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死骸の誘う暗き穴

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死骸の誘う暗き穴

リアクション

「それじゃあ、その人型に化けられる骸骨ってやつに、チカちゃんは襲われたんだね?」
 洞窟の出口付近を沢川 透(さわがわ・とおる)は、チカを連れて歩いている。まずはチカを安全なところへと、洞窟からの脱出させる役を買って出たのだ。
「……はい。この洞窟の中で、知らない女の子に『私の友達が怪我をしているから手を貸してほしい』って言われて……」
「ところが、チカさんが向かった先には、怪我をしている友達などおらず、人間の姿に化けることができる化物が率いる、骸骨の群れがいたと」
 透の相棒である白姫 カナタ(しろひめ・かなた)の言葉に、チカは震えながら頷く。その肩を、カナタが優しく支えた。
「アレは、あいつらの手なんです。私みたいに人間を騙して洞窟の中に誘い込んで殺そうとするんです」
「なるほど。そうやって、いままで言葉巧みに人を洞窟の中に誘い込んでいたのかぁ」
 ふむふむとひとり頷く透。そして、震えるチカの手を取り、グッとその目を見た。
「でも大丈夫だよ、チカさん! ここまで来たら、もう安全だから。それにいざとなれば、ボクがチカさんを守って……あたっ!」
 透がチカに必要以上に近づいたのを見て、カナタの鋭いデコピンが透の額を捉えた。バチンといい音を立て、透は涙目でうずくまる。
「いてて……何するんだよ、カナタぁ」
「別に何でもありません。ただのお仕置きです」
 フンと鼻を鳴らし、カナタはそっぽを向いてしまった。そんなカナタに、透はブーブーと文句をたれている。
 その間も、チカは不安げに背後の洞窟内を見つめていた。
「――皆さん、気をつけてください」
 そんな、チカの言葉は、闇の中にのまれていった。


「――……あーあ。もう少しだったのになぁ」
 大きくため息をつき、マキが顔をしかめる。その姿は、今までのような、弱々しい少女のものではなかった。
「せっかく久しぶりに、たくさんのご馳走にありつけると思ったのに……台無しだ」
 そう告げると、マキに変化が起こった。小さい身体が突如、ムクムクと膨れ上がり、まるで全身が腫れたようになる。一瞬にしてマキの身体は、巨大な肉の塊と化した。
「き、きゃああっ!」
 現れた怪物に驚き、雅羅は慌てて、マキだったものから離れる。そんな雅羅の動きを見て、醜い肉の怪物はぐっぐっぐとくぐもった笑い声らしきものをあげる。
「なるほどね。それがあなたの、本当の正体ってわけね」
『……誰だ?』
 肉の怪物の口が動き、聞きとりづらい声を出す。
 そんな怪物の背後に、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)のコンビは立っていた。
「私が誰ですって? ふっ……私はただの通りすがりの美少女ビキニ戦士――セレンフィリティ・シャーレットよっ!」
 ビシッと完璧なポーズで決めたセレンは、肉の怪物相手に不敵な笑みを浮かべる。それをセレアナは呆れた表情で見つめていた。
「……まぁ、この子の発言はさておき」
 コホンと咳払いして、セレアナは視線を怪物に向けた。隣では『何で無視なのよ!』と必死にセレンが抗議していた。
 そんなセレンを無視し、セレアナはさらに話を進める。
「貴方の目的は何? こんなところに私たちを誘いこんで、一体何がしたかったの?」
『ふふっ……私の目的は、餌だよ。貴様らのような善人面した連中をおびき寄せ、大量の骸骨で動けなくなるまで疲労させてから、ゆっくりとその肉を喰らう』
 怪物の目的は、おびき出した生徒たちを喰らうことだった。そのために、この怪物は人間の姿に化け、人を洞窟に誘いこんでいたのだ。誘いに乗った者たちは、洞窟の中で無数の骸骨に襲われ、疲弊したところを、この怪物に喰われてしまう。
『しかし、今回は貴様らが疲弊しきる前に、正体がバレてしまった。本来なら、もう少し、私の骸骨たちが貴様らの体力を奪っているはずだったのだが……まったく、おしい』
「つまり、ここにいる骸骨たちは貴方が操っていて、貴方を倒せば、みんな動かなくなるってこと?」
『ああ、そうだ。もっとも、そんなことはできるはずがないだろうがな』
 お前らはここで死ぬんだと、自信満々に怪物は告げる。そんな言葉を、セレンとセレアナは顔を見合わせて、クスクスと笑った。
「へー。言ってくれるじゃない」
「長広舌御苦労さま。聞きたいことは聞けたわ。後は、貴方を倒すだけね」
 言うと二人は武器を構える。
 それに怪物は、ぐははっと笑った。
『面白い! できるものならやってみるがいい。……ただし、』
 にたりと笑うと、怪物がぼそぼそと呪文を唱える。それに応じて、怪物の足元が隆起した。白い骨の腕があちこちから生え、地中から骸骨たちが出現する。
『こちらのほうが数は上だぞ?』
 怪物は嗜虐的な笑みを浮かべて、自身の優位を確信した。しかし、次の瞬間、どこからともなくオカリナの音が響いた。
『……何だ? この音は?』
 怪物を含む、その場の全員が周囲を見回す。全員の視線の集まる先には、銀星 七緒(ぎんせい・ななお)が立っていた。オカリナを吹くその横には、パートナーのルクシィ・ブライトネス(るくしぃ・ぶらいとねす)絹織 甲斐子(きぬおり・かいこ)も立っている。
「……お前が元凶らしいな」
 七緒の冷たい言葉が、怪物に告げられる。その挑戦的な視線に、怪物は苛立たしげな表情で七緒を睨んだ。
『ちっ! 次から次へと。しかし、骸骨はまだまだいくらでも……』
「そうはさせないわよ」
 ふたたび呪文を唱えようとする怪物へ、甲斐子が告げる。当時に、サイコキネシスで周囲の石を浮かせ、額の第三の眼から熱光線を放ち、怪物の行動を封じる。
「くすっ……これ以上、魔法なんて使わせないわ」
『ぐっ!』
「残念だったな。骸骨を使って、俺達を蹂躙するつもりだったようだが……今度は、お前が俺たちに蹂躙される番だ」
 不敵にそう告げ、七緒は敵を睨んだまま、ルクシィに話しかけた。
「……ルクシィ、ルクセイバーを使う」
「はい……って、ええっ!」
「? どうした。早くしろ」
「あ、いや、それはそのぅ……は、はぃ」
 七緒の言葉を受け、ルクシィは顔を真っ赤にする。そのまま、顔を背けつつ、七緒に胸を差し出した。
 七緒は躊躇せず、その胸に手を当てる。
「んっ……ぅ、んぁあっ!」
 ルクシィの口から甘く艶っぽい声が上がった。それが治まると同時に、七緒の手には十字架型の聖光剣『ルクセイバー』が握られていた。
 それを構え、七緒は怪物と対峙した。
『くそ……まあいい。骸骨は召喚した分だけでもまだかなりの数がいる。ゆっくりと痛めつけて、苦しみながら私に喰われるがいいっ!』
 怪物の怒号は響き、最後の決戦の幕は切って落とされた。


 真の敵が判明し、体力の残っている者たちは、一斉に怪物のいる方向へ進撃していった。
「消えなさいっ! 『アシッドミスト』!」
 御凪 真人(みなぎ・まこと)も、そんな元凶のところへと向かうひとりであった。『アシッドミスト』のスキルを使い、正面から容赦なく出現する骸骨たちを溶かしつくしていく。
「さすがに、厳しいですね。今まで以上に、敵も必死です」
 そう真人は呟き、額の汗を拭う。敵も必死らしく、今まで以上の猛攻を見せてきていた。さてどうするかと、真人が顔をしかめていると、
「――真人、危ないっ!」
 相棒のセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)が声をあげる。強化光翼とバーストダッシュの加速力を加えたランスバレストの突撃で、真人の背後から迫ってきていた骸骨たちを蹴散らした。
「余所見してるんじゃないわよ!」
「すみません、セルファ。助けていただきましたね」
「っ! べ、別に! そんなの……ぱ、パートナーなんだから当然じゃない!」
 自分に素直になれないセルファは、プイッと顔を背ける。それにあははと笑いながら、真人は正面を見た。