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パラミタ・ビューティー・コンテスト

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    ★    ★    ★
 
「エントリーナンバー8番、コーディリア・ブラウンさんです」
「おお、やっとコーディリアの登場でありますか」
 待ちかねていた大洞剛太郎が、手が痛くなるほど拍手してパートナーを迎えた。
 引っ込み思案気味なコーディリア・ブラウンのために、度胸づけもかねて参加をさせたわけではあるが、一応事前には「優勝を狙わなくてもいいから、何よりも自分らしさを大切に」とはアドバイスしてある。そのせいかは知らないが、夜な夜な何かの特訓をしていたようで、その結果が楽しみでもある。
「大丈夫、大丈夫」
 深呼吸一つをして自分を落ち着かせると、コーディリア・ブラウンはステージに出ていった。
 特別着飾ってはいないが、白いエプロンを着けた紺の上品なメイド服で、シックな身綺麗さをアピールしている。頭に結んだ紺色のリボンも、白いレースのラインと羽根状に広がったレース飾りで品よくまとめられていた。長い茶色の髪は左右で三つ編みにして下げられていた。全体的に落ち着いた感じの色合いの中で、彼女の瞳の翠色だけが、ひときわ透き通った輝きを放っていた。
 すたすたと淀みない足取りで花道を進むと、軽くスカートの脇をつまんで優雅にお辞儀をする。無駄なく、しかも必要以上に自分を主張しない自然な動きであった。
「それでは、一曲お聞きください」
 ステージ上に戻ると、黒子の外岡天から渡されたフルートをコーディリア・ブラウンは構えた。
 楽士というほどに上手なわけではないが、一所懸命演奏をする。
「ありがとうございました。では、ベリート審査員、いかがでしたでしょうか」
 演奏が終わり、拍手が鳴り止むのを待ってから、シャレード・ムーンがベリート・エロヒム・ザ・テスタメントにコメントを求めた。
「すばらしいです。何という謙虚さ、何という地味地味。この上もなく普通です。人は、内にある主より与えられた美しさのみで勝負しなければなりません。飾り立てても内は飾れないのです。その点、すばらしいと思います。もの凄く普通です!」
 なんだか褒めているのだかそうでないのだか、よく分からないコメントをベリート・エロヒム・ザ・テスタメントが言った。
 
    ★    ★    ★
 
「続いて、エントリーナンバー、9番と10番、桜月 舞香(さくらづき・まいか)さんと桜月 綾乃(さくらづき・あやの)さんのお二人です」
 紹介と共に、甲高いホイッスルの音が響き渡り、ステージの左右からチアガール姿の桜月舞香と桜月綾乃の二人が元気に駆け込んできた。両手には、黄色いボンボンをそれぞれが持っている。
 二人はおそろいのコスチュームで、白地にピンクのラインの入った半袖Tシャツに、同じカラーリングの白いマイクロスカートだ。たっゆんでふくらんだ胸の部分には、「LOVE&PEACE」の赤い文字が入っている。
 激しい動きでも平気なように、スカートの下には白いアンダースコートを穿いている。もっとも、こちらも、見えても平気と言うよりは、ほとんど見えっぱなしといった方が正確かもしれない。
 桜月舞香の方は、少しTシャツの丈が短いのかわざとか、形のよいおへそが丸見えになってしまっていた。前髪は白いリボンで鉢巻きのように縛り、青みを帯びた長い髪と共にリボンの端がたなびくように背中へと下がっている。
 桜月綾乃の方は、ボブカットなので頭の左側に蝶結びにした白いリボンを髪飾りのようにつけていた。
 嬌声をあげて元気よく花道を往復すると、ステージ中央で二人がならんだ。
「百合園女学院、桜月舞香です! 趣味はチアリーディングです♪ クラスはメイドで、得意な家事はお掃除です。皆さん、よろしくお願いします!」
「えっと、その、百合園女学院、桜月綾乃ですっ。踊るのは大好きですっ。なので、私たちの応援で、みんなが元気になってくれればいいな、って思って来ましたっ! よろしくお願いしますっ」
 自己紹介をすますと、アップテンポの音楽に乗って、二人がチアリーディングを開始した。
 ボンボンを下におくと、外岡天とステラ・クリフトンの投げ渡したバトンを一回転して受け取ってクルクルと回し始める。ポーンと空高く放りあげたバトンを、体を入れ替えて交換して受けとめたり、背中合わせに立ってシンメトリカルな動きで縦横にバトンを動かしたりした。
 一通りバトントワリングを披露するとバトンを投げ返して、今度はアクロバティックに互いの身体を飛び越えたり放りあげたりしてみせる。まるで見えないトランポリンでもあるかのように、二人の身体が宙を舞った。
「健康的で元気なパフォーマンスでした。審査員のクローディアさん、いかがでしたでしょうか?」
 シャレード・ムーンが、クローディア・アッシュワースに訊ねる。
「動きが凄かったよね。凄い、凄い!」
「ええ、凄く息の合った、なかなかまねのできないチアリーディングでした。楽しませていただきました」
 隣に座るシャーリー・アーミテージも、素直に喜んでクローディア・アッシュワースにつけ加えた。
 
    ★    ★    ★
 
「ええっと、エントリーナンバー……11、源 静(みなもとの・しずか)さんです」
「ぶーっ!!」
 思わず、滝川 洋介(たきがわ・ようすけ)が、購買で買った菓子パンと牛乳を盛大に吹き出した。
「ちょっと、何するのよ!」
 危機一髪で直撃をまぬがれた神楽月九十九が叫んだ。
「す、すんません。ごほげほ……」
 謝りながら、なおも滝川洋介がむせる。
 それはそうだ。姿が見えないと思ったパートナーが、いつの間にかエントリーしていたのだから。
「し、静っ!? 最近見ないと思ったら何してるう!」
 滝川洋介の驚きは関係なく、源静はしゃなりしゃなりとした足取りで花道を進んで行った。ちなみに、源静は、ごつい男性だ。
 赤褌一丁のその裸体は、オイルでテカテカに光り輝いていた。頭髪のない頭もテカテカだが、唯一左右に残った鬢の部分は長く胸元まで垂らされ、かわいくピンクのリボンで蝶結びにしてある。
「うっふ〜ん。アタシの魅力で虜にしてあげるわよん」
 花道の端で思い切り観客席にむかって投げキッスをすると、すばらしいモンローウォークで源静がステージに戻っていった。
「観客席のお兄ちゃ〜ん、あたしの踊りを見て〜」
 ステージで再び投げキッスをすると、全身の筋肉をピクピクさせながら源静が軽快な音楽に乗って踊りだした。その力強いステップに、ステージがミシミシと軋む。
 ブッブー!
 ブザーが鳴って、ベアトリーチェ・アイブリンガーとカレン・クレスティアとベリート・エロヒム・ザ・テスタメントと天王寺沙耶とクローディア・アッシュワースが一斉に「×」の札をあげる。
「ええっ、面白いのにぃ……」
 アルマ・オルソンが言い終えないうちに、メイベル・ポーターの銅鑼が鳴り響いた。
「あ〜れ〜」
 口を開いた奈落へ、源静が落ちていく。
「ううっ、ほとんど出オチか……」
 滝川洋介が呻いた。