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蒼空サッカー/非公式交流戦

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蒼空サッカー/非公式交流戦

リアクション

第1章


(やはり来たか)
 その名前を見つけた時、芦原 郁乃(あはら・いくの)は確かに頭の中でその声を聞いた。
 だから芦原郁乃も、その名前に向け、頭の中で(来たよ)と言い返す。
(来たよ。私はもう、あの時の私じゃない)
 彼女の手にある携帯電話は、液晶に「非公式サッカー大会webサイト/選手参加者一覧」の画面が開かれている。
 数日前に告知されたそのイベントには、既に各校から少なからぬ生徒が選手としてエントリーしている。芦原郁乃が見覚えのある名前もあちこちにあった。
 その中にあるマイト・オーバーウェルム(まいと・おーばーうぇるむ)の名前に対し、彼女は静かに闘志を燃やす。
 そんな彼女を横から見ていると、秋月 桃花(あきづき・とうか)は色々と感慨深い。
 蒼空学園生徒、芦原郁乃。現在は百合園FC所属──
(まさか、郁乃様がサッカー部に入るなんて)
 忘れもしない。
 去年の春。蒼空学園の放課後の中庭。小脇にプリントを抱えてやってきた、やたらと威勢のいいパラ実訛りの男。悪意なく繰り返されたNGワード。
(あの時、あの場所で、あの人と出会うまで、郁乃様がサッカーを始めるなんて、誰も思っていませんでしたわ)
 それをきっかけに芦原郁乃は、自身もまったく思ってなかっただろう形で大きく成長した。
(次のサッカーでは、一体何がどうなるのでしょうね?)
 試合に勝っても、引き分けても、仮に負けても、芦原郁乃は再び大きく成長するだろう──
 そう予想して、(やはり勝たなければ)と秋月桃花は思い直した。
(負けたりしたら、郁乃様がまたマイトさんにこだわりますわ)




 蒼空学園第8キャンパス建設予定地。
 今度のサッカー大会──事実上の「蒼空サッカー」の第2回大会の会場。
 城壁がごとき威容を見せるその建物の入り口のひとつで、押し問答が繰り広げられていた。
「どうしても、会場に入れてはもらえませんかぁ?」
「ダメだ」
「何も悪さをしよう、ってんじゃないんですよぅ。ちょっと試合を面白くしたいだけなんですよぅ」
「それなら選手として参加して、試合で思い切り力を発揮すればいいだろう?」
「エントリーはもうしているんですけどねぇ。料理でもそうですけど、やっぱりこう、事前の仕込みっていうのが大事じゃないかな、って、思いませんかぁ?」
「会場の仕込みならこちらの設営担当で十二分に間に合っている。ノーサンキューだ」
 レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)の懇願に、御剣 紫音(みつるぎ・しおん)はむべもない。
 レティシアが引っ張ってきたリヤカーには、土方作業用の道具一式が積み込まれている。荷物の中にはその他に、短く切られた鉄管の束と、空気ボンベが見える。
 駆けてくる足音が、入り口の中から聞こえてきた。出てきたのは綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)アルス・ノトリア(あるす・のとりあ)アストレイア・ロストチャイルド(あすとれいあ・ろすとちゃいるど)だ。
「紫音、遅れて堪忍なぁ?」
「不審者というのはこの子かのぅ?」 
「こらこら、どんな悪だくみをするつもりじゃ?」
 ──1対1の状況は、1対4となってしまった。しかも不審者呼ばわりの、こちらのナイスアイデアを「悪だくみ」扱いと来た。
「はぁ……しょうがないですねぇ」
 レティシアは「お騒がせしました」と一礼すると、背を向けてリヤカーを引っ張って行った。
「……あの不審者は、何を企んでおったんじゃ?」
「空気ボンベ……鉄管……ベアリングでも詰めて、空気銃のショットガンでも仕込むつもりだったのか?」
「いや、物騒なものではあるが、そういう方向のじゃない」
 アルスとアストレイアに対し、御剣紫音は首を振った。
「フィールドに空気噴出孔を仕込んで、エアホッケーみたいにしたかったらしい」
「なぁんだ、そんな事でしたんかぁ?」
 拍子抜けして、肩を落とす綾小路風花。
 が、「『そんな事』じゃないさ」と御剣紫音はまた首を振った。 
「危険球がフィールドに着弾した場合、フィールドに変なギミックがあったらテロ騒ぎになる。部品が飛び散って大惨事になりかねん」
「そんなぁ。紫音は意外と心配性どすなぁ?」
「……風花。今日帰ったら一度記録映像通して見てみろ。『蒼空サッカー』は、荒っぽいだけのサッカーじゃない。サッカーの皮を被った別の何かだ」

「御剣紫音より警備担当各員へ。不審者の排除に成功。引き続き立哨に当たる」
「実行委員会本部浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)、了解。お疲れ様です」
 無線機からその音声を聞いて、駆け足で現場に向かっていた神崎 優(かんざき・ゆう)は立ち止まった。
(……持ち場に戻るか)
 溜息をついて、もと来た方向に歩き出す。
 正直、戻るのが少し憂鬱だ。
 今回の試合の告知の後、「会場警備」で申し込んだら仲間の水無月 零(みなずき・れい)神代 聖夜(かみしろ・せいや)陰陽の書 刹那(いんようのしょ・せつな)らが揃いも揃って残念そうな顔を向けて来るようになった。水無月零に至っては少しばかり機嫌を悪くしている。
 自分が選手として参加しない事が、不満で仕方ないらしい。
(俺は裏方の方が性にあってる)
 その事は、彼らもよく知っているはずなのに。
(──しょうがないな)
 再び神崎優は溜息をついた。身内に妙な空気を持ち込んだままにはしたくない。
(会場と観客の安全が万全で、戦況があまりに一方に傾いて、なおかつそれ以上の飛び入り参加が見込めなかった時には──って事で妥協するか)
「そういう状況で俺なんかが乱入しても、何も変わらないとは思うけどな」
 いや、下手をすればこちらの命が危ない。
 前回の試合を思い出す。選手に死人が出なかったのは、今考えれば奇跡に近い事だろう。





 そして、試合開催前夜。
 イルミンスールの片隅。
 泥だらけ、傷だらけになりながら、マイト・レストレイド(まいと・れすとれいど)は立ち上がろうとて、膝から力が抜けた。
「ヒャッハァ〜! どうした、お前の力はその程度かい? 【タイガーストレート】の名前が泣いてるぜェ!?
 南 鮪(みなみ・まぐろ)に呼応して、周囲から「ヒャッハァー」という声が沸く。
 声の数はどれくらい在るだろうか。20? 30? いや、そんなものじゃ足りない。
(何が「闇試合」だ、くそったれが)
 マイトは、闇の中で勝ち誇ったような哄笑を上げる南鮪を睨みつけた。
(こっちはひとりだってのに、20も30も引き連れて、試合も何もあったもんじゃないだろう!?)
 が、目の前のモヒカン頭はそういう理屈が通じる相手ではなかった。
 ──サッカーの試合を前に、マイトはひとりで調整と新しい必殺技の開発に取り組んでいた。そこに、いきなり南鮪と彼の率いるゴブリンサッカー軍団がやってきて、「ヒャッハァ〜! 闇試合を申し込むぜ! 俺たちが練習相手になってやろうじゃねえか!」と一方的にまくしたてて襲い掛かってきたのだ。
 あちこちから何度も聞こえる「ヒャッハー」というパラ実訛りの掛け声から、彼らがルールや常識が全く通用しない相手なのは予想がついた。が、反撃しようにも、サッカーに向けた調整の最中だったので、武装はもちろん攻撃系スキルもろくに習得していなかったマイトは、数十分に渡り集団リンチ同然のラフプレイを受けていた。
(くそっ……なぜ俺は立ち上がれない?)
(……この程度のダメージなら、試合の中で食らったヤツが何人もいるはずだ。ゴールキーパーやディフェンダーなら、殺人シュートをまともに何本も食らっているってのに……)
 答えはすぐに出た。
 あの時は、誰がどれ程傷つこうと、回復してくれる仲間が必ずいた。
 そして今の自分はたったひとりだ。回復系スキルは「ヒール」を習得してはいるが、苛烈な攻撃で完全に自分のリズムを見失い、使う余裕をなくしていた。
(そうか……そうだな)
 意識が次第次第に薄れてくる中、マイトは自嘲した。
(サッカーは集団競技……それをひとりで練習なんて、俺は何をやってたんだ……?)
「仲間がいれば……力を……合わせて……」
 暗転──

 重傷を負い、倒れているマイト・レストレイドが発見されたのは、試合開催当日、早朝の事である。



黒チーム編成
背番号 ポジション 名前
27 FW マイト・オーバーウェルム(まいと・おーばーうぇるむ)
26 FW 遠野 歌菜(とおの・かな)
25 FW ロランアルト・カリエド(ろらんあると・かりえど)
24 FW ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)
23 FW トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)
22 FW テノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)
21 FW ミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)
20 FW 緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)
19 MF イシュタン・ルンクァークォン(いしゅたん・るんかーこん)
18 MF 黄 健勇(ほぁん・じぇんよん)
17 MF 飛鳥 桜(あすか・さくら)
16 MF スカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)
10 MF 如月 正悟(きさらぎ・しょうご)
15 MF マイト・レストレイド(まいと・れすとれいど)
14 MF ルカルカ・ルー(るかるか・るー)
13 MF カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)
12 MF ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)
11 MF ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)
9 リベロ 鬼崎 朔(きざき・さく)
8 リベロ 月美 芽美(つきみ・めいみ)
7 DF ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)
6 DF レフィ・グラディオス(れふぃ・ぐらでぃおす)
5 DF ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)
4 DF 風森 巽(かぜもり・たつみ)
3 DF クド・ストレイフ(くど・すとれいふ)
2 GK 霧雨 透乃(きりさめ・とうの)
1 GK ルイ・フリード(るい・ふりーど)
ベンチ 蓮見 朱里(はすみ・しゅり)
ベンチ アテフェフ・アル・カイユーム(あてふぇふ・あるかいゆーむ)
ベンチ 魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)


青チーム編成
背番号 ポジション 名前
10 FW ネノノ・ケルキック(ねのの・けるきっく)
28 FW 秋月 葵(あきづき・あおい)
27 FWかMF ミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)
26 LW イングリット・ローゼンベルグ(いんぐりっと・ろーぜんべるぐ)
25 RW 芦原 郁乃(あはら・いくの)
24 DFかMF 藤 凛シエルボ(ふじ・りんしえるぼ)
23 MF レロシャン・カプティアティ(れろしゃん・かぷてぃあてぃ)
22 MF フィーサリア・グリーンヴェルデ(ふぃーさりあ・ぐりーんう゛ぇるで)
21 MF 緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)
20 MF 紫桜 遥遠(しざくら・ようえん)
19 MF エメリヤン・ロッソー(えめりやん・ろっそー)
18 MF ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)
17 MF 本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)
16 MF クレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)
15 DF 葛葉 翔(くずのは・しょう)
14 DF タニア・レッドウィング(たにあ・れっどうぃんぐ)
13 DF 秋月 桃花(あきづき・とうか)
12 DF 荀 灌(じゅん・かん)
11 DF 咲夜 由宇(さくや・ゆう)
9 DF 高峰 結和(たかみね・ゆうわ)
8 DF レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)
7 DF セルマ・アリス(せるま・ありす)
6 DF 冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)
5 DF 安芸宮 和輝(あきみや・かずき)
4 DF 安芸宮 稔(あきみや・みのる)
3 ストッパー ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)
2 GK ルータリア・エランドクレイブ(るーたりあ・えらんどくれいぶ)
1 GK 赤羽 美央(あかばね・みお)
ベンチ 魔鎧 『サイレントスノー』(まがい・さいれんとすのー)
マネージャ クレア・シルフィアミッド(くれあ・しるふぃあみっど)