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第四章 それぞれの、雑煮

 今回の雑煮大会のため、多比良 幽那(たひら・ゆうな)はパートナーのポータラカ大雪原の精 エステリーゼ(ぽーたらかだいせつげんのせい・えすてりーぜ)を引き連れ、自家製の野菜を届けにやってきた。
 美しい振袖を身に着けた妖艶な姿でありながら、レンタルの軽トラを運転する姿が妙に板についている。途中、広場でのもち米モンスターの騒動を聞きつけ、巻き込まれないようルートを検討しながら無事に調理班の近くへと車を止めた。
「ここから先は手運びしかないわね」
 車から降り、モンスターたちとの戦いの様子を見つめながらうずうずしていたエステリーゼは幽那の言葉に驚いて振り返った。
 拳法家である自分にとって戦闘はお手の物。むしろ野菜運びよりは戦闘をしたい、その思いを顔中に表して幽那を見るが、さっさと野菜の箱を持たされてしまった。
 慣れない振袖で多少動きにくくはあるものの、もともとが力持ちのためしぶしぶながらも手早く野菜をトラックから下ろしては、調理班に渡していく。
「わあ、この小松菜おいしそう!」
 青々とした野菜を見て、ライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)が声を上げる。
「愛情をたっぷり込めて作った野菜だから、きっと美味しいわよ。あ、人参と大根は飾り用だからこちらにおいて頂戴」
 にっこりと微笑む幽那の隣で エステリーゼが運んだ野菜を黙々と仕分けるリリシウムとラディアータ。ディルフィナがぽやぽやと人参を持っていると、ラディアータがすっと受け取り的確に配置していく。
 ヴィスカシアはそんな様子をじっと見ており、ナルキススは終始ぼーっとしている。
 個性豊かな幽那たち一行に、調理班一同は楽しそうに顔を見合わせた。
 幽那は届けた野菜それぞれの特徴や、調理の際のアドバイスも細かく行い、料理好きの調理班のメンバーと話に花を咲かせるのだった。
 旺盛な好奇心と本好きな性格が相まって、普段から古今東西のレシピ本を読破している雪住 六花(ゆきすみ・ろっか)は、振袖にたすき掛けをして袖をまくった。
「さてと… まずは、お雑煮のダシをとらないとね」
 一度にここまで大量に料理をするのは初めてだ。それでも、皆が美味しく食べられるようにと、ダシだけでも昆布、鰹節、煮干しとバリエーション豊富に用意をしてあった。
 そこに理子たちが到着し、その場で巨大チキンをさばいて六花たちに渡すと、揃って今度はもち米モンスター退治に向かうのだった。
 六花は何個も並べた大鍋に水を入れていき、受け取った鳥やダシの材料を投入していく。
「六花さん、ガラの洗い方これぐらいでいいのかなぁ?」
 メルティ・フィアーネ(めるてぃ・ふぃあーね)の手元を確認し、六花が頷く。
「うん、とても綺麗ね。それなら匂いも出ないわ」
「そっかぁ。良かった」
 そう言うと、メルティはガラを静かに鍋の中に沈めた。
  アイシャにプレゼントした、願望成就の意味がある矢絣の柄の袴とロングブーツの着付けを手伝っていた騎沙良 詩穂(きさら・しほ)が加わり、博識と晩餐の準備のスキルを使いながら雑煮の準備を進めていく。
 ライゼは、次々と届けられる仕留められた餅たちを使い、夏侯 淵(かこう・えん)をからかいながら焼き餅や茹で餅の準備を進めていく。
 ライゼの前には黄粉や餡子、なっとうやおろし、海苔などがところ狭しと並べられていた。
「これ何だ?」
 醤油の中でとけ残ったバターを見た淵が首を傾げる。
「バターだよ。なかなか溶け切らないんだよね」
「俺が混ぜてやるぜ!」
 そう言うなり勢い良くかき混ぜ始めた淵だったが、勢いが強すぎて醤油がはねてしまう。
「わー! ほっぺにお醤油ついてるー。可愛い男の娘ー!」
「男の娘ではない!」
「わわっ!!」
 淵の威嚇射撃を楽しそうに避けるライゼ。しばらく調理場を走り回っていた二人だったが、迫ってくるもち米モンスターの姿に気付き、詩穂と六花、メルティに伝えた。
 詩穂はアイシャを庇うように立つとお下がりくださいませ旦那様とガードラインで援護しつつ、女王の短剣、お引取り下さいませ、真空波などを使い、モンスターたちに的確な攻撃を加えていく。
 メルティもさり気なく後方からの援護を繰り出す。
 弱ってきたところに、すかさず六花が声を上げた。
「火術!」
 見事なまでに調整された火力での攻撃に、もち米にちょうど良い焼き目がつく。
 ライゼたちは思わず拍手を送った。
「ふふ、ありがとう」
 ぐぅ……。
 あたりに広がる香ばしい香りに、誰かのお腹がなり、調理場が笑いに包まれる。
「よしっ、気を取り直してお雑煮の準備をしましょ」
 六花の言葉を合図にみんながそれぞれの担当に戻っていく。
 詩穂は、出汁の取れたスープを少し取り小さく丸めた餅を入れると、息を吹きかけ少し冷ましてからアイシャに「あーん」して食べさせてあげた。
「ねえ、ところでさぁ」
 のんびりとしたメルティの声が響く。
「今更だけど…雑煮って何?」
「ええええええええええー!!!」
 ライゼと淵の叫び声が同時に響いた。
「良かった。メルティさんも私と一緒ですね。私もセレスティアーナさんと理子さんにお話を聞くまで、知らなかったんです」
 嬉しそうにアイシャが微笑んだ。
「もうすぐできるから、実際に見てみたほうが早いかもしれないわね。実は奥が深いから実物を見せながら説明するわ」
 六花の言葉に全員が頷き、調理を再開した。