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第三章 なななにツッコめ!


 ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)は一人、空京でのんびりショッピングを楽しむ予定だった。
 パートナーの御神楽 陽太(みかぐら・ようた)はオフといえば愛する妻とラブラブ三昧。
「たまには……ってこともないけど、おにーちゃん達ふたりっきりにさせてあげなきゃねーって……あれ?」
 そう独りごちた直後、異変に遭遇した。

「宇宙刑事? なに子供みたいなコトいってるの?」
「そうそう、どこの映画?」
「宇宙怪獣とかないわー(笑)」
「宇宙意志とかねー」
 金元なななとルカルカ・ルー(るかるか・るー)が本屋で共に笑いながらおしゃべりをしていた。
 一見普通の光景のように見えるが、そこには重大な事実が隠れている。
 彼女たちは ボ ケ て いるのだ!
「……やっと、ななな君も真人間の第一歩を踏み出せたのね」
 そんな二人に声をかけたのは、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)
 あぁ、ツッコミが来る!?
 歓喜と期待の瞳を向ける二人に、リカインは冷たく宣言する。
「……と言いたいところだけど残念ながら0点。その程度でボケを名乗るなんて三流もいいところ! 普段から言動がずれてると認識されてる人が突発的に普通のことを言っても周りは心配するだけよ」
「え……」
「あ……」
「いい、ボケは、たとえネタだったとしても心の底からその言動は正しいんだという自信に満ち溢れたものでなきゃ。今すぐ納得いくまで特訓よ!」
 リカインの、ボケ殺しが炸裂する!
(さっすがリカインさん! 私は芸には詳しくないのですが、ああしてさんざん焦らした後ならどんなツッコミでも受け入れてもらえるはず!)
 感心した様子で頷きながら、ハリセンを構えるサンドラ・キャッツアイ(さんどら・きゃっつあい)
「えっ、宇宙って生き物が住めないの? ワタシ知らなかったよ」
 その様子を見ていたノーンが無邪気な一言を口にする。
「うぁ……」
「は……ぁん」
 ノーンの言葉に、苦しそうに身を捩るなななとルカルカ。
 二人は限界に近づいている。
 しかし。
「まだだ、まだ足りん!」
 二人の苦悩を余所に、総石造りの魔道書、禁書写本 河馬吸虎(きんしょしゃほん・かうますうとら)が一人息巻く。
「さあ、今こそ全てを解放するのだ! 主に服装的な意味で! そして愛の結晶となるがよい!フハハハハ!」
 パートナーのリカインやなななの事は既に頭にないらしい。
「俺様のヴォルテックファイアで解放の手伝いをしてやろう!」
 ボケというより既に組織の厄介になりそうな勢いの河馬吸虎。
「待ちなさい」
 その前に、一人の男性が立ちふさがる。
「む」
「怨霊を退散させようとしたのですが、それよりも先に有害指定図書の排除と参りましょうか」
「お前は……へ、変態!?」
「変態に変態とか言われたくありません!」
 河馬吸虎を前に構えるのは、空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)
 その端正な顔には、ひげめがね。
 息を吹き込むとひげ部分がぴーひょろろと伸び縮みする吹き戻し付き。
 ちなみに当人はごくごく真面目にメンタルアサルトで使用しているので、悲しいことにボケではない。
「お果てなさい、炎舞・鳳閃渦(ヴォルテックファイア)!」
「あぎゃー!?」
 河馬吸虎の叫びは歓喜かそれとも咆哮か。
 アレがボケだったのかどうかは、当人のみぞ知る。

「まだまだね。ボケの下地が足りてないわ」
「あぅ……ん」
「お、おねがい……っ、そろそろ……」
「そろそろ、何?」
「そ、それは……」
 河馬吸虎らの騒ぎを余所に、リカインのボケ殺しは続いていた。
 ノーンの素のボケ返しも加わり、焦らしに焦らされたなななとルカルカは既にボケる余力もなく。
 ただただ、互いに支えあい身を捩らせながら与えられる最後の瞬間を待つばかり。
「ちょっと待っててねー、今準備するからね」
 おりおりおり、とノーンが新聞紙を折っている。
「あっ、それは……」
「は、早くそれを……」
 ノーンが折っているのは、ハリセン。
「なななちゃんの為にがんばるから、待っててね!」
 ハリセンを手にしたノーンが、にっこりと笑い、構える。
「はぅ……お願い、できれば、なななちゃんと一緒に……」
 ルカルカが、ノーンのハリセンを見て懇願する。
 その手が、指がなななと絡む。
「ね……一緒に、イこう……」
「ん……」
 ルカルカの声が聞こえているのかいないのか、なななが小さく頷いた。
 ノーンがなななの、サンドラがルカルカの後方に立つ。
「いつもとキャラが違うよーっ!」
「どうしちゃったのーっ!」
 すぱこーん×2
「はぅううううんっ!」
「あぁああああんっ!」
 ルカルカとなななは、仲良く昇天した。