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第1章  神社を奉る者


 霜月も去り、師走の季節……なのに。
 件のお宮には人もまばらで、誰も走らず。

「年末になると私の仕事に……となるのですが。
 このような事態は、私としても望ましくはありません」
「確かに……神隠しに遭うような神社では年末も大変そうですね」

 鳥居をくぐり、最初の一言。
 予想以上に人がおらず、安芸宮 稔(あきみや・みのる)は驚嘆する。
 【安芸宮神社の祭神】である稔にとって、お宮さんの評判が落ちるのは由々しき事態。
 安芸宮 和輝(あきみや・かずき)も誘い、速攻で駆けつけたのだ。

「安心して初詣が迎えられるよう、力を尽くします」
「私も関係者ですので、一緒に対策をとりましょう」

 お宮さんの調査をする生徒が揃ったところで、宮司さん達へご挨拶。
 稔と和輝の言葉に、双方ともみな頭を下げた。

「さて、こたびの事件はいささか情報が不足しておる」
「なので早々ですが、地祇伝説について教えていただけませんか?」

 口火を切ったのは、草薙 武尊(くさなぎ・たける)
 このままでは捜査もままならないと、新たな手がかりを求める。
 気持ちは御茶ノ水 千代(おちゃのみず・ちよ)も同じで、伝説にヒントがないかと歩み出た。

「総奉行より配布された一次資料から考えますと、この伝説は葦原島の地祇にまつわる話と推測されます」

 千代の問いに、宮司はゆっくりと口を開く。
 曰く。
  葦原島を創った神が、裏山に生きている。
  10歳前後の子どもにだけ姿を視せ、声を届ける地祇。
  古き時代には、帰宅時に「地祇と遊んできた」のだと言う子どもがあとを絶たなかったらしい。
  しかし、子ども達がお宮さんや山で遊んでいたのは、昔のこととなってしまった……と。
 そして宮司は、件のお宮さんが葦原島で最古の建物なのだということも教えてくれた。

「葦原島少年少女連連続失踪事件……むぅぅ」
(私も真っ当な人生を歩んでいれば、普通にこの子達くらいの子どもがいてもおかしくはない年齢になっちゃいましたね。
 改めて思うと)
「どうかしたかの、千代殿?」
「え、いえ、なんでもありません。
 子どもは国の宝と言いますし、なんとか事件解決の糸口をつかみたいところです」
「そうであるな。
 では宮司殿、協力に感謝申し上げる」

 物思いにふける千代へ、声をかけるグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)
 【チヨライザー】の面々に、聴いた内容を送信して。
 宮司に決意と礼を告げるとみな、捜査のために散っていった。

「子ども達が消えている……一番怖いのは、闇ルートに人身売買の可能性ですね。
 可能性は低いですが、子どもというのは闇社会に生きる商人にとって魅力的な商品ですからね」
「ま、原因がなんであれ、俺達のすることは変わらないさ。
 ヒーローの基本の1つ……出番待ちまでひたすら堪え忍ぶ!」

 龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)の心配にうなずきながらも、瞳は揺るがない。

「変身!」

 カードがスロットされた籠手は、高く空へ。
 ケンリューガーの姿で、武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)は現れた。

「鼻の下を伸ばさないでくださいね……変身!」
(魔鎧状態になるのは全然構わないのですが……なんで、服が脱げるのでしょうか?
 困ったものです)

 ちょうどいあわせた匡壱に、びしっと忠告。
 魔鎧へと姿を変える灯は、牙竜を守る盾となる。

「子どものピンチだ!
 神出鬼没の正義のヒーロー、ケンリュウガー剛臨!」
(しかし地祇か……子ども達と遊んでいて時間を忘れたのか?
 遊びに夢中になるのに、地祇も子どもも関係ないだろうし……話せばわかってくれると思いたいが)

 決め台詞&決めポーズが決まったところで、それでも歩み来る参拝客のもとへ。
 正義の味方が助けにきたのだと印象づけ、安心させるために、駆けた。

『みやねぇ、バックアップは任せた!』

 ちなみに現場の状況は、留守番中のパートナー留守番中のパートナーと【PM】のメンバーへ。
 【精神感応】を使うことにより、リアルタイムに伝達している。

「いや、待て……おかしくね?」
「どうした?」

 そうして置いてきぼりの匡壱へ話しかける紫月 唯斗(しづき・ゆいと)、だが。

「なんで俺、天学からソッコーで来てそのまま調査とかさせられてんの?」
「ハイナは気まぐれだからなぁ」
「あの一次調査資料って、俺が用意したやつだよな?」
「ん」
「しかも匡壱からの話を聴いているかぎり、ハイナのやつ、報告ちゃんと聴いてなかっただろ。
 俺、ちゃんと地祇って説明したんだぜ?」

 今回もまた、ハイナの無茶ぶりに振りまわされている模様。
 ハイナと房姫が説明で使い、全調査員が眼をとおしている一次資料も、実は唯斗が絡んでいた。
 ちなみに、一次資料の内容は。。。
  お宮さんの見取図はもちろん、被害に遭った子どもの名や住所までリストアップ。
  さらには裏山の地図まで一緒になったスグレモノ。

「気持ちは分からんでもないが、落ち着け。
 いまとり乱したら唯斗の負けな気がするぞ」
「あーもうっ、まぁ、いいか、ハイナだし。
 とりあえずは子ども達を助けて、事件解決しないとな」

 ということで。
 唯斗のリアルと向き合う強さ値が、また上昇したのである……ちゃんちゃん。

「この神社を中心として、消えた子ども達の家の配置がこう…… んで消えたと思われる時間と……かごめ?」
「なにか分かったのか?」
「アレは……籠目歌……七五三……注連縄……厄払い……地祇……神……」
(あれ、もしかして……)

 いつもの唯斗に戻り、冷静に分析を始めてみる。
 するとなにかが、頭のなかでつながったようで。

「お宮に注連縄で囲われた場所とかないかな?
 ちょっと探してくるぜ!」
「おうっ」
「ふむ、なにかの魔方陣でしょうか?」
「え、あぁ、これは唯斗が書き残していったものだな」
「神社というモノは、魔法が絡むと途端に面倒な代物になります。
 なので、かつてからそういう仕事をみてきた私からすれば、ただで済むとは思えませんね」
「とにかくも、あまり無理はしないことですね。
 力のバランスが崩れていると思われる境内で大暴れすると、大変なことになりますから」
(ただ……人為的なことならいいのですが……)

 行ってしまった唯斗が、地面へ記した推理ノート。
 覗き込む和輝と稔の2人は、神ではなく『人』が原因ではないかと推測する。

「そういえば、昔は乳幼児の死亡率が高かったと聞く。
 ゆえに、7歳になった祝いに、こうした社へ札を収めにいく親御が多かったのだとか。
 確かそのような日本の童歌を聴いたことがあるのだが……そして、今回失踪した童は七五三の者であったな?
 むー、なにかありそうな気がするのだ」
「日本は不思議な場所ですものね。
 似ているこの島でも、だからこそ、似たようなことが起きているのかも?」

 考えをめぐらせつつ、ひいた御神籤を神木の枝へと結びつけた。
 グロリアーナと千代のように、息抜きも重要である。
 と、掃除に出てきた宮司のもとへ、千代は走った。

「あのっ……コレは、重要なお話なのですが……」

 ずいっと、宮司へ迫る。

「個人的に、このお宮さんの雰囲気が結構気に入ったんですけど……ここで神前式とかできますかね?」

 最後は声を落として、けれども強い視線で思い切った。

「やりました!
 ありがとうございます!」
(新婚旅行は葦原がいいなあ……40前にはなんとか!)

 一歩下がり、丁寧にお辞儀。
 望んだ結果を得られた千代は、るんるん気分で捜査を再開する。

「まだ少しは、客もいるようだな。
 参拝客を囮にするようで多少気がひけるが、致し方ない」

 『小型飛空挺』に乗り込むと、武尊は地上を飛びたった。
 お宮さんの上空で待機し、事件発生を待つ。