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死骸の誘う暗き穴

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死骸の誘う暗き穴

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【三章】

 時間が経つほどに、救助のため、洞窟の内部に進撃していた生徒たちは、洞窟の奥深くまで進んできていた。
 そして洞窟は、奥へ進めば進むほど、多くの骸骨と遭遇する可能性が高くなる。
 その中でも、最も骸骨に囲まれやすい場所であるところに、グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)はひとり、うずくまっていた。
「……はぁ、はぁ……っ、――ぐぅ、うぉおおおおおっ!」
 グラキエスは苦しげに唸りながら、胸をかきむしる。『狂った魔力』と呼ばれる特殊で危険な魔力が、グラキエス自身の身体を蝕み、暴走しかけているのだ。
 もがき苦しむグラキエスの周囲には、大量の骸骨がいた。骸骨たちは容赦なく、グラキエスに向かって、襲いかかってくる。
「くっ、おおおおおおおっ!」
 そんな骸骨たちへ、グラキエスが吠える。同時に、ありったけの魔力を手に持つ妖刀に込め、骸骨たちを切り裂いた。『朱の飛沫』によって強化された刃の一撃で、一斉に切られた骸骨たちは燃え上がった。
「はぁ、はぁ……ま、まだだ……まだ、こんなものじゃ、全然足りないっ!」
 そう叫ぶと、グラキエスは魔力を存分に使ったまま、我を忘れて妖刀を振るう。何十という骸骨を切り裂き、燃やす。だが、それでも、一向にグラキエスの魔力が安定しなかった。
「はぁ、はぁ……まだ、なのか……ぐっ!」
 荒くなる息をつき、グラキエスはついにその場に膝をついた。魔力の暴走で、身体のほうが悲鳴を上げている。このままでは、魔力が安定する前に、グラキエスのほうが参ってしまう
(くっ、これだけはしたくなかったが……仕方ないか)
 そう心の中で呟き、グラキエスは最後の手段を使うことにした。
「……こい、エルデネスト!」
 その言葉に反応し、グラキエスの首筋に、炎のような紋章が浮かぶ。次の瞬間、空間が裂け、そこから悪魔、エルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)は現れた。
「おや? これはこれは、私に隠れてどこかへお出かけになっていたグラキエス様ではないですか。私を召喚などして、一体いかようですか?」
「……しらじらしいな」
 グラキエスは嘘臭い喋り方で話すエルデネストに悪態をつく。エルデネストの手には『悪魔の妙薬』という、グラキエスの魔力暴走を抑える薬が握られている。どうやら、グラキエスが暴走することまで、すべてわかっていたようだった。
「助けが必要ですか?」
「……ちっ。ああそうだよ、助けてくれ」
 グラキエスの答えに、エルデネストは満足げな笑みを浮かべた。後で何を要求されるかと思うと、グラキエスは素直に喜べなかった。
 エルデネストから薬をもらい、それを飲むと、グラキエスはエルデネストの肩を借りて立ちあがった。
「ですが、グラキエス様。誰にも言わずに、どこかへ行かれては、心配しますよ」
「嘘つけ。お前がそんなことを心配するようなタマか」
「いえ、私ではなく……」
 エルデネストが呟くと、次の瞬間、
「――主ぃいいいいっ!」
 洞窟の中に、グラキエスを慕うアウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)の声が響いた。
「ええい、骸骨どもめ! 俺は主を見つけ出さなければならんのだ! そこをどけぇえええっ!」
 そんな声が響き、骸骨たちがバラバラに砕ける音が響いた。スキル『強化光翼』のスピードをのせた『ランスバレスト』を使ったアウレウスが、骸骨たちを粉砕しながら、グラキエスのもとへ駆けてきていたのだ。
「あ! 主! やっと見つけましたよ! ダメではありませんか、勝手にひとりで消えたりしたら……って、エルデネスト! お前が何で私より先にいる!」
 エルデネストを指さしながら、アウレウスは彼を睨みつけてくる。それを見て、クスクスとエルデネストは笑みを浮かべた。
「どうです、グラキエス様? 心配する者は確かにいたでしょう?」
「……ああ、すまなかった」
 グラキエスは素直に謝る。それに結構だと呟き、エルデネストは主の肩を持ち直した。
「さて、いつまでもこんなところにいても仕方ありません。帰りましょうか」


 洞窟の最奥に近い部分まで、マキたちの救助部隊は潜入していた。現在、連戦をしてきたマキの警護の人間たちは、休憩をとっている。その中に、赤羽 美央(あかばね・みお)魔鎧『サイレントスノー』(まがい・さいれんとすのー)もいた。
「マキさんが怪しいって……どういうことなのですか、サイレントスノー?」
 美央の質問に、サイレントスノーは確かな力で頷いた。
「はい。私には、マキ様のチカ様への執着が『友達だから』という理由にしては、いささか不自然に感じられます」
「……うん。言われてみれば確かに、マキさんの反応は、過剰すぎる気がしますね」
 サイレントスノーの言葉に、美央も頷く。いくら友人とはいえ、見つけた瞬間に救助隊の誰よりも先に走りだすマキの行動は、自然とは言えない。
「どうでしょう、美央? 私の『嘘探知』で、彼女を探ってみては?」
「……いいわ。試してみましょう」
 そう告げると、美央は傍らにサイレントスノーを引きつれて、マキへと近づいた。それにマキの様子を見ていた雅羅が顔をあげる。
「どうかしましたか、美央さん?」
「いえ。ちょっと、マキさんに聞きたいことがありまして。……マキさん。ちょっといいかしら?」
「……何ですか?」
 不安げな表情のまま、マキが美央のほうを向く。美央はサイレントスノーに目で合図し、『嘘感知』のスキルを発動させた。それを確認した上で、美央は顔をマキのほうへ向けた。
「マキさん。貴女、まだ何か私たちに話していないことはありませんか?」
 美央はストレートに質問をぶつける。その問いかけに一瞬、チカの表情が曇った。
「な、何ですかいきなり? 私は、知っていることは全て話して……」
「では、改めて聞かせてください」
 ひと呼吸置き、美央はしっかりとチカの目を見て、その質問をした。
「貴女がここにいる目的は、チカさんの救出で間違いないですよね?」
「も、もちろんです! 私は友達のチカを助けるためにここへ、」
「――嘘ですね」
 ぴしゃりと、サイレントスノーの声が響く。その声に、その場の全員が凍りついて、マキたちのほうを見つめていた。
「どんなにうまく嘘をつこうと、私には、ごまかせませんよ、マキ様?」
「ど、どういうことなの?」
 事態が理解できずに困惑する雅羅の肩に、美央が手を置く。そして、さりげなく雅羅をマキから離した。
「つまりこういうことですね。マキさん……貴女の目的は、チカさんの救助ではありません。それ以外の目的がある。それは一体……」
 美央がさらに事の真相を追求しようとしたその時だった。雅羅が海との連絡用に所持していた無線機から音が響いた。
『――こちら、高円寺海っ! 救助部隊に参加している全ての者たちに連絡する!』
 いつになく慌てた様子の海が無線越しに告げたその言葉に、一瞬でその場は騒然となった。



『「マキ」という名の少女は存在しない! マキを名乗っている例の少女こそ、チカたちを襲い、骸骨を操っている元凶だっ!』