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死骸の誘う暗き穴

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死骸の誘う暗き穴

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【二章】

 チカ救助隊の参加者たちが、あふれ出る骸骨たちと死闘を繰り返しているその頃、アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)と、相棒のアリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)は、蒼空学園のとある教室にいた。
「……ネーネー、アキラ? アタシたち、なんで教室掃除してるノ?」
 そう言いながら、アリスはせっせとモップを動かしている。アキラも箒とちり取りを左右の手に持ち、せっせと教室の清掃に努めていた。
「だってさー。海のやつ、掃除当番なのに、救助に行っちゃったからさ。誰か掃除しないとダメだろ?」
「だからっテー、わざわざ他校の教室を掃除しなくテモ……」
 そう呟きながら、アリスは顔をしかめる。だがそれ以上、なにも言わなかった。アキラの行動がおかしいのは、なにも今日に始まったことではない。
「今頃、みんな大変だろうな〜」
 そんなことをアキラはひとり呟く。洞窟の中を探索している皆のことを考え、箒を動かす手が止まる。
「洞窟から救助するのッテ、そんなに大変ナノ?」
「うんにゃ。普通の洞窟なら、大したことないぞ。けど、今回はすごい数の敵がいるって話だからな」
 それはきついだろうと、アキラは苦笑いを浮かべながら、告げる。
「そろそろ救助隊も、洞窟の奥まで進んでる頃だし……今頃、骸骨の群れに襲われて、みんなピンチになってたりして」


「――急いで! 早くこっちに!」
 アキラの投げやりな予想は、悪いことに的中していた。
 洞窟内の戦闘は、奥に進むにつれて、激しさを増してくる。マキを警護する一団も、あまりの敵の多さに、防戦一方の状態だ。
「陽子ちゃん!」
「はい! いきます!」
 緋柱 透乃(ひばしら・とうの)が叫び、相棒の緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)が応じる。そんな透乃たちの前からは、夥しい数の骸骨たちが襲いかかってきていた。
 だが、陽子は逃げない。迫りくる怪物たちと対峙し、そのか細い指先に全神経を集中させる。
「……ファイアストームっ!!」
 掛け声とともに、陽子の手から火炎が生まれる。火炎は一瞬にして膨れ上がり、正面から襲いかかってきた骸骨の群れを飲み込んでいく。高熱を放つ火炎の嵐に包まれ、あれだけいた骸骨たちは一斉に消し炭と化した。
 だが、まだ敵はいる。陽子のファイアストームから逃れ、陽子を危険視した怪物たちは皆、陽子を狙って迫ってきた。
「陽子ちゃんに、近づくなぁああっ!」
 陽子へ向かう骸骨の残党を、透乃が迎え撃つ。全身をスキルで強化し、迫りくる骸骨を撲殺していった。
「やっちゃん! 陽子ちゃんをお願い!」
「まかせな」
 透乃の声を受け、霧雨 泰宏(きりさめ・やすひろ)も構える。透乃の拳打から逃れて、陽子のほうへと迫る骸骨に向かって手を伸ばす。
「――バニッシュ」
 呟くようにスキルを唱え、泰宏の手から神々しい光が放たれる。その聖なる光を受け、骸骨たちはピタリと動きを止めると、そのままガラガラと崩れ落ちていった。
「よぉし! 後は、私だよ!」
 そう叫び、透乃は突き進んでいく。拳に炎をまとわせ、次々と骸骨たちを破壊していった。
「あー、もうっ! 歯ごたえないなぁ。もっと強くなきゃ、倒しても面白くないよ!」
 そんな愚痴すら漏れた。
 だがそこへ、他の骸骨より、ひとまわり大きい骸骨が数体現れる。それを見つけ、透乃の目はキラッと光った。
「……へー。少しは、楽しめそうだね」
 楽しそうに指を鳴らしながら、透乃は骸骨に向かっていく。そんな相棒を遠目で見つめながら、陽子と泰宏はため息をついた。


 透乃たちが骸骨たちの一団を相手にしているものの、それでもマキたちの周囲には、なおも骸骨たちの群れが襲いかかってきていた。
「――きゃああっ! お、おば、お化け! お化けがあんなにいっぱいっ!」
「お、落ち着いてください、雅羅様!」
 怯える雅羅をセシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)がなだめる。しかし、雅羅は涙目でイヤイヤと首を振っていた。その雅羅に抱きつかれているマキも、不安げに震えている。
 無理もない。お化けが嫌いな雅羅の背後には、百匹ちかい白骨がカタカタと音を立てて、迫り来ているのだ。中には、死肉が肌にこびりつき、未だに白骨化しきれていないゾンビのようなものまでいる。そのグロテスクな姿には、お化けが怖くない者たちも、怖気が走った。
「……このままじゃ、まずいですわね」
 セシルは雅羅をなだめるのを諦めると、ちらりと後ろを睨みつけた。背後には、圧倒的数の怪物がいる。
「しかたないですわ」
 ピタリとセシルの足が止まる。その行動に、雅羅は目を見開いて驚いた。
「せ、セシルさん! い、一体どうする気ですか!」
「雅羅様、マキ様たちは、お先に進みください。ここは私が、時間を稼ぎます」
「で、でも! あんなに数がいるのよ! とてもひとりじゃ」
 雅羅の言う通りだった。いくら弱い骸骨でも、あれだけの数をひとりで相手にすれば、危険である。しかし、セシルは口元に挑戦的な笑みを浮かべ、首を横へ振った。
「いいから、行ってください。私は大丈夫です。この程度の敵に、後れを取ったりしません!」
 そう告げ、セシルはスキル『鬼神力』を発動させる。全身に力がみなぎり、その力で鈍器『スマッシュアンカー』を持ち上げた。
「雅羅さん、彼女の言う通りにしたほうがいいですよ」
 未だに迷っている雅羅に、マキがそう告げる。だが、雅羅は困惑した様子で、どうしたものかとキョロキョロしていた。
 それを見て、マキが雅羅の手を掴む。そのまま、雅羅の手を引いて、セシルから離れていった。
「ま、待ってマキさん! セシルさんが! セシルさんがっ!」
 そう叫びながら、雅羅はマキに連れられて行った。
「……行きましたか」
 そうひとり残ったセシルは呟くと、敵のほうを向く。骸骨たちはもうすぐそこまできていた。スマッシュアンカーの鎖を掴み、セシルは狭い洞窟内、器用にアンカーを振り回した。
「さあ……いくらでも来なさい! 骸骨の百匹や二百匹程度、軽く吹き飛ばしてさしあげますわ!」