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第五章 『Desire(欲望)の赴くまま』


 時刻は夜に差し掛かる。
 今までのトレーニングで流した汗。
「流石にさっぱりしたいわ」
 雅羅は合宿所内のお風呂場へと足を向けた。
「運動した後はやっぱりお風呂が大事だよな」
 話し掛けてきたのは猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)
「あなたもお風呂?」
「いや、コーチ役としてきたんだ」
「もしかして、お風呂で?」
 行き先に視線を向ける。すると、不意に視界に入る『混浴』の文字。どう考えてもラズィーヤの謀。
「いや、違う!」慌てて否定。「俺は湯治の経験が何かの役に立つと思ったんだ。やましい気持ちなんてないぞ!?」
 両手を思いっきり振り、顔を赤くする。勘違いされまいと必死。
 流石にその気がないことは雅羅に伝わったのだが、
「コーチにきたんでしょ? 水着を着れば大丈夫よ?」
 逆に誘われる。
「水泳だと思えば、さしたる問題はないわ」
「お風呂は開放的なリラックス空間。そんなところを邪魔しちゃ悪い」
 魅力的な誘いだけれども、丁寧に断る。純情な勇平。好意は一人に向けている。
「わかったわ」
「サウナに入ってゆっくり汗を流せば、血流が良くなって心身ともに緊張がほぐれ、疲れが取れる。そして、明日への英気を養うんだ。そうすれば、もっと効率があがるはずだぜ」
「そうするわ。アドバイスありがと」
「そのためにきたんだ」
「そうだったわね」
 二人笑う。
「それじゃ行ってくるわ」
「ごゆっくり」
 そしてタオル一枚、サウナ室へと入る雅羅。
「いらっしゃい、雅羅さん」
 そこには雅羅同様、タオル一枚姿のイリス・クェイン(いりす・くぇいん)が待ち受けていた。
「お邪魔するわ」
 一言断り、腰を下ろす。その仕草をつぶさに眺めていたイリス。
「ダイエット、しているんですよね?」
「ええ」
「お手伝いします」
「ここで?」
「血流を良くする低周波マッサージです。血行促進は健康にも美容にもいいんです」
 血流という単語に、雅羅は勇平の言葉を思い出す。彼が言った内容をイリスはさらに効果的にしてくれる、そう感じた雅羅。
「お願いするわ」
「それじゃ、横になってください」
 言われ、腹ばいに寝そべる。
「本当に綺麗な肌ね……胸も大きくてはみ出ているし、憎たらしいというか羨ましいというか……」
 プロポーションに嫉妬するイリス。そのせいか、【雷術】を放つ手が吸い込まれていく。
「ひゃあっ!?」
 突然の刺激。しかも、場所は自己主張の激しい部分。
「ごめんなさい」謝るイリス。「我慢、我慢よ。すべては『チュー』のために」
「何か言った?」
「いえ、何も言ってないわ」
 本音が漏れ、咄嗟に出た言葉は素の口調。一呼吸はさみ、
「続けます」
 腰や太ももを中心に【雷術】を当てていく。
「思っていたより、気持ちいいわ」
「……まだ、我慢、まだ」
 イリスの思考を乱すのは、サウナの熱気だけではなさそうだ。

【雅羅・サンダース三世 −4キログラム】


「ふう、さっぱりした」
 一日の汗を流し終えた静香。浴場入り口で雅羅と鉢合わせる。
「静香もお風呂上り?」
「うん、僕は部屋のお風呂に入ってたんだよ」
「さすがヴァイシャリーだ。個室にもサウナが完備してあった」
「アリサもなのね」
 三人の頬は湯上りで上気している。故に、喉がすこぶる渇いていた。
「それじゃ、これだよね」
 浴場入り口に置かれたビンの数々。
 その中から静香が一つ取り、蓋を開ける。
「それは何だ?」
「牛乳だよ。日本では定番なんだ。お風呂上りに飲むとすっごく美味しいんだよ」
 入浴で減った水分。体がそれを求めている。ダイエットのことは、いつの間にか頭から離れていた。
 雅羅とアリサも一つ選んで口に運ぶ。
「フルーツの味がして美味しいわ」
「カフェオレよりも乳成分が多いけど、風呂上りだとさらに美味しく感じるな」
 二人ともから好評を得る。
「だよね!」
 静香も美味しそうに飲み始める。
「静香は何を飲んでいるの?」
 ラベルを確認。
「いちご牛乳?」
「うん、好きなんだ」
 外見からの想像を裏切らない静香。
「これ、今まで飲んだ中で一番美味しいよ。どこの牛乳だろ?」
 発売元は『桐生牧場』と書かれていた。

【桜井 静香 +1キログラム】
【雅羅・サンダース三世 +1キログラム】
【アリサ・ダリン +1キログラム】