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【第二話】激闘! ツァンダ上空

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【第二話】激闘! ツァンダ上空

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エピローグ1

 戦闘終了後 ツァンダ 市街地 某所

 前回の戦闘にて確認された五機のうちの一機――“フェルゼン”。
 その同系機と殴り合うことだけを考えた真一郎は、周囲が空戦型に乗る中、陸戦型専用である鷹皇に乗り、しかも武装は一切装備させずに、両の拳だけという徹底ぶりを見せ、万全の準備を持って“フェルゼン”との殴り合いをすべく、戦場となったツァンダを歩き回っていた。
 結局、彼が目当ての標的は今回出撃していなかったものの、標的を探しまわっていた真一郎は緊急着陸してきた和麻とその愛機に出くわしたのだ。
 かろうじて緊急着陸を行ったおかげで最悪の事態は避けられたが、中から一向にパイロットが出てくる気配はない。無理な着陸の衝撃で機体のフレームが歪んだのかもしれない。
 真一郎は安全を確認し終えるが早いか、擱座した機体へと接近し、ちょうど無手だった鷹皇のマニュピレーターを使ってコクピットハッチをこじ開けた。
 ハッチはそれほどの苦労も無く開いた。それを考えるに、どうやら機体のフレームが歪んでいたわけではないらしい。ハッチが開いたことでコクピット内の光景があらわになる。
 そこには、俯いた状態のまま黙り込んでいる和麻がいた。
「大丈夫か?」
 鷹皇の機外スピーカーで声をかけてみても反応がない。心配になった真一郎は鷹皇のメインカメラをズーミングして和麻を観察してみるが、特に怪我をしている様子はないようだ。
 しばらくじっと和麻を見つめた真一郎は、緊急着陸を終えたにも関わらず、機体のハッチが一向に開かなかった理由を察した。それと同時に、おおよその事情も察すると、鷹皇をしゃがませる。
 しゃがませるとともに鷹皇のコクピットハッチを開くと、真一郎はサブパイロットシートに座る相棒――松本 可奈(まつもと・かな)へと声をかけた。
「可奈、行くぞ」
「う、うん」
 反射的に返事をした可奈とともに、真一郎は鷹皇のコクピットから軽々と跳び下りて、擱座した機体のコクピットで俯いたままの和麻のもとへ向かう。
 擱座した機体のコクピットで俯いたままの和麻に向けて、真一郎はゆっくりと話しかけた。
「まだ出てきたくなかった別にそのままでもいい。だが、もしよければ、戦場で何があったのか俺に話してくれないか?」
 今度は直接話しかけたものの、またも返答はない。しかしそれでも真一郎が辛抱強く待っていると、しばらくした後に和麻が口を開いた。
「俺は……“フリューゲル”に勝ったと思った……」
 ぽつりぽつりと呟く和麻。その声は小さく、今にも消え入りそうだが、真一郎と可奈は静かに耳を傾ける。
「この機体の性能を完全に活かしきって……あいつらとの性能差を覆せたと……思ってた……」
 和麻のぽつりぽつりとした呟きは次第に苦しげなものへと変わっていく。
「でも……俺はこの機体の性能を……まったく活かしきれて……いなかった……」
 相変わらず俯いたまま和麻は操縦桿を音が出るほど握り締める。俯いたままで表情はわからないが、きっと唇を噛みしめるような顔をしていることだろう。
「その結果……俺は……あの黒い“フリューゲル”に手も足も出なかった……。俺は……あいつに……完全に……負けたんだ……」
 それきり黙ってしまう和麻。
 真一郎と可奈は決して彼を急かしたりすることなく、同じように黙って和麻をじっと見つめる。
 しばらくの間、沈黙が続いた後、真一郎はゆっくりと口を開いた。
「まず最初に言っておく。俺が今から言おうとしてることに対して、『何を偉そうに』とか『知った風なことを言うな』……あるいはそれこそ、『たわごとを抜かしやがって』と思ってくれても別に構わないし、何なら聞き流してくれたって構わない――」
 そう前置きしてから、真一郎はやはりゆっくりと、和麻を諭すように語りかけていく。
「君は『負けた』と言ったが、俺たちのやっている戦いは明確に設定された時間や得点、それに審判の判定だので勝った負けたを決める試合やゲームじゃない。だから――機体が損傷を負わされたとか、撤退を余儀なくされたというのは、その時は負けに思えても、即それが負けという結果として確定することなければ、最終的な結果として負けが確定したわけでもない」
 諭すように語る真一郎の言葉を和麻はまだ俯いたまま黙って聞いている。
「これは俺の考えだが……俺は、最後の最後まで生き残れたか否かで初めて勝敗が決まると思っている。少なくとも、今回の戦いで君は今後の戦闘に支障が出るような怪我も特に負うことなく生き残った。君の機体も同様だ。多少、損傷はしているものの、すぐに万全の状態に修理してもらえるレベルだ。だから――君と君の機体はまだ、何一つ負けてはいない」
 相変わらず静かに声で諭すように、だが、はっきりと言い切る真一郎。
「それと、機体の性能をまったく活かしきれていないと君は言った。確かにそうかもしれない。だが、裏を返せばそれは、まだまだ君は強くなれるということでもある」
 新たに前置きしてから、真一郎はなおも諭すように語りかける。
「考えてもみるんだ。もし仮に、自分で言うように君が機体の性能をまったく活かしきれていなかったとして、その状態で君は実戦を戦い、生き延びてこられたんだ。言うならばそれはハンデを負った状態でありながら生き延びられたということ――その状態でも十分にすごいが、その状態から機体の性能を活かしきれた時、君はもっと強くなれる」
 やはり静かな声で真一郎はっきりと言い切った。
「一説には、俺たちの乗るサロゲート・エイコーンは本来の力が全くと言っていいほど引き出されていないらしい。ならそれは即ち、君と君の機体にはまだ十分に伸びしろがあるということでもある」
 そう言い聞かせた後、真一郎は一拍置いてから続けた。
「かくいう俺の機体もカスタムしてあるが、ベースは第一世代機の鋼竜だ。装甲がウリだが、加速度的に進歩するイコン業界でいつまでも初期の機体に乗っている性能差は理解しているし、正直インフレ早すぎるだろう……と思わなくも無い――だが、この機体もまだ本来の力を引き出されていないとしたら、まだ十分に強くなれる。そして俺も一緒に」
 そこまで言い終えると、真一郎と可奈は鷹皇のコクピットに戻ろうとする。
「さっきも言ったように、まだ出てきたくなかった別にそのままでもいい。しばらく俺たちも付き合おう。それとも、一人でいたいというならそうしよう。男には、一人でいたい時もある――」
 それだけ告げて真一郎と可奈が踵を返した時だった。背後で小さく物音がする。真一郎と可奈が振り返ると、今まで身じろぎ一つしなかった和麻がコクピットの中で少しずつ動いている。
「……ありがとよ。俺は和麻――神条和麻だ。あんたたちの名前を……教えてくれ」
 ほとんど黙ったままだった和麻が口を開き、何かを察した真一郎と可奈は微笑とともに答える。
「俺は鷹村真一郎だ。よろしく頼む」
「で、私は松本可奈。よろしくね、和麻さん」
 二人から名前を聞いた和麻は、続いて自分の愛機に向けて話しかけた。
「一緒に戦ってくれて、俺のことを守ってくれてありがとよ。これからも、俺と一緒に戦って……俺と一緒に強くなって、くれるか――?」
 しばらくした後、何かを感じ取ったようで、和麻はいくらか晴れやかになった顔を上げた。
 顔を上げた和麻に、真一郎は黙って手を差し出す。真一郎は握手を兼ねて、差し出した手を迷わず掴んだ和麻をコクピットから引っ張り上げる。
 その様子を微笑ましげに見ていた可奈は、何かを思いついたように明るく声を上げた。
「そうだ! せっかくしだし、休憩にしましょ! 和麻さんもどうぞ」
 そう言って可奈は休憩用に用意しておいた真一郎好みの苦めの珈琲と塩クッキーを二人に差し出した。