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リアクション
★ ★ ★
「エントリーナンバー16番、装着型機晶姫 キングドリル(そうちゃくがたきしょうき・きんぐどりる)さんの登場です」
シャレード・ムーンの紹介と共に、ギュイィィィィンというモーター音を響かせて装着型機晶姫キングドリルが現れた。
その姿はまさに黄金のドリル。だが、その基軸部分の側面には、渋いおじさまの顔が浮かびあがっている。しかも、今回は神楽月九十九が念入りに磨きあげたため、指紋一つないピカピカの身体である。
軽く数センチほど浮遊すると、装着型機晶姫キングドリルが唸りをあげて下部のドリルを回転させながら花道を進んで行った。
ちょっとうるさい。
端まで辿り着くと、いったん止まってニヤリと渋い微笑みを浮かべる。これで、おじさまフェチの若いおなごの心もハートキャッチである。
ギュンギュン言わせてステージに戻ると、装着型機晶姫キングドリルはパフォーマンスに移ろうとした。
だが、そのとき無情にも銅鑼の音が響き渡る。
シャーリー・アーミテージを始めとして、審査員の何人かが「×」のプラカードをあげている。
見れば、調子に乗りすぎて浮かびあがるのをちょっと忘れたのか、花道の一部が削れて深々と溝が刻まれていた。ドリルゆえの失態である。
「それではさようなら〜」
シャレード・ムーンのアナウンスと共に、パカッと奈落の蓋が開いた。
あっけなく、装着型機晶姫キングドリルの身体が奈落の底に落ち……ない。
「ぶぅるぁぁあぁぁ!!」
カッと目を見開いた装着型機晶姫キングドリルが大声で叫んだ。
加速ブースターを全開にしてなんとしてでも落ちまいと踏ん張っている。
「せっかく作ったステージを傷物にして……。許せません」
真っ赤なバットを手に持ったフィリッパ・アヴェーヌがステージ袖に現れる。だが、そのとき、勢いあまった装着型機晶姫キングドリルがスポーンと奈落の途中から大空高くへと飛び出して行ってしまった。
「ちょっと、どこへ行くのです。コンテストはどうするんですー!」
唖然とした神楽月九十九が叫んだが、代わりに空の一点がキランと光っただけであった。
★ ★ ★
「えっと、気を取り直して参りましょう。エントリーナンバー17番、悠久ノ カナタ(とわの・かなた)さんです」
シャレード・ムーンの紹介と共に流れた琴の音のBGMを受けて、和服姿の永久のカナタが現れた。
豪華な花の模様があしらわれた真紅の着物に身をつつみ、赤紫の打掛を羽織っている。床まで届く特徴的な美しいストレートの銀髪。その左右で一房ずつを赤い紐で結ぶと、軽いアクセントとしている。
しずしずと花道の上をすべるようにして、悠久ノカナタは進んで行った。赤い瞳で前を見据え、凜としたその表情と堂々とした物腰は、葦原やマホロバであれば、どこかの姫君かとまごうほどだ。
端まで辿り着くと、軽く口許まで右手を挙げてクルリと振り返る。細い銀色の髪がふわりと広がって光を反射し、振り袖が美しく弧を描いた。
「うーん、自分も出ればよかったかなあ」
観客席の緋桜ケイの隣で、ソア・ウェンボリスがちょっと残念そうにつぶやいた。
舞台に戻ってきた悠久ノカナタは、観客の方をむきなおると、軽く会釈した。
「変身!」
言うなり、黒子姿の外岡天がささっと袖から現れて、悠久ノカナタの上品な桜色の帯の端をつかんだ。そのまま、えいやっと引っぱって舞台の外へと消えていく。
クルクルと激しい動きでよいではないか回転する悠久ノカナタの身体が、真紅の強い光につつまれた。帯を解かれた着物がするりと肩から滑り落ちていきながら光に溶けて消える。一瞬、ほっそりとしたぺったんこな裸体が顕わになったが、すぐに光が腰とないちちの部分に集まってアンダーに変化して隠した。それに続いて、周囲をつつんでいた輝きが悠久ノカナタの回転に合わせて渦を巻き、桃色のワンピースと、チェリーピンクのオーバードレスに変化してその身をつつんだ。
シュタッと回転を止めると、銀色の髪と魔法少女コスチュームの裾が勢いのままにいったん翻ってから、下へと戻っていった。その過程で、頭の左右に大輪の赤い花が咲き、銀髪を淡いピンクに染めて持ちあげた。ふわりと持ちあがった髪の一筋が、軽く身体の前で踊る。
タンと踏み出した足で、その音と共に素足をオーバーニーソックスがつつみ、編み上げの赤い靴が現れた。スッと左手で首筋から耳にかけて軽くなぞると、赤いチョーカーと、星形のイヤリングが現れる。横に広げた左手の手首には、空中の光が集まったリボンがひゅるんと結びついた。
「『スカーレットカナタ驀進!』(ver.α)を歌います」
決めポーズをつけて、魔法少女に変身した悠久ノカナタが叫んだ。先ほどまでのどこか幼くも大人びた表情から、目一杯悪戯な小悪魔という顔に変わっている。
「ミラクルクルクル、遙か彼方、カナタへ飛んでけー。
舞え、舞え、空へ!
すべてすっきり浄化。魔法少女スカーレットカナタ、完了!
スターライト・ストライク!!
ててててててて……、キラン☆」
ノリノリで、自ら作詞作曲したテーマソングを悠久ノカナタが歌った。
「クッ……そうくるか」
緋桜ケイが客席で突っ伏していた。ほとんど歌になっていない気がする……。
「ありがとうございました。では、小鳥遊審査員、いかがでしたでしょうか」
「はい、生ちっぱいがすばらしかったんだもん」
ゆるぎない価値基準で、小鳥遊美羽が答えた。
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