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リアクション
リカイン達が戦闘を行っている一方で、別のルートから≪シャドウレイヤー≫発生装置へ向かっていた長原 淳二(ながはら・じゅんじ)達の目の前には強固な扉が立ちふさがっていた。
「この扉はどこかの制御室で管理しているみたいですね。
別のルートを探しますか?」
「いや……とりあえず俺達だけでも先を急ごう」
淳二の問いに、仲間を振り返った源 鉄心(みなもと・てっしん)が答える。
鉄心は迂回してルートを探すより、マスコットにになったメンバーだけで排気口を抜けて先を急いだ方がいいと考えた。
すると、イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)が不満を口にする。
「ちょっと鉄心。いかにわたくしがスレンダーでキュートでもそんな所は通れませんの!
わたくしもお寿司を食べに行きたいですの!」
「いや、寿司を食べに行くわけじゃない。俺は装置を止めにいくだけだぞ?」
「それならそれで、魔法少女を差し置いてのスタンドプレイなんてダメに決まってますの!
だからわたくしも連れて行くのですわ!」
「あ、おい……」
イコナは手を伸ばすと、オオカミのマスコット姿になっている鉄心は抱きしめた。
「は、離せ……」
「嫌ですわ! わたくしを置いていっては嫌ですわ!」
イコナは涙目になりながら訴えていた。
必死にイコナの腕の中から逃れようとする鉄心。
すると、ティー・ティー(てぃー・てぃー)がイコナを説得し始める。
「イコナちゃん、大丈夫。鉄心はすぐに戻ってきてくれますから」
「すぐってどのくらいですの?
何時間何分何秒くらいですの?」
「イコナちゃんがお腹を空かせるくらいまでにかな。ね、鉄心?」
鉄心が首を激しく縦に振る。
イコナは暫しの間、鉄心の目を見つめていたが、やがて諦めたようにその手を離した。
「約束ですの、すぐに帰ってきてお寿司を食べに行きますの……」
「わかった。約束する」
「回らない方ですの」
「それは考えておく」
鉄心は肉球のついた手で乱れた毛を整えていた。
「じゃあ、俺も行ってくるぜ」
「あ、はい……気を付けて」
玖珂 美鈴(くが・みれい)は胸の前で両手の指を絡ませながら、黒狼姿のカイ・フリートベルク(かい・ふりーとべるく)を見つめていた。
「そんなに心配すんなって、美鈴の方こそサボったりすんなよ」
「私、そんなこと……」
美鈴は俯き、か細い声で呟いた。
「……悪い。冗談。
美鈴はそんなことしないよな。
頑張りすぎて、怪我とかすんなよ」
「……うん。頑張る」
両手で小さな拳を作る美鈴に、カイは苦笑いを浮かべていた。
「あ〜あ。私も一緒に行って一緒に活躍したかったです」
ミーナ・ナナティア(みーな・ななてぃあ)がつまらなそうにステッキを左右に振り回していた。
それを見た淳二がくすりと笑う。
「ちょっと、なに笑っているんですか。
もうっ、わんちゃんのくせに〜」
「あっ、ちょ、やめ……」
ミーナは笑われたお返しにと、犬のぬいぐるみになっている淳二を仰向けにしてお腹をくすぐりまくった。
涙を滲まながら淳二の笑い声を通路に響かせる。
「皆さん、そろそろ行きますよ」
忍び装束を身に纏った犬のぬいぐるみになった紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が、排気口に足をかけながら声をかける。
それを合図に鉄心、カイ、淳二の三人は唯斗に続いて排気口へと入って行った。
残された少女達はぼんやりと排気口を見つめる。
「ぐすん……」
イコナの瞳が涙で潤む。
ティーがしゃがみ込んで尋ねる。
「イコナちゃんどうしたの?」
「わたくし置いて行かれましたの……心配ですの……寂しいですの……」
イコナは今すぐにも鉄心を追いかけて、袖ならぬ尻尾を掴みたい気持ちだった。
だが、目の前の扉は叩いてみても虚しく音が響き渡るだけで、ビクともしない。
ティーがイコナの赤くなった手を握り、頭を撫でて落ち着かせようとする。
迂回しても時間がかかるだけだし、ここは大人しく待っていた方がいいと思っていた。
――その時だった。
ギギギギギギギ
「え?」
「扉が……」
動く気配のなかった扉が少しずつ上昇しだしたのだ。
艦内放送から姫宮 みこと(ひめみや・みこと)の声が聞えてくる。
「もしもし、姫宮 みことです。
今、扉のロックを解除しました。すぐにそちらに合流します」
プツンと放送が切れた。
「いないと思ったら……」
みことと早乙女 蘭丸(さおとめ・らんまる)はティー達と途中で別れて、管理室を制圧に行っていたのだ。
徐々に上がっていく扉。
「……う〜、先に行きますわ!」
「え!? イコナちゃん!?」
待ちきれなくなったイコナが開いた扉の隙間から先に行ってしまう。
ティーも慌てて追いかけようとするが、引っかかってしまい通れない。
「イコナちゃん、私通れません!」
「ティーは太ったんじゃありませんの?」
が――――――――ん!?
遠くなっていくイコナの捨て台詞に石になるティーだった。
「だ、大丈夫ですよ。全然痩せてますよ」
「そ、そう綺麗……」
「ありがとうございます。ミーナさん、美鈴さん」
ティーは二人の手を借りてよろよろと立ち上がっていた。
「キャ―――――――!!」
「イコナちゃんの声!?」
扉の向こうからイコナの叫び声が聞こえる。
ティーは先ほどより大きくなった扉の隙間に体を捻じ込み、イコナの元へと駆けた。
イコナが武器を手にした敵に襲われている。
転んだのか、膝を抱えて地面に横たわり涙目になっていた。
「わ、わたくしはただお寿司を食べに来ただけですの。殺さないでぇ……」
敵がイコナに迫る。
「イコナちゃん!」
ティーが転びそうな勢いで駆けてくるも、距離がありすぎる。
このままでは間に合わない。
必死に手を伸ばすティー。
もう少しだけ待って、時間よ止まって……逃げて、イコナちゃん。
――その時、白い影がティーの真横を颯爽と駆け抜けた。
「え?」
それはマスコットになり普段より小さくなった白狐のゴン・ゴルゴンゾーラ(ごん・ごるごんぞーら)だった。
ゴンはティーに目もくれずに走り抜けると、そのままの勢いで――
「うぎゃ!?」
イコナの後頭部に体当たりを食らわした。
思いっきり吹き飛ばされたイコナは、数名の敵を巻き込んだ。
「うう〜???」
わけわけがわからないイコナは、敵を下敷きにしながらクルクルと目を回していた。
「ゴンさん!」
追いついたティーが膝に手を付きながら肩で呼吸する。
タンコブ以外の外傷がない様子のイコナを見て、ホッと胸を撫で下ろすティー。
ふいにゴンがティーを見ているのに気付いた。
「……ふっ」
「なっ――なんですか、その人を哀れむような目は!?
しかも、さりげなく私の腹部を見てましたね! 腹部を!
って、無視しないでください」
涙目で顔を真っ赤するティー。
ゴンはそっぽ向いてあくびをしていた。
「……もういいです。戦います」
ティーはゴールデンアクスを取り出して構える。
「先に言っておきます。私、人を傷つけるのは嫌いです。
でも……今日は涙で手元が狂いそうです!」
ティーが片手で涙を拭いながらゴールデンアクスをおもむろに振った。
勢いよく壁に当たった刃がパイプを壊して吹き飛ばす。
「首がぽぽぽぽーんになりたくなかったら……」
目の前に転がったパイプを見て敵の表情から血の気が引いていく。
「大人しくして下さい!!」
ティーの警告にも関わらず敵が武器を構える。大人しくしてても己の身が危険だと感じたからだった。
ティーがゴールデンアクスを片手で ブーンブーン と振り回し始める。
「ちょちょちょ、ちょっとティー、わたくしもここにいますわ」
「うわーん」
慌てるイコナの言葉など耳に入らず、ティーは泣きながら武器を振り回し続ける。
「豪快な魔法少女ですね……」
その様子を見ていたミーナが呆然と呟き、美鈴が小さく頷いていた。
「ええっと、私達も行こうか」
「はい……」
武器を構えた美鈴が大きく深呼吸をする
そして――
「――涼風と幸福の唄い手、魔法少女カナリア、見参!」
芯のある透き通った声で名乗りをあげた。
しっかりと名乗りをあげられたことに、カナリア(美鈴)の表情は晴れ渡った空のようにスッキリしていた。
「……よし……言えた」
「いいですね。じゃあ、私も……」
ミーナは肺に空気を送り込み、胸を大きく膨らませる。
そして腹から声をだした。
「――陽射しと祝福の花嫁、魔法少女ミーナ、推参!」
しっかりポーズまでとってみせるミーナ。
だが、終わってみるとなんだか少し恥ずかしい。
「な、なんてどうですか?」
「素敵です」
素直に褒められ、恥ずかしさが最高潮に達したミーナの顔を赤くしていた。
「あ、援護しないと……」
カナリアが暴れるように戦うティー達の方を見る。
そこでは冷静さを取り戻した敵に、ティーとゴンが苦戦していた。
「……歌で援護します」
「おっけーです。
じゃあ、私も盛り上がるように特大の熱いの、いきますよ」
カナリアが胸に手を当て歌を唄い始め、それを後押しするようにミーナが熱い炎が敵に向けて発動した。
「ちょっとちょっと、みこと。
なんかもうお祭り始まってるみたいだよ。急いで!」
ティー達とは通路の反対側に出た九尾の狐姿の早乙女 蘭丸(さおとめ・らんまる)は、後から走ってくるみことを急かした。
ようやくみことが追いつく。その背後から他の生徒達も追いかけてきている。
「どうする、みこと?」
「それはもちろん急いで援護に向かいましょう」
「は〜い♪」
「退魔少女バサラプリンセス みこと、がんばります!」
みことは敵の背後から【子守歌】を歌い始めた。
存在に気づいた敵が、みことを狙ってくる。
「じゃっじゃーん、みことはやらせませーん!」
【隠形の術】を発動させながら、蘭丸は確実に背後から敵を気絶させていく。
――戦いを切り抜けた魔法少女達は先に行った者達を追って通路を進み始めた。
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