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種族を超えた友情 ~その心を救え~

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種族を超えた友情 ~その心を救え~

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第4章(2)
 
 
「いや〜、さすがはカワサキ! いい仕事するわねぇ」
 別の場所では山本 ミナギ(やまもと・みなぎ)が駆除した牛の肉を優雅に食していた。調理をしたのは従者であるシャンバラ人の料理人、カワサキである。
 その隣では獅子神 玲(ししがみ・あきら)リペア・ライネック(りぺあ・らいねっく)も同様に食べ続けている。食欲魔人とも言える二人の勢いはミナギの比ではなく、放っておくと骨まで食べてしまいそうだった。
「はむ……美味しいです。ミシャグジさん、早くお代わりをお願いします」
「お肉……もっと……。もっと……食べないと……」
「だからあたしはミナギだって何度も言ってるでしょうに!」
 相変わらず自分の名前を覚えようともしない玲にミナギが憤慨する。そんな彼女を獅子神 ささら(ししがみ・ささら)が面白がって見ていた。
「クク……本当にミナギさんは程よく可哀想な子で、笑いを誘ってくれますねぇ」
「可哀想って言うな! それよりささらは食べないの? こんなに美味しいのに」
「いえいえ、凶暴化していた動物の肉です。何があるかわかりませんからね。……もっとも、こちらの二人は何があろうとも問題はないでしょうが」
「あたしはどうなるのよ?」
「………………」
「何か言ってよ!? 怖いじゃないの!」
 期待通りの反応を見せるミナギに対し、必死に笑いをこらえるささら。何とかこらえきると、顔と意識を真面目モードに切り替える。
「さて、面白がるのはここまでにして、どうしましょうかね。これまでの話を総合すると、凶暴化は何かしらの外的要因が絡んでそうです。ただ駆除するだけでは解決とはいかない可能性が強そうですねぇ」
「そんな事を考えてもしょうがないじゃない。あたし達がやるべき事は人を襲う危険性のある獣達を蹴散らすだけよ」
「ほぅ、ミナギさんにしては殊勝な考えです。…………で、本音は?」
「そんなもん! あたしが目立つために決まってるじゃないの!」
 えへんと胸を張る。残念ながらミナギの真面目モードは10秒と保たないようだ。いや、むしろ真面目にやってこれなのか。
「そんな訳で、プリチー隊! あたしのために行ってきなさいー!」
「イェッサー! 姐さん!!」
 ミナギの指揮の下、従者のヤンキー達が次の動物を見つけるために動きだす。だが、それを遮るように新たな集団が現れた。
「自然との調和を護れー! 動物駆除、反対ー!!」
「反対ー!!」
 現れた集団は『動物愛護』とかかれたタスキをかけていた。一様に駆除の反対を唱え、ヤンキー達の動きを妨げる。
「ちょ、ちょっと! 何なのよあんた達は!?」
「我々はー、動物福祉協会の者であるー! 動物達の命を護るためー、今すぐ活動を中止しなさいー!」
 動物福祉協会を名乗る彼らは徐々にミナギ達に詰め寄る。その後方ではひそかに月城 沙耶(つきしろ・さや)が罠を仕掛けていた。
「このくらいあれば足止めには十分でしょうか。あとはこれを……」
「沙耶、手伝おう」
 木の上に物を仕掛けようとしていた沙耶から犬神 狛(いぬがみ・こま)が取り上げ、代わりに登っていった。
「狛様、ありがとうございます」
「気にするな。罠はこれで全部なのか?」
「はい。他は全て完了しています」
「ならば後は裁殿次第じゃな。ところで、先ほどの仕掛け……なぜあのような物を?」
「裁様が『罠といえばこれしかない』と」
「ふむ、あれが成功するとは思えないのだが……」
 思案する二人をよそに、ミナギ達と動物福祉協会のメンバーは言い争いを続けていた。
「だから! あたし達は村のために退治してるの! いわば正義なのよ!」
「それなら保護でも問題ないはずです。動物達を護り、共に生きる事がすなわち自然そのものを――」
「あーもう! ゴチャゴチャうるさーい!!」
 長々と抗議を続ける協会員にしびれを切らしたミナギは無理やり押し通ろうとする。そこに吸血コウモリが現れ、ミナギにまとわり付きだした。コウモリを送り出した少女、アリス・セカンドカラー(ありす・せかんどからー)が身を隠しながら微笑む。
(ふふ、悪い子にはおしおきが必要ね)
「ちょっ!? 何よこれ!」
 払っても払ってもまとわり付くコウモリから逃げるように動く。誘導されるように逃げ続けたミナギの先にある物は――沙耶達が仕掛けた罠だった。
「きゃーー!!」
 ミナギの姿が消える。そこにはぽっかりと穴が空いていた。どうやら落とし穴に落ちたらしい。
「……な、何でこんな所に穴が……?」
 土を頭からかぶりながらも穴から這い出す。気を取り直して歩き出した右足に草が絡みついた。しっかり編まれた草に足を引っ掛け、顔面から地面に激突する。
「へぶっ!?」
 更に起き上がろうと手をついた瞬間に網に絡め取られ、それを脱出したかと思うと今度は逆さに吊り上げられる。
「何!? 何なのよこの罠はー!」
 じたばたと抗議する。その姿を見ながらささらが再び笑いをこらえていた。
「ク、クク……さすがはミナギさん。ここまでしっかりと笑いを取ってくれるとは……。誰かは知りませんが、この罠を仕掛けた人に是非お礼を言いたいですね」
「あんた誰の味方なのよ! いいから降ろしなさいー!!」
「はいはい、仕方がないですね。――よっと」
 ささらが跳び上がり、大鎌で縄を切断する。自由になったのはいいのだが、直前に暴れていたために見事に先ほどはまった落とし穴の上に落ちる。――当然、そのまま落下した。
「ちょっとーー!?」
 頭の土の量を当社比1.5倍に増量し、再びミナギが穴から這い出てきた。良く見ると微妙に疲れた顔をしている。
「はぁ……はぁ……全く、酷い目にあったわ……」
「おや、もうお終いですか。ぜひとももっと楽しませて欲しかったのですが」
「べつにあんたのためにやったんじゃないわよ……」
「そうですか、それは残念です。できればあと一つくらいは笑わせてくれる事を期待しますよ」
「さすがにもう罠にはかからないわよ! 見てなさい、ここからあたしの栄光の道――がっ!?
 めげずに歩き出したミナギの頭に金属製の何かが落ちてきた。小気味良い音をたてて命中したそれは――タライだった。
「……凄いな、沙耶。おぬしの仕掛けた罠、全て成功しているぞ」
「え、えぇ。さすがに一人で全ての罠にかかるのは予想外でしたが……」
 ミナギの身体を張った芸人っぷりに狛達も驚愕する。ちなみにささらは最早しゃべる事もできず、ただひたすら腹を押さえて笑い苦しんでいた。
「ごにゃ〜ぽ☆ 大丈夫ですか〜?」
 見事な笑いをとったミナギの前に出てきたのは鳴神 裁(なるかみ・さい)とアリスだった。二人はミナギを助け起こすと、頭や服の汚れを取るなど献身的に世話をする。
「さすがハンターの皆さん、凄い活躍です〜」
「えぇ、村のために戦う姿。とても素敵ですわ」
「あ、あらそう? まぁそれほどでもあるけどねー」
 抽象的なほめ方にも疑問を抱かず、おだてに乗る。
「あんた達も覚えておくといいわ。世界で活躍する主人公、山本ミナギとはあたしの事よ!」
「ミナギさんですか〜、素晴らしい名前です〜。ささ、お疲れでしょう。これ、差し入れです☆」
「あら、気が利くわね。丁度喉が渇いてたのよ」
 裁がどこからともなく飲み物を取り出しす。ミナギはそれを受け取り、そのままぐっと一気に飲み――吹いた。
「まずっ!?」
 裁が渡したのは健康に良いと評判の飲料『蒼汁』だった。健康に良い事は良いのだが――その代償として、とても不味い。
「あ〜、もったいない。蒼汁は健康にいいんだぞ〜。さあ、みんなも蒼汁を飲むんだ☆」
「飲めないわよ! この味をどうにか……あ、あれ……?」
 ミナギの手から紙コップがこぼれ落ちる。そのままミナギ自身の身体も地面へと倒れこんだ。
「ちょ、ちょっと……何よ……これ……」
「ごめんなさい。この蒼汁、ちょっと特別製なの。飲んだら身体がしびれちゃうのよね。ふふ」
 アリスが微笑む。ミナギは何か言いたそうだが、声を発する事もできない。駄目押しとばかりにアリスがヒュプノシスを使い、ミナギは眠りに落ちていった。
「では、お休みなさい……いい夢を」
 
 
「協会のみんな、ご苦労様なのです。ごにゃ〜ぽ☆」
「ごにゃ〜ぽ!」
 裁の合図で従者である動物福祉協会の者達が立ち去り、残った裁達と玲達が改めて対峙していた。眠っているミナギに代わり、ささらが話し合いに応じる。裁達の方も、代表としてドール・ゴールド(どーる・ごーるど)が前に出た。
 最初に口を開いたのはささらの方だった。
「さて、あなた達の目的は? ……まぁ、恐らくはワタシ達の仕事の妨害といった所でしょうが」
「そうですねぇ。より正確に言えば駆除の阻止、ですね。お互い、あまりやり過ぎる必要はないと思うのですよ」
「なるほど、確かに一理あります。ですがワタシ達も依頼を受けている身。報酬のためにはやらざるを得ないのです」
「報酬のためというよりは、自分達の利益のためでは?」
 ささらの後方にいる玲達を見る。料理人まで連れてきているあたり、用意周到だ。
「ふふ……それはご想像にお任せしますよ。ともかくワタシ達が受けている依頼は捕獲あるいは駆除、この二つだという事です」
「なら、駆除はここまでだねぇ」
 対峙する二人の間に廿日 千結が飛んできた。ゆっくりと箒から降りると、相変わらずののんびりした口調で話しかける。
「ハンターのみんなに連絡だよ〜。動物達を元に戻す方法がわかったから駆除は中止、捕まえる事を優先して。以上だよ〜」
「……だ、そうですが。これで大人しく退いていただけますか?」
「やれやれ、仕方ないですね。ですがうちの二人は食欲旺盛でしてね。ただやめろと言うだけでは効果はないかもしれませんよ」
「う〜ん、じゃあどうすれば守ってくれるのかな〜?」
「やはり、代わりに満足いく食事の提供、でしょうね」
 千結が考える。パートナーである無限 大吾が食べ歩きを趣味としているので、美味しい店の選別は問題ないだろう。代金も大吾がもらった依頼金から回せばいい。
「わかったんだよ〜。後で美味しいお店に連れて行ってあげるって事でどうかな〜?」
「だそうですよ。どうしますか? 玲、リペアさん」
 ささらが二人に尋ねる。玲は少し考えた後、逆に千結に尋ね返した。
「……食べ放題?」
「むむ……わかったんだよ。食べ放題を約束するよ〜」
「ならおっけーです。動物達は捕まえるだけにしましょー」
 交渉成立。ほっとする千結に、ささらが付け加えた。
「ああ、ちなみにですが、玲さんはもの凄く食べるので気をつけて下さいね」
「もの凄くって、どのくらいなのかな〜?」
「とりあえずメニューの端から端まで。このくらいは軽くやります」
「……た、食べ放題のお店を探しておくんだよ〜」
「それが賢明ですね」
 後日、大吾お気に入りのバイキング料理店が一軒姿を消す事になるのだが、それはまた別の話である。
(動物さん……殺しちゃ…………ダメ……。でも……もっと…………もっと贄を……魂を……食べないと…………)
 リペアが立ち上がり、漆黒の剣を手にする。そして動物達を探すように辺りを見回し始めた。それを見て、ささらの表情がシリアスな物に変わる。
「ふむ、申し訳ありませんがリペアさんの方は説得に応じないみたいですね」
「食べ放題でも駄目ならどうすればいいのかな〜?」
「リペアさんは玲やミナギさんと違ってシリアスな路線の方ですからね。この状態になると止めるには実力行使しかないでしょう」
 なおも獲物を探し続けるリペア。その前に裁が立ちはだかった。
「やれやれ、そんなに暴れたいならボクが相手になるよ」
 裁が蒼き水晶の杖を振るう。杖から放たれた光がリペアを取り囲み、スキルの使用を封じ込んだ。
(邪魔……)
 リペアが裁に狙いを定め、漆黒の剣で斬りかかる。裁は禁じられた言葉で自身の魔力を高め、サイコキネシスで剣を押さえ込んだ。
「まだまだ、いっくよ〜! 嵐神憑依!!」
 剣を弾き飛ばした瞬間を狙い、ヒロイックアサルトで強化した一撃を叩き込む。その一連の動きはまるで嵐のようだった。
(強い……でも……魂…………食べなきゃ……)
 再び剣を拾い、裁に斬りかかる。彼女は禁じられた言葉で魔力を上げたものの、代償として動きそのものは鈍くなっていた。リペアはそこを突く。
「わっ! とと、これはマズい……かなぁ?」
 素早い動きに翻弄される。だが、決定打を喰らう前に沙耶と狛が手助けに入った。
「はっ!」
 リペアの死角から沙耶が襲い掛かる。沙耶の攻撃を防ぎに入った所で逆から狛のゴム弾が飛び、足に命中した。
「裁殿、援護する。……すまぬが足止めさせてもらうぞ」
「ありがと〜☆ 沙耶ちんもよろしくっ」
「はいっ。狛様の邪魔をするのであれば、容赦はしません!」