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ダイエット大作戦

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ダイエット大作戦

リアクション

「巻き起こすぜ筋肉センセーション! さあ、君も私も筋肉筋肉ー!!」
「な、何なの、いったい……」
 休憩がてら施設の周りを散歩していた雅羅。寒さに負けず、雄叫びを上げながら筋トレをしていたエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)を目撃。
「お、サンダースさんじゃないですか」
 エヴァルトもまた、雅羅の姿に気付いた。
「指南役に任命されたエヴァルトだ。でもいいのかい? 俺のコーチは筋肉の筋肉による筋肉のためのセンセーショナルなレヴォリューションだぜ?」
 明らかにテンションがおかしい。コーチ役にきて貰っているとはいえ、本当に大丈夫なのだろうかと疑ってしまう。
「そう、一に筋トレ、二に筋トレ! 三、四も同様、五も筋トレ! マッスルの天国、筋肉のヘブンにご招待だ! うおぉ! 筋肉がうなる! うなりをあげる!」
 会話中もずっと腕立てを止めない。このままでは指導も何もない。
「休憩、しないの?」
「休憩? もちろん取るさ。ボロボロになるまでやったらしっかり休む! これがいい筋肉の付け方ってやつさ」
 今度は腹筋を始めだす。完全に一人の世界である。雅羅のこめかみに青筋が立ち始める。
「こうするとしっかり贅肉が落ちる。しかも、その分のエネルギーは筋肉となって凝縮される。なんと素晴らしいことか! まさに筋肉革命だ!」
「私の目的はダイエットよ。筋肉を付けたいわけではないのだけれど?」
「何? ダイエット? もしかして、体重?」
「そのために来たんじゃないの?」
 しばし黙考。
「あー、そんな話もあったっけなー、ぐはっ!?」
 雅羅の手元から、煙が上がった。
「長銃身のバンライトスペシャルをここまで早撃ちするとは……それが、筋肉レヴォリューションの恩恵、だぜ、ガクッ」
「ただの訓練の賜物よ」
 ゴム弾を受けたエヴァルト。結局、彼は何もすることなく、冬のゴッサムの中、気絶した。

「ちゃんと写ってますか?」
 体育館の少し小さめの部屋。
 撮影機材の置かれたそこで、ルイ・フリード(るい・ふりーど)はウォーミングアップをしながらいじけているノール・ガジェット(のーる・がじぇっと)に確認する。
「うぅぅ……」
「どうしたのですか?」
「きついのである、厳しいのである、むさ苦しいのであるうぅぅ!!」
 両手を突き上げわめく。
「何が悲しくてルイの筋肉がピクピクと動く様を直視しなくてはいけないのか! 我輩は泣きたいのであります! 思いっきり泣きたいのであります! 女の子の胸の中で!」
 願望が駄々漏れだった。
「これもセラのためです。堪えてください」
 何とか宥めるルイ。
「私はこの後、予定がはいってしまったのです。セラのためにも撮影を終わらせなければなりません。ガジェットさんが頼みなのです」
 一人は恥ずかしいけれど、皆でやれば恥ずかしくない。そう思って映像という形式を取ったのだ。これを元にセラだけでなく、他の人たちもダイエットを行う。ここで中断するわけにはいかない。
「それをダイエットしているみんなに見せるんだから、女の子に会えるかもよ?」
 そう発言したのはシュリュズベリィ著・セラエノ断章(しゅりゅずべりぃちょ・せらえのだんしょう)
「セラ、来たんですね」
「ルイ一人じゃ映像が味気なくなっちゃうし、ペットを連れてきたわ」
【召還獣:不滅兵団】が姿を現す。
「ルイと一緒に動きながら映像に映って!」
 号令一閃、ルイの動きを模写する鋼鉄の軍勢。
「おお! それっぽくなってきました!」
「それじゃ、撮影だよ」
「さっさと終わらせて、女の子たちのところに届けるのであります」
 先ほどのセラの台詞で、目が生き生きとしている。
 そして、撮影は滞りなく進み、
「――さ、皆さん今日もいい汗をかきましたね? こうして日々あまり使わない筋肉を動かしてあげる事で使用率の低い筋肉もほぐれ、鍛えられ、日常もさらに健やかに過ごせるのです。もしこの映像が欲しいという方がいらっしゃいましたらセラまでご連絡を。映像記録媒体に記録して、贈って差し上げます」
 カメラ目線で呼びかけるルイ。
「撮影終了であります」
「それじゃ、セラは皆に届けてくるよ!」
「我輩もお供するのであります!」
 騒々しく退室する二人。
「良いダイエットを!」
 サムズアップ。ルイの笑顔から覗く歯がキラリッと光った。

【ルイ・フリード −11キログラム】
【シュリュズベリィ著・セラエノ断章 −7キログラム】


 だだっ広い空間。走り回るどころか、「そうだ、野球をしよう」と誰かが言ってもおかしくない体育館内の一室。
「桜井校長」
 静香に呼びかけたのはロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)
「ロザリンドさんもコーチに?」
「そうです。筋力強化……ではなく、ダイエットのお手伝いに」
 一瞬、別の目的が聞こえた気がしたが、ロザリンドは知らん顔で続ける。
「というわけで、メニューとして『パワードスーツ運動』をしてもらいます」
 名前からして、筋力強化な気配がにじみ出ている。
「まずはこれを着てもらいます」
 ロザリンドは自分の装備していたパワードスーツ一式を脱ぐ。
「ここで脱ぐの!?」
「大丈夫です。ちゃんとインナーは着ています」
 ドスンッという音が床を揺らす。
「……今までこれで動いてたの?」
「乙女なら当然です」
 頬を流れる一筋の汗。
「これでしっかり運動しましたら、素晴らしい筋肉……もとい、ダイエット効果が期待できます」
「確かに、そうだけど……」
 自分がこれを着て運動をする、無理無茶無謀の三拍子が頭の中でリフレイン。
「まずはやってみないと」
 そうしないと、何もわからない。
「自分のできること、やれることの中で全力を」
「うん……試してみる」
 何とか着込んだ静香。だけど、一歩を踏み出すだけで呼吸が荒くなってしまう。
 一式揃っていれば問題なく動かせるのだが、インナーはロザリンドが着ている。故に不具合が生じているのである。
「頑張ってください。目標はこれで室内五周です」
「む、無茶だよー!」
 予想外の鬼教官だった。

【桜井 静香 −7キログラム】

「今後のためにも筋肉をつけないと駄目だな」
 そうアリサに告げたのは斎賀 昌毅(さいが・まさき)だった。
「筋肉はあるだけで相当なエネルギーを消費していくものだ。特にその中でも大きな筋肉はそれだけ消費も大きい。その筋肉はどこかと言うと、体幹(腹・背・臀部・太股)だ! 更にこれらは抗重力筋といって、姿勢維持に重要な筋肉だ!」
「そうなのか」
 眠そうな目を見開き解説する昌毅。目つきの悪さも相俟って、恫喝しているように見えてしまうが、そこは同学のアリサ。別段、臆する風もない。
「よって、アリサにはこの筋肉を鍛えてもらう」
「どうやればいいんだ?」
「難しいことはない。ただおまえは普通に生活してくれればいいんだ」
 拍子抜けの答え。本当にそれでいいのだろうか?
「ただし! 【奈落の鉄鎖】もよる高重力下でな!」
 やはり続きがあった。
「本当は重力制御装置の付いた部屋で生活してもらうのが一番なんだが、流石にそんなものはないだろ。仕方ないから俺が付きっ切りで【奈落の鉄鎖】を掛け続けてやるよ」
「大丈夫なのか?」
「俺は俺のしたいようにしているだけだ」
「そなたのこともそうだが……」
 アリサは視線を横にずらす。
 膨れっ面のマイア・コロチナ(まいあ・ころちな)がいた。
「マイア、いたのか?」
「『いたのか?』じゃないです。昌毅がアリサを手伝うって言ったから、ボクも一緒に来たんです」
「あー、そういや、そうだったな」
 思い出す。けれど、昌毅はマイアの表情などあまり気にせず、
「それじゃ、早速トレーニングを――」
「ちょっと待ってください」
 異を唱えるマイア。昌毅とアリサの間に割ってはいると、
「アリサも女の子ですから見た目とか気にしますよね?」
「それは、そうだ」
「それなら、ちゃんとした筋肉をつけたほうがくびれとかも綺麗に出ますよ」
「なるほど。そのほうがいいな」
「ですよね」
「だから俺が――」
 笑顔で振り返る。眼前に迫るマイアの顔。
「マイア、近い。笑顔が怖い」
「高負荷のトレーニングは逆に太くなっちゃうんですよ? アリサも、出る所は出て、引っ込むところは引っ込んでいたほうがいいですよね?」
「まあ、な」
「ですから、昌毅が付きっ切りになる必要はないんです」
 本音を漏らすマイア。だが、その機微に気付かない昌毅。
「だからって、協力しないわけにもいかないだろ」
「ふふふ、那由他がいいものを用意したのだよ」
 阿頼耶 那由他(あらや・なゆた)の自己主張が、更に不機嫌顔になったマイアから目を逸らさせる。想いはいつになったら気付いてもらえるのか。
 それはさて置き、懐からビンに詰められたカプセルを取り出す那由他。
「これは極秘ルートから手に入れた『一粒で劇的に痩せるカプセル』で、話によると『痩せすぎてやばい』らしいのだよ」
「やばいって、それこそやばいだろ?」
「これ以上痩せたくない時はこっちの薬を飲むのだそうだ」
 もう一つビンを取り出す。
「……うさんくせぇ」
 その場に居た全員の気持ちを代弁した昌毅。
「中には何が入ってるんだ?」
「中身? サナダ虫の卵なのだよ。ネットで有名な話だから間違いないのだよ!」
「それは痩せるというより、やつれると言うんだ」
 真実を語ったのは毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)
「体調に異変が起きて食欲がなくなって痩せるが、運が悪ければ最悪なこともある。止めておくんだな」
 落胆する那由他。
「成功したらお小遣い稼ぎするつもりだったのだが……」
「それが目的かよ」
 呆れ果てる昌毅。
「それじゃまあ、どうすっかな」
「腹筋をやりましょう。足を地面から僅かに浮かす体勢を維持してもらうってのはどうです?」
「いいのではないか?」
「それじゃ、開始だな」
 マイアの提案に大佐と昌毅は同意し、やっと始まった練習。

【アリサ・ダリン −3キログラム】

「やはり効果が薄いな」
 大佐が呟くと同時、
「アリサさんも、ここにいたんだ」
 へとへとになりながらやってきた静香。頭の上に疑問符を並べた雅羅もやってくる。
「彼はいったい何をしにきたの……」
「雅羅さん」
「あ、静香。それにアリサも」
「三人揃ったか、これは都合がよい」
 眼鏡の端を持ち上げ、位置を正す。
「今まで見て思ったのだが、戦闘行為こそが一番痩せるのに効果的な気がしたのだ」
 確かに、鬼の形相で追いかけた時や、フルボッコにしていた時は運動内容以上に報告数値が高かった気がする。
「僕は運動でも結構痩せてるけど……」
「それは日頃から運動をしていないせいであろう」
「うぅ……」
 単刀直入の言葉。的を射ていて反論できない。
「まあ、後は本人の努力次第であろう。これは餞別だ」
 渡されたのは水筒。
「これは?」
「私の医学と薬学を生かして作った痩身茶だ。運動する前に飲めば効果が上がるだろう。無理せず励むのだな」
 そう残して去っていく大佐。
「これ、どうします?」
「悪いものなのかどうなのか……」
「信じていいんじゃないか? さっき変なものを薦められた時、止めてくれたんだ」
 アリサの一言で三人の意思は固まった。
 それともう一つ、この後のトレーニング内容も決定した。