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第二章 はじまりのボケ

 五人衆誕生より少し前。
「ピヨコの群れじゃ〜 ピヨコちゃんじゃ〜 ピッピッピ〜ヨコちゃんじゃ〜!」
 ピヨ、ピヨ、ピヨ、ピヨ。
 空京に、レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)の声が響く。
 その姿は、ピヨ。
 麗茶牧場名物、ピヨの着ぐるみを纏ったレティシアが、ピヨたちをひきつれて行進中だ。
 赤・青・黄色と色とりどりのカラーピヨと一緒にお尻を振って歩いている。

「キターーーーー!」
 空気を切り裂く叫び声は、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)
「パラミタジャンボ宝くじ一等当選キターーーーーーーーーーー!!!!!」
 両手を高く上げガッツポーズを決める。
 しかしその手に持っているのは、櫛。
「さあこれを早く換金しなくっちゃ! あぁもう何に使おうかしらうふふふふ」
 笑いながら振り回しているのは、櫛。

「フハハハ!我が名は悪の秘密結社オリュンポスの天才科学者ドクター・ハデス(どくたー・はです)! 今日も世界征服を目指して、張り切って活動するとしよう! さあ行くぞ、改造人間サクヤ、人造人間ヘスティアよ!」
「了解しました、ドクター・ハデス様」
「フハハハ!改造人間サクヤよ、お前も、ついに悪の秘密結社の女幹部としての自覚が出てきたようだなっ! ククク、では、手始めに、あそこにある喫茶店を襲撃するとしようか!」
「はい、喫茶店の襲撃は、私と人造人間ヘスティアにお任せください」
「え……ご主人様はともかく、咲耶お姉ちゃん、どうしちゃったんですか……?」
 高笑いのドクター・ハデスに付き従うのは高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)
 いつもと違う咲耶の様子に戸惑いつつも、とりあえず従うヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)

 街は、カオス。

「こらまた、ルーシェのためにあるような異変だなぁ」
「待て。なぜワシのためにあるような異変なのじゃ」
 街に買い物に来ていたアキラ・セイルーンがこの様子を見てぽそりと呟いた。
 それを耳聡く聞きつけ食いついたのは、アキラのパートナー、ルシェイメア・フローズン。
「そらぁだってルーシェ、オメーはパラミタのハリセン大魔女王じゃねーか」
「誰がハリセン大魔女王じゃ!」
 すぱこーん。
「あひゃあぁぁあ!」
 思わずセレスティア・レインの差し出すハリセン型光状兵器を手に、アキラの頭を叩いた時。
 異変が起こった。
「る、ルーシェ! も、もっと!もっとツッコンでくれ!」
「な、な、なんじゃ貴様!?打ち所でも悪かったのか!?」
「もっと! もっといっぱいツッコンでくれえええ!」
「ええいやめんか気色悪い!」
 すぱこーん。
「あふぅううん!」
 すぱこーん。
「あぁああああ!」
(……おぉ、これはなんと素晴らしいハリセン使い!)
 どこからかルシェイメアを見つめる熱い視線がひとつ。

「どうしたの、セレン」
 相棒であるセレンフィリティの様子がおかしいことに気付いたセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)
「パラミタジャンボよ、ジャンボ! 一等が当たったの! さあ早く換金しなさいよほらほらほらあっ!」
「え、と……あの、お客様?」
 そんなセレアナの声にも耳を貸さず、セレンフィリティが詰め寄っているのは、駅の切符売り場。
 更にその手に持つのは、櫛。
「ほら早く、さっさとお金渡しなさいよっ!!」
「いや、ですからこちらは切符売り場でして」
「どうして当選金渡さないのよっ! かーねーをーだーせー!」
「ちょっと、他のお客様の迷惑になりますので」
 いよいよ興奮して話が通じなくなってきたセレンフィリティの様子にドン引きを通り越して恐怖を覚えた駅員が警備員を呼び出した。
「……そんなにあたしに1億ゴルダ渡したくないのね……! あたしはシャンバラ一不幸な美少女だー!!」
「いや、自分で美少女って」
「あっ」
 警備員の言葉にぴくりと震えるセレンフィリティ。
 それを見て、セレアナは気が付いた。
(セレンは……ツッコミを待ってる!)
 私がなんとかしなくては。
 でも、こんな人の多い場所でツッコむなんて……
 セレアナの逡巡を余所に、セレンフィリティの暴走は続く。
「これは宝くじじゃなくて髪を梳く櫛ですって!? これのどこが櫛なのよっ! それに今は午前9時よっ!!」
(ああ、だんだんとボケが苦しくなっている!)
 早くツッコまないと大変な事に!
 セレアナは心を決めて、セレンフィリティの前に立つ。
 深呼吸。
「くじは9時でも、ハズレ9時よっ!」
「はぁあああああああんっ!」
 えっ、今のでいいの!?
「や……こ、こんなたくさんの人前で……んっ」
 全員の驚愕を尻目に、セレアナのツッコミで激しく昇天するセレンフィリティ。
「セレン……」
「ふぁ、セレアナ…… すごく、良かった……」
 周囲が寒さで固まっている中、二人だけは熱い熱い世界を築いていた。
(ああ、あれはアカン。互いにだけしか通用しないツッコミや)
 セレアナを見つめる視線が、外れた。

「ピッピッピ〜ヨコちゃんじゃ〜、アヒルじゃグァアグァア!」
 相変わらずお尻をふりふり歩いている、レティシア。
 誰もがその姿を遠巻きで見るだけで、近づこうとしない。
(どうする?)
(ここは、オレが行く)
 レティシアの前に、一人の人影。
 日比谷 皐月だ。
「ピヨ?」
「……ピヨコか、アヒルか、どっちなんだ」
「……んっ」
 レティシアが小さく反応したのを見て、皐月は更に続けた。
「ボケが…… ボケが唐突すぎんだよ……!」
「はうっ」
 意外な皐月の言葉に、しかしそれでも反応してしまうレティシア。
「怨霊のせいだか何だか知らないけど、いきなりボケたら単なる奇怪行動だよ! 『やだ何あの人』で終わっちまうよ」
「……やっ」
 最早、皐月の言葉も聞こえていないのだろう。
 ただただ、最後の言葉を待つレティシア。
「なんかもういたたまれねーんだよ!」
「あぁあああンっ、イっちゃう〜!」
 黄色い叫び声をあげ、昇天するレティシア。
 くたりと、着ぐるみの身を地面に投げ出す。
 どれくらい、そうしていただろう。
 やがてレティシアが身を起こし、火照った身体を冷やすため着ぐるみを脱いだ時にはもうツッコんだ皐月の姿は見えなかった。
「はぁ…… 熱かったですぅ……」
 見事な肢体を僅かな下着だけで隠した身体に、外の冷気が気持ち良かった。

「あなたにしては、良い仕事をしたようですね」
「何を言って……ん?」
 パートナー、 雨宮 七日(あめみや・なのか)の憎まれ口に返事をしようとした皐月の口が、開いたまま固まる。
 彼女が今にも口に装備しようとしていたのは、ボールギャグ。
 主に監禁とか、特殊なプレイに使用するアレだ。
「ああ、これは怨霊を私に取り付かせて固定化を試みようと思いまして」
「で、なんでソレを」
「あられもない声をあげるのは御免被りたいので」
「いやそれおかしいだろ!」
「あ……くっ……」
 七日の身体が僅かに震える。
 ほんの僅かだけ見せた反応。
 しかし、それでも彼女の身体に何が起こったのか一目瞭然だった。
「……大丈夫か?」
「……んっ…… ほ、放っておいてください」
 そっぽを向いて息を整える七日。
 首を傾げた皐月の目に、ハリセンを持ったルシェイメアの姿。

「ちょっと待ってくれ!」
「む、貴様は何じゃ?」
「おまえのそのツッコミの力を貸してくれないか?」
「……」
 声をかけた皐月に、無言でハリセンを構えるルシェイメア。
「いや、ボケじゃねーし! おまえも見ただろ、この空京の惨状! これを鎮める為には、ツッコミの力が足りねーんだ」
「……それで、わしを?」
「ああ。俺たちと共に『ツッコミ五人衆』となってこの空京を救おうじゃねえか!」