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第三章 突撃! 荒野のパラミタ巨大チキン

 雑煮の出汁をとるためのパラミタ巨大チキンを狩りに出た理子を守るべく、酒杜 陽一(さかもり・よういち)は理子に禁猟区をかけ、酒杜 美由子(さかもり・みゆこ)と共に荒野へと出た。
 少し前では理子と小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が雑煮の味付けや餅について楽しそうに盛り上がりながら歩いている。
 が、目的の荒野に辿り着き、前方に巨大チキンを見つけるとぴたりと会話を止め、揃って口元に笑みを浮かべた。
「陽一、あの人数ならどれくらいチキンがあればいいかな?」
「そうですね、この一帯のチキンは巨大ですし2羽もあれば充分かと」
 陽一の返答に理子が満足げに頷いてみせた。
「どっちが先にパラミタ巨大チキンを倒せるか競争だよ、リコ!」
「よし。とどめを刺したほうが勝ちでいいかな?」
「うん!」
 ライバルとしての顔を覗かせる二人に、陽一は念のため確認を入れた。
「美羽さん、俺たちは基本的に理子様をお守りするが……」
 正直なところ理子にあまり危険なことはさせたくない。しかし、あまり窮屈な思いもさせたくないという思いも強く、陽一はまずは理子が好きなように動けるようフォローをすることに決めた。
「うん、分かってる。大丈夫だよ!」
「そうか。じゃあ、スタート!」
 陽一の合図で二人が一斉に飛び出していく。
 陽一と美由子はいつでも攻撃ができる体制で構えつつ、二人の対決を見守る。
 美羽は自分に向かって突進してくる巨大チキンの足元をうまくくぐりぬけ、素早く背後に回りこむ。そのまま攻撃に転じようとするが、チキンの叫び声を聞きつけ集まってきた雑魚モンスターに阻まれ、なかなかチキンに近づくことができない。
「んもう、邪魔しないでよね!!」
 次々と雑魚モンスターたちをなぎ払っていく美羽だが、数だけは多くなかなか思うような攻撃が展開できない。雑魚に気を取られるあまり隙のできた横から、巨大チキンの火の玉攻撃が迫っていた。
「っと!!」
 スキルとアイテムを駆使し炎熱属性の耐性をつけた陽一が飛び出すと、その武器で火の玉をはじいた。
「わわ、ごめんね。ありがとう! でも理子は大丈夫??」
 突然の陽一の加勢に驚く美羽に、陽一は静かに微笑むと頷いた。
「理子様の周囲の雑魚モンスターはなぎ払ってきた。こっちも雑魚は任せて、美羽さんは理子様との勝負に全力を注いでくれ」
「うん!」
 陽一の理子への思いを受け取った美羽は、ライバルとの決着をつけるべく巨大チキンに狙いを定める。そのまま宮殿用飛行翼でパラミタ巨大チキンの頭上に飛び上がると、刃渡り2メートルの大剣型光条兵器を構え、落下の勢いを乗せた攻撃で巨大チキンを文字通り一刀両断した。
 直後、少し離れた場所からも巨大チキンの断末魔が響く。
「あーーーー!! 悔しいー!」
 数秒早く美羽が巨大チキンを倒したことを陽一から聞いた理子は自分が倒したチキンを引きずりながら現れると、そう叫びながらも美羽とハイタッチを交わした。
 二羽の巨大チキンを抱えて広場に戻ろうとする一同の前に、巨大チキン3羽が突如遅いかってきた。
 陽一がとっさに巨大チキンの目の前に飛び出す。しばらく様子を窺っていた巨大チキンだが、陽一がレイピアを構えるのを見ると、突如その嘴を突き下ろしてきた。
 その瞬間を見計らい、攻撃をかわすと同時に武器を捨てた陽一は頭に取り付き強烈な一撃を加えた。
 一瞬ひるんだチキンに向かい、美羽と理子が一斉に攻撃を開始する。
「みなさん、伏せてください!!」
 と、突如上空から響いた美由子の声に、一同は急ぎその場に伏せた。
 攻撃目標を見失い一瞬静止したチキンたちの頭をめがけ、美由子がロケット弾を打ち込む。
 巨大チキンたちは大きな鳴き声をあげると、ふらふらと妙な動きを見せ始めた。
「なんだ?」
「火薬の代わりに、お兄ちゃんにもらったしびれ粉に唐辛子の粉末を混ぜたものを入れたの!」
「なるほどな!」
「え、えげつない……」
 楽しそうな美由子の声に、陽一と美羽はそれぞれの反応を示す。
 美由子の機転で完全に目潰しをくらった状態のチキンはもはや敵ではなく、陽一、美羽、理子それぞれの一撃でとどめをさすことができた。
「5羽も集まっちゃいましたね。これは良い出汁が取れそうです」
「確かにね」
 ほくほくと微笑む美由子に、理子が頷く。
「あーあ。今回はあたしの負けかぁ」
 力を合わせてチキンを運びながら理子がぼやく。
「確かにリコとの勝負には勝ったけど、MVPは美由子ちゃんだよね」
「あらやだ、そんなことありませんよ」
「いや、あれは見事だった」
 共に戦いを終えた4人は、お互いの攻撃や戦略を評価し合いながら、意気揚々と広場の調理班の元へと向かうのだった。