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イコン博覧会2

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リアクション

 

天御柱学院ブース

 
 
「ああ、もう、どこもイコンイコンイコンって……。いっそ全て吹っ飛ばしてしまいたいところだけれど……。どうせ壊すなら、ちゃんと動いているイコンに止めを刺してあげなくては……」
 天御柱学院のイコン群を横目で憎々しげに見ながら、シルフィスティ・ロスヴァイセが足早に会場内を通りすぎていった。
 
 イコンと言えば、まずは天御柱学院である。
 現代のイコンの原型とも言えるイーグリットを逸早く配備した学校でもあるからだ。
 最初期に配備されたイーグリットは、人形の高性能汎用機で、第一世代ではトップクラスの性能を誇る。発掘された古代のサロゲート・エイコーンを地球の技術で修復し、さらに運用が可能なように数々の改良が加えられて完成した物だ。コア部分はブラックボックスとなっており、まだ不明な点が多いとも聞く。
 地上戦も可能だが、基本移動は飛行であり、超音速飛行での高速戦闘が戦闘スタイルの基本である。そのため、軽量化によってやや細身のシルエットを有していた。機晶石を備えたフローターは両肩にあり、高い機動性を発揮する。
 
 主に近接から中距離タイプとなるイーグリットの支援機として、遠距離タイプで開発された機体がコームラントである。同じく人形であるこちらは、格闘性能や速度でイーグリットに劣る分、強化された装甲によりペイロードが高く、脚部も安定し、重火器を装備することができる。
 天御柱学院では、イーグリットとコームラントを組み合わせた四機小隊での運用が基本となる。
 
「いいですねえ。やはり、飛行能力を利用しての高速戦闘はロマンです」
 展示されているイーグリットとコームラントのベーシックモデルを見あげて、ベネティア・ヴィルトコーゲル(べねてぃあ・びるとこーげる)が言った。
「そうですね。でも、いつ他校からより高性能のイコンが出てくるとは限りませんよ。ここは広く他のイコンも見て回らないと」
 自校のイコンに満足しつつも、伯 慶(はく・けい)が気を引き締めるように言った。
 もちろん、彼らがイコンを開発するわけではないが、イコンは運用方法やパイロットをも含めてが本当の性能である。パイロットが二名揃わないと本来の性能を発揮できないことからも、それがうかがえると言えるだろう。
 
「イーグリットもいいですが、次世代機も気になりますね」
 パートナーたちと一緒に見に来ていた非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)が言った。
「そんなにも違う物なのですか?」
 見た目、ロボットと言うことでは違いがないのではないかと、イグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)が聞いた。パワーなどは違うだろうが、装備している武装の差の方が大きいのではないかと単純に思ってしまう。
「近遠さん、こちらでございます」
「新型はこちらですわ」
 じっくりとイコンを見ていた非不未予異無亡病近遠たちを、ちょこまかと先に行ってしまっていたアルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)ユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)が手招きした。
 アルティア・シールアムは、違う形のイコンがならんでいて面白いとしか思っていないが、サブパイロットの経験のあるユーリカ・アスゲージは、この先にあるイコンが第二世代機だと分かって、非不未予異無亡病近遠たちを呼びに戻ってきたのだ。
 二人が非不未予異無亡病近遠たちを引っぱってきた先には、第二世代機であるブルースロートらが展示されていた。
 ブルースロートは、女性的なフォルムを持つ人形のイコンだ。こちらは、イーグリットの元となったイコンよりもさらに古い時代の物と言われるイコン――ナイチンゲールを元として開発されている。
 防御に特化した電子戦機で、高出力のフローターでエネルギーシールドを展開できるなど、かなり特殊な運用を求められる機体となっている。
 活動領域も、地上空中の他に海中での行動も可能となっており、まさに第二世代と言える性能を有していた。
「あたしが乗るのなら、ブルースロートはちょっといいかもしれませんわ」
 見た目だけで判断して、ユーリカ・アスゲージが言った。他のイコンがどれも男性的な物だったので、単純に気に入ったらしい。
「それは、局面によりますね」
 ちょっと考えてから、非不未予異無亡病近遠が答えた。
 オールマイティなイコンなど、存在してはいない。どだい、全てを一人でやろうとするのは無理なことなのだ。だからこそ、人のようにイコンもいくつものタイプが存在し、得手不得手がある。
 天御柱学院が擁するもう一つの第二世代機であるジェファルコンもまた、イーグリットとコームラントのように、ブルースロートとセットで想定された機体だ。
 人形の均整のとれたフォルムは、よく見ればイーグリットの直系の発展型であることが分かる。特に特徴的なのがフローターから発せられるビームによって形成されたウイングだ。この大出力化されたフローターと、メイン動力炉、補助動力炉の三つのジェネレーターを同時使用するトリニティシステムにより、ジェファルコンは第一世代のイコンを遥かに凌ぐ大出力を持つに至っている。行動範囲もブルースロートと同様に陸海空を制すまさに第二世代の顔とでも呼ぶべきイコンである。
 この間には、1.5世代と呼ぶべきイコンも存在している。
 レイヴン TYPE−Eレイヴン TYPE−Cと呼ばれる機体だ。
 それぞれ、イーグリットとコームラントの改修型である。
 そのコンセプトは、機体の外観よりも内部インターフェースに主眼がおかれ、ブレイン・マシン・インターフェース、通称BMIと呼ばれる超能力に特化したコントロール方式が採用されている。これによってダイレクトにパイロットの意志が操縦に反映されるようになった反面、その性能を引き出すためにはパイロットを選ぶという特殊な機体となってしまっている。また、共に空中での運用に特化されたために、地上での格闘戦は想定されていない。そのため、歩行よりもホバー移動が基本となっている。
 ガネットは、初の変形機能を備えた天御柱学院のイコンでもある。
 こちらは、イーグリットを母体として、コームラントの装甲なみのバインダーを装備している。このバインダーを開閉して機体を被い、水中での高速機動を実現したのだ。そのため、コームラントよりも一回り大きい機体となっている。
 この変形機能自体は、水中での機動性を維持するための苦肉の策とも言える。事実、第二世代機とは違って潜水形態に変形しなければ水中に入ることができないのが欠点となっている。人形に変形後は、主に空中で運用されるが、地上での運用も可能となっていた。
 
「さあ、天御柱学院のイコンはまだまだあるぜ。最新型はこっちだ!」
 斎賀 昌毅(さいが・まさき)が、大きな声で呼び込みをしていた。
 なにしろ、天御柱学院はイコンの種類が豊富で、各学校のブースでは最大の広さを誇っている。
「あちらにも、新型があるようですよ。行ってみましょう」
「わーい、新型でございます」
 非不未予異無亡病近遠にうながされて、珍しい物見たさにアルティア・シールアムが駆けだしていった。
「おお、さっそく客だ。じゃ、後は頼んだぜマイナ」
「ちょっと、昌毅どこに行っちゃんです……。もうっ!」
 キスクール・ドット・エクゼ(きすくーる・どっとえくぜ)と一緒にさっさと他校のイコンを見に行ってしまった斎賀昌毅にむかって、マイア・コロチナ(まいあ・ころちな)が叫んだ。だが、もうすでに二人の姿はない。代わりに、非不未予異無亡病近遠たちがぞろぞろとやってきていた。
「もう。勝手に走りださないのだよ」
 やっとアルティア・シールアムとユーリカ・アスゲージを捕まえて、イグナ・スプリントが言った。
「変わったイコンがありますわね。今までとは、お姿がどうも違うみたいな……」
 悪びれずに、ユーリカ・アスゲージが新型イコンを見あげて言った。
「じゃあ、あそこのお姉さんに説明してもらいましょう」
 自分も興味があると、非不未予異無亡病近遠がマイア・コロチナに近づいてきた。
「えっ、ええっと、説明ですか……」
 内心焦りまくりながら、マイア・コロチナが助けを求めるように周囲を見回した。その目に、イコンの前に説明員として立っている富永 佐那(とみなが・さな)カルディナー・スヴィーシュニクの姿が映った。
「あちらに、説明の方がおりますので、どうぞ御自由に質問なさってください」
 マイア・コロチナが、ほとんど丸投げにする。
 富永佐那たちの背後に展示されているのは、クルキアータだ。
 本来はF.R.A.G所属のイコンであるが、現在は後継機のウルガータに主力が移り、現存機の大半は聖カテリーナアカデミーに移譲されている。
 天御柱学院が聖カテリーナアカデミーと姉妹校となったため、一部機体は天御柱学院でも運用されるに至っている。
 とはいえ、まだ数の少ない機体のため、今日展示されているのは、現在、天御柱学院を休学して聖カテリーナアカデミーに留学している形となっている富永佐那のカルディナー・スヴィーシュニクである。全体をホワイトブルーのツートンでカラーリングされた美しい機体であった。
 クルキアータのシルエットは、イーグリットよりも人間の物に近い。ヴァチカンで開発されたという経緯もあり、イコンの持つイメージも旧来の騎士団的である。それは、デザインにもよく現れていた。他の第二世代機のような特化した特徴はないが、その分バランスのとれた優秀な機体だ。ジェファルコンなどのような水中活動機能は有してはいないが、現行の量産型イコンでは最高ランクの性能を有していると目されている。
「今日は、当アカデミーでも御馴染みのクルキアータを御紹介します。クルキアータとは、ラテン語で十字軍を意味し、地球で不逞な行いを繰り返す勢力に対する十字軍の騎士としてロールアウトしました」
 非不未予異無亡病近遠たちを始めとする客たちが集まってきたので、富永佐那が説明を始めた。あくまでも聖カテリーナアカデミーの生徒としてここに立っているため、今日は天御柱学院のブースの一部を聖カテリーナアカデミーが借りたという形をとっている。
 ここで言及されている敵は、地球の鏖殺寺院の勢力のことだ。
「最近、鏖殺寺院がシュメッターリンクの後継機となる第二世代機を開発したとの情報があります。しかし、なればこそこのクルキアータはそれらに対する十字軍であることが必要なのです」
 富永佐那に随行して聖カテリーナアカデミーまで行った立花 宗茂(たちばな・むねしげ)が、横に立って一緒に説明を行っていた。
 だが、いかんせんシャンバラ王国関連で開発制作された機体ではないため、細かい部分の仕様は分かってはいても説明できない立場ではあった。そのため、解説も主に機体そのものではなく、開発に至った経緯や背景、この機体の持つ意義という物に偏りがちであった。
「熱いですねえ。ええと、伊藤さんと……」
 説明を聞いていた非不未予異無亡病近遠が、立花宗茂たちのネームプレートを見て、どういう者だか確認しようとした。
「どうかしたのか?」
 ちょっと言いよどんだ非不未予異無亡病近遠に、イグナ・スプリントが訊ねた。
「よ、読めません……」
 富永佐那のネームプレートに書かれたキリル文字見つめて非不未予異無亡病近遠がつぶやいた。