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リアクション
「よーっし! 気合入れてお洗濯、ダー!」
ちゃきーん、と右手に洗濯板、左手に洋服を持ってポーズを決める久遠 青夜(くおん・せいや)。
「うわー、張り切ってるねー! よーし、ボクだって負けずに頑張るぞー!」
そんな久遠を見ながらレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)も洗濯魂に火がついたようだ。
「カムイ、ボクたち張り切ってお洗濯しよう!」
カムイ・マギ(かむい・まぎ)に笑顔を向けて、地底湖の水にシーツを浸す。じんわりと水が浸透してシーツの色が変わっていく様子さえもレキは楽しそうに見ていた。
「そういえば、洗剤ってあるんでしょうか?」
カムイがレキに尋ねるが、レキは「何を隠そう僕は洗い物の達人だー!」と叫びながら洗濯板で汚れを落とし始めている久遠に釘付けになっていた。
先ほど女性のドワーフに普段洗濯している場所を教えてもらったのだが、洗剤があるのかどうかを聞くのをすっかり忘れていた。
どうやらこのあたりにおいてあるものでもないようだし、洗濯籠の中にレキが入れてきた様子もない。一応、と荷物に入っていた『青い山葉校長のマッスル石鹸』を持ってきておいて正解だったようだ。
「……形状はどうであれ、石鹸は石鹸、ですからね」
ごしごしとレキから渡されたシーツにマッスル石鹸を擦り付ける。
ごしごしごしごしごしごし……。
「あ」
嫌な音がして石鹸は二つに折れてしまった。
「まぁ、使ってれば減るものですし、小さい方が使いやすいですよね、きっと」
たらいの中で洗濯物と一緒に水に浸けられたマッスル石鹸の頭部がじんわりと溶けだしていくのを見て、ほんの少し罪悪感を感じながらカムイは洗濯を続けるのだった。
「どうしてっ!」
「どうしてもよ!」
セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は何度言っても聞いてくれない相方のセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)の前で膨れていた。
「セレン、あなたは洗濯のほうが向いているのよ。そう、絶対そう」
「どうして? 別に洗濯でもいいけど、せっかくだから皆とお料理作りたいじゃない!」
大勢いるんだから腕をふるうチャンス、と思い食事の支度を手伝いに行こうとしたセレンだったが、セレアナに洗濯のほうがいいと言われ続けて先ほどから同じ言葉の繰り返しを続けていた。
「洗濯だってなかなか皆とする機会もないと思わない? しかもほら、昔ながらの方法だから、人手だっているし」
「う、大変なのは分かるけど、でも料理だって人数多いんだからその分準備が大変でしょ? 大変さで言ったらどっちもそんなに変わらないんじゃない?」
どうしても料理の手伝いに行くと言い張るセレン。最初こそどちらでも良かったのかもしれないが、ここまで来るともはや意地でも変える気はなさそうだ。
仕方ないと溜息を一つついて、セレアナは口を開いた。
「セレンに、料理を手伝いに行ってほしくないのよ」
寂しそうにセレンから視線をそらして、少し俯き加減で続ける。
「料理の支度は正直私も得意じゃないし、下準備っていろいろあるから結局黙々と一人で作業になっちゃうじゃない? でも洗濯だったら一緒にできるし、それに」
「セレアナ……」
「手伝いとはいえ、セレンの料理、他の人に食べてもらいたくない……」
「セレアナ!」
ぎゅうっと抱きついてくるセレン。ふわりとツインテールが顔をくすぐった。
「ごめんね! あたし、全然セレアナのこと気付いてあげられなくて……よし、行こう! 一緒にお洗濯! いっぱいお喋りしながら洗っちゃおう!」
「う、うん……ありがとう」
地底湖へと先に歩き出したセレンを見て、以前に彼女が作った料理を思い出して、セレアナはひやりとした。
実はセレンの料理は教導団で非公式に生物化学兵器に指定されるほどエゲツないもので、ドワーフ含め皆をお腹から殺してしまうわけにはいかないと、なんとか料理から彼女を遠ざけようとしていたのだ。
少しずるい手を使ってしまったのが引っかかったが、これも皆のためと言い聞かせてセレアナもセレンの後を追った。
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