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リアクション
「まず紹介します。こちらの女性は雪姫・マルガリートゥム(ゆきひめ・まるがりーとぅむ)。天御柱学院の生徒で、イコン整備の研修生ですが、肝心のイコン技術に関しては確かな学識を持っています」
イーリャに紹介されて、雪姫はルースに向けて軽く頭を下げる。
「マルガリートゥムだ。よろしく頼むぞ。敵の機体、あわよくば禽竜の使われている技術を誰よりも早く解明したいな。どんな材質で作られているのか?あれだけの性能はどうやって引き出しているのか? ……そしてどんな技術で作られているのか? 是非とも解明したいものだ」
続いてイーリャは特徴的な材質のボディースーツを纏う少女を紹介した。
「そして彼女はヴァディーシャ、私のもう一人の娘、らしいです。彼女は巷で騒がれている『未来人』の一人で……そして私は解析結果から、今戦っている敵も未来人が何らかの関与をしているのではと考えています」
ふざけた様子などまったくなく、それこそ大真面目にイーリャはそう告げた。ルースの目をまっすぐに見ながら一息にそう告げるイーリャを見るに、冗談を言っている様子は微塵も感じられない。
一方のルースはかなり荒唐無稽な内容を大真面目に言っているイーリャに対して疑いの目を向けることもなく、いつものリラックスような笑みをふっと浮かべる。その後、彼女の娘――ヴァディーシャ・アカーシ(う゛ぁでぃーしゃ・あかーし)に向き直ると、彼女にも微笑みかけ、ゆっくりと握手する。
「ルースだ。よろしくな」
その様子を見て、逆にイーリャが困惑したようだった。
「驚かないのですか?」
困惑した顔で問いかけるイーリャに向き直ると、ルースはまたもリラックスした笑みを浮かべた。
「ま、こちとら本物のドラゴンや魔法が存在する世界に住んでもいれば、周囲にいるのはハリウッドムービーに出てくるようなアンドロイドや、ジャパニメーションに出てくるような巨大ロボット兵器に乗って殴り合いをしてる連中ばっかりなもんで。いまさら未来人の一人や二人、いきなりやって来たところで別にそれほど驚きゃしませんよ。そもそも、オレ達は全員が既に異世界人と出会ってるんだ。だからこのパラミタにいる。異世界人も未来人もそれほど変わりゃしません」
事もなげに言うルースに意表を突かれたのかイーリャは一瞬ぽかんとした表情になるも、すぐに小さく笑い出す。
「確かに、言われてみればそうですね。私としたことが盲点でした」
くすくすと笑うイーリャの横でヴァディーシャも元気に笑って自己紹介する。
「はじめまして、ヴァディーシャです! ママがお世話になってますです!」
自己紹介するヴァディーシャに再び向き直ると、ルースは笑みを浮かべて彼女へと語りかける。
「こちらこそお世話になってます。是非オレにも未来のことを聞かせてくれ」
そう言われてヴァディーシャは可愛げな顔を困惑にゆがめ、どこか煮え切らない様子で答える。
「えぇと、未来のこと……ですか? 未来人にも色々な時代、色々なパラレルワールドの人がいるから、難しいですけど……見せてもらえば何かわかるかもしれないです」
するとイーリャはそれに合わせてルースへと語りかけた。
「先程お話しした通り未来人による何らかの関与――今回はこの方向で調査を進めたいのですが……例の禽竜の情報も確認させて下さい」
頼み込むイーリャに対してルースは再びヴァディーシャから向き直る。
「それに関しては司令のルカから許可は取ってあるんで別に構いやしませんが……一体、何を調べるおつもりで?」
ルースからの問いかけに、イーリャは淀みのない口調で述べていく。
「調べたいのは前の事件で収集した残骸と禽竜に使われている機材の類似性……たとえばプリント基板のような文様があるかどうか。この機体には敵機とどうも似たような技術が使われている気がして。両者が同一のものなら比較することで何かわかるかもしれません」
続いてイーリャは人差し指を一本立てて告げる。
「それともう一つ……残骸から回収したCPUとかの一般メーカー部品。あれのロット番号あるいは個体管理番号と呼ばれるものを。保証期間を管理するため量販品には必ずついてます。それについて……現在存在するものかどうかを――これは禽竜の部品も調べてみたいですね。もし違う時間軸、世界軸から持ち込まれたなら、どこかで不自然な点があるはずなのよ……」
イーリャが語り終えるのを待っていたように、今度はヴァディーシャが説明を開始する。
「あと……もし相手が未来人なら、目的は歴史の改変だと思うです。ボクたちが過去に来た理由ってみんなそうです」
その発言を受けてルースと雪姫の視線が自分に集中したのに少し驚きつつも、ヴァディーシャはなおも説明を続けた。
「今回の事件が未来人の仕業なら、ここでフリューゲルと、き、き……きんりゅう? で、いいんですか? それにボクたちが戦うことでの世界への影響を推理していけば、敵の目的もわかるかもしれないです!」