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第8章  真実を識る者


 子ども達と、関係していたと思しき地祇を確保。
 吉報は、瞬く間に捜査中の全生徒達へと伝わった。

「日本の神……同郷の者か!
 お主っ、どこの神じゃ!?」
「っちょ、痲羅ったら!」

 お宮さんへと現れた地祇を前に、天津 麻羅(あまつ・まら)が口を開く。
 自分と同じ、しかも同郷の『神』ということで、いつもの冷静さはどこかへと。
 水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)の声にも、止まらない。
 逆に地祇の方が、驚いて固まってしまっている。

「おっと……ちぃととり乱してしまったのじゃ。
 すまなんだのう」

 頭を下げる痲羅に苦笑すると、少し緊張も解けてきたよう。

「私は、葦原にきましたルカと申します。
 どうぞよろしくお願いします」

 ぴょんっと元気に前へ跳びだし、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は手を差し出した。
 握手を交わせば、もうにっこりと笑顔になる。

「ルカの故郷の日本だと、八百万の神っていってね。
 土地にも自然にも神様がいますよ〜って考え方があるのね。
 神様は、祟りもするけど、祝いも与えてくれる隣人みたいな存在なの」
「なるほど、そうなのか。
 不思議な国だな!」

 日本をまったく知らない夏侯 淵(かこう・えん)は、ルカルカの解説を静かに聴いていた。
 もちろん、日本以外出身の、ほかの生徒達もともに。

「ねね、お名前はなんていうの?
 いまいくつ?
 あ、そうそう、チョコバー、食べる?」

 なんだかテンションも上がっちゃって、地祇を質問攻めにするルカルカ。
 袋入りのチョコバーを、その手に握らせる。

「ルカルカ、もっとゆっくり喋らないと。
 答えられなくて困っているだろう?」
「うぁ、ごめんなさい」
「申し遅れたが、俺は夏侯淵。
 見た目は子どもだが中身は大人だ。
 ま、よろしく頼むな」

 ルカルカをたしなめると、淵は自身の自己紹介。
 だがあまり理解できなかったらしく、地祇ったら首をかしげてしまう。

「ルカルカも淵も、土地神様のおかげで健康に過ごせています」
「それに、今後ますます精進もしていくぜ!」

 気持ちを切り替え、ルカルカは地祇への感謝と報告を述べた。
 淵もまるで、初詣のように誓いを新たにする。
 と、そこへ。

「む、待たせたでありんす」
「あ〜ハイナ、こっちですよ!」

 ハイナが、数名のお留守番役生徒を連れてお宮さんを訪れた。
 呼んだのはルカルカで、2人の仲をとりもちたいと考えての行動である。

「お主ら、子ども達をお願いできるかのう?
 ここに連絡を入れてあるゆえ、連れていってほしいのでありんす。
 ついでに、関係者への連絡は房姫達がおこなっておるゆえ、安心せい」

 お留守番役生徒の1人がハイナから受けとった用紙には、総合病院の連絡先。
 裏山捜査組から引き継ぐと、子ども達を連れて山を下りていった。

「お初にお目にかかる。
 葦原明倫館総奉行のハイナ・ウィルソンでありんす。
 よろしくの」

 普段の様子からは想像できないくらい、きっちりとした挨拶をするハイナ。
 首を垂れる姿に、周囲からは思わず感嘆の声が漏れた。

「地祇とやら、今回の事件の首謀者と見た。
 なにゆえこのようなことをしたのじゃ?」
「ちゃんと話さなきゃだめよ」
「そうじゃ。
 なにか、やむを得ぬ事情でこんなことをやっておったのなら、わしも力になりたいしのう」
「そうそう、だって神様は敵じゃないわ。
 隣人だもの」
「困ったことがあれば俺達が手伝うし、危険は協力して撃退するぜ?」

 ハイナの問いかけを、緋雨、痲羅、ルカルカ、淵と、みんながフォロー。
 すると地祇も、ほそぼそと話し始めた。

『ごめんなさい……ボク、淋しかったんだ』

 その声は直接、みんなの頭のなかに響いてくる。

『だって、みんなボクのところに遊びにきてくれなくなっちゃって。
 昔はここで、鬼ごっこしたり凧揚げしたり、していたのに……」

 地祇の頬を滑る雫……ハイナが、すっと指を添えた。
 流れをせきとめる、優しくて温かい指。

「そうか、それはすまなんだ。
 淋しかったのだな、お主も……」
『うん……』
「だがのう、これだけはわかっておくれ。
 お主が連れていった子ども達の親はみな、お主と同じ気持ちになっておるのじゃ」
『あっ……本当に、ごめんなさいっ……』

 ハイナの言葉が、地祇に自身の過ちを気づかせる。
 声を上げて泣きじゃくる姿は、子ども達となんら変わりなく。

「うむ、気づいたのならよい。
 これからはせぬと誓えるよのう?」
『うん。
 約束する……』
「ということで、今後は妾も遊びに来るでありんす。
 みなも来るのじゃよ」
「えぇ、もちろんよ!」
「いろいろと話したいことも多い。
 喜んで会いにくるえ」

 地祇とハイナで、小指を結んでお約束。
 緋雨や痲羅をはじめとして、周囲にいた生徒達はみな笑顔で首を縦に振った。

「あの……」
「ん、なんじゃ?」

 いい感じの空気に包まれているなか、おそるおそる緋雨が手を挙げる。

「あの、連れていく子どもを選んでいた理由はなんだったのかしら?
 『とおりゃんせ』の歌詞が関係しているんじゃないかと思っていたのだけれど。
 この歌のとおりだとすると、とおれない条件はそれぞれ、往路が『お宮に用がない者』、復路は『渡すお土産がない者』となるものね」

 緋雨は、自分の予想を手振りをつけて説明した。
 こくこくうなずきながら聴いていた地祇は、一言。

『あめ……』

 曰く、子ども達と遊びたかったプラス、千歳飴を食べたかったらしい。
 なるほど……子どもっぽい、単純な理由であった。

「なんだ、可愛いやつでありんす」
「これで無事、事件解決じゃのう。
 地祇よ、お主のことをもっと聴かせてたもれ」

 晴れて暴かれた真相に、ハイナは満面の笑み。
 痲羅もご機嫌で、地祇との話が弾むのである。