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第六章 餅の終焉

 調理場では、届けられた餅を使って急ピッチで料理が進められていく。
 参加者が多いことから、当初は完全に担当を分けて料理を仕上げていく予定だったのだ。しかし、みんなで話しながら料理をしているうちに、イメージしている「雑煮」が多種多様であることが分かった。
「これだけ多くのメンバーが集まったからこそ分かったことですよね。やっぱり料理って面白いですね」
 ベアトリーチェのその一言で、せっかくだから、それぞれが考える雑煮を思い思いに仕上げようという結論に達した。
 出汁までは基本的に六花が担当したが、メンバーによっては出汁から調理を開始する者もおり、それぞれが楽しそうに鍋に向かっている。
 調理場でその様子を見学しているアイシャの元に、袴とメイド服にエプロンという大正風の制服を身に着けた葉月 可憐(はづき・かれん)がゆっくりと近づいてきた。
「アイシャ様、少し座って休憩されませんか? お茶をお点てしましょう」
 和傘と敷物が準備された場所へアイシャを案内すると、綺麗な所作で抹茶を点てる。
「とても美味しかったです」
 静かに飲み干すとアイシャは静かに茶碗を置いた。
 控えていたアリス・テスタイン(ありす・てすたいん)がその茶碗を持ち下がると、今度はいくつもの急須や茶碗を持ってきて可憐に渡す。
「和の味を楽しんでいただきたいと思いまして、様々な茶葉をご用意しました」
「ありがとうございます」
 玉露や梅昆布茶など色々な種類のお茶を少しずつ、丁寧に淹れると簡単に紹介しながらアイシャにすすめていく。
 飲んだことのないお茶や、香りの高いお茶の数々に、アイシャは時折可憐に質問をしながら、嬉しそうに茶の味を楽しんだ。
 可憐の隣では、アリスがそれぞれの茶葉にあわせた適温に茶碗の準備をしている。
 その姿も含め、即席とは思えない立派なお茶会となっていた。

 調理場では、ベアトリーチェが、チキンをメインに出汁をとり、しょうゆ、ごぼう、ニンジン、大根、白菜、油揚とお餅を使った雑煮を手際よく仕上げていく。
 周囲にとても良い匂いが広がってきた。
 涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)は自身の出身地が東京なこともあり関東風の澄まし汁仕立ての雑煮を作ることにした。
 その隣では、ヴァルキリーの集落 アリアクルスイド(う゛ぁるきりーのしゅうらく・ありあくるすいど)が大根と人参を千切りにしていた。
 揃って袖を襷で上げ、料理に専念している。
「わあ、涼介兄ぃの人参と大根、綺麗!」
「せっかくだから、花飾りに切って紅白梅風にしたんだ」
 小松菜を茹でて色止めをし水気を切ってカットしながら答える。
「ねえ、ボクにもちょっと分けてもらってもいい?」
「もちろんだけど……どうするんだ?」
 不思議そうな涼介の隣でアリアクルスイドは千切りにした大根と人参を塩でもんで水気を切り、柚子の果汁と出汁と砂糖、少量の薄口醤油に漬けて浅漬けにする。
「ああ、紅白なますか」
「うん。でね……」
 言いながらアリアクルスイドは盛りつけたなますの上に、先ほど涼介から分けてもらった人参と大根の花飾りを綺麗に置いた。
「わあ、綺麗ですね」
 調理場に戻ってきたアイシャが盛り付けられたなますを見て呟く。
「これだけお雑煮があると箸休め的なものが欲しくなると思って」
「食べるのが楽しみです」
 アイシャとアリアクルスイドを微笑ましく見つめながら、涼介は手を休めることなくカツオ出汁をとり、そこにチキンのもも肉と切った人参と大根を入れて、アクを取りながら火を通す。
 具に火が通ったところで、塩、醤油、酒で味を調える。
 椀に焼いたお餅と小松菜、切ったかまぼこを入れると、その上から具材と汁を入れて柚子の皮をあしらって雑煮を完成させた。
「アイシャも少し作ってみないか?」
 楽しそうな調理班の面々を少し羨ましそうな表情で見ていたアイシャに袴姿の リア・レオニス(りあ・れおにす)が声をかけた。
 アイシャが頷くと、レムテネル・オービス(れむてねる・おーびす)がアイシャに割烹着とエプロンを見せる。
「どちらになさいますか?」
 汚れないようにと割烹着を選んだアイシャに、リアとレムテネルが丁寧な仕草で羽織るのを手伝った。
「髪はこれで括るといい」
 リアが差し出した髪留めでその長い髪をまとめると、アイシャは江戸風の雑煮を作るレムテネルの隣に立つ。
 リアの説明を受けながら雑煮作りを手伝い始めた。
 レムテネルは御椀も箸も色々用意し、少しずつよそいながら色々な種類の食器と雑煮を準備していく。
 木椀には凝縮した出汁に合わせ味噌と丸餅だけのシンプルな雑煮、京風漆器には京野菜を様々に乗せた白味噌、そして江戸風にはチキンに蒲鉾といった趣向を凝らした雑煮をアイシャは興味津々に覗き込んだ。
 食事用のテーブルではザイン・ミネラウバ(ざいん・みねらうば)が丁寧にアイシャの席を準備していた。
 席を整えると、アイシャやリアたちが料理をする姿を記念にと撮影しはじめる。
 もちろん、フラッシュの光で無駄に緊張させたりすることがないよう細心の注意を払った。
「デザートも作ろうか?」
 一通り雑煮の準備を終えると余った餅を見ながらリアが提案した。
 アイシャが頷くとリアは餡子のミニ御萩を作りはじめた。
「アイシャ、餅団子丸めてみるか? 熱いから気をつけてな。丸めたら餡を絡めてくんだ」
 餡が絡んだ餅を並べながらしげしげと見つめるアイシャにリアは「はい、味見」と竹楊枝に刺して作りたての御萩を渡した。
「いただきます……あ」
 隣で自分も御萩を口に入れたリアを見て、思わずアイシャが笑った。
「味見だよ、味見」
 そう言って笑うリアの姿を見て、ザインは心が和むのを感じた。あまりにも楽しそうな雰囲気に思わず写真を撮ることもためらってしまう。
 慌しい調理場の中に、ひと時の穏やかな時間が流れた。