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種族を超えた友情 ~その心を救え~

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種族を超えた友情 ~その心を救え~

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第4章(3)
 
 
 更に別の場所では「『シャーウッドの森』空賊団」の団長、ヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)と副団長、リネン・エルフト(りねん・えるふと)がハンター達を待ち構えていた。
 彼女達の手段はまずは現状を理解させた上での説得。それに対し、同行したエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は困難であるだろうという予測を立てていた。
「向こうには『村人を護る』という大義名分があるからな。それにこちらの解決策は今の所『なんとかなるだろう』という程度の物だ。根拠がない以上は説得は不可能……衝突は避けられないんじゃないか?」
「それは承知の上よ。あたし達がやるのはあくまで状況を提示した上で退くかどうかを迫るだけ。それで退かないようなら実力行使もありえるわね。まぁ相手は仮にもプロのハンター。戦力差を理解して大人しく退いてくれる事を期待したいけど」
「その口ぶりだとお目当ての相手が来るみたいだな。一応教えてもらっていいか?」
「構わないわ。ウォーレン・マクガイア。聞いた事ない?」
 ヘイリーの出した名前から記憶を探る。確か腕に名のあるハンターとしてそれなりに有名だった男だ。
 思い出すとほぼ同時に手元の携帯電話が一瞬震え、すぐに止まる。発信者は上空で索敵をしているロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)だった。一瞬だけ鳴らしたという事は――
「どうやらハンター達が来たみたいだな。それじゃ、俺達は隠れておこう。行くぞ、コルデリア」
「はい。それではお二方、説得が上手く行く事を祈りますわ」
 エヴァルトがパートナーのコルデリア・フェスカ(こるでりあ・ふぇすか)と共に近くに潜む。それから少しして、ウォーレン、寿 司、ティー・ティーの三人が現れた。
「……余計なやつらがついて来ると思ったら、まだ余計なもんが来やがるのか」
「会うなり随分ご挨拶ね、ウォーレン・マクガイア」
 お互いの空気が険悪な物に変わる。この時点で既に説得の線は薄かった。この中で一番穏便に済ませたいと思っているティーが仲裁に入る。
「み、皆さん落ち着いて下さい! あなた達も暴力に訴えるつもりで来たのですか?」
「それはそちら次第よ。あたし達の目的はそっちに退いてもらう事だから」
 あくまで強気を崩さないヘイリーの言葉をリネンが補足する。
「事件の前に、怪しい男達がいたって情報を聞いた……。今回の事件、ただ動物達を駆除するだけじゃ解決しない……」
「けっ、何かと思えばそんな事か。そんなもんはなぁ、言われなくてもわかってんだよ」
「なら――」
「だがな、そもそも俺にとっちゃそんな事は関係ねぇ。事件を解決するのは村の奴らの仕事。俺の仕事は獣どもを撃ち殺す事だ」
「また……同じ事が起きても……?」
「当然だ。依頼があれば仕事をするだけ。……たとえ何度同じ事が起きようがな」
「平行線……ね。もういいわ、リネン」
 これ以上の議論は無駄だと悟り、ヘイリーが弓をつがえる。
「や、やめて下さい! ただ暴力に訴えるだけじゃ――」
「そちら次第って言ったでしょ? 退いてくれない以上はこうするしかないわ。……あなた達はどうする気?」
 視線だけでウォーレンの後ろにいる二人を見る。その視線を受け、司は剣を抜いて構えた。ティーも拳を握り締め、構えをとる。
「むやみに命を奪う事に賛成しないのは一緒だけど、解決策がないんじゃ協力はできないわ。それでも止める気なら……あたしだって徹底抗戦よ」
「私の優先順位は村とハンターの方の安全です。それを侵そうとするのであれば、教導団として取り締まらせてもらいます!」
「いいわ。ウォーレンと二対一に持ち込みたかった所だけど……あなた達も相手してあげる。リネン!」
「うん……」
 合図と共に、リネンは司へと斬りかかる。素早さを活かした奇襲による先制攻撃だ。さらに左手で抜いた銃をティーに向けて撃つ。
「わっ! 速い……!」
「きゃっ!」
 何とか受け止めた司が反撃を試みる。だが、リネンは素早く跳躍すると木に紛れ、気配を消した。
「逃がしません……!」
 ティーがリネンを追って木々の向こうへ行く。司もそれに続こうとしたが、新手にそれを阻まれた。
「こんにちは〜。よかったら、わたくしがお相手致しますわ〜」
 現れたのはコルデリアだった。短剣をたずさえ、のほほんと前に立つ。
「な、何か凄くおっとりした人ね……。でも、隙がない……」
「ふふ、こう見えて、強襲部隊の出なんですわよ? では、参りますわ」
 外見に騙されそうになるが、コルデリアの剣の腕はパートナーであるエヴァルトを上回るものだった。特に短剣の利点を活かした素早さを重視した戦い方で司を翻弄する。
「くっ! もう、なんでこう速い相手ばっかりなのよ!」
 まだパラミタでの実戦経験が浅いために修行をかねて今回の依頼を受けた司だったが、これほどの相手と戦うのは初めての事だった。なんとか持ち前のセンスでコルデリアの攻撃を防ぎ、反撃の機会をうかがう。
「! 見えたっ、そこ!」
 ようやく動きを見定め、その隙を狙う事ができた。だが、相手の動きに僅かな違和感を感じ取る。その違和感を信じて攻撃を止めた先には、短剣でこちらの剣をへし折ろうとしていたコルデリアの姿があった。
「あら〜、いけたと思ったんですけど、やりますわね〜」
「ちょ、ちょっと! これまだ新しいんだからね!」
 コルデリアの持つ短剣はソードブレイカー、文字通り『剣を砕く者』だった。相手の狙いを見破った司は、自分の愛剣を壊されないように慎重になる。
「剣士として、武器を折られる訳にはいかないわ。気をつけないと……」
 
 
 剣士達が戦いを繰り広げている間、ヘイリーとウォーレンはその場に立ち止まったままだった。ヘイリーは弓を、ウォーレンは猟銃を、それぞれ互いに向けて構えている。
 そして風で木の葉が舞い上がったその瞬間――矢と弾が飛び出していった。
「――互角!」
「ちっ……」
 初撃は相打ちに終わった。互いの矢弾が交錯し、弾け飛ぶ。
 二人はすぐさま移動を開始すると、矢をつがえ、弾を込め――放つ。
 互いに連射に適した武器ではないにも関わらず、次々と攻撃を交わしていく。そのどれもが互角で、避けられるか、空中で交錯するか。いずれにせよ、相手にダメージを与える事はできずにいた。
(確か地球人嫌いって言ってたわね……。じゃあこいつは契約なしでこの強さだっていうの……?)
(弓で銃についてきやがるとはな。凄腕で金髪の弓使い……。確か『シャーウッドの森』の団長がそんな奴だったか)
 既に十射はしただろうか。結局有効打のないまま攻撃が一旦収まる。
「いい加減に諦めたらどう? あなたじゃここを突破する事はできないわ」
「けっ、そういうのは俺を完全に止めてから言うんだな」
「そうね……なら、次で決めてあげる」
 再び互いが武器を構える。ヘイリーは何かに一度頷くと、先ほどまでと同じように矢を放った。
「舐めるなよ! 同じ手で止められると思うな!」
 ウォーレンの銃が火を噴く。その弾丸は的確にヘイリーの矢を撃ち落していた。
「あら、別にあたしが止めるとは言ってないわよ」
「なに……?」
 完全に意識をヘイリーに向けていたウォーレン。その隙めがけて上空からロートラウトが襲い掛かった。
「えぇーい!」
 彼女のショットガンからゴム弾が放たれる。高い位置から撃ったために弾は分散していたが、それは逆にウォーレンの足を止める事につながった。
「もらった!」
 足を止めたウォーレンの背後からアクションヒーロー、ネクサーの姿に変身したエヴァルトが駆け寄り、物を投げつけた。神がかり的な反応で振り返ったウォーレンは、銃床でそれをなぎ払う。が――
「それはフェイクだ!」
 投げつけたのは光条兵器の本体部分だった。そちらに気を取られ、足下が無防備になった所に超低空のドロップキックをお見舞いする。
「ぐっ!?」
 足払いの要領で倒されたウォーレンの手から銃がこぼれる。ネクサーは素早く立ち上がると、ウォーレンよりも早くその猟銃を奪い取った。
「こいつは村に届けておく! 後で取りに行くんだな! 二人とも、行くぞ!」
「了解! それじゃヘイリーちゃん、またね!」
「あらあら、もう少し戦ってみたかったのですけど。それでは、ごきげんよう」
 銃を持ったまま消え去るネクサーに続き、ロートラウトとコルデリアも姿を消す。こちらの戦闘が終わった事を確認し、リネンがヘイリーの所へ戻って来た。
「お帰りなさい、リネン。こっちも退くわよ」
「……うん」
「それじゃあね、ウォーレン・マクガイア。今度は一対一で最後まで戦ってみたいものだわ!」
 二人が素早く消え去る。少しして二台の小型飛空艇が近くから飛び去っていった。それと同時にティーが再び姿を現す。彼女は林の中でリネンと戦っていたが、相手の気配を消しながらの戦法に苦戦し、決着をつける事はできなかったようだ。
「二人とも、大丈夫ですか!?」
「あたしは何とか……もう少しで剣が折られそうだったけどね。でもウォーさんの方は銃を取られちゃったみたい」
「銃を? それであちらの方々が退いていったのですか……」
 何とか相手を退けたともいえる二人は安堵の表情を見せていた。だが、一方のウォーレンは武器を取られたという屈辱ともいえる事態に怒りの感情を隠し切る事ができなかった。立ち上がると司達には目もくれず、黙って歩き出す。
「ちょっとウォーさん! 銃を取りに戻らなくていいの?」
 司が慌てて追いかける。その言葉にも答えずにウォーレンは先へと進んで行った。
(あの野郎どもめ……俺の武器があの銃だけだと思うなよ……!)
 歩きながら懐に手を入れる。そこには固い感触を持つ、もう一つの武器があった――