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リアクション
第7章 裏でうろうろ
足元には荒れ狂う海。
目の前は崖。
現在進行形で、崖。
「くっ……これくらいの崖、俺の持って生まれた宿命(さだめ)に比べれば……うわわっ」
「ありゃー陽さん大丈夫ですかぁ」
「だ、大丈夫問題ない……」
「陽介君うるさいから蹴ってもいい?」
「ぐほっ」
「わー陽ちゃん早くも死にかけてやがりますねぇ」
富豪の屋敷の裏、海に面する崖を上っているのは高塚 陽介(たかつか・ようすけ)、九断 九九(くだん・くく)、クレイ・ヴァーミリオン(くれい・う゛ぁーみりおん)、新城 咲和(しんじょう・さわ)ら4人。
10代前半の少年がかかりそうな病気真っ盛りの陽介は、怪盗「シャドームーン」として今までに考えた台詞を解禁するため、富豪の屋敷を目指していた。
常日頃はその本性を押え、ほにほにとついて来るのは九九。
酷く冷たいツッコミを入れているのは咲和。
そして。
「ふはははは……これくらいの難関、三姉妹を俺の妹にするためには何の障害でもない! この最短ルートの崖からこそ、妹への道ッ!」
「もっとうるさい奴がいやがりましたよぉ」
「蹴っていい?」
陽介に続いて咲和に蹴り飛ばされたのは、クレイ。
彼は明後日の方向の野望に燃えまくっていた。
そんなこんなでわいわいと崖を上る4人。
(全く、喧しい人達ねぇ…… 侵入者って意識があるのかしら)
それを海中から見上げているのは、シルヴィア・セレーネ・マキャヴェリ(しるう゛ぃあせれーね・まきゃう゛ぇり)。
シャチの獣人である彼女は侵入経路が海だった場合を予測し、周辺を警戒していたのだ。
しかしシルヴィアは予想通りやってきた陽介たちを、あえて見送る。
(逃走手段としてここを使ったら、その時は捕えてあげましょう、ね)
4人を見送ったシルヴィアは、好物だけ後に残している子供の様に、ぺろりと唇を舐めた。
◇ ◇ ◇
「ストラァーィクッ! 俺達主人の趣味ど真ん中、ストライクッ!」
門前に、変熊 仮面(へんくま・かめん)の絶叫が響き渡る。
いつも通り、マントにマフラーあとは全裸でハイ、ポーズ。
「ワシの胸囲は12メートル、ズバリ巨乳!」
巨熊 イオマンテ(きょぐま・いおまんて)が腰をひねってセクシーポーズ。
「獣耳、獣耳、本物の猫耳!」
にゃんくま 仮面(にゃんくま・かめん)も腰に手を当てポーズを決める。
「我らフェチ三人組! 美しき音色に導かれ、ここに参上!(どかーん)」
「……お引き取り願います」
「何故っ!」×3
微塵も同様することなく、館入口で警備をしている御茶ノ水 千代が3人を締めだした。
「不審者の入館はお断りさせていただいております」
慇懃無礼に率直な説明をする千代。
「ほほぅ……目の前で不審者扱いとか、ハッキリ物を言うな」
「まず、裸の方の入館はご遠慮願います。次に、胸囲と巨乳は一致しません。最後の方は……」
にゃんくま 仮面のきゅるりんとした瞳が千代を見上げる。
「お姉さん綺麗だけど体臭がカエルくさいにゃ〜」
「……お帰り願おう」
かちゃり。
千代が獲物を掲げる。
「はいはい、失礼しますね」
荒ぶる三人の前を、湯上 凶司(ゆがみ・きょうじ)が手を挙げて通り過ぎる。
彼に続いて兎耳巨乳メイド姿の三姉妹、エクス・ネフィリム(えくす・ねふぃりむ)とディミーア・ネフィリム(でぃみーあ・ねふぃりむ)とセラフ・ネフィリム(せらふ・ねふぃりむ)が通り抜ける。
「んもぅ……何でこんな服なんだろぅ」
「えぇい、どいつもこいつも変態めっ」
「ま、仕方ないわねぇ」
「はいはいご苦労様」
「狭い門じゃのう」
「にゃー」
「ようこそいらっしゃいました……待て」
獲物を下げ、凶司一行を見送る千代。
凶司に続き、当然の様に入っていこうとする変熊一行。
千代は、そこに獲物を突きつけた。
「ほほう、これはアレか? 入りたければお前を倒してから行け、という」
「お望みなら」
パン、パン、パン。
千代の手の拳銃が火を噴いた。
足元に弾を撃たれ、踊るように避ける変熊ら三人。
「ひゃあああああっ!?」×3
◇ ◇ ◇
(ご丁寧にど真ん中にティンパニを置いてくれるなんて、親切だな)
(グラキエス様、本当にやるおつもりですか?)
(全く、ロアといい、二人はどうして合わなくてもいいところまで気が合うのか)
(止めるかい?)
(いいえ、グラキエス様の望む通りに)
(ご自由に)
ほくそ笑むグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)にエルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)は静かな笑みを返し、レヴィシュタール・グランマイア(れびしゅたーる・ぐらんまいあ)は肩を竦める。
3人はお披露目会会場の中、静かに徘徊して警備の布陣、人数をチェックしていた。
(そこの警備は1人だけか…… 頼む)
(仕方ないな)
グラキエスがレヴィシュタールに目配せする。
と、レヴィシュタールの体から異様な気配が発せられる。
「ひっ!?」
警備員の体がふいに物陰に吸い込まれた。
「……っ!」
声を発する間もなく、レヴィシュタールに血を吸われそのまま気絶させられる。
こうしてグラキエスたちは少しずつ警備員の数を減らしていった。
(あれは……)
グラキエスの顔に極上の笑みが浮かんだ。
警備の中に知った顔を見つけたからだ。
(やりますか?)
(いや……お楽しみは後に取っておこう)
グラキエスは首を振り、ロア・ドゥーエ(ろあ・どぅーえ)に連絡を入れるべく携帯を取り出した。
◇ ◇ ◇
「お待たせ」
「ううん。三月ちゃん、どうでした?」
「問題なし。ティンパニは本物がここにあるから、警備もここに集中してるみたいだね」
「ありがとう。シェリエさん、そしたらここに待機で良かったでしょうか?」
「ええ。もうじき皆も集まってくるそうよ」
杜守 三月(ともり・みつき)から情報を受け取った杜守 柚は、メイド姿のシェリエに顔を向ける。
そういう柚自身もフリルのついたメイド姿。
この会場では、ある意味最も周囲に紛れることが可能な服装だ。
(……ああ、あの成金め! 思い出すだけで汚らわしいわ!)
ポニーテールに眼鏡っ娘、フェイ・カーライズは怒りに肩を震わせながら会場を歩いていた。
メイドに囲まれ上機嫌だった富豪が、フェイの姿を見かけ「たまにはメイド以外の眼鏡もいいものだ」と手を出そうとしたのだ。
うっかり銃を構えそうになる自分を抑え、足早にそこを離れたものの怒りはなかなか収まらない。
怒りつつ、周囲の警備陣やティンパニに関心を持っていそうな客、そしてあらかじめ確認していた三姉妹への協力者の様子を観察するのも忘れない。
一通りチェックを終えると、そっと会場の隅、目立たない所に立つ三姉妹の元に戻るフェイ。
そこには既に富豪から情報を聞き終えた騎沙良 詩穂とアニス・パラスがいた。
よく見ると、女装した佐野 和輝もカーテンの影に隠れている。
「どうしたの? そんな影に隠れて……」
「でしょー。せっかくこんなに可愛いのに、よく見えないよねぇ」
「だからだよ!」
首を傾げるシェリエにアニスが大げさに同意する。
それに苦々しげに答える和輝。
「それより、聞き出してきた情報を伝えるね」
トレーネたちに、身を張って富豪から聞き出した情報を話す詩穂。
「ぅあっちゃー、やーっぱ、あのオヤジ阿漕な真似してティンパニを入手したんだねぇ」
「ストラトスの名器をそんな風に扱うなんて、許せない。そんな人に、ストラトス・ティンパニは渡せないわ」
「落ち着きなさい」
憤るパフュームとシェリエ。
そんな妹二人を宥めるように、トレーネが二人の前に立つ。
「トレー姉ぇはいいの? あんな人に……」
「いいわけ、ないじゃない」
静かな口調の中に秘められた激情に、パフュームは思わず口を閉じる。
トレーネは、静かに時計を見る。
「でも今は、作戦の事だけ考えましょう。……そろそろ、時間よ」
トレーネの言葉と同時に、入口の方向で破裂音が響き渡った。
ぱぱぱん、ぱん!
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