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リアクション
「めがね……めがね……」
四条 輪廻(しじょう・りんね)は、隅っこの方で、ヒーローごっこを楽しむ皆をうらやましげに見ていた。
何故か子供化してしまい、普段の伊達眼鏡をかけられなくなってしまった。
眼鏡がないと強気になれない輪廻は、皆の中に入っていけない。
「あ……あの、いっしょにあそぼっ?」
思い切って、同じように隅にいた兄弟のような男の子2人に声をかけてみる。
途端。
「よるな」
ぎっと睨んで、兄の方が輪廻に銃を向けてきた。
「あわわ、え、えっと、えっと……そうだ」
伊達眼鏡は持っていないけれど、子供の頃に使っていた度の強い眼鏡を持っていた。
輪廻は取り出すと、急いで目にかける。
「はーっはっはっは、メガネヒーローリンネマンには銃など効かないのだ!」
途端、輪廻はヒーローごっこを始める。
勿論、向けられた銃は、おもちゃ箱に入っていたのと同じ、モデルガンだと思っている。
「キミたちは悪い奴なのか? ならばかかってくるのだ! リンネマンは負けないぞ!」
眼鏡をかけたからだけではなく、度が強くて全てが歪んで見えているせいで、子供の表情も、銃そのものも良くは見えていなくて、より強気になっていた。
「そうそう、一緒にあそぼーよ。皆一緒のほうがたのしーよー?」
すずらんの子供達と一緒に遊んでいた、子供化した七瀬 歩(ななせ・あゆむ)も、笑顔で近づいてくる。
「そうやって銃のおもちゃで遊びたいの?」
「あそびたくないんだ!」
近づいて背を押そうとする歩に、兄が銃を向ける。
「んー……遊びたくないのか。でも、銃は好きなんだよね。あたしも銃のおもちゃで遊ぶから、一緒にあそぼーよー」
歩は根気よく誘うが、兄弟は首を横に振る。
「どうした、かかってきていいんだぞ。こないのか、それなら俺から……」
輪廻が言うと、兄は輪廻に銃を向け直す。
「くるなっていってるだろ!」
そして大きな声を上げて、銃を両手で握りしめた。
「そんなことしてるから、皆の輪の中に入れないんだぞ」
ため息をついて、近づいてきたのは橘 恭司(たちばな・きょうじ)だ。
輪の中に入り辛くて、2人きりで隅にいるのだろうと考えて。
「くるなっ」
言って、兄は恭司に銃を向ける。
「モデルガンは人に向けたら……」
いけないと注意しようとした恭司だが。
その銃をよく見て気づく。本物の銃である、と。
(まさか、弾は入ってないだろうな……)
慎重に恭司は手を差し出した。
「君たち、それは危ないし玩具でもない。こちらに渡しなさい」
「くるなっていってんだろ、うつぞ!」
「撃ったら取り返しのつかないことになる。もう一度言うぞ。それは、玩具じゃない」
そして、壊したりはしない、預からせてもらうだけだと恭司は続ける。
兄弟は首を左右に振って……弟の方も果物ナイフを取り出して、恭司の方に向けてきた。
「……」
凛は周囲を見回して、白百合団の仲間――殺気看破で注意をしていた円と目を合わせて目配せをした。
「さー、次は山葉のお兄ちゃんが裸踊りを見せてくれるって!」
「え!?」
円は集まっている子供達の興味を引き、場を盛り上げる。
「お菓子もまだまだあるよー」
小まめにお菓子の補充もして、汚れたテーブルを拭いたり、お皿を片付けたり。
殺気看破で警戒も怠らずに、円はロザリンドのサポートとして、人の5倍は働いていた。
(関係ない子供達こっちに集めておかないとね。変なことにならないといいけど)
ちらりと兄弟がいる方を見る。
(子供でもあるし、誰とでも仲良くなれそうな、温厚な子達に治めてもらえるといいんだけど)
自分達白百合団員が集団で歩み寄っても警戒するだけだろうと思って。
円も、ロザリンドやティリア、瑠奈たちも気づいてはいたが、パーティに力を注いでいた。
(大事にならないようにしませんと)
凛は他の契約者とも目を合わせて、行動の意思を確認し合って、死角から少し兄弟に近づく。
「みんなといっしょだとたのしいよ」
お皿にケーキを乗せて、5歳くらいの姿の小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が歩いてくる。
美羽はテティス達とパーティを楽しみながらも、隅に居るこの兄弟たちをずっと気にしていた。
出来れば、一緒に楽しみたい、仲間外れにしたくないと思っていた。
「ね、いっしょにあそぼう! みんなでお姉さんたちが持ってきてくれたおかし、たべよっ」
怖がらずに美羽は近づいていく。
「そうだよ、ふたりとも、そんなかおしてないで、いっしょにあそぼう?」
子供化して、子供達と遊んでいた姫宮 みこと(ひめみや・みこと)も、兄弟に微笑みかけながら手を差し出す。
「ん? えへへ、おにーさんたちもいっしょにあそびましょ〜」
2人に気付いた、ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)も積み木を手にちょこちょこ駆けてくる。
ソアは契約者のお兄さん、お姉さんに、お世話をしてもらい、可愛がってもらって、そしてすずらんのおにぃちゃん、おねぇちゃんと一緒に楽しく遊んでいてとっても幸せだった。
「おもちゃもってるでしゅね〜」
ニコニコ笑いながら近づいたソアだけれど。
「くるな!」
「やだっていってんだろ!」
兄弟は銃とナイフを美羽、みこと、ソアに向けて強く睨みつける。
「ひうっ」
ソアはびっくりして立ち止まり、美羽の腕を掴んだ。
(せんそうでおとうさん、おかあさんをなくしちゃった子たちなんだよね。かわいそう……どうしたら、この子たちも、こんなかおしないで、みんなとあそぶこと、できるのかな……)
みことは悲しそうに兄弟を見る。
「もしかして、ガンマンごっこをしたいの? それでよければいっしょにあそぼうよ」
子供化したミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)が声をかけるが、兄弟は首を横に振るだけだ。
「なんかおっかないでしゅ……えぐえぐ」
ソアは、泣き出してしまった。
「そうだね……」
美羽はソアを背をぽんぽんと叩いて安心させながら、兄弟たちを優しい目で見守る。
「ふたりだけのほうがいいんだ」
「こんとらくたーとなかよくするやつらなんて、きらいだっ」
兄弟のその言葉から、彼らが契約者によくない感情を抱いていることが解る。
「それ、もしかして、ほんもの?」
銃と果物ナイフをじっと見て、ミーナが尋ねる。
「ほんものはあぶないから、しまおうよ」
「つかわなきゃあぶなくない。おまえらがこなきゃ、おまえらにはつかわない」
「つかうのは、つかったやつらだけだっ」
「いいから、おまえら、そんな暗い顔してねぇでこっちきてみんなと遊べ!」
少し離れた位置から、兄弟に声をかけたのは、聡と一緒に訪れた天空寺 鬼羅(てんくうじ・きら)。
「うるさい」
「だまれ」
兄弟はすぐに反抗する。
「なんだと……ったく」
鬼羅は遊んでいた子供達を席の方へと行かせると、偉そうな態度で歩いてい来る。
「ガキは難しいこと考えてないでがっはっは! って笑ってればいいんだ。それか、なんか言いてぇことがあるなら拒否してねぇで言う! そうでないと始まらねぇからな!」
兄弟の暗い目と、皆への態度を見て、鬼羅は昔のことを思い出していた。
かつて、自分もそのような目をして、自棄に陥っていた頃がある。
10年前に、目の前で妹を事故で亡くした時のことだ。
同時に、乗り越えて前を向いて進み始めたことも思い出す。
彼らが何か抱え込んでいることはわかる。
彼らにも乗り越えて欲しいと思いながら、鬼羅は強い口調で言う。
「なんか思うことがあるなら相手してやる! 二人いっぺんにな!」
「おまえはこんとらくたーだな!?」
「ん? ああ、そうだ! 玩具の銃で撃たれてもかゆくもないからな、直接かかってこいや!」
鬼羅の言葉を聞いた兄弟の手が震えた。指に力が込められていく。
「あの子たちも戦争被害者の孤児のようね」
戦争犠牲者の子供達を元気づけてあげたいと考え、お土産を持って訪れていたブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)も、兄弟の様子に気づく。
どういうわけか子供化してしまい、ドレスがぶかぶかになってしまって、とても動き辛い。
「本当に撃ってしまう……」
彼らを気にしながら、子供達と遊んでいたシャーロットが駆け付けようとする。
「騒ぎを大きくするのはきっと良くないわね」
ドレスの裾を引きずりつつ、ブリジットも子供達の元に行こうとする。
「いかなくていいですわ」
しかし、そばにいたティセラが小さな手でシャーロットとブリジットの腕を掴んだ。
「おとなもこどもも、たくさんあつまっていますわ。ここでみまもりつづけましょう」
ティセラも、兄弟のことを気にしていたようだ。
「うーん、そうね、周りに沢山人いるし。もう少しだけ様子を見てみましょうかね」
ブリジットはお土産のお菓子を手に、少し近づいて様子を見ることに。
「はい。でも彼らが皆の中に入って、笑顔でいられるようする為には……どうしたらいいのでしょう」
シャーロットの呟きに、ティセラは。
「なんで、みなとあそびたくないのかを、きくことですわね。それがかいけつできるかどうかは……わかりませんが」
「そうですね」
と、シャーロットは答えて。
(撃ってしまったら、傷つけてしまったら。取り返しのつかないことをしてしまったら。仲間と友達と笑い合って過ごすことは……出来なくなってしまいますから。どうか、そのようなことになりませんように)
この場にいる子供達が被害に遭わないように、シャーロットは兄弟と子供達の間に立って見守っていく。
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