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WahnsinnigWelt…行く手を阻み拐かす森

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第1章 闇の巣窟

 魔科学の研究がまったく進まないことに苛立ち、王天君は研究所内をコツコツと靴音を響かせて歩き回る。
「おい、どうして研究が全然進んでないんだぁあ!?」
「―・・・おそらく、私たちの仲間を封神した者どもの仕業でしょう。魔女から受け取ったメモを見て、協力者たちがこちらへ向かっているはずです」
「ほう鍬次郎たちだな?」
「えぇ。魔女の情報によると、侍らしき風貌の男だそうです。それで、次の手は考えてありますか?」
「仮初の町が消えた後のことだが。ドッペルゲンガーのオメガと、こっち側だったはずの魔女と連絡がつかん」
「それは・・・なんとも厳しい状況ですね」
 彼女たちと連絡がまったく取れないことに、金光聖母はどうすればいいのかと眉を潜める。
「人手を増やさなきゃな。おい、そこのヤツ。お前の同族を魔法学校から引き抜いて来い」
「いなければ連れてくればいいってことね。分かったわ、フフフッ♪」
 魔科学による創造と、完全な不老不死の欲を満たすため、魔女は研究所から出て行った。
「ですが、あまり人数が増えすぎても・・・。私1人では皆さんに指示を出したりするのが大変になってしまいます。なので・・・生物の知識がある者を連れて参りました」
「ほぅ。そこのお前か・・・?」
「あんたが王天君みたいだな。オレはラスコット・アリベルト。不死者の世界を見てみたくなってさ、よろしく頼むよ」
 白衣姿の男は少女の方へ顔を向け、へらっと笑った。
「(この者・・・闇世界のどこかで暮らしていた者みたいですけど。姚天君さんの協力者のリストにあったような・・・、私の気のせいでしょうか)」
 ただの他人の空似なのだろうかと、金光聖母は睨むようにラスコットを見つめる。
「ていうか。ドッペルゲンガーがオレ様に連絡を取りたくなるように、餌を用意しておかないとな」
「餌ですか?」
「あぁ、それも極上の餌・・・。屋敷にいるオメガの魂を取り込ませてやるんだ」
 いったい何を与えるのかと首を傾げる彼女に、十天君のリーダーは顔をニヤつかせて言う。
「なるほど・・・。あちらの要求の物を渡すのですね。では、創造主ほどではありませんが。ゴーストを屋敷へ送ってあげましょう。材料の死体は森の中に転がっているのですから、素材探しに困りませんし。―・・・さぁ、あなたたち。お行きなさい」
 人の亡骸を道具としか見ていない金光聖母は、ゴーストと成り果てた者たちに命令し、屋敷へ放った。
「おそらく、彼らはここを探そうとするでしょうね。いかがいたしますか、王天君様」
「幻影に惑わされてメンタル崩壊起こして、どっかでのたれ死ぬんじゃね?仮に来れたとしても・・・、その頃には廃人になっちまってるかもなぁ〜?はっははは!!」
 “やつらはたどり着けず、行き倒れるだろう”と、想像した王天君はゲラゲラと高笑いをする。



「ねぇ、鍬次郎。早く王天君お姉ちゃんのところに、行かないの?」
 斎藤 ハツネ(さいとう・はつね)は退屈そうな顔をし、赤い双眸で大石 鍬次郎(おおいし・くわじろう)を見上げる。
 やっと十天君の本拠地でもある研究所の場所を教えてもらったのに、一向に進む気配がない。
「ここで待ち合わせしているヤツが来たらな」
「待ち合わせって・・・誰となの?」
「安心しろ。ハツネもよく知っているやつだ」
「私が・・・知っている人?」
 それが一体誰なのか、記憶から探すように少女は考え込む。
「もしかして、右天ちゃんなの」
「あぁ、もうすぐくるはずだ」
「ハツネたちに協力してくれるの?とっても、嬉しいの」
 友達が来てくれる・・・。
 ハツネは嬉しそうにニッと微笑んだ。
 一方、横倉 右天(よこくら・うてん)は背の高い草をかきわけ、待ち合わせの相手を探している。
「イルミンスールの森の入り口から少し離れたところで、待ち合わせているはずなのに。どこにいるんだろう?」
「本当にこっちの方向で合っているのか?」
 光学迷彩で身を隠しているグレゴール・カフカ(ぐれごーる・かふか)が、疲れたようにため息をつく。
「地図は鍬次郎さんが持っているから。僕たちが迷わないように、入り口の近にいてくれているはずなんだけど・・・。―・・・あ、いたっ。やっと見つけたよー!」
 着物姿の男に向かってぶんぶんと手を振り、爽やかな笑顔で少年が駆け寄る。
「ごめんね、待たせちゃったかな?」
「まぁ少しな。あいつらに見つからないうちに、さっさと行こうぜ。もっとも・・・追ってきても、ついて来れればの話だけどな。ククク・・・」
 やつらは森の幻想から逃れられはしないだろうと、鍬次郎は地図を口元に当ててククッと笑う。
「どこも同じような風景だね。森の地理に詳しい人か、地図がなければ迷ってしまいそう・・・」
 迷子にならないように天神山 葛葉(てんじんやま・くずは)は、鍬次郎の後ろにくっつくように歩く。



「オメガ、あなたの望みは・・・。ドッペルゲンガーの森から完全に解放されたいのよね。それから・・・独りぼっちになりたくないってことなのね?」
 十六夜 泡(いざよい・うたかた)はドッペルゲンガーの手を握り、彼女の意思を確認する。
「出来れば、本物の魂が欲しいですわね」
「ドッペルゲンガーの本質は本物に成り代わることだったわよね。でも・・・本物の魂をあげることは出来ないわ」
「―・・・ふぅ、やっぱりそうですのね」
 首を縦に振ろうとしない友達を見て、残念そうに息をつき肩をすくめる。
「でもまぁ、ちょっと言ってみただけですのよ?そんな怖い顔なさらなくても、本物の魂は今のところ必要ありませんもの。フフフッ」
「はぁー・・・そうかと思ったけど。驚かさないでよね、もう・・・」
 ただの冗談だと分かり、泡はほっと息をつく。
「(何だか引っかかるような言い方だけど。とりあえず心配なさそうね)」
 本意でなくそれも冗談だろうと軽く聞き流しておいた。
「この前、オメガが言ってた生命に関する力を持っている十天君に会う前に・・・。寄りたいところがあるんだけど、つきあってくれるかしら?」
「えぇ、いいですわよ」
「ありがとう、私の手を離さないでね?」
 泡はドッペルゲンガーへ片手を差し出し、2人は信頼の絆を繋ぎ合って歩く。