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学園祭に火をつけろ!

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学園祭に火をつけろ!
学園祭に火をつけろ! 学園祭に火をつけろ!

リアクション

     ◆

 その頃、未散、ハル、ルカルカ、ダリルが目指すエースたちの店付近――厳密に言えば保健室前で、フラフラと歩くラナロックの姿があった。
「あぁ…………散々ですわ………折角、私も皆さんと一緒に『ぶんかさい』を楽しもうと思いましたのに…………気付けばもうお昼過ぎなんて」
 見る者全てが同情しそうな程にフラフラな彼女は、しかし聞き覚えのある声に呼び止められた。
「お? そこに居んのはいつぞやのねーちゃんじゃねーか。って、おい、大丈夫か?」
 彼女に声を掛けたのはアキュート・クリッパー(あきゅーと・くりっぱー)である。振り返ろうとしてバランスを崩したラナロックに慌てて手を伸ばし、彼女の体を支えた。
「その窶れ様………そなたまさか、無理な『だいえっと』など………」
「ごめんなさいマンボウさんそれ以上言うとまた貴方の事を撃ってしまうからお願いだから言わないで? ねぇ?」
 ウーマ・ンボー(うーま・んぼー)の一言で、アキュートに抱き抱えられたままのラナロックは、まるで某ホラー映画のあれの様な状態でウーマを見詰めた。
「……………心得たっ!」
「おいマンボウ、いちいち発光しなくていい。まだ撃たれてないから回復魔法は要らんだろうよ」
「確かに――」
「アキュート、この綺麗なお姉さんは誰ですか」
 と、アキュートの後ろから現れたペト・ペト(ぺと・ぺと)は、ラナロックを見上げて訊ねた。
「同じ学校の生徒で、俺の知り合いだ」
「成る程、なのです」
 ざっくりと答えたアキュートに、ざっくりとアキュートの言葉を理解したペト。と、ウーマがアキュートを呼んだ。
「何だよマンボウ」
「そのお嬢さんを何処か横にできる場所へ。それがしが回復魔法をかけてみよう」
「ん、まぁそうだな。そうしてやってくれ」
「心得――」
「光るなよ」
「…………………」
 三人はそのままちかくのベンチにラナロックを寝かせてやり、ウーマの回復魔法を施す。再び意識を失っていたラナロックだったが、ウーマの魔法で良くなった彼女は目を覚ました。
「あら、貴方は――」
「よう。気分はどうだい、ねーちゃん」
「ペトもいるのです」
 自分の上に乗って顔を覗き込んでいるペトにやや驚きながら、しかし体を起こして三人に礼を述べたラナロック。
「ねーちゃん、どうでも良いが、何だってあんなんなってたんだ?」
「アキュートよ。だからそれは、先程それがしが――」
「何かしら、夢の中でたしか同じようなことがあった気がしますわ」
「お嬢さん。わかったからそのトラウマになりそうな物を早くしまってはいただけないだろうか」
「ペトもいるのです」
「………えっと、ええ。見えていますわよ?」
 苦笑しながらウーマに向けていた銃をしまうラナロック。アキュートは特に何という様子もなく、その光景を眺めていた。
「あの、ペトちゃん? 貴女が居る事はよくわかりましたから、もう少し距離を置いていただけますかしら?」
「くっついて取れないのです」
 どうやら彼女、自らの粘毛がラナロックの服にくっついて上手く離れないらしい。故にペトは、ラナロックが意識を取り戻してからも彼女の顔の目の前、随分と近い位置にいる。見兼ねたアキュートがペトを剥がすのを手伝い、何とかペトはアキュートの横に戻る事が出来た。
「それで? 本当のところはどうなんだよねーちゃん」
 漸く本題に進んだアキュートとラナロックの会話を、ペトとウーマが静かに聞いている。
「へぇ、ねーちゃんたち文化祭(これ)で出し物だしてんのか」
「えぇ。今どうなっているのかはわかりませんけれど」
 此処に来るまでにアキュートが買っておいた缶コーヒーを受け取ったラナロックが、タブを開けて一口啜る。
「んじゃ、俺たちも顔だしてみっか。なんなら客引きくらいなら手伝えるかもしれ――」
 アキュートがそう良いかけると、突如として黙っていたペトが口を開いた。
「ペト、歌うのです」
「……………ん?」
「ペト、歌っちゃうのです。寧ろ歌わせて欲しいのです」
「待て待て。どういう話の流れでそうなる?」
「お客さんを呼ぶなら、ペトが歌うと良いのでは。と思いました。と言うか、ただペトが歌いたいだけだったりするのです」
 どうにも要領を得ないアキュートに対し、ラナロックがくいついた。
「ペトちゃんが歌いたいのでしたら、是非とも歌って欲しいですわ」
「良いのかい? 勝手に決めちまって」
「盛り上がれば何でも良いのでは? 私はあくまでも皆様が少しでも『せいしゅん』と言うものを味わっていただければ、と思いますの」
 にっこりと笑ってそう言った彼女を見て、アキュートは思わず首を傾げた。
「ねーちゃん、お前さん………そんなキャラだったのか?」
「キャラ……? えぇ、私常々この様な感じですわよ?」
「……そうかい。ま、細けー事ぁどうでもいいか。なら早速行こうぜ」
 立ち上がったアキュートが、ラナロックに手を差しのべる。
「あら、ありがとうございますわ」
 彼の手を取り、立ち上がったラナロック。と、そのままペトが宙へと浮いた。厳密には――ラナロックにくっついているが故に。
「……………ペト。お前何やってんだ?」
「友情の証の抱擁を交わそうとして、またくっついたのです」
 若干呆れるアキュートに対し、ラナロックが彼女を抱き抱えた。
「これなら安心、ですわね」
「おねーさん、胸で息が出来ないのです」
「あ、ごめんなさい」
「……………………」
 アキュートは言葉を失うが、何だかなぁ、と頭を撫でて先へと進む。と、今までラナロックの方へと向きながら歩いていた彼が正面を向いた瞬間、反対から歩いてきた瀬道 聖(せどう・ひじり)とぶつかった。しりもちをついて倒れる聖と、ぶつかってから漸く聖に気付いたアキュート。
「お、わりぃなにーちゃん。わざとじゃねぇんだ、ちょっとした不注意ってやつでよ」
「………………あ、あぁ。俺は平気さぁ、気にしないでよ……」
 アキュートの謝罪に対し、何処かおどおどした様子の聖。と、その後ろから聖のパートナーである幾嶋 璃央(いくしま・りお)が走って彼らのところへとやって来た。
「ちょっと聖、あんたそんなところで何やって――ひっ!?」
 どうやら余程アキュートが怖かったのか、璃央は小さく悲鳴をあげた。恐らく聖本人も、アキュートの姿を見て萎縮していたのだろう。