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死骸の誘う暗き穴

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死骸の誘う暗き穴

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【終章】

 洞窟の前。
 無事、洞窟から帰還した生徒たちの前で、チカが頭を下げていた。
「皆さん、本当にありがとうございました。私が生きて出れたのも、皆さんのおかげです」
 そういうチカの瞳には、喜びの涙が浮かんでいた。
「まあ、みんな無事でよかったね」
「そうだな。これも、俺たちが骸骨どもを倒しまくったおかげだぜ!」
 皆の無事を喜ぶ北都に、昶は自分たちの功績だと胸を張って喜んだ。
「うんうん。なにより、チカさんが無事で、ボクも嬉しいよ」
「しかし、まさかあのマキとかいう娘が、敵だったとはの」
 レキはチカの無事に喜び、その横でミハがマキの事を考えて、顔をしかめていた。
「あ。海くんそこ怪我してます。今、ヒールかけますね」
「……ありがとう」
「やれやれ」
 柚は海の身体に怪我がないか、丹念に調べており、それを三月がどこか疲れた表情で見つめていた。
「うーむ。やはり、あの骸骨は戦闘員として欲しかったなぁ」
「……やっぱり、氷漬けにされたいみたいだね」
 未だに骸骨を戦闘員にする考えを捨てきれないでいたハデスに、ふたたびニコが殺気を放っていた。
「しかし、護衛対象が敵だったとはな。よい教訓となった」
「そうですね、洋さま」
 洋は生真面目に、今回の護衛を振り返って反省しており、それを楽しそうに見つめながら、みとは相槌をうっていた。
「ううっ……今思うと、あんな怪物のすぐ近くにいたんですわね」
「あはは。た、確かにそうだねぇ」
 怪物のフォルムを思い出し、気持ち悪いと連呼するリリィの話を、託はのんびりと聞いていた。
「ちっ……あの聞きこみの時に、気づいていれば、俺がマキを」
「いいじゃない。無事に誰も死人を出さずに済んだんだから」
「ううっ! よかったですぅ。私、ずっとマキさんの肩の上にいたのに、食べられなかったですぅ」
「にゃはは! よしよし!」
 自分の手で敵を倒したかった和輝が悔しがり、それをスノーがなだめている。さらに、護衛中ずっとマキの肩の上にいたルナは、喰われなくてよかったとオロオロし、それをアニスが頭を撫でて落ち着かせていた。
「聞いているのか、唯斗! 妾を置いて先に進むとは、何事か!」
「あぁ〜。プラチナム姉さん、エクス姉さんを止めてくださいぃ!」
「いや、こうなってしまえば、エクス様には誰の声も届きませんでしょう」
 頬を膨らませて、エクスは和輝を睨んでいる。それを何とか落ちつけようと睡蓮は奮闘し、プラチナムは早々にあきらめていた。
「置いてったのは、悪かったって……なぁ、エッツェルからのなんか言ってくれよ」
「さあ? 私はただブラついていただけですから」
 助けを求める和輝に対し、エッツェルはさらりと他人事を決め込んでいた。
「ほらほら、リルくん。いい加減、機嫌を直して下さいよ」
「ぐすっ……シオンなんて大嫌いだ。覚えておけよ」
「あら? 覚えておく必要なんてないわよ。ほら、ここに逃げ惑うリルの雄姿はしっかりと録画してあるから」
 骸骨から泣きながら逃げるリルの動画を見せつけ、やめろぉとリルが叫び、その反応をシオンは楽しむ。司だけが、やれやれと疲れたため息をついた。
「すぅー、すぅー……んふふ、おにいちゃーん……むにゃむにゃ」
「ったく、今日は踏んだり蹴ったりな一日だったぜ」
「でもチカさんが無事でよかったじゃないですか」
 疲れて寝てしまったミュリエルを背負いながら、エヴァルトが愚痴る。それを微笑ましい眼差しで詩穂が見つめていた。
「……ネーネー、アキラ? アレって、救助隊のみんなダヨネ?」
「おー、そうだな」
 蒼空学園の掃除を終えたアキラとアリスは、救助を終えた皆の姿を遠巻きに見つめて、のんびりとしていた。
「んーっ! 最後に出てきた、でっかい骸骨は、楽しかったかな?」
「もう、透乃ちゃんったら。無茶し過ぎよ」
「そういう陽子さんも、無茶しすぎです」
 ひと暴れして、満面の笑みを見せる透乃。そんな透乃のカバーをしていた陽子は疲れた笑みを見せ、そんな陽子を守護していた泰宏はボロボロになった式神の紙を持ってため息をついていた。
「いやー、何とか生きて帰ってこれましたわ」
 全身、土まみれになりながら、セシルは自身の無事に安堵していた。
「本当にごめんなさいね、雅羅さん。事情が事情とはいえ、叩いたりして」
「い、いえ! 元はと言えば、私の不甲斐なさが原因ですから」
 祥子は洞窟内で叩いたことを雅羅に謝り、雅羅は恐縮そうに首を横へ振っていた。
「オレのところも、お姉ちゃんがご迷惑をかけました」
「え! ワタシっ!」
 姉のセクハラ行為を夢悠が謝罪し、自覚ゼロの瑠兎子は、何故ワタシが謝るんだと驚いていた。
「お疲れさまでした、マスター」
「ん。ベディもな。おかげで後ろを心配せず戦えた」
 ひと仕事を終え、満足そうにカイとベディは安堵の表情を浮かべていた。
「ほら、見なさい! チカさんは敵じゃなかったではないですか!」
「はいはい、そうでしたねー」
「こら、玄秀。失礼よ」
 自分の予想が当たっていた魅華星は、えっへんと胸を張る。それを軽く聞き流している玄秀を、ティアがいさめていた。
「いやー、まさか本当にあのマキって子が、元凶だったとはね」
 やっぱり俺様は間違ってなかったと、ゲドーは頷いている。
「あははっ! 楽しかったなぁ。なんだか、弱いウサギを狩る前に、追いかけてるみたいで♪」
「ふふっ。私もよ」
 チカを追いかけ回していたミリーとフラットは、悪びれもせず、楽しめたと二人で怪しく笑いあっていた。
「幸村……いたんなら、最初から姿見せんか。滅茶苦茶、怖かったんだぞ?」
「何を情けないことを! 拙者は、氷藍殿のためを思ってですね!」
 ひとりで洞窟内を歩きまわされた氷藍が情けなく愚痴るのを、幸村は腕を組んでさらに説教していた。
「もう、ダメだよー、和輝ちゃん。いきなり女の子に抱きついたりしたらぁ」
「……は、はい。気をつけます」
「は、春姉ぇ……笑顔が怖いよ」
 満面の笑みを浮かべる春華に、和輝と立夏はガタガタと震えていた。
「どうだ、メシエ。やはり、チカさんは被害者だったろ?」
「はいはい。君には毎回、驚かされるよ」
 素直に自分の考えが違っていたことを認めるメシエ。それにエースは満足そうにほほ笑みかけた。
「さてさて。こんなトコに呼び出されたんですから、相応の見返りは求めてもいいのですよね、グラキエス様?」
「……ったく。好きにしろ」
「ど、どうでもいいが、エルデネスト! お前も主の肩を支えんか!」
 魔力の暴走で疲れ切ったグラキエスは、エルデネストの言葉に従うままに頷く。そんな主の肩を、心配そうにアウレウスが支えていた。
「今回はお手柄でしたね、サイレントスノー」
「いえいえ。私が気づかなくとも、いずれ誰かが気づいていたことでしょう」
 マキの正体を見破ったサイレントスノーを褒める美央。そんな美央に、サイレントスノーは謙虚な返事をする。
「無事にチカさんを送れてよかったね」
「そうですね。私たちだけだと、危ない場面もありましたでしょうし」
 チカを無事地上へ連れ帰ってきた透とカナタは、よかったよかったと頷き合っている。
「うーん。やっぱあの時、ポージングが少し悪かったのかしら?」
「セレン。あの名乗りがウケなかったのは、そういう問題じゃ……」
 必死に、名乗りのポーズを確認するセレンに、セレアナは頭を抱えていた。
「……ルクシィ。さっきはありがとう。とてもよかった」
「え、ええっ! や、やだ、ナオくん……そんなこと言われても……」
「ルクシィ。一応言っておくけど、七緒の言ってるのは、連携攻撃の話よ。胸を触った感想じゃないからね?」
 甲斐子にそう告げられ、ルクシィはふたたび顔を真っ赤にさせる。それを七緒は不思議そうに見つめていた。
「しかし、何とか敵を倒せましたね」
「ふん! 当然じゃない。私と真人が組んでたのよ。どんな怪物だって楽勝よ」
 セルファの強気な意見に、真人はそうですねと嬉しそうに頷いた。
「大丈夫だよ、このぐらいの怪我ー!」
「ダメだって、美羽。化膿したらどうするのさ」
 暴れまわって身体中に擦り傷を作った美羽を、コハクが世話していた。
「んー♪ チカラいっぱい暴れられた後ってのは、やっぱ気持ちいいもんだ」
「まったく、こっちは冷や冷やしたぞ」
「本当だ。少しは周りにも気を使え」
 暴れまわってすっきりした表情のナンに対して、シオンと元化はハァーっと深いため息をついた。
 そんな皆に向かい、チカはふたたび頭を下げた。
「――みなさん、本当にありがとうございました。私、この恩は絶対に忘れません」
 そう告げると、チカは背後の洞窟を見つめる。


 背後の暗い洞窟からは、――もう恐ろしい亡霊たちの呻き声は響いてこなかった。


担当マスターより

▼担当マスター

海原三吾

▼マスターコメント

 どうも皆さん、お付き合いいただきありがとうございました。
 私の二回目の作品「死骸の誘う暗き穴」、楽しんでいただけたでしょうか?
 少しでも面白いと思ってくださる方がいたら、こちらとしても幸いです。
 それではまた、いつの日か。
 ……また次もホラーものだろうか(苦笑)