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リアクション
第五章 雑煮の真実
「つまり、暴れまわるモンスターを倒し、巨大チキンを解体して取った出汁で煮込んで食べる料理ということでしょうか?」
「アイシャ様、一応申し上げておきますが餅つきも雑煮も本来はこんなバイオレンスなものじゃありませんからね?」
周囲を見渡しながら雑煮について確認するアイシャ。そこに近づくモンスターを倒すためエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)と共に調理班の近くまで来ていた宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が慌ててフォローを入れる。
「そうなんですか」
「ええ、もっと落ち着いた食べ物ですから。ここ、任せていいかしら?」
「ああ」
アイシャに答えつつ、エヴァルトに声をかけると、祥子はヴォルケーノ・ハンマーを振り上げ、離れたところで跳ね回るセレスティアーナの元へと駆けていく。
「セレスティアーナ様。フルボッコは兎も角、少しは手伝ってください!」
言いながらチャージブレイクで力を溜めて溜めてスタンクラッシュを繰り出す。周囲への被害を抑えるため、自身の振袖が着崩れを起こすことも構わずモンスターを打ちのめすその姿には、鬼気迫るものがあった。しまいにはギガントガントレットの力も借りて増強された筋力でさらに強力な攻撃を繰り出していく。
様子を見ていた調理班のメンバーからは歓声が上がった。
「オイ、雑煮の主役は餅だ。で、杵と臼でついたつきたての餅はうまい。……ってのに面倒だからって余計に面倒事増やしてどうすんだよコラ!」
「ええい、とりあえずモンスターを倒すのが先であろう! さっさとボコボコに……うわあああああぁぁ!」
ヴェルデ・グラント(う゛ぇるで・ぐらんと)に言い返すセレスティアーナ・アジュア(せれすてぃあーな・あじゅあ)だったが、ヴェルデに腕を捕まえると大慌てで振り払おうとする。だが、力でヴェルデにかなうはずもない。
「後でおしおきだからな」
「いいから離せっ!!」
顔を真っ赤にしてパニックを起こしたセレスティアーナは、そのまま凄まじい勢いで餅をボコりに走り去っていった。
「まったく……騒動の中に東の女王代行あり、ってか。ベトつくだけならまだしも、服に付くとなかなか取れないんだよな……女王陛下らの晴れ着を台無しにするわけにはいかんか」
そう一人ごちると、エヴァルトは迫り来るもち米モンスターを、強烈なアッパーで打ち上げ、浮かせたままで殴りまくる。
袴ではあるが、上は道着風という独特なファッションが見事に雰囲気にマッチしていた。
器用なことに時折拳に水を付け、引く拳もスナップをきかせて練るように殴ると、見事な餅をつきあげてみせた。
「へいお待ち、一丁あがり! 雑煮にせずとも美味いが、下手をすると喉に詰まることもある故、お気をつけて召し上がるように」
それだけ告げると、空京のデパートで買っておいたこしあんやきな粉と一緒に机に置くと、周囲にもうモンスターがいないことを確認し、他のメンバーの元へフォローに向かうのだった。
「まぁ雑煮は食べたいから餅は確保するしかないな」
「あたしも食べたいし、頑張るしかないわね」
ヴェルデの隣で袴をたくし上げながらエリザロッテ・フィアーネ(えりざろって・ふぃあーね)は武器を準備する。
今回は相手がもち米なので武器としては迷わず杵をチョイスした。
「やっぱり水でこねながらじゃないと美味しいお餅にはならないのかしら?」
「ああ? とりあえずぶっ潰せばいいだけなんじゃないか?」
「あなた得意の罠でうまいこと手水の代わりとかできない?」
「そっちのが面倒臭ぇだろ!!」
「そうよね」
「とにかく、とっととぶっ叩きにいくぞ!」
「ええ」
二人は終始真顔で会話を終えると、揃ってモンスターの群れに向かい飛び出していった。
「早く落ち着いてお雑煮を食べたいですね」
モンスターを追いかけながら、上社 唯識(かみやしろ・ゆしき)は隣を走る戒 緋布斗(かい・ひふと)に声をかけた。
唯識の言葉に、お餅が入ったお雑煮のイメージし、緋布斗はホヤホヤと幸せそうな顔になってしまう。
それを見た唯識がにこにこと笑っていることに気付いた緋布斗は顔を真っ赤にして照れた。
緋布斗のお餅好きを知っている唯識は、早くパートナーに美味しいつきたての餅を食べさてやりたいと改めて思う。
普段から体力だけは自信があり、普通の餅つき大会だったらはりきって杵を振り回しているはずだったのだ。日本の実家がわりと古い習慣を大事にするので、餅つきも毎年よくやっていたから慣れている。
あわよくば遠くからでもアイシャの姿も見られたら、というぐらいの気持ちで参加したら、とんだ大騒動になってしまった。
「鬼神力ってやつで、餅つきやってみるか」
「そうですね。僕も頑張ります」
そう呟くと同じことを考えていた緋布斗が同意した。
「あ、でも緋布人は鬼にならないで! 鬼になってしまうと動きが鈍くなるから、それより緋布人は臼の場所にもち米モンスターとやらを追い込んでくれ」
そう唯識に頼まれた緋布人は草履から妖精の靴に履き替えるとライトブレードと伝統パビリオンの盾をかざしてもち米モンスターを追い立てはじめた。
「お餅……お餅……早くいっぱい食べたい……」
言いながらモンスターを追い回す緋布人の姿に微笑みながら後を追う唯識の耳に凄まじい叫び声が聴こえてきた。
「なんだろう……?」
リリィ・クロウ(りりぃ・くろう)は鐘つき棒を手にもち米モンスターたちを広場の隅へと追い詰めていた。
鐘つき棒にパワーブレスで祝福の祈りを与えると、振袖の袖はたすき掛けにし、逃げるモンスターの背後から思いきり殴りかかった。
暴れまわるモンスターが反撃に出ようとした刹那。
「うりゃああああああああああああ!」
飛び込んできたセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が凄まじい勢いでモンスターをぼこぼこにし始める。
「もう少し大人しくすることを覚えなさいよ……」
言いながら、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が猛烈なスピードで手水を行う。
あまりの勢いにリリィは呆気に取られて二人の様子を見守っていた。
「ヒャァァァッッハァァァァーーーーーーーーーーー!!!!」
「もう、セレン! いくらなんでも乱暴過ぎるわよ! もし私の手がケガしたらどうするの!」
気分が乗ってきてしまったのか、裏返った声で叫びを上げるセレンフィリティにさすがのセレアナが強い口調で諭すが、端から見ても聞いちゃいない。
とりあえずリリィは二人が取りこぼしたモンスターたちをバニッシュも交えながら魂と心を込めて逃さずぶっ潰していく。
お互い言葉はなかったが、3人ともがやたら連携の取れた戦いを繰り広げる。
彼女たちが何かを振り下ろすたびにモンスターたちの悲鳴と断末魔が辺りに響き渡った。
「凄い音が聞こえましたが、大丈夫ですか!?」
声を聞きつけた唯識が現場に駆けつけると、女性3人によるモンスターの血祭りが開催されていた。
「あれ? 僕の見間違いでしょうか」
「ちょうど良かった! 5人なら隙間なくモンスターを追い詰められますわ! あなた方、協力してくださらない!?」
「え、鐘つき棒?」
「わたくし、プリーストですもの」
プリーストとは思えない容赦のない作戦に、唯識は一瞬耳を疑った。
リリィの後ろでは相変わらずセレンフィリティが聞いたこともないような発声で叫びながらモンスターたちをボコっていた。モンスターがどんどん餅になってゆく。その戦闘力は見事なものだった。
「ついて潰せばお餅になるというなら立ち向かうまで。今日の糧を得るために!」
「分かりました」
「えええ……」
今日の糧、という言葉に即座に緋布斗が武器を構えなおした。
その説得力はさすがプリーストといったところか。
驚きはしたものの唯識としても早く雑煮大会で緋布人に餅を食べさせたいのだ。協力しない理由はなかった。
「お二人とも、いけますか?」
リリィの言葉に、セレンフィリティとセレアナが同時にモンスターから距離を取る。
緋布斗がうまくモンスターたちを1箇所に誘導した瞬間、唯識とリリィ、セレンフィリティがそれぞれの角度から一斉に餅をつき始める。
すかさず冷静にセレアナが手水を行い、無事すべてのモンスターが餅へと成仏した。
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