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【第二話】激闘! ツァンダ上空

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【第二話】激闘! ツァンダ上空

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エピローグ7

 ツァンダ上空での戦闘より数時間後 某所

 損傷したスクリーチャー・ゲイルのコクピットハッチを開くと、エッシェンバッハ派の拠点に帰投した彩羽は、格納庫に停止させた愛機から降り立った。
 スクリーチャー・ゲイルの脚に寄りかかって彩羽が一息ついていると、ほどなくして漆黒の“フリューゲル”も戻ってくる。停止した漆黒の機体のハッチが開くと、中から現れたのは漆黒のパイロットスーツと同色のフルフェイスヘルメットに身を包んだパイロットだった。
 パイロットがワイヤーを使って格納庫の床に降り立ったことでコクピットの中があらわになる。それを見た瞬間、彩羽は驚愕を禁じ得なかった。
(単座……!?)
 彩羽が見た漆黒の“フリューゲル”のコクピットは単座だった。複座として設計されているがパイロットが一人しか乗っていないというのではなく、最初から単座――即ち、一人乗りとして設計されているのだ。
 地球人とパラミタ人が共に乗り込むことが前提のイコンにおいて複座というのは当然の設計であり、必須の機能だ。そんな中にあって、単座として設計されているのは非常に珍しい。
 それだけではなく、そもそもイコンが複座式で設計されているのは、地球人とパラミタ人が共に乗らなければ高い性能を発揮できないからであるとされている為であり、それを踏まえれば、単座だというのにあれだけの性能が出せていたというのも驚愕に値する。
 自分でも気付かないうちに見入っていた彩羽だったが、唐突に後ろから声をかけられる。
「お疲れ様です。彩羽さん」
 彩羽が振り返った先に立っていたのはインテリ貴族のような見た目をした男――スミスだ。今の彼は手ぶらではなく、ビニールに包装された何かを持っているのが見える。
「あら、わざわざお出迎えとは律義ね」
 彩羽が言うと、スミスは丁寧に一礼してみせる。
「それはどうも。実は貴方に用がありましてね。なにせ、貴方に渡したい物があるもので」
 スミスを見据えながら、魔鎧であるベルディエッタ・ゲルナルド(べるでぃえった・げるなるど)を纏ったまま手を出した彩羽に、スミスは先程から手に持っていたビニールで包装された何かを差し出した。
「あら、ありがと。せっかくだから頂くわ」
 それを受け取った彩羽はすぐさまビニールの包装を開けて中身を確かめる。どうやら中身は折りたたまれた衣類のようだった。彩羽が広げてみると、その衣類は裾が胸元までのショートジャケットであることがわかる。
 広げてみたショートジャケットを彩羽はまじまじと見つめた。実を言うと、彩羽にはこのショートジャケットに見覚えがあるのだ。
 生地の色は漆黒。背中には大きな歯車の下で交差する槌が描かれたエンブレムが刺繍されていた。そのデザインはまるで中世の騎士を連想させる、盾の下で交差した剣のデザインを思わせる。そして、彩羽にはジャケットだけでなく、このエンブレムにも見覚えがあった。しかも二重の意味で。
 このエンブレムはエッシェンバッハ派のエンブレムであり、その母体の一つであるエッシェンバッハ・インダストリーのロゴなのだ。彩羽にしてみれば、エッシェンバッハ派の存在を知る前からエッシェンバッハ・インダストリーとして知っていたエンブレムがまさかこんな形で使われているとは思いもしなかったが。
「これじゃあまるで企業のスポンサーロゴね。まぁ、あながち間違ってないんでしょうけど」
 半ば皮肉めいた笑みととともに言いつつも、実際の所、彩羽はこのジャケットを気に入ったようでもあり、満更でもなさそうだ。一方のスミスは、彩羽からの言葉に若干含まれている皮肉をやんわりとかわすように、落ち着いた物腰で答える。
「仰る通りです。既に貴方は我々――鏖殺寺院・エッシェンバッハ派の同志ですが、事実はもとより形の上でも正式に貴方を同志として扱いたく思いましてね。これはその証と思って頂いて結構です」
 そう言って再び丁寧に一礼するスミス。
 たった今、スミスから彩羽に渡されたのはエッシェンバッハ派の言わば制服のようなものだった。現に、エッシェンバッハ派に身を置くようになってから彩羽は、これを来里人やその相棒である深行がこれを着ているのを見たことがある。
 受け取ったショートジャケットを畳み直し、部屋に戻ろうする彩羽。そんな彼女をスミスは引き留めた。
「もう少々よろしいでしょうか? 実は貴方への用事がまだ一つ残っておりまして」
 足を止めて振り返った彩羽に向けて、スミスはやはり丁寧な口調で問いかけていく。
「実は、そろそろ貴方に合わせたバリエーションの“グリューヴルムヒェン”を開発も考えておりまして。貴方に合わせたバリエーション機ですから電子戦に特化した機体か、もしくは、ビット等の遠隔操作兵器を装備した機体を構想しているのですが、もし仮に貴方自身が乗るとしたらどちらをお選びになられますか?」
 そう問いかけられ、しばし考え込む彩羽。まるでそんな彼女を気遣うように、スミスはすかさず付け足した。
「お返事は別に今すぐでなくとも構いません。どうぞごゆっくりとお考えください。また今度、お返事をお聞かせ頂ければ大丈夫ですので」
 彩羽への用事を終えたスミスは、先程と同じように丁寧な所作で一礼する。
「それでは、私はこれにて。そろそろ来里人くんと深行さんが“ユーバツィア”の試験運用から戻ってくる時間ですので」
 それだけ言うと、スミスはどこかへと歩き去って行った。