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第二章

「このタイミングで、よく来てくれましたね。ありがとうございます」
 音楽室に入ってきた男性教師が、助っ人たちの姿を見て嬉しそうに目を細める。
「はい。転入してきた子たちが、たくさん来てくれました」
 吹奏楽部部長も嬉しそうに頷く。
「吹奏楽部顧問のヘンデルです。みなさん、よろしくお願いします。早速ですが、みなさんが担当される予定の楽器を教えていただいてもいいですか?」
「あたしギターなんだけど、ほんとに良いの?」
「もちろんです。吹奏楽は意外と幅広いんですよ」
 気まずそうな熾月 瑛菜(しづき・えいな)にヘンデルは笑顔で答える。
「私はリズムギターよ」
 ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)が瑛菜と顔を見合わせて頷き合う。
「わらわはベースだ」
「わたくしは、キーボードを担当しております」
「うゅ、エリーはドラムなの」
 グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)上杉 菊(うえすぎ・きく)エリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)が続く。
「バンドが1つできるわけですね」
 ヘンデルが感心したように呟く。
「でも、ヴォーカルはどうしよう?」
「此処って、マンモス校なんでしょ? 合唱部の一つくらいあるんじゃないかしら? ちょっとそっちに声、掛けて貰える?無ければ音楽関連の部や同好会……兎に角、出来るだけ人を集めて。こんな時だからこそ、みんなで一つにならなければダメよ。目立って、明るく、希望を与える舞台にしましょう」
「素晴らしいですね。音楽に大切なことです。不謹慎ですが、良いステージができるような気がしますよ」
「じゃあ、明日色んな部に声をかけてみますね」
 ヘンデルの言葉に部長が張り切って頷いた。
「で、曲は何を演るつもりだったんだ?」
 ヴァイオリンの調弦をしながらソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)が尋ねる。
「ディオニソスの祭りですよ」
「ディオニソスの祭りだぁ!? ちょっと待て、そもそも何人いたんだ、この部?」
「41人です。あ、僕を入れると42人ですね」
「どう考えても足りないだろ!!」
「倍音はともかく、それでも編成の半分にも満たないねぇ。どうしてそんな選曲を?」
 驚くソーマの隣で、清泉 北都(いずみ・ほくと)も不思議そうに尋ねる。
「確かに、人数的にもレベル的にも非常に厳しい楽曲です。ですが、緩急の構成や軽快さと荒々しさが混在する曲想は、高校生にぴったりだと思いませんか?」
「まあ、難しい年頃だよねぇ。僕が言うのもなんだけど」
「高校生は、大人が思うよりずっと多くのことを考え、抱えています。けれど大人に比べてフットワークも軽いんです。そんな今の彼らだからこそ、表現できるものがあると思いました」
「曲は変えないんだよね?」
 ヘンデルの言葉を聞いた五百蔵 東雲(いよろい・しののめ)が部長に確認する。
「うん。だから、このメンバーで思いっきりアレンジしちゃおうかと思って」
「そっか。俺はキタラだから、ある程度乗れると思うよ」
「我はいま流行りのポータラカ人、ンガイ・ウッドである! 我はこの肉球の通り、楽器は扱えぬ。非力でもふんもふんの愛らしい姿を活用し、吹奏楽部のマスコットをしてやろう!」
「わたくしはリコーダーですわ!」
 東雲にンガイ・ウッド(んがい・うっど)、イコナが続く。
「マスコットキャラクターまでいてくれるんですね」
「で、北都はどうするんだ?」
 にこにこと喜ぶヘンデルを横目に、ソーマが北都に尋ねた。
「僕はあまり得意な楽器ってないんだよね。一応金管楽器は普通に音を出すまでは出来るけど、演奏とまではいかないんだよねぇ」
「スケールはできるということですか?」
 ヘンデルが首を傾げる。
「小学生の時、吹奏楽のクラブが作られたけど、楽器の数の関係で一部の人しか参加出来なかったんだ。希望ではなく、先生が勝手に決めた選ばれた人だけ。その中に僕は居なかった。
選ばれなかったのは、僕が音楽を楽譜通りには弾けるけど、個性がなかったのが理由だと思う」
「今のお前なら、音に自分を出せるさ。上手にやろうと思わずに、俺達と合わせて楽しくやれればそれでいいんだよ」
「ソーマ……」
「私もそう思いますよ。それに、今回これだけ個性豊かなメンバーが揃ってるんです。どうやったって個性的なディオニソスになりますよ」
「うん……」
「楽器は金管ということですよね?」
「あとは、執事として、ピアノは割と普通に弾けるかな」
「ピアノですか! 鍵盤がいてくれるのは本当に心強いですね。無茶なお願いかもしれませんが、シンセサイザーをお願いできませんか?」
 北都の返答を聞くなり、ヘンデルのテンションが跳ね上がる。
「たぶん、大丈夫だと思う」
「ありがとうございます! よろしくお願いします」
「こ、こちらこそ」
「お疲れ様でーす」
 ヘンデルのテンションに北都がぽかんとしていると、ドアが開き、ウォーレン・シュトロン(うぉーれん・しゅとろん)が入ってきた。
「ああ、シュトロンくん。今回、新しく音楽の授業のアシスタントで入ってくれたんです。もっとも、大会までは私が部活にかかりきりになってしまいますから、授業は全部丸投げしてるんですけどね。ははは」
「ははは、じゃないですよ」
 悪びれもせず笑うヘンデルに、ウォーレンは苦笑をこぼす。
「ま、時々吹奏楽部の練習にも顔出すからよろしくな」 
 新メンバーが多いため、初日はパート練習を進めた。