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温泉掘って村興し?

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温泉掘って村興し?

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第四章

「すみませ〜ん、少しお聞きしたいことがあるのですぅ」
「ん、どうしたんだべ?」
 のんびりとした口調で村人に声をかけたのは神代 明日香(かみしろ・あすか)だった。
「この辺りの地形とか地質について教えていただきたいのですよ〜」
「地形と言ってもなあ……村の南に町へ行く道があるぐらいで、ほかは全部森だべ。地質とかは全然分からんべよ」
「え〜と、それじゃあ質問を変えますねぇ。ずばり直球で、村の周りで暖かいところとかありませんか〜?」
「んー、そうだべなあ……。あんま温いとは感じんけんど、森を西にずっと行ったとこが妙に雪が積もりにくいべ。結構広いけん、行けば分かると思うべよ」
 明日香は村人に礼を言うと、今の話について考えた。
「単純に推測するなら地熱の効果で雪が解けてるってことですよねぇ」
 それに。
「大図書室で調べた資料を見ても、村の西側が怪しいですからねぇ。信憑性抜群ですよ〜。でもパラミタってまだまだ謎が多すぎて、これがマグマか地温勾配なのか分からないんですよね〜」
 あとは地道に調査ですぅ、と呟くとウェンディゴを召喚した。
「それじゃ〜ウェンディゴさんは地上からお願いしますよ〜。私は上から調べてみるですぅ」
 ウェンディゴが頷き、木々の間を進んでいく。
 明日香も飛翔術で浮かび上がり、木の頂点を跳ねるように飛び出した。

 太陽が真上に差し掛かり、そろそろ昼の時間となる。
 ひときわ背の高い針葉樹の上に立った明日香は、下の方にウェンディゴとは違う人影を見た。
「あの人影は……」

 ◆

 モーベット・ヴァイナス(もーべっと・う゛ぁいなす)が村人から聞き込みをしている間に、清泉 北都(いずみ・ほくと)は調査方法について悩んでいた。
 森に目を向ける。まばらに生えた木々は、奥に行くほど密度が高くなり、視界を壁のように覆い隠している。
 超感覚で探すにしても、森は広すぎるのだ。
「せめて方向だけでも見当がつけばいいんだけどねぇ」
 北都が事前に調べていた温泉に関する情報を吟味していると、聞き込み役を引き受けたモーベットが戻ってきた。
「何か情報は得られたかい?」
「うむ、手に入ったのは西の方が怪しいということぐらいだな。どうやら雪があまり積もらないらしい。ほかの可能性も考えられるが、地熱の影響と思った方が自然だろう」
「なるほどねぇ。うん、でもまぁ調査する場所の検討がついただけでも収穫だよ。これだけ広い森の中……」
 両手を横に伸ばした北都がくるりと回る。
「何か月かかるか分からないからねぇ」
 そこへモーベットが手にした銃型HCを北都に差し出した。
「聞いた内容はこの中に入れておいた。細かいことはこっちを参考にしてくれ」
「ありがとう。すごく助かるよ」
 礼を言いながら銃型HCを受け取った北都は、そのまま操作をしながら眉をひそめる。
「このフキノトウが早く採れる場所っていうのが気になるんだけど、どうやって聞き出したんだい?」
「あぁ、それか。なぜか温泉卵の話になってな、そこからの流れで天ぷらが美味しいという話題に移り、フキノトウの名前が挙がってきたんだ」
「よくわからないけど、これはもの凄くいい情報だよ。フキノトウは二、三月ぐらいに採れる山菜なんだけど、地中の熱源が地表に近い場合、影響を受けた芽がそれより早い時期に顔を出すのかもしれない。ここを基点にその周りを調査してみよう」
 珍しく主がやる気を出しているな、とモーベットは思う。
 それとも早く終わらせて温泉でのんびりしたいのだろうか。
「まあ、我も温泉は嫌いではないがな」
 そう呟きながら、先に進む北都の後を追いかけた。

 ◆

 雨宮 湊(あめみや・みなと)レルー・リジット(れるー・りじっと)は隠れるように森の中を移動していた。
 村の周りをパトロールすると偽り、密かに温泉の場所を探しに出ていたのだ。
「なぁ、本当にこっちで良いのか?」
 腰を低く落とし、鼻をひくひくとさせながら進むレルーの背中を眺めながら、湊は散歩感覚で歩いていた。
「うーん、まだ上手く引っかからないのよねぇ。でも頑張るわよ、あたし。なんせ誰にも知られていない秘密の温泉を見つけたら、占有よ、貸切なのよ〜」
 普段の様子からは信じられないほど張り切るレルーを見て、湊が笑みを浮かべる。
 今回、この村興しに参加することになったのは、看板をみたレルーが妙なことを言い出したせいだった。
 温泉を掘る。
 これから掘る。
「つまりはまだ誰にも知られていない秘湯があるかもしれないってことなのよ! なら、こっそりと先に見つけてしまえば、あたしたちだけで楽しめるじゃない!」
 と、息巻いて力説するレルーに湊も折れたのである。
「いや折れたんじゃないな。俺もこれ楽しそうだと話に乗ったんだ」
 呟きを聞き取ったのか、レルーが湊の方を向いた。
「あぁ、いや、なんでもない。独り言だ、気にするな」
「そっか。……でね、温泉なんだけど、もう少しで見つかりそうなのにまだちょっと何かが足りない感じなんだよねぇ。さっきみたいにまたダウジングで方向の確認を頼めないかなぁ?」
「ちょっと待ってろ」
 湊が取り出したのは二本のエル字型に曲がった針金だった。
「これ、温泉探し用に新調したんでしょ? 湊も案外ノリノリだねぇ」
「こういうのは楽しんだもの勝ちだからな。……っと、あっちに反応があるぜ」
「待っててね、温泉ちゃん! ふふ、久々に狩人の血が騒ぐわ」
 針の指す方へ、嬉しそうな表情でレルーが駆けていく。

 しばらく進むと突然レルーの動きが止まった。
 何かあったのか、と湊がレルーの肩越しに覗いてみる。
 そこは木々の無い開けた場所だった。
 だが、大人の身長と同じぐらいの高さの岩が何個も転がっていた。

 ◆

「うーん、あたしの勘だとここで間違い無いんだけどなぁ」
 レルーが大きな岩石の上に登ったり下りたりしていると、背後から声が聞こえてきた。
「この辺りが怪しいよねぇ」
「眼鏡が曇ってきた。目的地は近いかもしれないな」
 更には上からも聞こえてくる。
「図書室で見た地質の資料にそっくりの場所ですぅ」

「「「「「あ……」」」」」
 五人の声がきれいにハモった。


 森にきていたアーミアは、発見の瞬間、と呟きながらその光景をカメラに収めていた。