リアクション
○ ○ ○ 「あらぁそういえば、優子さんと鈴子さんが一緒にいるのって久しぶり?」 放課後、白百合団員の雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)は、生徒会室に集まった団員たちにお茶とお菓子を振る舞って活動を労っていた。プチお茶会だ。 優子と鈴子に茶を出した後で、リナリエッタは鈴子の隣に腰かけた。 「今日は任命式があったから、こっちに顔を出させてもらったけど、すぐにヒラニプラに戻るんだ」 優子はお茶を飲んで息をついた。彼女はとても忙しいようだった。 「百合園も随分変わりましたわねぇ」 しみじみとそう言って、団員や窓の外を眺めた後で、リナリエッタはこう切り出す。 「これで、生徒会の皆様もこの部屋を離れる……って何だか寂しいじゃないですかぁ? そこで私は考えました」 「何をですか?」 鈴子がカップを置きながら尋ねた。 「百合の次は秋桜の季節。生徒会のOGで集まって、お茶会なんてどうですかぁ?」 リナリエッタは、OG会【秋桜会】の設立を提案する。 政治的な活動はしない、百合園で過ごしてきた女性が集まって、他愛もない話をする、それだけの会だと。 「庶務は私が担当するにしてもぉ、名目上リーダーは伊藤春佳さんか、鈴子さんがいいかしらぁ」 「素敵ですわね」 「合コ……失礼、お茶会の準備ならお任せください」 「ふふ、リナさんは楽しい会の準備、慣れていそうですわね」 鈴子の言葉に頷いて、リナリエッタもにやにや笑みを浮かべる。 「パラミタの百合の園に集った者同士、年を重ねても変わらずお付き合いしましょう……なんちゃってぇ。うふふ」 「興味深い話だが、生徒会のOGってことは、卒業生の会ってことか? 白百合会の役員会……というわけじゃなさそうだし」 優子が疑問を口に出した。役員OG会なら、リナリエッタ自身が対象外ということになる。 「正式な会として活動を行うのならば、パラミタの百合園にどれくらい在籍したものが対象なのか……中学だけでも、短大だけでも対象なのか、白百合会役員と白百合団メンバーだけが対象なのか、在校生は参加出来ないのか、そのあたりも考えてから、皆に提案していみるといいかもしれませんわね」 鈴子はそう言い、卒業生の会なら、代表……というより、顧問は自分より春佳の方が相応しいかもしれないとリナリエッタに答えた。 「うーんそうねぇ」 リナリエッタはお茶を飲み、話をしながら。 こんな時間をこれからも持ちたいと強く思う。 鈴子は3月には百合園を卒業してしまう。 リナリエッタは進路をまだ迷っていた。 まだ皆と……特に、鈴子と一緒に居たいと、こんな時間を過ごしたいと思ていたから。 ○ ○ ○ 教導団に留学中の神楽崎優子は、ヒラニプラに戻る前に、アレナが過ごしている百合園の寮へ立ち寄った。 「キミへの投票は他の皆とは違って、面白いものが多かったよ」 アレナと向かい合ってソファーに腰かけ、優子は穏やかな表情で語り始めた。 「キミが望んでいないからという理由で、不信任とする者が多い中、敢えてキミだけを信任し推す者もいた」 アレナを大切に想ってくれる人がとても多いことを、嬉しく思うと優子は言う。 「だが、『支持が高く飾り物としてはこれ以上ない人物』……そう書いてくる者もいた」 アレナは黙って優子の話を聞いている。 「そして、『校長達に不信感を持っている時点で論外』そんな意見も」 アレナは息を飲んで俯いた。 「キミは静香さんやラズィーヤさんに不信感を抱いているのか? そしてそれを誰かに相談したのか?」 「……知っている人も、いると思います。でも、私は静香さんのこと、好きです、から。それは嘘ではないです」 「ラズィーヤさんのことは?」 優子の問いにアレナは何も答えられなかった。 しばらく沈黙が続き、そして優子はこうアレナに言った。 「アレナ、キミは高校で百合園を卒業してもいいんじゃないかと、私は思う」 「……えっ?」 驚いて、アレナは顔を上げた。 アレナは離宮で封印を行っていたこと、戻ってからもゾディアックに閉じ込められてしまったりと、まともに学校に通えなかったことから、現在もまだ高校生であり、今年3月に卒業見込みだ。 「私は特別な力もなく、特別な血筋でもない、一介の契約者でしかない。シャンバラで成したいことを成す為には、後ろ盾が必要だ。ラズィーヤさんには、上司として全幅の信頼を寄せているが……それ以上の、好意を持っているわけではない。特に彼女がキミにしたことを、心から許せるほど私は淡泊ではない」 だけど、と、優子は話しを続けていく。 「多分、キミがラズィーヤさんに疑問を感じていることの事実を、私はキミより知っている。気づいても、いる」 手を汚さずに十二星華としてアレナを覚醒させようとしたこと。 あのタイミングで、優子には話さずにアレナを離宮から帰還させたこと。 それらは全て、シャンバラの為。 そうシャンバラの為に、アレナを利用するためだったのではないかと。 「それでも、私は自分が利用されているとは思ってない、というより、それならばお互い様だ。私とラズィーヤさんは利害関係が一致しているため、信頼し合っている。……多分」 「多分?」 「うん、ラズィーヤさんが私をどう思っているのかは、よく解らないから」 優子は苦笑しながら、更に言葉を続けていく。 「少なくてもアレナ、キミが彼女に不信感を抱いているのなら、見えていないことがある。一つは、話したように、私とラズィーヤさんは協力関係にあり、決して一方が利用しているわけではないということ。もう一つは、シャンバラが東西に分かれて戦った際。東シャンバラのロイヤルガードを指揮した私や、隊員たちその他の者も一切お咎めがなかったということだ。責任を負ったのは彼女一人、なんだ」 どこまでが彼女の計画だったのかはわからない。 だけれど、その時も。彼女はエリュシオンに服従の姿勢を見せながら、1人、シャンバラのために知略を尽くして戦ってきたのだ。か弱い、シャンバラ人の女性でありながら。 「それで、最近のキミを見ていて思うことがある」 アレナは、宇宙での戦闘を終えた後、少し変わった。 以前より自分の意見を言うようになっていた。 「キミには生まれながらにして、使命がある。地位もあるし、力もある。世界や、大切な人の為に、キミが自らの意思で立つというのなら――私はキミの騎士として、戦っていきたいとさえ思う」 優子の言葉にアレナは酷く驚いた。 「私は、未来永劫、ラズィーヤさんを超えることは出来ないが、キミはラズィーヤさんと対等な立場に立ち、人々を導き、未来を切り開いて行くことも不可能ではない」 そう言って、微笑むと優子は立ち上がった。 「春には留学を終えて、私は百合園に戻り、専攻科に進学する……あまり学校に通っている時間はないだろうけれど。でも、私が百合園生であることは、第二の故郷であるこの百合園と、ヴァイシャリーの守りにもなるだろうから」 アレナは好きにしていいんだよと、と優子は言う。 単純に優子の傍にいることを望むのであっても、短大に通うよりも、ロイヤルガードの仕事に専念した方が、優子と共に歩める時間は増える。 「でも、白百合団も心配だから。特殊班員として残ってほしいという気持ちもあるんだけど」 くすりと優子は笑って。 アレナの頭を軽く撫でた後、部屋を出てヒラニプラへと帰っていった。 優子を見送った後。 アレナは一人で部屋に戻って考えていた。 友達のこと。 百合園のこと、ヴァイシャリーのこと。 シャンバラのこと、世界のこと。女王のこと。 優子の、こと。 担当マスターより▼担当マスター 川岸満里亜 ▼マスターコメント
シナリオへのご参加、ありがとうございました。 |
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