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種族を超えた友情 ~その心を救え~

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種族を超えた友情 ~その心を救え~

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第4章「ハンター、そして妨害者」
 
 
「ああ、そこの方! 助けて下さい!」
 山を進むハンター達の前に、一人の少女が駆け出てきた。歳は15歳くらいだろうか。白いローブドレスに長く伸びた髪が映えた、はかなげな印象を思わせる美少女だ。
 彼女の後ろにはさらに二人の人物が。片方は力を失い、もう片方の人物が肩を貸して必死に運んでいる。
 何かあったと言わんばかりのその姿にハンター達は驚きの表情を見せた。
「嬢ちゃん、一体何があったんだ?」
「はい……この山道を歩いていると、突然仮面を被った人達が襲ってきて……何とか逃げてこられたのですが、私のパートナーが怪我を……うぅ……」
 パートナーと思われる、かつがれた男を見る。肌があまり出ない服を着ているので傷の様子はわからないが、額の部分に赤い物が見える。血だろうか。
「仮面の奴らだって? ったく、動物だけでも厄介だっていうのに……。安心しな、嬢ちゃん。俺達ゃハンターだ。仕事のついでにそいつらも片付けてやるよ」
 涙を見せる少女にハンターが言う。だが、少女はそんな彼らを押し留めた。
「いえ、それは危険です! あの仮面の人達、見覚えがあるんです…………ほら、これを」
 少女が持っている鞄の中にはノートパソコンが入っていた。ハンター達に見せた画面には地域ニュースのウェブサイトが表示されている。そこには別の場所で起きた殺人事件の記事が書かれていた。それによると犯人達は逃走し、どこかに潜伏しているらしい。
「あの人達は人間相手でも容赦なく襲ってくると思います。それに……ここに私達だけ残されるのは……怖いです」
「ん、まぁ……それもそうだな。……わかった、まずは嬢ちゃん達を村まで送っていこう」
 少女の上目遣いにやられたのか、ハンター達はこれ以上の前進を思いとどまる。そんな中、霧雨 透乃と緋柱 陽子だけはむしろやる気が出たとばかりに前に出た。
「殺人犯か。……いいね、動物を相手にするよりよっぽど楽しめそう」
「ふふ、透乃ちゃんったら本当に楽しそう。でも、確かにこちらの方がより充実しそうですね」
(マズいな……できれば全員足止めしたいと思ってたのに)
 先に進もうとする二人を見て、少女、セシル・レオ・ソルシオン(せしるれお・そるしおん)が内心であせる。実はこれらはハンター達を止めるためにセシル達が考えた嘘の情報だった。
 ノートパソコンに表示されているニュースも、男をかついでいる水晶 六花(みあき・りっか)が作り上げた嘘のニュースである。それをあたかも本当にあった事件のように見せかけ、山に入る事が危険というイメージを植えつけるつもりだった。
 実の所、セシルもちぎのたくらみで姿を変えて女装をしているだけで、本来は立派な青年である。
「あの、本当に恐ろしい相手ですよ? 先に行かれるのは危険かと……」
「大丈夫、私はそういうの大歓迎だから。ふふ、殺るか殺られるか、このスリルがたまらないよね!」
 結局透乃と陽子の二人だけがセシルの足止めにかからず、先へと進んでいった。残ったハンター達はセシル達の保護に動き出す。一人の男がわんわん泣いている六花の代わりに男をかついでいこうとしたが、それは六花自身に拒否された。
「駄目だよ! 絶対僕が運んで行くんだから!」
「んな事言っても一人じゃ大変だろ。手伝ってやるって」
「やだ! 僕が一人で運ぶんだ!」
 怪我人のふりをしている月の泉地方の精 リリト・エフェメリス(つきのいずみちほうのせい・りりとえふぇめりす)に近づかれると厄介なので、あくまで手伝いを拒否する。それをフォローするようにセシルが付け加えた。
「一人で運ばせてあげて下さい。その……彼が怪我をしたのは、私達をかばったからで……」
「ああ、そういう事か……まぁそれなら自分で運びたいって気持ちもわからなくはないか」
「すみません。その代わり、皆さんこちらへ来ていただけますか?」
 セシルが男達を呼び寄せる。そこは木々が密集していて、周囲からは見えづらい場所だった。
「どうしたんだい? 嬢ちゃん。こんな所で」
「その……広い所だと恥ずかしいので……。実は私……」
 セシルがもじもじとする。その仕草に魅入られた男達は後ろから近づく影に気付かなかった。隙を逃さないように六花とリリトが男達を気絶させる。
「えいっ!」
「すまんな」
「な、なん……がっ!?」
 突然の事に後方を振り向いた男も、セシルがいつの間にか出していた武器で気絶させられた。全員が倒れた事を確認すると、セシルの口調が本来の物に戻る。
「とりあえずこんなもんかな、っと。あー、やっぱああいうのは俺には合わねぇな」
「そうか? 実に見事な物だと思ったがな。以前三つ子の姉の代わりをした事があると言っていたが、その経験が活かされたのであろうな」
「嬉しくねぇなぁ、そんなの。まぁいいや。リリトもご苦労さん」
「私はただ気を失ったふりをしていただけだがな」
 血のり代わりの絵の具をぬぐいながらリリトが言う。その目は透乃達が向かった先を見ていた。それに気付いた六花が口を開く。
「結局二人だけは止められなかったねぇ」
「そうだな。まぁ後は刀真達に任せるしかねぇか」
 セシルはこの先で殺人犯になりすまし潜んでいる友人の健闘を祈り、次なる標的を探しに向かった。
 
 
「刀真、来たわ。相手は二人。予定通りの場所で待機して」
「了解。セシルは失敗したのか、数を減らせたのか……どちらにしろ、二人相手なら問題はないか」
 遠くの狙撃ポイントにいる漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が透乃達の姿を見つけ、樹月 刀真(きづき・とうま)に連絡を入れた。刀真と隣にいる玉藻 前(たまもの・まえ)は呪術師の仮面をかぶり、正体を隠している。
「やれやれ、月夜の我がままじゃなきゃこんな面倒事は無視するのに……」
「そう言うな。これも意義ある行動だと思えばよかろう。そもそも月夜の我がままでなければ我も動かんよ」
 ぼやく刀真を玉藻がなだめる。今回刀真達が参加したのは、月夜が動物達を救おうと主張したからだった。彼女は普段は冷静だが、気を許した相手には甘えて自分の頼みを聞いてもらう傾向があった。
 そうしているうちに透乃達が近づいてくる。刀真達は正体を隠すために無言となり、二人の前に姿を現した。その姿を見た透乃が笑みを浮かべる。
「へぇ、そっちから出てきてくれるとはね。ありがたい話じゃない」
 その言葉に答えず、玉藻が無言のままアボミネーションを使用する。並みの者なら怯んでしまうほどの重圧が押し寄せるが、透乃と陽子はむしろその空気を楽しんでいた。
「いいねぇ、この感じ。凄く楽しめそうだよ、お前達」
「この高揚……戦闘というのはこうでなくてはいけませんね」
 共に退く気はなし。互いの闘気が高まりを見せる。最初に動き出したのは玉藻だった。動物の姿をしたゾンビが現れ、二人に狙いを定める。
「甘いね、この程度!」
 透乃が飛び掛る獣に拳を打ち込む。だが、その一撃は当たらずに身体をすり抜けてしまった。その隙を狙ってファイアストームが襲い掛かる。勢いを殺さないようにそのまま踏み込み、側転の要領で炎を回避した。
「幻影か……そんな手、私に二度は通用しないよ!」
 気を張り、自身にまとわり付いた妄執を消し去る。それに合わせて周囲に多数いた獣達の姿が消え去った。後に残ったのは透乃を焼こうとした炎だけだ。
(我が煉獄を避けたか。それにこの精神力……どうやら並みの相手ではないようだな)
 玉藻が相手の力量を認める。今度は透乃達の反撃の番だった。
「これはお返し……受け取って下さい」
 陽子の手にした鎖が玉藻へと一直線に伸びる。その攻撃を刀真が大剣で叩き落した。そのまま刀真と玉藻は木々を盾にしながら動き回る。
 二人は月夜が事前に収集しておいた地形の情報を頼りに自分達に有利な位置取りを続ける。鎖は時に木々に阻まれ、時に大剣で払われた。あくまで防御主体で戦う刀真達に透乃がだんだんと焦れてくる。
「もうっ、こういう戦い方は好きじゃないのに! こうなったら……陽子ちゃん! そのまま引き付けておいて!」
「えぇ、わかったわ」
 透乃が軽身功を使い、木を駆け上がる。刀真達は奇襲を警戒するが、陽子の鎖から注意を逸らす訳にはいかなかった。
(マズいな……どこから来る?)
 刀真が玉藻の背を守るように構える。透乃はそんな二人をまとめて倒すように、真上から現れた。
「はぁっ!」
(……!)
 とっさに散り、攻撃をかわす。だが、着地の反動を利用するようにしてさらに透乃の一撃が襲い掛かった。
「甘いよっ! これで――」
 刀真の背中に拳が当たろうかというその瞬間、左手を弾き飛ばすようにゴム弾が命中した。
「っつ〜う! 何よ今のは」
「透乃ちゃん、大丈夫!?」
「大丈夫大丈夫、あんな所にもう一人いたとはね。やってくれるじゃない」
 左手をプラプラと振りながら透乃が答える。木にさえぎられて見えないが、その目は狙撃の主である月夜の方を向いていた。
「……刀真はやらせない。私が護るわ」
 再び月夜が銃を構える。両者の戦いは攻める透乃達と守る刀真達による持久戦の様相を呈していた。