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リアクション
「ティリアさん」
美咲がティリアの傍に戻って来た。
彼女は今日、ティリアを見守りつつ、一緒に子供達の世話を行っていた。
「さっきの男の子、友達と遊び始めたようです。よかったですね」
「ええ、楽しそう。ちょっと気弱そうな子だけれど、その雰囲気が回りを和ませているような気もするわね。またいじめられた時には、助けてあげてね」
くすりと笑い合う。
ティリアは今日、子供達の世話よりも代表としての他校生との親交に重点を置いて動いていた。
彼女の積極的な行動と、団員への指示を見て。
美咲はそっと首を縦に振った。
(ティリアさんは団長に立候補するそうですね。すごくやる気に満ちています)
他の候補者に比べると……厳しい面があるために、百合園生からの信頼は少し足りないかもしれない。
だけれど、それはこれからの活動で付いてくるだろう。
(むしろ、今後の行動で信頼されるようにすれば良いと思います)
団長に必要なのは、大切なのは周りを牽引出来るだけの強い意思力だと、美咲は思った。
そして、責任感だとも。
(ティリアさんの活動方針については、精査すべき点は多いですが……そういう点も周りがティリアさんに協力したり、意見を交わしあって、地に足がついた、より現実的な内容にしていけばいいと思います……)
そんなことを考えながら、美咲はティリアを見守る。
団に自分の意見を述べて、彼女を推そうと。
そして、彼女が団長になった際には、サポートをしていきたいと思っていた。
(でも、風見瑠奈さんからも、すごくやる気を感じるんですよね。仲間のこともとっても大切にしてらっしゃる人……。ただ、団長になることや、改革は望んでないみたいんですけれど……)
美咲は小首を傾げながら、瑠奈のことをも見守っていく。
「次は宇宙帝国と宇宙海賊の戦いの話だな!」
大谷地 康之(おおやち・やすゆき)は、アレナや白百合団の皆と新年の挨拶を交わし、料理をご馳走になった後で。
子供達を集めて、アクションを交えながら地球のヒーローの話をしていた。
「海賊に捕えられた少女達! 金銀財宝と共に売られてしまうその寸前!」
変身ッと、康之はポーズを決める。
「とぉーっ! 屋上から駆け付けた、スーパーヒーローが、ばったばったと悪の海賊を倒して」
何もない空間に、康之はパンチと蹴りを繰り出す。
「少女達を無傷で助け出したんだ!」
そして、傍で見ている女の子の頭を撫でて、笑いかける。
すると、その小さな女の子の顔にも笑顔が広がった。
「ねー、ヒーローは、シャンバラにもいるの?」
「たすけにきてくれるの?」
「おう、シャンバラにも沢山いるぜ〜! けど、事件が多くて、ヒーローは大忙しなんだ。だから簡単には会えないんだ。俺で我慢してくれよー、えいやっ!」
康之が格闘技を披露していくと、男の子を中心に「おおー」「かっけー」という声が上がっていく。
「そのアニメなら知ってるよ!」
布袋 佳奈子(ほてい・かなこ)が、お菓子の入った籠を持ち、テティスと一緒に近づいてきた。
「みんなも、歌くらい聞いたことがあるんじゃないかな。宇宙を平和を守るぞ〜♪ 笑顔の星の種を植え〜♪」
「あ、きいたことある」
「わたしはしらないー」
「それじゃ、私達が歌うから、手拍子お願いできるかな」
「私も良く知らないわ」
佳奈子の言葉にテティスはちょっと困った様子だった。
「それじゃ、この子たちに手拍子の仕方を教えてあげて」
そう微笑んだ後、佳奈子は宇宙ヒーローの歌を歌いだす。
「行くぜ、宇宙ヒーロー! 正義の拳で一撃必殺ッ! でやーっ」
明るく激しい音程のその歌に合わせて、康之がアクションを見せたり、ポーズを見せたり。
「こうして、リズムに合わせて手を叩くの。踊りたい人は踊ってもいいのよ」
テティスは手拍子の見本を子供達に見せていく。
子供達はテティスに合わせて、手拍子を打ち、歌える子はサビの部分だけ大きな声で歌ってみたり。
笑顔あふれる、ミニコンサートになっていく。
「みんなの分の、お菓子と飲み物だよー」
話を聞いて、歌って、笑い合った後。
佳奈子は貰ってきたお菓子を集まっている皆に平等に配っていく。
「康之さんもどうぞ。テティス先輩の分もあるよ」
「サンキュー」
「ありがと」
康之とテティスにもお菓子を渡す。自分の分もちゃんと確保。
「ん? あそこの男の子たちも、みんなと仲良く遊ばないのかな〜?」
ふと、佳奈子は部屋の隅にいる兄弟に目を留めた。
百合園生や多くの人が声をかけているようだけれど、彼らは決して他の子供達と関わろうとしなかった。
「気が向いたら、一緒に歌ってあそぼーね!」
佳奈子は兄弟に大きく手を振っておく。
「簡単には……無理なんだよな」
康之は、兄弟をちらりと見ながら、子供時代のことを思い出す。
彼もこういった孤児院で育った。
子供時代は明るい今とは違って、他者に壁を作っていた。
同じ施設の子供達とも喧嘩ばかりして、脱走をしようとしたこともあった。
「何かきっかけとかがないとな」
無理に仲間に引き入れようとはせずに、康之は集まってる子供達に再び笑顔を向ける。
「さて、今から兄ちゃんが敵! ちみっ子達はヒーローになったつもりでかかってこい!」
言いながら、康之の方から子供達の方に迫っていく。
「きゃー」
「にげろー」
女の子が笑いがなら逃げる。
男の子たちが康之に横から飛び掛かる。
「ひーろーぱーんち!」
「きぃーーく!」
ぽすぽす、子供達の攻撃が康之に決まっていく。
「そう簡単にはやられんぞ〜」
康之は子供を抱き上げてくるぐる回す。
子供達はきゃーきゃー笑い声を上げながら楽しみ、団結して康之にかかっていく。
そして。
ある程度の攻撃を受けた所で、康之は派手に「やられたー!」と派手に倒れる。
「すずらんの平和は皆の力で守られたね!」
「そうそう、力を合わせれば勝てるのよー」
くすくす笑いながら、佳奈子とテティスは見守っていた。
そしてまた、そっと隅の兄弟たちにも目を向ける。
もう一度呼んでみたけれど、やっぱり返事はもらえなかった。
(多分、ただの人見知りじゃなくて、何か大きな理由があるのね)
「喉乾いたね。飲み物飲もうか〜」
そう子供達に声をかけて、一緒に飲み物を貰いに行きながらも、佳奈子は隅の兄弟のこともずっと気に留めていた。
アレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)は、ユニコルノ・ディセッテ(ゆにこるの・でぃせって)達と一緒に、康之の話とヒーローごっこを見ていた。
ユニコルノと一緒に厨房でお茶を飲んだアレナは、5歳くらいの女の子の姿になっていた。
ユニコルノも6歳くらいの女の子の姿に変わっており、子供達に混ざって遊んでいた。
「私達もなにかやります? ヒロインかしら?」
そう言ったのは、藤崎 凛(ふじさき・りん)。白百合団に入団したばかりの少女だ。彼女もまた小柄な7歳くらいの女の子の姿になっている。
「白百合団ごっこがいいな」
ユニコルノはそう言って、メンバーを見回して。
「今日はアレナちゃんが団長さん役です」
「え……っ。団長はむりです」
「やりたくないの?」
ユニコルノのその言葉に、アレナは首を左右に振る。
「むりだから、やれないです」
「ユノも手伝うから大丈夫だよ? でも、イヤならイヤっていってね。ユノはどうしてもイヤなことやダメなことは、ちゃんとダメっていえます。だからアレナちゃん、ユノにはいっぱい我侭いっても大丈夫です」
こくんと、アレナはユニコルノの言葉に頷いた。
「えっと……なにをすればいいのか、わからないです」
「それじゃ、小さな子の面倒をみたらどうでしょう? あの子たち、けんかしそうですわ」
凛が指差す先に、ブロックで遊んでいる子供達がいる。
ブロックが足りないらしく、取り合いを始めていた。
片方の子は、ブロックで飛行機を作りたい。
もう片方の子は、車を作りたい。
2人とも作りかけだけれど、ブロックが足りなくて、完成させることが出来ない
「じゅんばんにつくったらどうですか……?」
歩み寄って、アレナが声をかけるが子供達は首を左右に振って、相手のブロックを奪おうとする。
「それじゃ、じゃんけんでどっちの乗り物を作るか決めたら……」
「やだー! ここまでつくったんだもん、こわすのやだー!」
「ボクはひこーきなんかつくりたくない。くるまのほうがいい!」
互いに譲ろうとはしない。
アレナは困った顔でユニコルノと凛を見る。
「難しいですね……」
「そうですわね。どちらか片方の味方をしてもいけませんし、ケンカ――力で勝った方だけとくをするのもダメですわよね」
凛は少し考えた後。
「写真をとってるおねぇちゃんがいますわ。先につくった方を写真にとって、それからもう1つも作りましょう。先をゆずった方に私の分のおかしをあげますわ」
そう、子供達に微笑んだ。
「じゃ、ボクあとにする」
「オレも、あとのほうがいい。あとのほうがながくあそべるし」
互いにブロックを差し出して、先を譲りだす。
「あの、先につくった方には、私のおかし、あげます。ブロックおわったあと、いっしょにたべましょ」
アレナがそう微笑みかけると、車を作るといった子供が「じゃ、ボクさきー!」と、作りかけの飛行機を受け取って、車を完成させていく。
一先ずほっとして、凛とアレナ、ユニコルノは顔を合わせて微笑み合った。
「だけれど……」
凛はもっと深刻な状況にある子供の存在に気づいている。
そう、隅に居る兄弟だ。
「……アレナちゃん」
ユニコルノがアレナの手を握った。
何かが起きそうだったから。
ブロック遊びをしている子供達を背の後ろに隠しながら、3人は隅の兄弟を見守る……。
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