リアクション
終章 芸術の魔神
その後、街の修繕の為に住民が奔走したことは言うまでもなかった。
契約者たちの素早い対応のおかげか、幸いにも死傷者はほとんどでなかったが、建物の被害は当然のごとく残っている。アムトーシスの芸術家たちも、しばらくはその器用な腕を振るって修繕作業に当たることだろう。
そしてシャムスたちは――
「エンヘドゥがバルバトスに奪われた。となれば、バルバトスの治める街、メイシュロットにいる可能性が高い」
エンヘドゥ奪還に向けて、足早に動きだそうとしていた。
誰もが焦りや無念を感じていたが、それを表に出す者はいなかった。たとえ焦り、無念を悔やんだとて、それがエンヘドゥを助ける術になるはずもないことを理解していたのだ。
それに、朝斗や正悟にとっては――それ以外にも考えうることがあった。
(わざと……か?)
自己犠牲の強いエンヘドゥのことだ。もしかすれば、彼女の言っていた自分の出来ることをやろうとしている結果なのかもしれない。
気づけば、彼女の世話係をやっていた雲雀とカグラの姿もない。
カグラはバルバトスの部下を自任していたのではないか……?
「しかし、ベルゼビュート城という可能性も……」
会議に参加している小隊長の一人が、ぼそりとそう呟いた。
確かに、その可能性も捨てきれない。魔神たちの長はあくまでもパイモンだ。バルバトスがエンヘドゥを攫って、パイモンのもとに連れて行ったということも考えられる。
しかし、あの用意周到なバルバトスがそんなことをするだろうか? 彼女は実に狡猾な女だが、それは裏を返せば真に信用しているのは自分だけということでもある。人質は目につく場所に置いておくのではないだろうか?
「ボクはメイシュロットにいると思うよ」
と――会議に意見を放り込んだのは、聞き覚えのある声だった。
全員が振り返ると、そこにはアムドゥスキアスがいた。
「使い道が決まっていれば話は別だけどね。今はまだ画策を続けている段階だとすれば、目に見える場所に置いて思う。あの人なら」
「アムドゥスキアス……」
「どうしたの、シャムスさん?」
「何のつもりだ?」
「…………」
アムドゥスキアスは目をぱちくりさせた。
「協力しようとしてるんだけど?」
「…………」
怪訝そうな視線。唖然とした視線。睨む視線。契約者たちの数々の視線を受けて、アムドゥスキアスはため息をついた。
「信用できないのは仕方ないけどね。でも、ボクだって責任を感じてないわけじゃないんだ。あのときも言ったけど、ボクらは芸術大会に負けたんだよ? だから、賞品はちゃんと優勝者に渡す義務がある。おかしいかな?」
詭弁だ。とシャムスが思ったのはきっと間違いではない。
しかし、頭をかきながらどこか照れくさそうに言うアムドゥスキアスを見ていると、それが単なる詭弁ではないということも感じられた。
「……信用していいのか?」
「うん……って言いたいところだけど、それはシャムスさんに任せるよー。それにここにはたくさんの仲間がいる。ボクが信用されるかどうかは、みんなの判断にも任せるってことだよね」
「し、師匠おおぉぉ! オ、オレ、師匠が仲間になってくれて嬉しいぜええぇ!」
「あつっ!? 暑苦しいよ、もう〜」
無条件で彼を信用している、弟子入り志願者もいるが。
シャムスは仲間たちを見回した。思い思いの顔がある。
サングラスに瞳を隠しながらも、微笑する冒険者。銀色の髪の下で、金の瞳を輝かせて嬉しそうに笑う女の子。同じ名前ながらも、憮然とした表情を崩さぬ青年。四体の人形をちょこちょこと動かして歓迎の仕草をする少女。セミロングの黒髪の下で、柔和にほほ笑んでいるクラリネット奏者。
――そうだな。いまは分からぬが。
とりあえず、彼を信じよう。信じることから絆が始まる。そう教えてくれた、仲間たちがいるのだから。
シナリオにご参加くださった皆さま、お疲れ様でした。夜光ヤナギです。
【ザナドゥ魔戦記】シリーズ「芸術に灯る魂」第2回、いかがだったでしょうか。
今回は予想外のアクションもあって、自分も少し驚いていた部分が多々あります。
しかしそれが逆に面白くもあり、多種多様とはこのことか、と実感させられました。
今回でアムドゥスキアスはシャムスたちの仲間になったようです。
しかしながら、エンヘドゥは再び敵の魔族に攫われてしまいました。
彼女を救うために、ザナドゥと地上の平和のために、そして思い思いの目的の為に。
アムトーシス編を終えた【ザナドゥ魔戦記】は更に大きく動き始めることでしょう。
皆さまの冒険を自分も心待ちにしながら、一緒に歩んでいきたいと思っているところです。
それでは、またお会いできるときを楽しみにしております。
ご参加本当にありがとうございました。