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二人の魔女と機晶姫 最終話~姉妹の絆と夜明け~

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二人の魔女と機晶姫 最終話~姉妹の絆と夜明け~

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■妹の想い
 ――時は遡る。
 空京警察署から、とある一団がデイブレイカーとの戦いが行われている場所へ急いでいく。その中心には、氷室 カイ(ひむろ・かい)が貸してくれた《ブラックコート》を羽織って、共に駆けるモニカの姿があった。
「警察から抜け出したから、脱走犯という形にはなるだろうからな。これを羽織っていれば気配を消すことができるだろう」
 という、カイの提案によるものである。
「……しかし、これだけの大人数で私を迎えに来るとは思わなかった」
 さすがのモニカも驚きではあるが、自分を圧倒してきた時のことを考えると別段不思議ではないか、と小さく笑う。
「あの時、言いましたよね……私たちはあなたを助けたいって。その思いを持った人たちが、ここに来てくれたんです」
 モニカの横で、ラグナ アイン(らぐな・あいん)が優しい笑みと共にそう言葉にしていく。モニカはそれに対し、まっすぐな瞳でデイブレイカーを見つめる。
「……お前たちは“姉を信じろ”とも言っていたな。その言葉も……今は信じさせてもらおう」
「やれやれ……まったく、世話の焼けるシスコンナイトですね。でも、その姉への想いは信用に足ります。後は、その想いをどうやって形にするか……やることはわかってますね、モニカさん?」
 ラグナ ツヴァイ(らぐな・つう゛ぁい)がモニカに問いかける。モニカはさも当然、と言った雰囲気で頷いていった。
「あえて言葉にはしない……行動で全て証明してみせよう」
 ……実にモニカらしい返答に、ラグナ・オーランド(らぐな・おーらんど)もその確かな覚悟を感じ取っていた。
「行きましょう、真実を知るために」

「やれやれ、わざわざ直接乗り込まずとも、『呪詛』ですぐ片付くと思うのですがね……」
 リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)とその横を常にキープする天夜見 ルナミネス(あまよみ・るなみねす)のやや後ろで、空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)がそう呟く。しかしその提案はモニカはよく思ってないようだ。
「確かに苦しませるならばそれでいい。だが、主から真実を聞くまでは手を出さないでほしい。例え聞きたくない真実であろうが……私を育ててくれた恩までは忘れたくない」
 モニカの口から出る、主――ヴィゼルへの想い。どのような真実を迎えるであれ、ここまで生かしてくれたことへの感謝は胸に残っているらしい。
「――私たちの目的は、モニカをヴィゼルの元まで連れて行くこと。そのための道を切り開くことよ。やるとしても、タイミングを忘れないようにね」
 リカインのほうからも言葉を投げかけられる。狐樹廊としては空京の危機をすぐにでも救いたい気持ちが強いからこその提案であり、リカインもそれを理解してか発動タイミングを見誤るな、程度に提案の許可をしていた。
「……しかし、リュースと言ったか。先ほどの子守唄……いざ心持ちを変えて聞いてみると、憶えこそないもののどこか懐かしい気持ちになった」
 そう言葉にすると、モニカは少し前のことを思い出していく……。

 ……警察署脱出前、モニカはリュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)から再び子守唄を聞かされていた。この子守歌はリュースがミリアリアから聞いた二人を繋ぐと思われる“思い出”である。
「この歌は、あなたのお姉さんから聞いたものです。覚えがなかったとしても、その心にまでは嘘はつけないはず。――モニカさん、あなたは自分にとって何が正しくて何が正しくないのか、ミリアリアさんからそれを聞く義務があります。……だから、泣かずに真実と向き合いに行きましょう」
「何を言っている……泣いてなどいない」
「いいえ、オレにはあなたが泣いているように見えますよ。――自分の中の記憶を信じて、前に進みましょう。大丈夫、オレたちがついてますから」
 リュースの言葉に続いて、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)もモニカへ語りかける。
「モニカさん、俺は、二度戦ったとはいえ根本的に貴女が嫌いではない。忠義に厚い騎士として、姉を案じる妹として、立派だと思う。だからこそ、そんな貴女をもし騙して利用していたのだとしたら……俺は、奴を許さん。――貴女が真実を知りたいというのなら、全力をもって力となろう。そして、本当に討つべき者を討つ!」
 熱意ある言葉をぶつけられ、モニカは……微笑んでいた。過去にあった時とほぼ同じ覇気を取り戻したモニカは、すぐさま押収室へ向かって自身の武具と全身鎧を回収してくる。
「……お前たちはなかなかに恥ずかしい言葉を口にするのだな。――もとより、私から志願したのだ。主とあの魔女から、真実を聞き出すつもりだ!」

 ……リュースはモニカからの言葉を聞いて、微笑みで返していく。子守唄の思い出は心に残っていた……それがわかっただけでも、十分な前進と言えよう。
「――して、モニカは警察署を出たあとどうやってデイブレイカーに向かうつもりだったんだ?」
 カイはふと思った疑問をモニカにぶつける。デイブレイカーは空中にあるため、徒歩で行こうなどとは到底思えそうにない。
「警察署にも浮遊する乗り物くらい保管されているだろう。それを奪って、向かうつもりだったが」
 ……案の定、というべきか。この辺りの“犯罪を考えない考え方”というのも、ある意味ではヴィゼルに育てられた弊害なのかもしれない。
「イコンだと目立ちすぎるしな……それに、大人数で乗り込むとなればそれなりの乗り物も必要になるわけだが……」
 モニカのみを送り届けるのならばカイの持つ《ジェットドラゴン》による二人乗りで一気に突入すればいいものの、これだけの大人数であり、さらに空中を移動できる乗り物を持っていない者もちらほらといるため、どうしたものかと唸ってしまう。
 一応、今ある空中移動可能な乗り物やイコンを確認してみるものの、無理すれば全員搭乗は何とかいけそうではあるが、無理した状態で戦場へ乗り込むのもある意味では自殺行為とも言える。
「――ちょい時間はかかんけど、空京郊外にある飛行場までいって、飛空艇を借りたほうがええな。イコンを持っとる奴や飛行能力のある乗り物を持っとる奴は先行してデイブレイカーに向かったほうがええ」
 状況を冷静に見ていた瀬山 裕輝(せやま・ひろき)が、学者脳をフル回転させて対策を口にする。全員がデイブレイカーに突入するにはそれしかなさそうと判断し、すぐに行動を起こすことにした。
 ……そんなわけで、先行してデイブレイカーに向かうのは、《小型飛空艇アルバトロス》を持つリカイン、それに乗るルナミネス、狐樹廊、エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)、ちょっと無理してオーランドの《レッサーワイバーン》に乗っている如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)とラグナ一家。
 《ジェットドラゴン》の二人乗りをしているカイとモニカ、同じく《ジェットドラゴン》に乗るサー・ベディヴィア(さー・べでぃびあ)紫月 唯斗(しづき・ゆいと)。《氷雪比翼》にて小型飛空艇と同じ飛行能力を得ているセリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)と、セリスに抱えられた状態の玉藻 御前(たまも・ごぜん)。そして自前のイコンを持つコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)エヴァ・ヴォルテール(えう゛ぁ・う゛ぉるてーる)。以上のメンバーが先行してデイブレイカーへ向かうこととなった。
「自分らもすぐに追いつくさかい、気を付けてな」
 一方、飛行場へ向かうのは広瀬 ファイリア(ひろせ・ふぁいりあ)ウィノナ・ライプニッツ(うぃのな・らいぷにっつ)白雪 魔姫(しらゆき・まき)エリスフィア・ホワイトスノウ(えりすふぃあ・ほわいとすのう)、そして提案者である裕輝の五人。これだけの人数ならば、飛行場で借りる飛空艇も小型のもので問題ないだろう。
 すぐに出発した裕輝たちを見送ると、先行組もそれぞれの乗り物やイコンなどに乗り込み、デイブレイカーに向かって飛び立ち始める。
「それでは行くぞ! ――黄龍合体!」
 ハーティオンは龍心機 ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)と共に“黄龍合体”と魂を燃え上がらせることにより、心を一つにし、グレート・ドラゴハーティオンの鼓動を目覚めさせていく。舞い上がる黄龍の両翼――勇者は今、黒き敵へと飛び立つ!
「モニカ、先だっての戦いにおいて我々は卑怯な手段で君を捕らえた。だから、その借りを今ここで返そう。私とエヴァの二人でデイブレイカーの外壁を破壊し、突入口を作る。モニカは皆と共にそこからデイブレイカーに入り、君の真実を見つけるのだ!」
「そういうことだから、任せておきなっ!」
 グレート・ドラゴハーティオンとゼファーがさらに先行し、デイブレイカー左側面の一部に近づく。国軍協力側の契約者たちのほとんどは主砲への攻撃に回っているのか、その機影はほとんどない。
「ここからならば通路に繋がっているか――同時攻撃で一気に外壁を破壊する!」
『既に武装は破壊されつくしているなら、このデカブツを相手にするだけだ!』
「了解だ! おらおらおらぁぁぁっ!!」
 ハーティオンとドラゴランダーの心が一つになったグレート・ドラゴハーティオン、そしてエヴァと煉のゼファーが、それぞれの武器を手に外壁へ攻撃を仕掛ける。この時、反対の右側面側では羽純たちも同じように外壁を魔力弾で攻撃し、突入口を作っているところであった。
 ゼファーの持つ二丁のバスターライフルを撃ちまくり、外壁にダメージを与えていくエヴァ。そして、バスターライフルの弾数が尽きると同時に機体を飛行形態へと変形。リミッター解除し、破岩突による突貫を試みる!
「ブチ抜けぇぇぇぇぇぇっ!!!」
「彗星! 一刀両断斬りぃぃぃぃぃっ!!」
 そこからさらにグレート・ドラゴハーティオンのファイナルイコンソードによる援護攻撃も入ることで、外壁は爆音を立て崩壊。無事に突入口を作り上げていった。
「入り口は作った! 後は君次第だ、モニカ!」
「あたしたちはここでゼファーと入り口の防衛をやるから、後は任せたぜ煉!」
 デイブレイカー内に機体ごと突っ込んだゼファーから、煉が降りる。ここからは煉がモニカと共に行動するようだ。
「それじゃあ、いくぞ――突入!」
「ああ。――待っていろ、主に魔女……! その口から真実を聞き出す!」
 カイとモニカを始めとする先行突入班が、国軍協力側の突入班よりもやや先にデイブレイカーへ突入開始。そこからやや遅れて、国軍協力側の突入班と飛行場で飛空艇を借りてここまで急速的に飛んできた裕輝たち後続突入班もデイブレイカー内へ突入。
 デイブレイカー内に、三つ巴となりえる騒乱の嵐が吹き荒れようとしていたのであった――!