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二人の魔女と機晶姫 最終話~姉妹の絆と夜明け~

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二人の魔女と機晶姫 最終話~姉妹の絆と夜明け~

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■姉の想い、そして離れた遺跡にて
「要塞に搭載されていた武装、全て完全に沈黙! それと外壁二ヶ所、同時に破壊されました! これらの場所から敵が侵入してくる模様!」
 ……デイブレイカー内、ブリッジ。要塞内を映すモニターには、外壁を破壊される様子が鮮明に映し出されていた。その様子を見て、ヴィゼルの表情は苦そうな顔を浮かべている。
「このままだと制圧される恐れが――!」
「……うろたえるな。こちらの仕込みは済ませてあるのだろうな?」
「は、はい……急ごしらえではありますけど、十分な結果は出せるかと」
 ならいい、とヴィゼルは軽く言い捨てる。そして視線を、魔力の使い過ぎと結界を破壊されたことによる魔力反動によって気を失っているミリアリアのほうへと向けていく。
「回復にまだ時間がかかるか……。――内部にいる警備機晶姫を全て防衛に回せ。数は十分なのだろう?」
 ヴィゼルは再びオペレーターへ問いかける。
「はい。機晶姫のゆりかご浅層から持ち出した機晶姫、およそ百以上……全て問題なく。元々があそこの警備用として眠っていたものだったのか、戦闘能力はかなりのものですよね、あの機晶姫たち」
「ああ、もとより守るために作られた道具だ……最高の使い方ができる」
 ――機晶姫のゆりかごの盗掘被害が多い原因は、ここにあった。古王国時代を生きた“夜明けを目指す者”が作ったと思われる、浅層に眠っていた警備用機晶姫たちのほとんどを手に入れたのは、ヴィゼルの一味だったようだ。今それらは、このデイブレイカーの九割を担う労働力として動いており、ヴィゼルはその全てを防衛に回していく。間もなく、各突入組の面々と戦闘に入るだろう。
 いまだ、ヴィゼルの抵抗の意思は強く発せられているようであった……。

 ――ミリアリアは、深く沈む意識の中で、クルスの叫び声を聞いたような気がした。しかし、それを助けたいと思っても身体を動かすことはできずにいる。
(私は……クルスも、モニカも助けられないのかしら……)
 妹は警察に捕まったままなのだろうか。だとすれば、ヴィゼルの野望が達せられないと、モニカと再び会うことは叶わない。……ヴィゼルに協力しなければ二人を助けられる可能性がない、という状況にミリアリアは意識の底で歯がゆい思いを巡らせていた。
(私にも力や知恵があれば……本当にごめん、二人とも……)
 後悔の念を秘めながら、身体がミリアリアの意識を一時的にシャットアウトさせる。全ては魔力回復のため――ミリアリアの思考は、一度そこで途絶えてしまった。


 ――場所は変わり、ここは“飛翔実験場”という名を持つ遺跡。古王国時代は“夜明けを目指す者”たちが大型飛空艇の製造工場として使っていた場所である。
 ヴィゼルの騒乱にも目をくれず……というわけではないが、いまだ手つかずとされているこの遺跡の探索を優先させていたのは、斎賀 昌毅(さいが・まさき)阿頼耶 那由他(あらや・なゆた)、そして二人に連れられる形で同行しているマイア・コロチナ(まいあ・ころちな)の三人であった。
『空京が大変なことになっているのにこんな所で宝探しをしてる場合じゃないと思うんですけど!?』
 マイアはここまで乗り付けたイコン、フレスヴェルグの中で待機しながらも、空京の危機に焦りを感じてか、昌毅へ『精神感応』で呼びかけていく。しかし、二人はそれより優先するべきことがあった。
「あー……そのだな、ここはあの機動要塞に関する施設らしくてな。ここにあれを打開するための何らかの情報があるかもしれないから、それで調べに来ているんだよ。もし何かあったらすぐにあっちで頑張ってる奴らに伝えるから大丈夫だっての」
「ふっふっふ、ここからは那由他たちのターンなのだよ。未開の遺跡となればお宝がたくさんだろうし、いい物がたくさんあるはずなのだよ」
 ……この様子だと、遺跡をあらかた漁るつもりだ。マイアは直感でそう気づく。二人との付き合いも短くはないので、それくらいはわかるほどらしい。そして、昌毅と那由他の仲の良さにちょっとばかりむくれてしまう。
『はぁ……昌毅の言うこと、一応信じておきます。ボクはすぐに出発できるようにイコンで待機しておきますから、調査は那由他と好き勝手にやってください。何もなかった、これならデイブレイカー戦にボクと参加しておけばよかったー、なんて言っても知りませんから』
 どこか拗ねたような雰囲気をわずかに出しながら、『精神感応』による会話を切る。昌毅は首を傾げつつも、那由他と共に飛翔実験場の調査を続けていくことにした。
「――前回での昌毅の調査結果を合わせるに、この前修理した機動要塞以外にも失敗したものが八十五機はあるはずなのだよ。けど、その残骸は見つからなかった……だとすれば、那由他が思うに、ここの大型飛空艇にその残骸が使われてたと思うのだよ。ふふふ、もしそうなら相当いい物が見つかるはずなのだよ」
 調査結果、というのは黒船漂着地点にて昌毅が見つけた日誌のことだろう。しかし、昌毅は那由他の推理に首を横に振りながら、遺跡内の資料を抱えて戻ってくる。
「……日誌の一文に書かれてた『無意識下では本来の出力安定が不可能』ってのがあったろ。それ考えると、試験云号機ってのは飛空艇とか機動要塞の部類じゃないな、あれ」
「となると、他で考えられる可能性は……メイン動力の足りないパーツ、のことなのだよ?」
「だろうな。他の奴らの話をまとめると、その動力のパーツはクルス、って予測は立ってるみたいだが。……にしても、何で機動要塞を作った連中……夜明けを目指す者、だっけか。こんなにもパーツをバラして作ってたんだか」
 おそらくは拠点を複数にすることで一網打尽になることを防いでいるのでは……と予想が立つものの、今となっては考えても仕方がないだろう。とにかく、一攫千金のチャンスを掴むべく二人は遺跡内の資料をかき集めつつ調査を進めていく。
 すると、ある程度調査を進めていったことであることが判明していった。……ここで最終的に、大型飛空艇が完成したという事実はなかったのだ。
 代わりに、ここではあるパーツ開発が行われていたことも判明。その実験とは、デイブレイカーに搭載されていたメイン動力システムを機動要塞より小型である大型飛空艇にも使うべく、メイン動力をここで造っていたというものだった。
 その造り方の詳細が記載された資料も見つけ、二人はそれを読み込んでいく(古代文字だったため、主に読んだのは那由他であるが)。……そして、そこにあったのは非人道的に近い動力システムの実態だった。
「『――以上のシステムに機晶姫を生体ユニットとして組み込むことにより、機晶姫の機晶石が持つエネルギーを動力エネルギーに転換。通常の機晶石を使うよりも高純度なエネルギーを得られるだろう……』……ふざけている、なのだよ。このシステムを造った奴は機晶姫のことを何も考えていない大馬鹿者なのだよ!」
 同じ機晶姫として、怒りを隠せなかったのだろう。いつもの雰囲気からでは想像できない表情を見せている。
「……さすがにこれを俺らが使うわけにもいかないな」
 もしあの機動要塞の主砲に匹敵する武装なりなんなりがあればそれをイコンに積み、ヴィゼルの鼻を明かしてやろうと昌毅は考えていたのだが、これを使ってしまってはヴィゼルと同じになってしまう。機晶姫と契約を結んでいる身として、これだけは許せるつもりはないようだ。
 さらに読み進めていくと、機晶姫のゆりかごで見つかった中枢パーツの詳細も書かれていた。それによると、あのパーツを機晶姫に組み込むことによってエネルギーの転換量を増大させ、より高純度のエネルギーを抽出できるようにするパーツらしい。
 そして、このパーツが生体ユニットとしての証でもあり、動力システムに組み込まれた場合、このパーツによって命が尽きるまで、完全に離れることは許されなくなる、とも書かれていた。

 ――残りの資料を急いで読み終えると、すぐさま昌毅がマイアへ『精神感応』で話しかけていく。
『わ、昌毅!? なんか慌ててるみたいですけど、どうしたんですか!? というか、大変なんですよ! デイブレイカーが――』
「悪い、すぐにイコンの通信回線でデイブレイカーにいってる奴らに連絡を取って、俺が今から言う内容を伝えてくれ! いいか、その内容は――」