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新たな年を迎えて

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「ろくりんピックは世界で一番の運動会ネ」
 キャンディス・ブルーバーグ(きゃんでぃす・ぶるーばーぐ)は、子供達と遊びながら……むしろ、遊ばれながらろくりんピックについて説明していた。
「かけっこが得意ならかけっこで、スケートが得意ならスケートで世界一を目指せるノヨ。運動が駄目でも昆虫を育てて競わせたり、昔は絵を描く試合もあったワネ。審判になって1番を決める役もできるワヨ」
「しってるけど、ぼくたちはでれないしねー」
「ねー」
「頑張れば出れるようになるワヨ! 今日来ている人も沢山出ていたワヨ〜。皆と遊んでくれてる、レキや葵やロザリンドも沢山出てたのヨ!」
「ふうーん、すごいおねぇちゃんたちなんだ。でもキャンディスはうんどうもえをかくのも、とくいじゃなさそうだよね!」
「わかんないよ。ころがりたいかいとかあるかもしれないし」
「素直な子たちネ。ミーは選手じゃなのヨ。ろくりんピックを盛り上げて、大成功させるのがお仕事。準備から宣伝、聖火リレー、競技の解説、閉会式、後片付け、全てをこなす、一番偉い人なのヨ」
「ん? よくわかんないけど、エライの?」
「そうなのヨ!」
「ぜんぜんえらそうじゃないよ。へんなかおだしー」
「そんなことないのヨ! って、皆、描きすぎネー」
 キャンディスは子供達に落書きをされてしまていた。
 顔には髭や眼鏡を書かれていて、可愛い?顔が、確かに変な顔になってしまっている。
 ちなみに、今キャンディスが纏っている着ぐるみは、見る人がみればわかる……かもしれない、豪華なろくりんくんの着ぐるみだ。
「でも、皆がデザインした顔が、公式マスコットの顔になるかもネ!」
「ならもっとかく〜」
「あたしもー!」
 ペンを手に、子供達はキャンディスに次々に飛びついてくる。
 そうして贈った人も爆笑しそうなエセろくりんくんに仕上げていく。
「やっぱりろくりんくんは大人気ネ〜。あ、チケットもあるのヨ。これは今日来てくれた各校の要人の皆さんからネ」
 キャンディスはろくりんピックのチケットを子供達に配った。
 チケット代は後程要人に請求予定だ。割引価格で。

「おこさま、あつまりなさい! これからごーじゃすでせれぶりてぃなおしょうがつをはじめますことよ!」
 白鳥 麗(しらとり・れい)は、『ゴージャス』で『セレブリティ』なお正月を子供達にプレゼントしようと訪れたはずだけれど、何故か自分も子供化してしまったせいで、プランが思い出せずにいた。
「こちらにくるのです!」
「なあに?」
 声をかけて、引っ張って、ようやく数人の子供達を集めたけれど……。
「ごじゃすせれぶりってなに!? なにするの〜」
「ええっと……ぐたいてきには……」
 うんうん考えて、麗ははっと思いつく。
「そ、そう! まずみんなで『おちゃ』をのむ『おちゃかい』をするのです! おちゃかいのじゅんびを……」
 麗の言葉に、子供達はブーイング。
「パーティとなにがちがうのー。おちゃばっかより、じゅーすとかおかしがあったほうがいいし」
「つまんなそー」
「つまらなそうとはなんですの! わたくちがきかくしたおちゃかいですのよ! きー!」
 突如、麗は自分より大きな子にフライングクロスチョップ!
「やったなーっ!」
 その子はえいっと麗を突き飛ばす。
「あばれんぼうだー。おさえつけろ〜」
「わたくちのどこがあばれんぼうですのー! むきぃー」
 麗は子供の足にタックル。どすんと子供が倒れる。
「えーい」
「えいっ」
「やー」
 子供達が麗に突進して、乗っかって、重なっていく。
「あー、ぎぶあっぷです、ぎぶぅぅ」
 ぺしぺし、麗は床を2回叩くけれど、子供達はどんどん乗っかっていく。

「はぁ……はぁ……」
 数分後、ようやく抜け出した麗は、晴れやかな笑顔で荒い呼吸を繰り返している子供達に、再び説明。
 今度は鞄の中からとあるものを持ってきて。
「い、いいですの? ……おちゃかいというのは……みんなで『おちゃ』をのみながら『おかし』をたべるのですわ……」
 そうして子供達に、様々な動物の顔をモチーフにした蒸しパン風のケーキを見せる。
「わたくしのもってきた……この『動物顔の蒸しパンケーキ』を……みなさんでいただいて……ご^じゃすなおしょうがつをたのしみますわよ?」
「お、おう!」
「かわいい、おかしだー。ほし〜っ」
「つかれたあとは、あまいものだよね〜、ふぅ」
「のみものほしー! おちゃー」
 パタパタと子供達は給仕をしている百合園生の元に走っていき、お茶を貰って帰ってきて。
 コタツに入ってちっちゃな『おちゃかい』を始める。
「自分もなかまにいれてー」
 コタツに集まっている子供達の姿を見て、ケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)がちょこちょこ歩いてくる。
 慰問に訪れたケイラもまた、小さな子供と化してしまっていた。
「どうぞー」
「はやくはやく」
 子供達は、コタツ布団をめくりながら、ケイラを待っている。
「おまたせー」
 すぽんと入り込んで、にこっと微笑んでケイラもぬくぬく『おちゃかい』に混ざる。
「にがっ……いえいえ、おちゃがおいしいですわ〜」
 麗はすまし顔でお茶を飲む。味覚が普段と違っていて、少しお茶が苦く感じるけれど。
「ところで、しんいりさん。なにかわだいあります?」
「えっ、わだい?」
 麗の言葉に、ケイラはうーんと考えて、皆に聞いてみたいと思っていたことを思い出す。
「しょうらいのゆめとか聞いてみたいな。みんなはなにになりたいの?」
 言って、子供達を見回すと……。
「つよいろぼっと!」
「こっかしん!」
「おかしをつくるひと」
 そんな、元気な言葉が帰ってきた。
「ろぼっとにはなれないんだよ。のることはできるかもしれないけど」
「こっかしんだって、むりむり! かみさまはうまれつきだからね」
「おかしをつくるひとは、いまでもなれるじゃん」
 子供達はパンケーキを頬張りながら、明るく会話をしていく。
「おねぇちゃんたちは?」
 女の子がケイラと麗に尋ねる。
「わたくしは、れきしになをきざむいぎょーをなしとげるのですわ!」
 えっへんと胸を張りながら、麗は言った。
「自分の今のゆめはね……じつは、すたいりすと、なんだ」
 ケイラがそう答えると、子供達は不思議そうな顔をする。
「ふたりともむずかしーことしたいんだね。かなったらおいわいしてあげるね!」
「あたしが、おかしつくるから、おちゃかいしよーね」
 子供達からそんな言葉が返ってきた。
「ええ、おさそいおうけいたしますわ」
「うん、がんばるね」
 麗とケイラはそう答えて、子供達と微笑み合う。
「そうだ、ちょっとまっててね!」
 お菓子を作る人になりたいと言っていた小さな女の子が立ち上がって、厨房へと走っていく。
 少しして、お皿を抱えるように持って、帰ってきた。
「おかしのさしいれー。あのね、さっきクッキーと、パイつくったの!」
 教えてもらいながら作った、パイとクッキーを得意げに皆に配る。
「ありがと。すっごいうれしい!」
 食べることが大好きなケイラは、本当に嬉しそうに手作りのお菓子を食べていく。
 すると、小さな女の子の顔ももっと笑顔になった。

「いっしょにあそぼ〜」
 普通に子供達の世話をしていた志方 綾乃(しかた・あやの)も、いつの間にか、子供化していた。
 深くは考えず、綾乃はコタツのある部屋でごっこ遊びをしている子供達のところに、飛び込んでいく。
「あたしは、こたつごっこしたいな!」
「こたつごっこ?」
「うん、とらわれのこたつひめがいいーっ」
 そう言うと、コタツにインしてしくしく泣き出す演技をしだす。
「あたしは、こたつひめ、こたつからでられないしゅくめい。だれかたすけにきてください」
「よーし、ひめをたすけにいくぞ」
「おー!」
 男の子たちは正義の味方が好きらしく、紙を丸めた武器を持って、コタツ姫の救出に向かってきて。
 見えない敵を倒して、コタツ姫に手を伸ばす。
「さあ、たすけにきたぞ」
「ここからぬけだそう」
「だめなの。まりょくがつよくてぬけられないの。ほら、みんなもー」
「な、なにー」
「ああああー」
 男の子達もちょっと温まろうとコタツに入り込んだ途端、その強力な魔力で虜になってしまった。
 すっぽり頭までコタツの中に入り込んで、コタツの中で遊びだす。
「こたつあそびのあいことばがあるんだよー」
「なになに?」
「こたつこみゅーん!」
「こたつこみゅーん!?」
「こたつこみゅ〜ん」
 コタツ王国に連れていかれてしまった子供達だが、明るい声だけは外の世界に響いていた。

「いらない、いらない、いらないー」
 玩具をぽんぽん投げている2歳くらいの女の子がいる。
「う、う、うええーーん、えーーん」
 玩具を投げつけられた男の子は泣き出してしまった。
「コラコラ……だめよ、なにちゃんかな?」
 慌てて駆け寄ってきたのは、ティリアだ。
「いじわるしたらだめですよー」
 ティリアと一緒に、橘 美咲(たちばな・みさき)も駆けてきて、2人に近づく。
「あー、うー、う〜〜〜」
 女の子――関谷 未憂(せきや・みゆう)は、にこにこ笑顔で突如ごろごろ転がりだす。
「きー、あー、るるー、きゃ、きゃっ」
 まだよく言葉がしゃべれない年頃のようだ。
「元気な子のようですね」
 美咲は泣いている男の子を撫でながら、ティリアを見た。
「そうね」
 と、ティリアが微笑んだ途端。
「きゃははははっ、うー、うー!」
 未憂のごろごろの速度が上がった。
「あっ」
 他の歩いていた子供とぶつかって、子供が未憂の上に尻もちをつく。
「ふぎゃっ、ぎゃー、ぎゃーーーっ」
 未憂はギャーギャー大声で泣き出してしまう。
「おー、よしよし」
 そんなことを言いながら、ティリアは未憂をあやそうと、高い高いをしようとして。
「ふっぎゃーーーー!! ぎゃーーーーー!!」
 余計に泣かれてしまう。
 そして、未憂はティリアの手を逃れて、まだ泣いている男の子の元に。
「あっ」
 美咲が止めるより早く、未憂は男の子の髪を掴んだ。
「うー、うー、かみ、かみ、きゃっきゃっ」
「いたいよぉ、やめてよぉ……」
 その男の子は3歳くらいだったが、未憂にされるがままに、苛められ泣き続けている。
「コラ! 躾けたいところだけれど、他の子を怖がらせるわけにもいかないしね……。そっちの子も、泣かないの。女の子をちゃんと守ってあげられる子になりなさい」
「涙を拭いて、友達と遊んでいてくださいね」
「うう……っ、ううっ」
 泣きながら、男の子はティリアと美咲にこくんと首を縦に振った。
 ティリアと美咲は気づかなかったが、彼は桜井 静香(さくらい・しずか)だ。
「あなたは、あっちで遊びましょうねー」
「あー、うー」
 ティリアは未憂を引き離して、連れていく。
「きゃっきゃっ」
 学生達のところにつれていかれた未憂は、瑠奈の花のかんざしが気になって、椅子によじ登って、手を伸ばして引っ張る引っ張る。
「いたたっ」
 かんざしが外れて、瑠奈の髪がぱらりと落ちる。
「悪戯っ子ちゃんですね。あんまり皆を困らせるようなら、お外でお尻ペンペンですよ」
 にこにこ、瑠奈は笑みを浮かべて未憂を撫でながらそう言った。
「あー!」
 次に、未憂は良く知っている服を発見して、椅子から飛び下りる。
 転んで大泣きしながらも、その服の人物――子供化したリーアの元に這っていって服を掴む。
「りーあ、りーあ」
「ん? みゆうちゃん? あ、あたたたた」
「りーあ、かみ、かみ、りーあ♪」
 そして、髪の毛をぐいぐい引っ張りだす。
「りーあ、りーーーああああ〜!!」
 すごく嬉しそうだ。リーアに懐いているようだった。
「んー。お昼寝させようかしら?」
「やーっ」
 瑠奈が未憂を抱き上げようとするが、するりと未憂は躱して逃げる。
「だいじょうぶ。このこはわたしがめんどうみるから。ホントはまじめな子なのに……いがいだわ」
 涙目でリーアはティリア達に言って、未憂を預かることにした。

 未憂は元の姿に戻った時、今日のことは忘れ去っていたけれど。
 後にリーアに詳しく聞かされたて青くなったという。