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比丘尼ガールと切り裂きボーイ

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比丘尼ガールと切り裂きボーイ

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chapter.12 Can閣寺 


 庵々の方の修行体験も、その頃無事すべてを終了し、参加者は大方満足して帰路についていた。
 しかし、中には体験学習が終了したことを知らないまま、修行を続けている者もいた。
 それが、雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)である。彼女は、あろうことか、市街地ではなくCan閣寺の近くで托鉢を行っていた。
 その目的はひとつ、圧倒的女子力をCan閣寺に見せつけ、自分の方が立ち位置が上なのだと知らしめるためである。
「私はね、こういう可愛らしさアピールをして男を狙うあざといヤツらが大嫌いなの。女は孤独な狼。決して群れてはいけないのよ」
 何やら格好良さげなことを呟きながら、リナリエッタはターゲットを待ち伏せる。ターゲットはずばり、Can閣寺に踏みいろうとする男性。
 該当する人物が現れたなら、公には書けないような行為でお金を頂戴し、自分の力と魅力をCan閣寺に見せつける算段である。
 とはいえ、そこは男子禁制の尼寺。
 ここに入ろうとする男性は、まずいない。その証拠にリナリエッタは、ここまで女性の姿しか見ていなかった。
「はあ、揃いも揃って、つまらなさそうな女ばっかり。ここを通ろうっていう肝の据わったメンズはいないの?」
 リナリエッタが溜め息を吐く。その時だった。
 彼女の視界に、ふたりの男性が写った。
 遠くからでも分かる無頼のオーラと無鉄砲な様相。それは、南 鮪(みなみ・まぐろ)とパートナーの一休 宗純(いっきゅう・そうじゅん)の姿であった。
 ふたりは、リナリエッタのそばを通り過ぎると、そのまま寺へ続く階段を上り、門の前まで進んだ。当然、そこにいた尼僧に止められる。
「すいません、ここは男子禁制ですので」
 それは、予想された言葉だった。当然、鮪たちは対策を練っている。
「英霊とは時に性別を変化させるもの。つまりこの一休宗純が女性である可能性も、否定はできまい?」
「いやあの、そういう屁理屈は結構ですのでお引き取りください」
 一休が一応女装道具を取り出しながら言ってみるものの、即答で拒まれる。これも、予想の範囲内である。一休はさらに言葉を続けた。
「男であるかも知れぬし、女であるかも知れぬ。ならば受け入れるしかあるまい」
「いえ、ですから」
「そこの女であるかに見える者も、男やも」
「私は女です。何言ってるんですか」
「それはまことか? 拙僧、調べる務めがある。さあ調べてしんぜよう」
「ちょっ、何しようとしてるんですか、止めてください」
 露骨にセクハラをし始めた一休に汚物を見るような目で睨みつけると、尼僧は門を閉めようとする。まずい、このままでは、「男でありながらもCan閣寺に入る」という男子諸君の夢が潰えてしまう。
 その時、一休の閃きが加速した。彼は頭の上でくるくると指を回し、脳をフル回転させる。そして。
 ぽく、ぽく、ぽく。ちーん。
 閃いた。一休は今世紀最大の閃きをした。彼はそれを、鮪に耳打ちする。
「ヒャッハァ〜、その手があったとはなァ〜!」
 悪いことを考えていそうな笑みを浮かべた鮪は、完全に閉まろうとしている門の隙間から、向こう側にいる尼僧に話しかけた。
「ちょっと待ちな! 俺はパンツ業者だぜェ〜!」
「……はい?」
「だから、パンツ業者だっつってんだろォ〜? 滝行で濡れたパンツとか、托鉢とか座禅で使ったパンツの換えが必要なはずだ」
 真面目にパンツを搬入しようとしているだけなのだ、と主張する鮪。しかしそんな言い分が、聞き入れられるわけがなかった。
「……そのふわふわ浮いてるパンツはなんですか」
 尼僧が、鮪のそばで浮遊しているパンツを見て言う。まさかそれが搬入するパンツだとでもいうのか。
「これは式神だぜェ〜。搬入するパンツは今からちゃんと持って」
 バタン、と門が閉められた。鮪と一休のCan閣寺侵入作戦、失敗である。
 唯一幸いだったのは、ここに来る前、事前に「この寺怪しいから、調査してくるぜ」とそれっぽい建前を周囲に言い回っていたことだろうか。これにより、一部の男性たちからは期待を寄せられ、それがふたりの意志とモチベーションを保たせていた。
 ただ、世でブームとなっているCan閣寺とあからさまに怪しい男ふたり組、どちらの言い分を大衆が信じたかは甚だ疑問ではあるが。

 門前払いを受け、寺から去って行く鮪と一休。その帰り道にはしかし、思わぬ出来事が待ち受けていた。
 ふたりが階段ですれ違ったのは、リナリエッタだった。彼女はそのままゆっくりと階段を上っていく。ひらひらしたミニスカートという、危険な服装で。
 散々パンツパンツと連呼していた鮪や、過激なセクハラを働いていた一休である。もちろんそれをそのまま見過ごすなんてことはない。
 ばっ、とふたりがすれ違ったリナリエッタを振り返る。するとそこには、妖艶な顔をした彼女がいた。スカートの中は、見えそうで見えない。
「……ふふ、ここから先は、別料金よ?」
 その後、鮪たちとリナリエッタがどうなったのか、それは謎に包まれたままである。
 ただ後日、リナリエッタのパートナー、ベファーナ・ディ・カルボーネ(べふぁーな・でぃかるぼーね)が、Can閣寺の門の前でどういうわけか、下のチャックを開け、卑猥なものを晒そうとしているという目撃情報が入ったことが確認されている。
 もしかしたら、リナリエッタは何らかの方法で最終的にお金を手に入れ、それを自慢がてらCan閣寺に送りつけたのかもしれない。
 そうなのであれば、ベファーナの行動も合点がいく。
 ベファーナは、負けじと自分も金を見せびらかそうとしたのだろう。ここでいう金が何かは、それぞれの想像に任せることにするが。
 ちなみに当然だが、ものの数秒でベファーナは尼僧に追い払われていた。



「なんだか、外が騒がしいですね」
 鮪が追い払われた後、Can閣寺の中でそう話す者がいた。その言葉を受け取ったのは、苦愛だった。
「なんだか勝手に入ってこようとした男の人がいたみたいで。あ、でもちゃんと追い払ったみたいですよ?」
「……そうですか」
 苦愛に話すその声は、苦愛よりも落ち着いた、静かな声だった。声の主が、苦愛に尋ねる。
「修行体験の方は、どうでしたか」
「はい、みんなこのお寺の修行を楽しんでくれたみたいです! 托鉢のお金も結構集まったし」
 言って、苦愛が小包を差し出す。そこには、参加者が托鉢で集めたお金が入っていた。
「ただ……」
「ただ?」
 苦愛が少し顔を曇らせて言った。
「中には、ちょっと不審がってる人もいたみたいですけど」
 寺のことについて聞かれたことを話すと、その人物は苦愛に告げた。
「そのようなことが……でも、きっといずれ分かってくれるでしょう。この世を満たすものは、ただひとつ、愛だけだということに」
 苦愛が頷く。
 声の主は、部屋のろうそくに火を灯した。ふたりのいる空間に、ぼんやりと光が浮かぶ。部屋の装飾、あるいは壁面がそういう配色なのか、灯りに映し出された空間は、奇妙で不気味なピンク色をしていた。


担当マスターより

▼担当マスター

萩栄一

▼マスターコメント

萩栄一です。初めましての方もリピーターの方も、今回のシナリオに参加して頂きありがとうございました。
リアクションの公開が遅れてしまい、誠に申し訳ございませんでした。

今回のシナリオは、次回より始まるシリーズものの導入編という位置づけになります。
かなりコメディ寄りになった今回のシナリオですが、
シリーズ開始後はもしかしたらもっとシリアスになるかもしれません。

ちなみに今回、滝行アクションと囮捜査にかなりのアクションが集中しました。
それを受けて、当初もう少しシリアスな場面を想定していた囮捜査のくだりを、
女装パーティーの流れへと持っていってみました。書いていて楽しかったです。

今回の称号は、MCLC合わせて2名のキャラに送らせて頂きました。
ちなみに称号の付与がなくても、アクションに対する意見などを個別コメントでお送りしているパターンもございます。

次回のシナリオガイド公開日はまだ未定です。
詳しく決まりましたらマスターページでお知らせします。
長文に付き合って頂きありがとうございました。また次回のシナリオでお会いできることを楽しみにしております。