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機械仕掛けの歌姫

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機械仕掛けの歌姫

リアクション

 スティルは歩きながら自身に命の息吹をかけ止血を行い、この場から退却しようと試みていた。
 もちろん裏口はダメ。屋上は残念なことに鎮圧部隊に占拠されている。なら、脱出口はひとつ。
 そして、目指したのは最も戦闘が激しいけれど、多くのオークが駐在しているであろう正面入り口だった。
 そうして、しばらくしてスティルと幾らかの近衛のオークが正面入り口に着いたころ。

「ったく、何の冗談だい。これは……ッ!」

 怒りを孕んだ声で、スティルは唾と共に言葉を吐き捨てた。
 それは、スティルにとって悪夢の如き光景が広がっていたからだった。

「これで終わりだ、スティル」

 クローラがウルフアヴァターラ・ソードを向け、スティルにそう言った。
 その周辺には傷だらけの身体でありながら正面入り口を塞ぐ、鎮圧部隊の面々。
 そして、周りにはおびただしい量の私兵であるオークの死体。

「……くそッ、誘導されていたのかい。あたしは!」
「ああ、その通りだ。全く、ここまで上手くいくとは思わなかったよ」

 倉庫に突入した部隊は追い詰めすぎず、大勢で戦いやすい場所で包囲することに成功した。
 それは、声帯を盾にする行動すら取らさず、一気にスティルを捕獲するためのクローラが提案した作戦だ。

「……失敗作の声帯如きで身を滅ぼすなんて冗談じゃないよ! お前ら、やっちまいな!!」

 スティルは荒ぶる力を使い、近衛のオーク達に力を与え鎮圧部隊の面々と交戦させる。

「スティルだか言ったな。悪ぃが俺はさっさと片付けてフレイを連れて帰る!
 っつーわけで……手加減はできねーからな。恨むんじゃねぇぜー?」

 ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)は近衛のオークを一番引きつけ、戦いやすいよう外へと出た。
 紅の魔眼を発動し、普段は封じている魔力を覚醒。魔法の攻撃力の底上げを行った。

「まだまだぁ!」

 ベルクは追撃で、絶対闇黒領域も発動。
 自身を闇の化身へと変化させ、更に魔法を強化した。
 ベルクの身体から黒色のオーラがこぼれだす。そして、好戦的な笑みを浮かべて彼は詠唱を始めた。

「ヴォルテックファイアァァッ!」

 ベルクは咆哮と共に、引きつけた近衛のオークを激しい炎の渦で包み込む。
 炎の渦に巻き込まれたオーク達は、燃え盛り、もだえ、苦しみ、やがて灰へと変わっていった。

 そのすぐ傍で、レティシア・トワイニング(れてぃしあ・とわいにんぐ)は破光翼剣を振るい、戦っていた。
 百戦錬磨の勘で四方八方から放たれるオークの攻撃を紙一重で避け、修練の結果得た金剛力で一刀両断。

 やや黒ずんだ刀身が描く一閃は、数多のオークの肉を切り骨を砕く。

「……ふむ、やはりこの感触はたまらない」

 レティシアにとって敵を倒すという感触は、恋い焦がれたものと同等なぐらい愛おしい。
 それは自分が、戦っているということをより一層感じることが出来るからだ。

 レティシアはいつもながらの仏頂面を崩さないが、その声には少しだけ嬉々とした感情が含まれていた。
 そして傷ついた身体に鞭を入れ、またオークが向かって来ていることを確認するとほんの少しだけ口元を吊り上げ。

「エンドレス・ナイトメア!」

 レティシアに突撃しようとしていたオーク達の足が止まる。
 その原因である魔法を放ったのはベルク。彼は一応、レティシアを気遣い援護するために放ったのだ、が。

「……あぁ、ベルク。
 我の援護するのは勝手だが、あまりに邪魔になるようなら斬って捨てるからな」
「はぁ!? 俺はレティシアを気遣ってやってやったのに!」

 怒りを孕ませたレティシアの声に、ベルクは理不尽だと言う風に頭を抱えた。


「どけ、どけ、どけぇぇッ!」

 未散はたいむちゃんの時計で素早さ強化をし、カタクリズムの念力で暗器を大量にばら撒いた。
 そして、未散はアメノウズメを降霊した。の日本神話に登場する女神が武装したような姿をした美女は擬似的なかまいたちを起こす。
 かまいたちが巻き起こす風は空中の暗器を巻き込み、前方に展開するオーク達を一掃した。

「スティル! おまえをこの手で一発ぶん殴ってやる!」

 そうして開いた空間を未散はスティルに向かって走る、が。

「ぬをッ!?」

 瀕死のオークに足を掴まれ、未散は思わず転びそうになった。
 その手を外すため未散は足を振り上げ踏みつけようとするが、それよりも早く。

 乾いた銃声が倉庫内に響いた。
 それと共に発射された銃弾は未散の足を掴むオークを穿った。
 未散は銃声のした方向を振り向く。そこにいたハルはドラグーン・マスケットを構え、銃口から白い煙を放出していた。

「未散くん、どうぞごゆるりとお進み下さいませ」

 ハルは龍の角から作られた弾丸を装填し、もう一度ドラグーン・マスケットを構えた。
 それは、未散の邪魔をするオークを撃つために。狩猟のたしなみにより鍛えられた腕前で、彼女の行く道に立つオークを撃ちぬいていく。

「ああ、すまん。恩に着る!」

 背後から聞こえる銃声を聞きながら、未散はスティルのもとへ駆け出した。

 ――――――――――

 近衛のオーク達が交戦している隙を見計らい、スティルは自分だけ逃げようと踵を返した。

「逃がすかッ!」

 だが、追いついた未散が氷像のフラワシでその足を縫い付ける。

「行くぞ、覚悟はいいな?」

 マクスウェル・ウォーバーグ(まくすうぇる・うぉーばーぐ)は自分の目の前を塞ぐオーク達に奈落の鉄鎖で動きを制限。
 そして、その身を蝕む妄執で恐ろしい幻覚を見せ、オークを撹乱。
 やり過ごした後、スティルに曙光銃エルドリッジと魔銃モービッド・エンジェルの狙いを定めた。

「遠慮はいらん。全弾持っていけ……!」

 引き金を引き絞り、視界をくらますほどのマズルフラッシュ。
 火薬が爆発する音と共に発射された数多の銃弾は、スティルに命中し血の花を咲かせた。

「が、は……ッ!」

 スティルは呻き声を洩らし、倉庫の壁に激突。
 口からも血を吐き、その場に前のめりで倒れた。

「う、ウウ、クソッ!」

 スティルは立ち上がれない身体に命の息吹をかけ、無理やり立ち上がった。
 そしてマクスウェルがリロードをしているうちに崩壊する空を詠唱しようとし――。

「無様ね、あなた」

 イリス・クェイン(いりす・くぇいん)は空飛ぶ箒パロットを使って取り巻きを飛び越えて、レジェンドレイを発動。
 聖なる裁きがスティルの詠唱より早く降りかかった。

「まったく、……脅迫に洗脳、鏖殺寺院らしいやり方だわ。
 毎度ながらあんたらのやり方には虫唾が走るのよ。その姿は自業自得よ?」

 膝をつき、血だるまになりながらスティルの姿を見下して、イリスはそう吐き捨てる。

「ッ、これが、これがどうなっても――!」

 スティルはフランの声帯を盾にしようと取り出した。
 それは、自分が逃げ切るため。だが、スティルがフランの声帯を手に持ったと同時に。

 二発の銃声が響いた。

 放たれた銃弾はスティルの手首を撃ちぬき、フランの声帯を落とさせる。
 もう一方の銃弾はスティルの頭を正確に狙っていたが、風の鎧に阻まれ結果的に両脚を貫いた。

 スティルは銃声のした方向――倉庫の奥を振り向いた。
 そこには狙撃銃を構えたグレンとサオリの姿があり。
 落とした声帯は目の前のイリスがキャッチして。

「く、クソがぁぁあああッ!」

 後ろ盾を失くしたスティルは自棄になり、イリスに襲い掛かる。

「……華のない面白みもない単調な攻撃ね。クラウン」
「あいよ〜!」

 イリスの呼びかけに応じ、クラウン・フェイス(くらうん・ふぇいす)が風に乗りて歩む者で生み出した風の翼で傍に飛んでくる。
 そして、まずイリスが空飛ぶ箒パロットでスティルの攻撃をオウム返し。
 もう一度、スティルが壁に激突したと共に。

「ラ・ン・ス、バレストォ!」

 クラウンが高周波ブレードを構え、強力な突進攻撃。
 高周波ブレードの刀身がスティルを穿ち、そのまま壁に縫い付けた。

「確保、完了ー!」

 クラウンのその宣言とほぼ同時に近衛のオークも片付け終わった。
 それが、鏖殺寺院の支部、倉庫での戦い。
 フランの声帯を奪取する作戦の幕を閉じる音となった。