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蒼空サッカー/非公式交流戦

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蒼空サッカー/非公式交流戦

リアクション

第6章



 一度タッチラインから出たミカンボールは、副審翠門 静玖(みかな・しずひさ)の合図によって青チームスローインが宣言された。
 替えのミカンボールが影野陽太から安芸宮稔に手渡され、スローイン。ボールは安芸宮和輝に届く。
「俺に『パワーブレス』をかけてください」
 不意に、セルマが咲夜 由宇(さくや・ゆう)に声をかけた。
「え? あ、はい」
 言われるままに「パワーブレス」を施すと、今度はセルマは、
「6番さん、冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)さん、こっちへ! あと、安芸宮さん、ボールよこして!」
と声を出す。
 ボールを受け取り、冬蔦千百合と合流したセルマは、走り出した。
「? どういうつもり!?」
「黒の攻撃ラインを突破します!」
 冬蔦千百合の問いに、セルマは答えた。
「黒の11番はこちらの動きを予測して来ます。けれど、相手が予測して対応するよりも早くこちらが動くことが出来れば、そいつを断ち切ることができる筈!」
「どうしてあたしに声かけたの!?」
「『流星のアンクレット』があるでしょう!? そいつでちょっと加速して、突っ走って下さい! 俺は『軽身功』でついていきます!」
「あのさぁ、どうせだったら『俺について来い』くらい言ったらどう?! 男でしょ!?」
「自分の甲斐性は、自分が良く知ってますよ! 俺は『博識』ですからねぇ、チクショー!!」
 ボールを回し合いながら、ふたりは加速した。
 その目前に立ちふさがったルカルカ・ルー(るかるか・るー)は、二人に向かって走り出すと、突然体操選手よろしく連続側転宙返りからムーンサルトをかけて頭上を飛び越えた。
(……?)
(今のは……何?)
 両者が呆気に取られた瞬間、「いただきっ!」と黄健勇が滑り込み、ミカンボールを奪い取る。
「『メンタルアサルト』だと!?」
「……完っ全に飲まれちゃったねぇ」
「……サッカーでいきなり床体操始めるなんて誰が予想できるんだ!」

 ボールは黄健勇からそのまま飛鳥桜に渡された。
(さて……ちょっと早いけど、必殺技行こうか!)
 飛鳥桜は、全身に「轟雷閃」を施した。
 飛鳥流奥義・閃桜雷鳥撃――己を雷撃の化身として単身敵中を突破、相手の急所に吶喊して身に纏った雷撃を全て叩き込む荒技である。
 が、「ダメだ、そいつはあかん!」とロランアルト・カリエド(ろらんあると・かりえど)が注意をしてきた。
「全身に雷撃まとった状態でアイテチームからのチェック受けいみい! ダメージ発生して側退場やで!」
(……意外と窮屈だね、このサッカーは)
 溜息混じりに「轟雷閃」を解除し、代わりに「超感覚」と「バーストダッシュ」を併用した穏健なドリブルに切り替える。
「手空き! 黒20番をマーク! そいつには絶対ボールを繋げさせるな!」
 葛葉翔はそう声出ししながら飛鳥桜に迫った。
(……サッカー部相手にサッカーやるほど無謀じゃないよ!)
 飛鳥桜はポケットに忍ばせていた「煙幕ファンデーション」で煙幕を張ると同時にボールに「爆炎破」を施し、ロランアルトにパス。
「決めろよ、親分!」
「まぁかしときぃ!」
 ロランアルトは飛んできたボールにさらに「爆炎破」と「ソニックブレード」をかけ、ダイレクトで蹴り飛ばす。
「行けぃ! 情熱の一刀両断、ファイアーボルト・フルバースト!」
 稲妻と炎の尾を曳きながら、ミカンボールがゴールに向かって飛んでいく。さらに前線に出ていたスカサハ・オイフェウスが装備の「メモリプロジェクター」を用いて無数のシュートボールの幻を重ねた。
(! こんな事ができるのは……!)
 近くにいた高峰結和がスカサハの前に走り込み、立体映像の光線を体で遮った。彼女の「博識」さが、スカサハの現装備と効果を思い起こさせたのだ。
 すかさず「加速ブースター」を噴かし、体の位置を替えるスカサハ。
 一瞬だけ、幻が消える。が、その一瞬で十分だった。
「はい、『当たり』ボールみっけ……ぐあッ!」
 レティシア・ブルーウォーターが「当たり」のボールをブロックし、吹き飛ばされた。
 こぼれ球はトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)が確保、ドリブルを始めた。

「……危ういところが見受けられますが、我がチームの守備は堅固ですな」
 青チームベンチで、魔鎧 『サイレントスノー』(まがい・さいれんとすのー)がハーブティーを一口すすった。
「危う過ぎて、気が気ではありませんわ」
 クレア・シルフィアミッド(くれあ・しるふぃあみっど)は双眼鏡で青の陣地を覗きながら答えた。
 長さ1500メートル。幅980メートル。相変わらず常識外れな広さだが、前回の試合に比べて広さは4分の1以下になったフィールドは、攻めやすく守りにくい。ペナルティエリアも広げられたとはいうものの、必殺シュートが向けられるであろうゴールを空ける事などとんでもない話だ。
「それに、堅固と言っても地上だけの話です……今回の試合では、空を飛べる選手が敵にも結構揃っていますから、どうなることやら……」
「ふむ。それは確かに課題ですな」
 『サイレントスノー』は再びハーブティーを口にしながら、ゴールの中にいるパートナー、赤羽美央を注視した。
 空中からの攻撃対策として、彼女は確か「龍飛翔突」を覚えていたはずだ。凄まじい跳躍は、確かに対空迎撃技としては応用が利くだろう。
 だが、それは同時に、「自分に飛び込んでくる砲弾に、自分から飛び込んでいく」行為でもある。
 この試合において、相手からのシュートが、ただの勢いのあるボール程度で済むとは到底思えない。
(美央……無茶をしなければいいのですがね……)

 トマス、スキル「ミラージュ」を用いたドリブルで進撃しつつ、テノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)に合図を出した。
 合図受けたテノーリオは、さらにザカコに合図し、
「じゃあ、行きますよ!」
「おぅ、頼むぜ!」
 ザカコの「奈落の鉄鎖」は、テノーリオの体を青のゴール前上空まで運んだ。
 トマスは、ボールをテノーリオに向けて脚でトスし、宙のテノーリオを「サイコキネシス」でコントロール、お寺にある鐘を撞木で突き鳴らす要領でボールを体を叩きつけさせてシュートをさせた。
 空に飛び上がり、シュートコースに割り込んだのは、やはり秋月桃花とミスティ・シューティスである。ボールはふたりのブロックの間を抜けたものの、ゴールキーパーのルータリア・エランドクレイブ(るーたりあ・えらんどくれいぶ)がキャッチした。

「うわぁ、本当にやった……」
 黒チームのベンチで、魯粛子敬は頭を抱えた。
 トマスがドリブルで切り込み、空にボールを上げ、あらかじめ滞空させていたテノーリオを「サイコキネシス」でコントロールしてボールに合わせてシュートを決める。「スターダストドライバー」なんて仰々しい名前をつけたのは誰だったか。
 話を聞いた時は、「無茶なこと考えますねえ」と苦笑したが……
「本当にやらないで下さいよ坊ちゃん……テノーリオも牛丼20杯程度で本当につきあわないで下さいよ……」

 仰角45度。理屈の上では、ボールが一番遠くに飛ぶ角度だ。
「はッ!」
 ルータリアは手にあるミカンボールを「鳳凰の拳」のパンチングで殴り飛ばした。
 が、
「キーパー正面より左25度、仰角45度! 22番、いけるか!?」
「行くしかないんでしょ、もうっ!」
 ダリルに呼ばれたミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)が翼を広げ、「バーストダッシュ」で空に舞う。「鳳凰の拳」で撃ち出されたミカンボールを「轟雷閃」の蹴りで無理矢理地面に叩き落とす。
 ボールを拾ったのは、青のディフェンスラインから遠ざかり、マークを振り切った緋柱陽子だった。
(さて……行きますよ?)
 彼女の顔に酷薄な笑いが浮かぶ。
 周辺にいた「殺気看破」「超感覚」「禁猟区」等の使い手は、彼女の体から吹き上がる凄まじい凶気を感じ取れたに違いない。
 「封印解凍」。
 「紅の魔眼」。
 「シャープシューター」。
 「アルティマ・トゥーレ」。
 「朱の飛沫」。
 己の潜在能力を全て引き出し、攻撃力と魔法攻撃力へと変換し、さらに蹴り脚に込める勢いと魔力に注ぎ込む。
 轟音――
 爪先が、ミカンボールに叩き込まれる―― 熱と冷気、相反する魔力が集中し、互いに反発し合い、爆発し合い、そして突進力へと変わる。
 後ろに曳く尾で連鎖爆発を引き起こしながら、爆発源と化したミカンボールは、青のゴールに向けて宙を一直線に奔った。

 低軌道のライナーだ。
 が、シュートコースに立ちふさがった青のディフェンダー達は次々に吹き飛ばされた。
「ぐあぁっ!」「きゃあぁぁっ!」
 悲鳴の多重コーラスが鳴り響く。
 セルマ・アリスが吹き飛ばされた。
 高峰結和が吹き飛ばされた。
 安芸宮和輝が吹き飛ばされた。
 安芸宮稔、、咲夜由宇、「鬼神力」で巨大化したウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)、ルータリアさえもなぎ倒し、なおも威力は衰えない。
 防御系スキルを全開にした赤羽美央さえキャッチができず、ボールをゴールバー上に弾き飛ばすだけで精一杯だった。

「エクス! 回復は頼んだ!」
 本試合最大の危険球に対し、青ゴール裏でレッサーワイバーンに乗った紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は「封印解凍」を用い、「光条兵器」のガントレットを両拳に顕現させると「奈落の鉄鎖」でボールに向かって飛び出した。
「止まれえぇぇぇぇッ!」
 両の拳が叩き込まれる。押される――!
 ボールが破裂し、散弾と化した破片が紫月唯斗の体に降り注いだ。
 転落する彼の体を、一緒にレッサーワイバーンに乗っていたエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)が受け止める。
「無茶のし過ぎだ、馬鹿者!」
「……無茶しなきゃ、止められる球じゃない……なんだよこの破壊力は……?」

 緋柱陽子が、バタバタと青の選手が倒れているゴール前の空間を見ながらポツリと呟いた。
「残念。ゴールを決めるつもりだったんですが」
 そういいながらも、顔には満足そうな笑いを浮かべている。
「『緋双』――どうぞお見知りおきを」
 彼女は、自分の技にそんな名前をつけていた。
 死屍累々たるフィールドだが、「ヒール」等の回復系スキルを使える者達が、ひとり、またひとりと立ち上がり、倒れた仲間を癒してそれらも再び立ち上がらせる。
 ダメージが癒え、次々と立ち上がる青の選手達。その光景は、なかなか感動的でさえある――「不屈」という題をつければ、それなりに見れる絵になりそうだ。
 だが、緋柱陽子はその絵の登場人物達に心中でこっそり訊ねてみた。
(本当に立ち上がれたのですか──あなた方の心は?)

「原理は白組の――いえ、青の28番と26番がコンビネーションを組んで繰り出す『ツイントルネード』と同じですね」
 「実況席守護」役として立っていたプラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)は、そんな台詞を口にした。
「あの『緋双』という技の原理は、炎の魔力と氷の魔力を組み合わせ、その反発力を威力に変換した、青チームFWのコンビ技『ツイントルネード』と同じもの。ですが、その破壊力は『ツイントルネード』を遙かに凌駕しています」
「ふぅん……どうやらあれが、黒チームの大砲、というわけかしら?」
 刹姫の問いに、プラチナは首を横に振った。
「主砲とか大砲とか……そんなものじゃありません。あれはもっと恐ろしくて、決定的な『何か』です」