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ポージィおばさんの苺をどうぞ

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ポージィおばさんの苺をどうぞ
ポージィおばさんの苺をどうぞ ポージィおばさんの苺をどうぞ

リアクション

 
 
 
 美味しい幸せ召し上がれ
 
 
 
 フェスタ会場にはスイーツの店が競うように集まっている。パステルカラーが目立つのは、スイーツのイメージに合わせてのことだろう。
 どの店も自慢のスイーツを店頭に並べ、ぜひご賞味あれと道行く人々に呼びかけている。どんなに美味しいスイーツでも、知ってもらわなければ買って貰えない。買って貰えなければ、その美味しさを知って貰うことも出来ない。
「うちも負けてはいられないよね」
 芦原 郁乃(あはら・いくの)は今年も、ポージィおばさんの苺スイーツの店のポップでキュートな力作チラシを準備してきていた。
 それに加えて試食用にと、秋月 桃花(あきづき・とうか)は特製ストロベリージャムクッキーを焼いてきた。チラシで宣伝して、クッキーで苺スイーツの美味しさを感じてもらい、店に呼び込もうという作戦だ。
 今年は荀 灌(じゅん・かん)も加わって3人での参加だから、郁乃も去年に増してはりきっている。
「私、みんなの分の制服を借りてくるねっ」
「郁乃様、そんなに走ると危ないですよ」
「大丈夫だよっ」
 呼びかける桃花に振り返って手を振ると、郁乃は人の向こうに消えていった。
 しばらくしてスイーツフェスタの売り子用制服を持って戻ってきたのだけれど、その足取りは行きと比べて元気がない。
「どうかなさったのですか?」
 心配そうに尋ねる桃花に郁乃は借りてきたばかりの制服を見せた。
「ちょうど私にあうサイズの制服が1着しか残って無くて……」
「残っていたのなら良かったのではありません?」
「うん。でもこれは……はい、荀灌の分」
「いいんですか?」
「うん。私はこっちの大きめのを着るからいいよ。あ、桃花のはこっちね。早く着替えてチラシ配ろ」
 少々サイズが大きいくらい何とかなるだろう、なるといいなと郁乃は着替えてみたのだけれど。
「これは少々皆様の目の毒ではありませんか……?」
 襟ぐりが大きくて肩が服から出てしまう。かがめば胸が丸見えだ。
「郁乃お姉ちゃん、色っぽいです」
「もぅ〜いやぁ〜っ」
「郁乃様、しばらく動かないで下さいね」
 胸元を押さえて座り込んだ郁乃の制服のあちこちを、桃花が何カ所か縫い止めてずり落ちないように手直ししてくれた。ぶかぶかなのはどうしようもないけれど、これなら何とか我慢できると郁乃がほっとしていると、荀灌が気になる様子で桃花を見上げる。
「桃花お姉ちゃんも制服あわないですか?」
「ええ……ちょっと胸の辺りがきついです」
「桃花の胸のサイズに合わせると制服が大きくなり過ぎちゃうんだよね。だからこれにしたんだけどやっぱり苦しい?」
「いえ、何とか大丈夫だと思います」
 大きすぎる制服も困るからと桃花は首を振った。その窮屈そうな胸元を荀灌はじっと眺める。
(桃花お姉ちゃんの胸、どれくらい大きいのでしょうか……気になるです。普段もきついの我慢してるのかな? ひょっとしたら無理矢理詰め込んでたりして。外したらたわな何かがぽんと弾けたり?)
 胸元がきついなんて羨ましいような悩みだと考えている荀灌を、郁乃は恥ずかしがっているのだと誤解したようで、励ますような笑顔を向けてくる。
「荀灌も恥ずかしがらずに呼び込みしようね。荀灌のかわいらしさと桃花の胸なら3万人は呼び込める、そんな可能性だって秘めてるんだから」
「さんまんにん……」
「そうそう。だから頑張って」
 郁乃は自分でもチラシを配って呼び込みをする。気分は荀灌の良きお姉さんなのだけれど、制服がぶかぶかなこともあって3人を見比べれば郁乃が一番妹に見えてしまっていたりもする。
「むぅ。私の方がお姉さんなのにな」
「郁乃様、むくれてないで笑顔、笑顔♪」
「うん。――スイーツフェスタに行ったら、ポージィおばさんのおいしい苺で作ったスイーツをぜひ食べてみてね♪」
 桃花に促され、郁乃はにっこり笑顔でチラシを差し出した。
「スイーツフェスタ? こんな祭典があるんですか」
 郁乃から受け取ったチラシに非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)が目を通しているのをアルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)がのぞき込む。
「アルティアはこの苺のスイーツがひときわ美味しそうだと思うのでございます」
「ほう。我も貴公に同意するのだよ」
 イグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)はアルティアの言葉に頷くと、ユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)と近遠に尋ねる。
「貴公らも勿論、食べて行くであろう?」
「苺スイーツですか。興味ありますわね」
「そうですね。せっかくだから行ってみましょうか」
 ユーリカと近遠が頷いたので、一行はチラシを頼りにスイーツフェスタ会場に入ってゆく。
「ありがとう。ポージィおばさんの店をよろしくねっ」
 郁乃は近遠たちを見送ると、また次の通行客にチラシを渡して苺スイーツを勧めるのだった。
 
 
 
 ピンクのワンピースは膝丈フレアー。上にしめるエプロンはフリルひらひらの白。
 スイーツフェスタの売り子の服を着た夏侯 淵(かこう・えん)の頭に、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)はうさ耳をつけた。
「俺は男なんだが……」
「分かってるよ♪」
「それならなんで毎度こんな恰好をするハメになるのだ」
 毎度のようにスカートやらの可愛いものを着せられてしまうのは、どうも納得できないと言う淵の様子に、エオリアはつい、くすっと笑ってしまう。
「そういう姿が似合いすぎているからでしょう。これでは『男の娘』と言われても仕方がないというか……」
 淵がそう言われるのを嫌がっているのは知っているのだけれど、可愛すぎる衣装もうさ耳もとても淵に似合っていて違和感が全くない。
「男の娘ではない!」
 むきになって言い返すと、淵はこうなったら、と気合いを入れる。
「真剣に逃げてやる。おまえらなんかに捕まってやるか」
 言い終わる前に、淵はもう駆けだしていった。
「ルールは分かった? 淵を見つけてタッチして、苺のお菓子で機嫌を直してもらえたらクリアだよ。気に入らないお菓子だとまた逃げちゃうから注意ね。全員がクリアしたら終〜了〜」
 スイーツフェスタの会場を淵は逃げ回ったり隠れたり。売り子と同じ服を着ているから見つけにくいけれど、うさ耳が目印になる。
「1位には好きな菓子を帰宅後ダリルに存分に作ってもらえる権利が、最下位にはそれを手伝う罰ゲームが待ってるわ。他のお客さんの迷惑にならないように十分注意してね」
 ルールを確認すると、いい? と問うようにルカルカは皆を見渡した。
「それじゃ……皆、散開!」
 ルカルカとダリルを残して、他の皆は一斉に駆けだした。ルカルカとダリルは淵の嗜好を知っているから、このかくれんぼに参加はしない。代わりにゲーム後にレジャーシート広げて食べる為のお菓子の購入係を引き受けた。
 淵がどのくらい時間をもたせられるか分からないから、買い出しは大急ぎ。目に付いた売店を片端から覗いては、おいしそうなスイーツをどんどん買ってゆく。
「これおいしいからたくさん買っちゃお。あ、こっちのもいいなっ。淵が好きそう♪」
 わくわくと味見するルカルカに、ダリルはつい噴き出した。
「むー。だって味見しないと分かんないんだもん」
 むくれるルカルカの頬をダリルは指でつつく。
「幸せそうだと思ってな」
 そう言って頭を撫でるとルカルカはすぐに機嫌を直し、また買い出しに戻る。
「次はこのお店ね。あ、大岡さんは売り子さん? ぷぷぷ」
 普段は見られない大岡 永谷(おおおか・とと)のエプロンドレス姿に、ルカルカは笑いを堪えた。
「いや、これは……似合わないのは分かってるんだが……」
 知り合いに見られて焦る永谷に、ルカルカはごめんと謝り。
「いつもと違う恰好だからなんだか見慣れなくて〜。でも似合う似合う。そういう制服姿もいいねっ。うん、可愛い♪ あ、お店にあるスイーツ全種類1つずつ頂戴」
 キャリーに箱を積んでルカルカはガンガン買ってゆく。
「大量だな」
「食べ盛りが沢山いるんだもん。じゃあまたね♪」
 短時間で大量のスイーツをゲットすると、ルカルカはまた別の店へとキャリーをひいて買い出しを続けた。
 その後ろ姿を見送り、永谷は改めて自分の着ている制服に目をやった。
 いつもは男の形をしている永谷だけれど、たまには女の子っぽい恰好をしてみようかと売り子の手伝いを申し出た。店を手伝うという経験は、地球に帰ってアルバイトでもすることになったら、役立つかも知れないし。
 そう自分では理由づけているけれど、その実……母からの手紙が引っかかっているから、というのも否定できない要因だ。
 教壇で己を鍛えている話を書いて送った永谷の手紙に、母が寄越した返事には、
『強くなるのは良いけど、あんまり男っぽくしてると、私みたいな幸せな結婚が出来なくなるよ』
 とあって絶句した。それを気にしているところでこのスイーツフェスタの売り子募集を見て、ふと……たまにはなんて思ってしまったなんてことは……あるのかもしれない。
 知り合い相手にはいつもの口調に戻ってしまうけれど、それ以外の時は丁寧な口調とかわいく見えるような笑顔を心がけて接客する。
「ありがとうございました。お土産に他のスイーツはいかがですか?」
 スイーツを食べ終えて席を立とうとしている非不未予異無亡病近遠に気づいて、永谷はさりげなく持ち帰り用のスイーツを勧めた。
「そうですね。少し買っていきましょうか? とても美味しかったことですし。パラミタでのこの時季は苺なんですね」
 近遠の言葉にイグナは頷く。
「ふむ、やはりこの時季のスイーツは苺なのだよ」
「どの苺スイーツも美味しかったですわ。もっと早く知っていたなら、あたしは作る方で参加いたしましたのに」
 ユーリカの方は幾分残念そうだった。スイーツは食べるのも好きだけれど、出来れば自分でも作ってみたい。ならばと永谷は、今度はスイーツでなく苺を勧めてみる。
「それでしたら、帰りにポージィおばさんの苺畑に寄ってみてはいかがでしょう? 苺狩りも出来ますし、苺を買うことも出来ますよ」
「あら、苺が買えるところがあるんですの?」
「ええ。こちらで使ったのもその苺畑の苺なんです」
 おいしい苺ですよね、と永谷が勧めると、ユーリカは是非その苺を買って帰りたいと言い出した。
「帰ってお菓子を作るのが楽しみですわ。何を作ろうかしら? 苺パフェと苺のミルクレープは基本として……ムースやタルト、苺大福にミルフィーユ、苺ジャムのパイとかいちごおでんも良いですわね」
 最後に菓子ではないものが紛れ込んでいるのには気づかず、アルティアはユーリカに同意する。
「ユーリカさん、それは楽しみでございますわね」
「しばらくデザートが苺一色になりそうですね〜。まぁ苺はおいしいですから別に良いですけれど」
 教えてくれてありがとうございます、と近遠は永谷に礼を言った。
「こちらこそありがとうございます。ポージィおばさんの苺をたっぷりと味わって下さいね」
 にこ、と笑顔で近遠たちを見送ると、永谷はまた売り子としての仕事を続けるのだった。
 
 
 
 スイーツフェスタの会場を歩いて行けば、右も左も甘いものを売る店が並んでいる。
「うーん、色々あって目移りしちゃうなー」
 ポージィおばさんの苺スイーツの店以外にも、各店が工夫を凝らしたスイーツがずらり。そのどれもが美味しそうに見えるものだから、ミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)は楽しみでならない。早速目に付いた店から順にスイーツをチェックしてゆく。
 ふらふらとスイーツに惹かれるように歩き回るミーナについて歩きながら、菅野 葉月(すがの・はづき)が注意する。
「ミーナ、勝手に1人で歩き回るとはぐれてしまいますよ」
 歩いていたと思えばふと店先で立ち止まったり、人波を掻き分けてスイーツをのぞき込んだりするものだから、うっかりすると人の間にミーナの姿を見失ってしまいそうだ。
「うん。あ、あれ何だろ?」
 注意するそばからミーナは興味を惹かれた方へと引き寄せられていってしまう。
 やれやれと思いながらも、普段こうしてデートする機会はあまり取れない。たまにはミーナに付き合ってスイーツ巡りをするのも良いだろうと、葉月はミーナがちょこちょこ動き回るままにさせておき、自分は気を付けてその後をついていった。
「どれから食べようかなー。どれもこれも美味しそうだから迷っちゃう」
「持ち帰り用も欲しいですね。ミーナはきっと家に帰ってからも、あれが食べたかったこれが食べたかったと言い出しそうですから」
「えーっ、そんなこと無……あるねっ」
 あははと笑って、ミーナはポージィおばさんの苺スイーツの店を覗いた。
「いらっしゃいませ」
 たちまちあちこちから挨拶がかけられる。
「わぁ、どれも食べたいな。オススメはどれ?」
「みんなオススメだよっ」
 ミーナの質問にアリアクルスイドが元気に答え、エイボンの書が丁寧に尋ねてくる。
「どんなお菓子がお好きですか? 苺の味がそのまま楽しめるものや、色々な味が楽しめるもの、さっぱりしたものもありますし、生クリームたっぷりのものもありますから、好みを教えていただければお勧めをご紹介しますわ」
「そうだなぁ……色々な味を楽しんでみたいかなっ」
「だったらおにいちゃ……あ、ううん、『3種食感の苺のミルフィーユ』はどうかな? パイ生地にそれぞれ苺を潰す荒さを変えて食感の違いを出した、ムース、ゼリー、ババロアをはさんだスイーツなんだよ」
「うん、それにしてみる。葉月は?」
 クレアのお勧めに決めたミーナが葉月を振り返る。
「こちらで食べるのと、他に持ち帰りやすいお菓子が欲しいんですけれど」
「だったらこういうのはどうかなっ? ベイクドチーズタルトの苺ジャム掛けなんだけど、お店で食べるのは温かいタルトに温かいジャムで、家で食べるのは冷たいタルトと冷たいジャム。ジャムの味も少し違えてあって、食べ比べができるんだよっ」
「それにしてみます。持ち帰り用のは帰りに取りに来ますから」
 葉月はアリアクルスイドの勧めを受けると、ミーナと向かい合わせに席についた。
 
 
 店頭に並べられたスイーツから漂う甘い香り。
 けれど鈴虫 翔子(すずむし・しょうこ)の鼻はその中に、ほんのりとしたミルクの匂いを感じ取る。さすがにスイーツフェスタでは大好物のカレーは無いけれど、スイーツによく使われるクリームは乳製品。スイーツの甘みと相まって、きっと乳製品はとろけるような幸せな味となっていることだろう。
「ふんふん、なるほど。ここはあんまり乳製品は使ってないんだね。あ、こっちの店はクリームたっぷり」
 翔子はまずざっとスイーツフェスタの会場を巡り、乳製品を多く使っているものをチェックしていった。本当ならすべてのスイーツを食べ比べしたいのだけれど、これだけの種類があると大食い選手権のようになってしまう。まずは自分の好みのスイーツから優先して食べていこう。
「ここのお店は種類多そうだなぁ」
 翔子がポージィおばさんの苺スイーツの店に視線を向けたのを感じ、
「いらっしゃいませ〜」
 きっちり笑顔、けれどどこか色気がにじみ出る声でブルガトーリオがすかさず声をかけてくる。
「ここって乳製品多めのスイーツ置いてるかな?」
「乳製品なら、苺と牛乳とバニラアイスで作った苺シェイクが一番多いかしら。他にも生クリームたっぷりのお菓子も置いてるわ」
 ブルガトーリオが説明しているのを耳にして、セシリアもぜひ食べて行ってと呼びかける。
「苺練乳大福とかもあるんだよっ。乳製品が好きだったらこれは食べておかなくっちゃ」
 自分も後でレシピをもらっておかなければと、セシリアは今年も様々な種類が並んだスイーツに目をやった。
「じゃ、それを食べてみようかな。まずは苺シェイクと苺練乳大福で」
 翔子は席につくとチェックシートを取り出すと、スイーツを食べながら5段階評価を書き込んでゆく。
「お、口の中に広がる練乳風味が最高。これは味:5で」
 見た目、味、以外にも値段や店員の接客の良さをそれぞれチェックして、シートに記入する。自分が食べ終わったら目立つ場所にチェックシートを貼り付けておけば、他の人が食べ歩く時の参考にしてもらえるだろう。
「お客様、乳製品がお好きでしたらイチゴプリン、ご一緒にイチゴミルクはいかがでしょうか?」
 鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)がすかさず、知り合いが作ったスイーツを勧める。
「うん、それももらうよ」
 翔子の注文を受け、貴仁はイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)にイチゴプリンを出してくれるよう頼み、常闇 夜月(とこやみ・よづき)にはイチゴミルクを作ってくれるよう頼んだ。
「少々お待ち下さいませ」
 夜月は苺をスプーンの背で潰し、牛乳と混ぜてイチゴミルクを作る。ミキサーで作ってしまえばあっという間なのだが、
「それでは少々品が無いですから、手間はかかりますがこうして果肉をある程度残したものをと思いまして」
 と、丁寧に苺を潰してゆく。
 出来上がりを待ちながら、貴仁は自分の姿……ピンクのワンピースに白のひらひらエプロンドレスを情けなそうに眺めた。
「売り子をするのは別に構わないんですが……なぜこうなった……」
 自分は鉄心のパートナーたちがスイーツフェスタでイチゴプリンを出すと聞き、それを食べにきただけだったのに、気づけば何故かエプロンドレスを着せられて、売り子の手伝いをさせられていた。
 その元凶はと言えば。
「やっぱり貴仁には可愛い服が似合うね」
 貴仁の売り子の制服姿を眺め、鬼龍 白羽(きりゅう・しらは)はにこにこと嬉しそうに笑う。
 この姿が見たいが為に、貴仁を口車に乗せてスイーツフェスタの手伝いを承諾させたのだから。
「わらわも食べ歩きがしたかったのじゃが……」
 医心方 房内(いしんぼう・ぼうない)もまた、特に売り子をする気はなかったのに、貴仁に巻き込まれる形で手伝うことになってしまった。せっかくスイーツフェスタに来たからには甘い物を食べたいのだけれど……いざ持ち場が決まってしまうと、それを放置して食べ歩きに出かけるのも拙い気がして動けない。
 どうしてこんな目に遭わねばならないのだと、むっとしているその目の前をマリィ・ファナ・ホームグロウ(まりぃ・ふぁなほーむぐろう)がエプロンドレスを翻して通って行った。
「ふむ……」
 その後ろ姿を辿り店内を見渡してみれば、あちらでもこちらでも女の子たちが……一部例外も混じっているが……ひらひらと立ち働いている。
「舌の保養はできずとも、目の保養には事欠かぬからよしとせねばならんかのう……」
 あまりまじまじと見るのは失礼かと、房内はこっそりと売り子たちの姿を観賞して楽しんだ。
「白羽様、房内様、遊んでないで手伝ってくださいな」
 真面目に厨房を担当している夜月に言われ、白羽はぱっと場を離れる。
「ボク、追加の苺持ってくるね」
 逃げてゆく白羽は制服を着ていない。あんな可愛い制服は着られないと、店での手伝いではなくスイーツを店まで運んできたり、苺を調達してきたり、という外仕事をちゃっかりと取ったのだ。
「ほんとにもう……」
 自分がやらないとどうにもならないと、夜月はいつもながらに思う。
「イチゴミルクは出来ましたか? なら俺が運びますよ」
「はい、ではお願い致しますわ」
 夜月はグラスの汚れを確かめてから、貴仁のトレイの上にイチゴミルクを載せた。
「イチゴプリンは私が運びますね」
 ティー・ティー(てぃー・てぃー)に言われ、イコナはおどおどと心配そうにイチゴプリンを盛りつけた皿をトレイに載せた。けれど、手は放さずそのままプリンをじっと眺めている。
「大丈夫ですよ。プリンを試食した方は皆、美味しいと言ってくれましたから」
 試食用のミニカップに入れたイチゴプリンを食べてもらった時は好評だった。だから心配いらないとティーはイコナを宥めた。
 頷いて手は放してくれたものの、ティーが運んで行こうとするとイコナはまた不安いっぱいの目になる。
「付いてきてみますか?」
 ティーに誘われて、イコナはティーの背中に隠れるようにして付いていった。
 普段、難しい仕事には連れて行ってもらえないし、パートナーで一緒に過ごしている時に突然依頼が入って、皆が出かけていく中ぽつんと置いてきぼりをくらったりで、イコナはびくびくしていることが多い。
 けれど今日はこのスイーツフェスタ自体が依頼のようなものだし、ティーも近くにいるから取り残されることはないだろう。そっとティーの背中に触れて安心感をもらいながら、こっそりと翔子をのぞき見る。
「うん、滑らかで口当たりがいいね。牛乳と苺の配分もなかなか、っと……ん?」
 食べながらシートに記入していた翔子は、視線を感じて顔を上げた。
 と、ティーの背中の向こうからイコナがものすごい形相でこっちを見ているのと目があった。
「ああ、すみません」
 察したティーが目を三角にしているイコナの頭に手を置いて、翔子に説明する。
「このプリン、この子が作ったんです。美味しく出来たかどうか心配しているんですよ」
「そうなんだ。美味しくできてるよ」
 睨みつけるように翔子を見ていたイコナの顔がほっとゆるむ。
「あ……」
 胸がいっぱいになって、ありがとう、という言葉は出てこない。けれど幸せそうな笑顔になると、イコナはぱたぱたと厨房に戻って行った。