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二人の魔女と機晶姫 最終話~姉妹の絆と夜明け~

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二人の魔女と機晶姫 最終話~姉妹の絆と夜明け~

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■別離の真実
 ……デイブレイカー内、ブリッジ。要塞全体の制御室としても機能するそこには、モニカ側の突入班とヴィゼル、そして気絶したままのミリアリアがいた。
「――主、ここにいたのか」
 モニカが一歩前に出て、ヴィゼルへ視線を向ける。ヴィゼルの護衛としてヴィゼルの近くで仮面を付けたまま護衛していた御東 綺羅(みあずま・きら)マリス・マローダー(まりす・まろーだー)が構えるが、ヴィゼルがそれを制する。
「……お主らは下がっていろ。――その様子から察するに、わしに話があるようだな。だがその前に、この“道具”はもう不要だ」
 そう言うと、ヴィゼルはミリアリアをモニカたちへ解放していく。すぐさまオーランドがミリアリアに駆け寄っていった。
「ミリアリアさん、大丈夫ですか!? ……よかった、気を失っているだけのようです」
「……どういう心変わりだ?」
 追ってくる敵機晶姫をアインとツヴァイたちに任せ、罠があると考慮してか、あえて出入り口を使わずに《封爆のフラワシ》と『サイコキネシス』を使ってブリッジの出入り口を作った佑也が問いかける。殴りかかりたい気持ちを抑えつつ問いかける中でも、他に契約者が隠れていないか……気づかれないように周囲を警戒していた。
「わしにとってその“道具”が不要になっただけのことだ。それに、終わりも近いようだしな」
 ヴィゼルの判断に戸惑いを覚える契約者たち。だが、そんな中でもモニカは警戒心を解くことなく問いかけていく。
「……主の言うその“道具”は、本当に私の姉なのか? 私が見たあの怪我だらけの人物は私の姉なのか!?」
「ああそうだ。その“道具”はお主の姉、ミリアリア。そしてお主に見せたあれは、お主を騙すための人形に過ぎぬ」
 ヴィゼルより語られた真実の一遍。それを聞き、モニカは怒りの表情を露わにさせる。
「――ついでだ、なぜお主をわしが育てたか話してやろう。……全てはお主とミリアリアが小さい頃、わしがお主らの住む広大な土地を得るために争いを仕組んだのだ。わしの私的な戦闘部隊をわざわざ使ってな。そして、その時に見つけたのがお主らだった。そしてわしは力のあるお主を攫い、わしの言葉に忠実に従う“道具”として育て上げた……」
 ……幼少時に巻き込まれた争いごと、そのせいで全身に深い傷を負ったという姉。……その全ては、ヴィゼルの掌の上で踊らされていただけという真実であった。
「なら、あの偽者はなぜ……!!」
「よりお主をコントロールしやすくするためのものだ。……まさか、この計画に役に立ちそうだと投資をしてやった防御結界の魔女が、あの時まったく力のなかったお主の姉とは思わなかったがな。……ある意味では、それが原因で計画は崩されたようなものだが」
 自らを嘲笑するように、小さく笑うヴィゼル。そこへ玉藻がヴィゼルへと問いかけていく。
「……おぬし、あまりにもモニカの使い方がなっていなかったように思えたが。まるで無駄や穴が多すぎる……それに、今回の計画とやらも、穴が多すぎるのではないかのう?」
 セリスと玉藻の二人は、ヴィゼルが遺跡の怨念に取りつかれて、今回の騒動を引き起こしたのでは? と疑問に思っているようだ。しかし、ヴィゼルは剛毅な高笑いを上げると、契約者たちを見やっていく。
「――所詮は悪しきことで私腹を肥やした資産家の考えた計画だ、小事には向いても大事には向かなかっただけのこと。だが、過去の想いがこの計画の後押しをしたのは間違いないだろうな……」
 ヴィゼルはそう言うと、さらに言葉を続けていく。その内容は、ヴィゼルが古王国時代のことを調べていく内に、その時代でのテロリスト集団である“夜明けを目指す者”の存在を知ることから始まる。
 入念な準備を進めていたにも関わらず、拠点の一つである機晶姫のゆりかごが襲撃を受けたことによってその想いが打ち砕かれ、全てが未完成のまま時が経っていたことを知ると、ヴィゼルはその未完成のままとなっていた想いを成就させようと今回の計画を起こしたらしい。
「だからと言って、空京を荒らしていい理由にはなりません……!」
 もはや我慢できない、といった雰囲気で狐樹廊がヴィゼルに『呪詛』をかけようとする。しかしそれを、モニカが制してしまった。
「……せめて、私の手でやらせてほしい。こればかりは譲れない……頼む」
 モニカの真剣な……だが、震える声。狐樹廊はその確かな気迫を感じ、モニカに任せることにした。
「――主、いや……ヴィゼル! 私を……そして姉を翻弄し、その人生を歪めたこと……許さない!」
 大槍を構え、ヴィゼルと対峙するモニカ。だが、その危険を察知してか――陰に隠れたままの辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)がダガーを投擲し、モニカを狙う!
「させるかっ!」
 しかしの攻撃は佑也が刀を投擲することによって相殺させ、防いでいく。そして、佑也はしっかりと刹那が隠れている位置を真っ直ぐ見つめていた。
「……見られていたか」
「気づいてない振りをしていただけさ。姿を見せたらどうだ?」
 佑也の言葉に導かれてか、普通は誰も気づきそうもない陰から刹那がその姿を見せた。この一連の騒動で見知った者もいたためか、刹那がヴィゼル側についていた事に驚きを隠せない者もいるようだ。
「――下がっていろ、と言ったはずだ」
 どうやらヴィゼルは刹那にも護衛から下がれとは言っていたらしい。だが、刹那はその命令に従わず、契約者たちと対峙する。
「わらわは傭兵だからの……易々と引き下がるわけにもいかぬのじゃ。第一、何をしようとしてるかなど、わらわにとってどうでもいいことでの」
「……ふん、なら勝手にしろ」
 ヴィゼルもそこまで厳しく従わせるつもりはないらしく、逃走することもしないで場の様子をただ見ているだけに留まっている。――モニカと刹那が睨みあいを続け、二人が同時に一歩を踏もうとした……その時だった。
「――そこまでよっ! ヴィゼル、およびヴィゼルに与した者は国家反逆の罪で逮捕させてもらうわ!」

 ヴィゼルを捕まえるべく動いていたルカルカたちもブリッジへと乗り込んだことで、場は一気に捕縛班の流れへと流されていく。
 突入後、すぐに手の空いた契約者たちがヴィゼルを捕獲しようとするが、そこは刹那によって妨害されていく。そして、その間にルカルカ、ダリル、ロアが制御コンピューターへと一気に駆け寄り、仕掛けていた掌握プログラムを起動させようとする。
「邪魔など……させんっ!」
「主、俺も防衛いたしますっ!」
 これ以上好き勝手なことをさせまいと綺羅とマリスが襲撃を仕掛けるが、グラキエスとアウレウスの二人がそれを阻止する。そして、なんとかその場から引き離すべく誘導していってしまった。

「ヴィゼルは殺しておくべきなんだろうけど――まずはその前に、おまえを倒す! 機晶姫たちは大したことなかったから、少しは楽しめるかな」
「殺す、まではやりすぎな気がしないでもないけど、私も一発殴っておかないと気が済まないし……協力するわ。私とヴィゼル、どっちが強き者かはっきりさせるわよ」
 緋柱 透乃(ひばしら・とうの)緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)、そしてイリス・クェイン(いりす・くぇいん)クラウン・フェイス(くらうん・ふぇいす)の四人は、ヴィゼルの意思とは関係なくヴィゼルの護衛をする刹那と対峙していた。
 この傭兵をどうにかしないことにはヴィゼルに近づくこともままならない。だが、ようやく強そうな者に出会えたことで透乃は気合を入れていた。イリスもまた、ヴィゼルに対しての憤慨をぶつけるためにも、透乃たちと協力して目の前の障害を排除しようと構えていく。
「――いかせてもらおうかの」
 先に動いたのは、刹那だった。軽業による素早い動きが生み出す攪乱行為に、四人はすぐに動きを目で追っていく。そこから、ダガー投擲や『アルティマ・トゥーレ』による連撃が次々と繰り出される。
「させないよ! それに軽業がそっちだけの専売特許じゃないっての、教えてあげる!」
 しかしその攻撃の一つ一つを、クラウンが『ディフェンスシフト』を中心とした防御でしっかりと防ぐ。道化として軽業を心得ているのか、刹那の軽業に追随するようにしてクラウンも素早く動いて対応していく。
「小細工なし、全力でいかせてもらうわ……はぁぁぁっ!!」
 クラウンの防御戦術によって生み出される刹那のわずかな隙を狙い、それでもなお来るダガー投擲をあえて受けつつも『リジェネレーション』でダメージを回復しながら、イリスが全力の『ファイナルレジェンド』を撃ち出す!
「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
 さらにそれに合わせ、『行動予測』で刹那の行動を読んだ透乃の、《煉身の声気》と《気合の烈火》からなる豪炎の格闘術が吠える。全力で退けるためか、攻撃力の上がる武装なども同時に扱い、その殲滅力を高めているようだ。
「透乃ちゃん、援護しますっ!」
 透乃の攻撃の隙を縫うようにして、陽子も《凶刃の鎖【訃韻】》や《エンドレス・ナイトメア》による援護攻撃でサポートしていく。さらに使役している《アンデッド:レイス【朧】》と《アンデッド:リビングアーマー》にも戦闘補助をしてもらい、数の優位をさらに築き上げていった。

 と、その時である。
「起動パスワード、“チョコバーとお茶で優雅なひと時を”――掌握プログラム、起動!」
 ダリルとロアがコンソールから直接システムへアクセスして、仕掛けていた掌握プログラムを起動させる。その作業の間も、契約者たちに囲まれているヴィゼルが全くの抵抗を見せなかったのに疑問を感じるも、まずはシステムの掌握が優先される事項であった。
「よし、これでシステムはしょうあ――なにっ!?」
 掌握プログラムにより、システムの全ダウンとロックがかけられていく――はずだった。しかし、コンソールには『動力炉、エネルギー発生率上昇開始。また、航行ルートを強制固定』と表示され……動力炉にてエネルギーのチャージが開始され始める!
「ヴィゼル、これは一体……!?」
「――お主らが攻撃する前に、仕掛けられていたその掌握プログラムを見つけたのだ。わしはそれをあえて残し、掌握プログラム起動と同時に動力炉のエネルギー発生を急上昇させるプログラムと航行ルートを空京中央部へ直撃するルートに強制固定するプログラムを仕込ませたのだよ」
 義理人情のためか、協力者のことは口にせずに掌握プログラムのことを話すヴィゼル。ダリルたちはやはり内部に裏切り者がいたのか……と、苦虫を噛み潰したかのような顔を浮かべてしまう。
「未来に残してもらえたこの要塞も、結局は未完成に過ぎなかった……仕込んだプログラムは、せめてもの手向けだよ」
 その言葉に対し、ザカコがヴィゼルへ言葉を投げかける。それは、説得に近いようなものだった。
「……以前聞いた貴方の気持ちには、嘘偽りはありませんでした。ですが、こんなことをするために、この要塞を未来に残したと本当に思ってるんですか? ……確かに今の世界には武力も必要だと思います。ですがこんな力に頼るのはただの逃避ですよ。――道具を使うより、先ず遺してくれた遺志を受け継ぐことが大事ではないですか?」
「……言ってくれる。この要塞はもとから、武力により古王国を統一しようと志した“夜明けを目指す者”を体現するために作られたもの。遺した遺志もまた、この力に頼った未完成なものだったのだ。――未完成のものに価値などない。人間もまた未完成そのもの……強くなど、ない」
 ヴィゼルの言葉を否定するように首を横に振り、ザカコはゆっくりとヴィゼルに手を伸ばす。
「――貴方が思っているほど、人間は弱くありません。いつだって未来を切り開く力を持った、力強い未完成品なんです。……未来を信じて、この手を取り合ってくれませんか?」
 ザカコの行動をじっと見ていたヴィゼルであったが、無言のままその手を取り合うことは……なかった。
「あまり話し込んでいる時間はないと思うぞ。……もはやわしにとってすべてが未完成の“道具”だ、それらを葬り去ることこそ、わしの最後の仕事だ」
 ……これ以上協力するつもりもないし、話すつもりもないらしい。無抵抗のままルカルカに捕縛されると、メシエがヴィゼルを見やって言葉を紡ぐ。
「君にこんな無様な要塞の使い方を示唆した人間がいると思うくらいだったけど……残念だ」
「……道具の使い方なぞ、千差万別。お主の使い方が正しいとも限らんぞ」
 無論、それはわしにも言えるのだがな……と言葉にすると、自害されないようエースが『ヒプノシス』を使い、ヴィゼルを眠らせていったのだった。


「……くそ、プログラムの変更がきかない!」
 ヴィゼル捕縛の間にもなんとか仕掛けられていたプログラムの停止を試みようとしたダリルだったが、完全に操作不能になっており止めることができずにいる。
「あとはクルスを救出するだけなんだけど……向こうのほうも完全に手詰まってるみたい」
 動力室側のメンバーと連絡を取っていたルカルカだったが、どうやら向こうも芳しくないらしい。それによると、クルスを切り離そうとすればどの方法をとっても確実にクルスの機晶石が砕かれる事態に陥ってしまうらしい。
 さらに、エネルギーの急速転換による負荷がかかり続けているためクルスもかなり苦しんでいるとのこと。このままだと過剰なエネルギー転換によって動力炉が爆発する恐れもある。
「――ミリアリアさん!?」
 ちょうどその時、オーランドに抱えられたままのミリアリアが気が付き、うっすらと目を開ける。魔力が足りてないのかボーっとした状態だったが、オーランドから事の顛末を聞くとすぐに意識を覚醒させていった。
「お願い……クルスの所へ連れて行って……!」