。

「いきなりで悪いんだけど、ここの神父のルディの、お兄さんが逮捕されたってきいたんだ。それって本当?」

「失礼する」

みるからに素直そうな、大きな黒い瞳のお嬢ちゃんと、やたら目つきの鋭いロングコートの色男だ。
どっちも俺は、知らねぇな。

「私はミシェル・ジェレシード(みしぇる・じぇれしーど)だよ。
ルディとは、この間、一緒にテレーズの説得に行ったんだ。
男爵とテレーズのこともまだ、いまいちはっきりしてないし、気になったんで、今日は、銀とマジェに遊びにきたの。
そしたら」

「貴様がセリーヌか。
神父は、殺人容疑者の兄に会いに、ストーンガーデンにいってるんだろ。
ミシェルが神父を心配しているので、俺たちもガーデンへ行く。
貴様は、神父を放っておくのか」

「初対面の人にそんな口のききかたしたら、ダメだって。
セリーヌ。ごめんね、こっちは私のパートナーの影月銀(かげつき・しろがね)

ミシェルが紹介してるのに、銀のやつはそれにかまわず、外へでようとしてる。
ドアの前で足をとめ、こちらをむいた顔には、さっさとしろ、と書いてあった。

「もう、いまいくから待ってよ。
じゃあ、セリーヌ、私たちガーデンに行くから、ルディにあったら、あなたが後でくるって伝えておくね」

「ん。誰もそんなこと言ってないぞ。
私は、バカ兄弟がいない間に昼寝でもしようとしてるのに、みんなが邪魔しにきて。
あなたたちがルディを助けるのは、自由だけどさ。
だよな、高崎」

うん。

「あんな差別主義者のひどいやつでも、やっぱり自分のパートナーは心配だもんね。
あなたも大変だよね。私たち、先に行ってるよ」

人の話をきかない主義なのか、ミシェルはほがらかな笑顔で手を振ると、銀とでていった。
みんな神父を追ってガーデンに行っちまうな。
すげぇ変人だってきいてたが、ルディってのは、意外に人気があるのか。

「こんだけ大勢が捜査に行くなら、俺は行かなくてもいい気がしてきた。
なんか、謎とか解くんなら、だりぃし。
俺はセリーヌとここで昼寝してよっか」

「高崎。おまえもガーデン行けよ」

「さて、どうすっかな」

探偵ごっこをやる気でマジェまできたんだけど、だんだん、めんどくなってきたぜ。
俺がセリーヌに寝床を借りる相談をしようとしていたら、また新しい客がきやがった。
今度は、四人だ。

「麗しのセリーヌさん。お兄さんがきましたよ。
さあ、捜査に行きましょうかねぇ。
ところで、さっそく、大事なお話なんですが、今日の下着は何色で、どんなタイプですか」

バコン。

「クリストファーさんとクリスティーさん。お久しぶり。
そっちのシスター服の人とは、初めて会うよね。みんなもルディに用なの」

セリーヌは、いきなり正面から半ズボンを脱がそうとしたバカ野郎に鉄拳をくらわせてKOすると、なにごともなかったように、他の三人にあいさつした。
しかし、鮪といい、みんなセリーヌの下着を欲しがるんだな。

「セリーヌさんは元気? 偶然なんだけど、ここの前でまたクドくんと一緒になって。
彼、相変らずだよね」

「ニトロが殺人罪で死刑になるって噂をきいたんだ。
セリーヌは、彼が死刑になるのと無罪になるのとどっちがいいのかな。
きみが望む結末になるように捜査してあげるよ」

「えーっと、こっちの繊細そうで優しげな人がクリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)さん、隣のちょいワルのイケメンがクリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)さん。
高崎は、彼らを知ってる?」

セリーヌは俺に二人を紹介してくれた。

「よ。事件は任せたぜ」

俺は、顔なじみのダブルモーガンに軽く手をあげた。
二人があきれた感じの笑みを返す。

「ヘイ、キティ。てめえのことはクドにきいてる。
クドに夢中な男装少女って話だったけど、大嘘じゃん。
もっとも、はじめから信じちゃねえがな。
オレは、シスタ・バルドロウ(しすた・ばるどろう)。キティがいま叩きのばしたクド・ストレイフ(くど・すとれいふ)のパートナーだ。
相方がああだからって、なめんなよ」

くわえタバコのシスターは、のびてるパートナーを介抱する素振りもみせず、セリーヌにガンをつけてきた。
おいおい。みんな、床のこいつはどうでもいいのかよ。
しかたがねえから、俺は、しゃがんでクドの顔をのぞきこんだ。

「俺の声、きこえるか。立てるか」

「お兄さんはめげませんよ。
セリーヌさんにきついご褒美をもらって元気百倍です。
素直な気持ちをぶっけあって、さらに絆が深まった気がしますね」

そりゃ、ねーよ。
よろよろと立ち上がったクドから守るように、クリスティーとクリストファーがセリーヌの前に立った。
シスタは、セリーヌにガン飛ばしっぱなしだ。
ドン!
激しい物音がした。
誰かがドアを蹴りつけたらしい。
全員が音のした方をむく。

「すでにだいぶ出遅れているぞ。
まさか本気でニトロを見殺しにする気じゃないだろ。
セリーヌ、力を貸そう。みんな、行こうか」

いつの間にかドアの横には、赤いコート、サングラスがトレードマークの冒険屋、レン・オズワルド(れん・おずわるど)が立っていた。冒険屋ギルドのリーダーさんは、俺たちを捜査に引率していってくれるらしいな。

「それ、パスもスルーもなしですか? なし? 絶対ダメ? あー私、お昼寝がしたいだけなのに。
ルディもニトロもだいたい、いつも、結局、自業自得なんだけどな。
殺人犯とか呼ばれても、実際は、事故でもなかったら、軽犯罪ぐらいしかできないボケどもなんだよ」

うなだれたセリーヌがため息をつく。