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温泉掘って村興し?

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温泉掘って村興し?

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第七章

 イルミンスール魔法学校校長室。
 贅沢に飾られた広い空間の中央に、可愛らしいこたつが一つ。
 以前と変わらぬ状態で、エリザベート・ワルプルギスルーレン・ザンスカールがこたつでぬくぬくと過ごしていた。
「もうすぐ温泉が完成しそうですわ」
「順調で何よりですぅ」
「ああこの世の天国、それは温泉ですわー」
 二人が温泉へ思いを馳せていると、扉をノックする音が聞こえる。
「どうぞですぅ」
 エリザベートの返事に、失礼します、とレティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)が入ってきた。
 そのままこたつの横までやってくると、瞳を輝かせたレティシアが手にしたバッグから袋を取り出してエリザベートの前に置く。
「喫茶『麗茶亭』のアタミンスール支店を開きたいので許可を貰いにきました。あ、これはアタミンスール支店で出そうと思っている新商品、レティ煎餅です」
「わーい、ありがたくいただくですぅ」
 袋から煎餅を取り出したエリザベートが、満面の笑みを浮かべて噛り付く。
 その後の光景は、まるで設計ミスで横に建てられた噴水の様だった、と後世に広く伝えられることとなる……かどうかはさておき。
 一回、二回、三回と咀嚼していたエリザベートが突然噴き出した。
 被害を受けたルーレンが悲鳴をあげながら部屋から飛び出ていく。
「ななな、なんてものを食べさせるですかぁ。あぁ、ルーレン・ザンスカール、惜しい人を……」
 まあまあ、と宥めるレティシアの横で、ミスティが持ってきた水筒からお茶を入れて出してきた。
「お口直しにこちらをどうぞ。私が淹れたものですので普通に飲めると思います」
 最初は警戒していたエリザベートだが、一口飲んで安心したのか、ごくごくと飲み続ける。
 残った煎餅は無言で突き返された。
「温泉の新名物として作ったあちきの自信作だったのに」
「そういえばぁ、さっき許可が欲しいとか言ってた気がするですけど、どういうことですかぁ?」
 半目でレティシアを見るエリザベートが唇をとがらせる。
「本来なら村長さんに言うべきなんでしょうけど、温泉の計画はエリザベートさんが責任者ですからねぇ。もちろん、許可を貰うのにただとは言いませんよ」
 レティシアは左右を確認すると、腰を下げてエリザベートの耳元に近づき、
「許可してもらえるなら、エリザベートさんには超特別サービスしちゃうんですがねぇ」
 と、囁いた。
「よし、のったですぅ! うんうん、これも村の為ですよぅ。特別サービスになんて全然釣られて無いけど楽しみにしちゃうですぅ」
「レティ、気が変わらないうちに急いで準備しましょう」

 ◆

 数日が過ぎた。
 こたつの魔力に憑りつかれているエリザベートとルーレンのぬくぬくコンビは、今日もどてらを羽織ってみかんを食べている。
 そこへ、アタミンスール村から連絡がやってきた。
「温泉が完成したですかぁ!」
「待っていましたわ、早速向かいましょう!」
 二人はアタミンスール村へ着くと、一目散に脱衣所へ向かった。
「温泉一番乗りですぅ」
 その時、ドアがばあああんと開かれた。
 タイミングよく現れたのはフレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛ぃ)ルイーザ・レイシュタイン(るいーざ・れいしゅたいん)の二人。
 肩で息を切らし、目の下にはくまをつけたフレデリカが、エリザベートとルーレンを見てにやりと笑う。
「ひいいい、どうしたんですかぁ」
 互いを抱きながら怯えて後ずさる二人に、じわりじわりとにじり寄っていく。
 壁に逃げ場を奪われ、がたがたと震えるエリザベートとルーレンの前まで近づくと、フレデリカは手に持った書類の束を突き出した。
「ま・さ・か! あんな張り紙一枚で『一仕事終えた』なんて思っていないですよね? お二人に限って」
「数日間、色々と頑張ったんですよ。お二人が生徒を働かせて自分たちは怠けてる、なんて噂でも立ったりしたら大変ですから」
 ルイーザの言葉に動揺したエリザベートを見てフレデリカは確信した。
 このまま二人が何もせずにいたら、ほかの者に示しがつかなくなってしまう。
「ここにあるのは、ザンスカールのお偉いさん方から認可を受けるための大事な書類です。計画立案者の貴方たちには、しっかり読んでハンコを押してもらいますからね。全部が処理出来るまで温泉は禁止です!」
 エリザベートとルーレンが、死刑宣告をされたかの如く崩れていく。
「そんなめんど……いや難しいこと私にはわからないですぅ。詳しい人に任せた方が確実ですよぉ?」
「この数日間、私とルイーザが頑張ってたと言ったのは、その詳しい人たちに書類を作ってもらうために動いてことなんです。この書類が通れば公認の温泉として補助金も出るし、宣伝するのも便利になるんですよ。ただ……」
 一旦言葉を区切って釘を刺す。
「適当にハンコを押してはダメですからね? お二人が思いっきり損をするものも入っているので、迂闊に通したら泣く羽目になりますよ」
「お、鬼ですぅ、ここに鬼がいますよ〜」


 脱衣所の入り口から現場を見ていたアーミアは、仕事を頑張るエリザベート校長、と呟きながらその光景をカメラに収めていた。